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第2章-6 アイドルの父爆走

「このキノコでご膳は作れますでしょうか?」

「いいえ。そもそもあんさんが見てるのはキノコやのうてただの草や」


 〝拝啓 父上、母上へ

 ご膳と言う物はそこら辺の物で作れる代物なのでしょうか?〟


「そもそもここら辺のキノコって食べれるんですか?」

「見れば大体はわかる。大体な」

「全部じゃないのね……」

 森出身のアーチェが保険を掛けていることにクリスが嘆息する。「銃にしか興味ないからやな」とディーナが小さくつぶやく。

 数刻前のお楽しみ昼食は一変、今は空腹を満たすための食糧を広大な森の中で探す羽目になっている。

 先生曰くこれも訓練の一つだというが、あの合宿先を見てからとなると果たしてそれは元からなのか突発的なのかわからなくなってきた。

 王女たちの愚痴に同情したくもなるけど、どうあがいても昼食は出てきそうに無かったので、皆思う所ありながらも森の中に散っていった。王女が迎えを呼びに行かせたのは意外にも正しかったのでは、と錯覚すら起きかねている。あの二人はいつ追い付いてくれるのだろうか……。

「しっかしあのあほぅ連中に会わんのは良いことやけど、他のパーティーにすら会わんな」

 ディーナの疑問にも納得が行く。辺境地らしく森は広大でテリトリーの範囲外であっても他のパーティーたちにすら会わない。

「まさか私たちだけ嵌められて本当は皆美味しいご膳を⁉」

「無いわよ。そう告げた先生たちも困ってたでしょ? あれは本当に何かあったのよ」

「そう、です、か……」

 淡い思いなどこんな森の中では通用せず、現実を思い知らされる。

「だからまずは足を動かす足を。何かを探すには人手があるに越したことはないわ」

 こんな状況に陥ってもまだ動けるクリスはしっかり働くように促す。

「むぅ……わかりましたよ」

 だから拗ねて言い返した。

「手が足りないならいっぱい呼びますよ。二? 十? 五十?」

「何をする気よ⁉」

 咄嗟に身を翻すクリスがこちらを睨む。

「だから人手を呼びます」

「それ絶対人じゃないでしょ!」

「訂正を致します。元・人です」

「それをあたしは人と認定致しません!」

 うわぁ、差別だ。霊差別だ。

「でも早々に見つかるんならそれでええんちゃうか? 五十も入れば捜索時間もかなり縮むやろ?」

「あたしの寿命もかなり縮むわよ!」

「仲間意識が生まれれば友好関係も」

「掴めません」

「わ、ぎぎが、わ、わがりまじだのでそこを掴むのはやめていだだげまぜんでじょうが⁉」

 頭部が潰れて私が先に友好関係を深めてしまいそうです!

「無駄に騒ぐと喉が渇くから止めた方がいいぞ?」

 その輪から外れ、これも課題――長銃使用許可書が主目的――と懸命に望むアーチェが釘をさす。森なので木陰が多く直射日光は避けられているものの夏だけあってとにかく暑い。食糧が無ければ飲み物が無いのも辛い。もしかしたら、いやもしかしなくても普段軍曹がやっているような体育授業よりも軍曹がいないこっちの方が過酷なのではないのだろうか?

「それにこれだけ深い森ですと怖いですよね」

「怖い?」

 カトリナが何か不安を煽るようなことを漏らしたので問いかけてみる。

「熊とか、です」

「うーん……ヘイワ街の周辺はテリトリー以外にこれといって危険な場所が無かったけど。もしかしたらここら辺にはいるかもしれないわね」

 その解釈で私自身も現状を理解する。

 ヘイワ街周辺の森や沼、山岳などは大体テリトリーとして隔離されていて、そこに住む一般的な動物たちは大概食物連鎖上優位にたつ魔物たちに捕食されてしまう。けど、今いるここはどちらかと言うと近場にテリトリーが少なく、自然な地形で構成されている故郷ヨミガエルに近い。そう考えると熊はもちろん狼なども生息していてもおかしくない。

「いや、逆にそれや」

 そんな危険な状況に臆する所か寧ろ好機を見出す人がここに一人。

「何よ、今度は獣臭がするアイドルでもする気?」

「獣皮何て着たくありませんよ」

 マタギじゃないんですから。

「こんな極地まで至ってそんな考えなんかせんわい」

「どこまでが本音だか」

 全くもってである。

「今大事なんは食糧源の確保や。うちの勘やけど、あの宿でまともな飯が出てくる可能性は今後低いやろうと睨んどる。そうなるとこれは合宿どころかサバイバルに早変わりや」

「随分な極論ね」

「極端言うんやな。無い言わへんのやな」

 ディーナの言うことをクリスは呆れながら否定する。けど、それは絶対的な否定ではなく、クリス自身少なからずそうなる可能性を視野に入れているみたいで、度重なる異常事態がこの結論を導き出すのは他愛もなかった。

「で、その食糧源の確保をどうするんですか?」

「何やまだわからんへんのか、ヒントは弱肉強食や」

「弱肉――そういうことか」

 ディーナが出したヒントはヒント所かほぼ答えに直結した。肉の印象が大きすぎた。

「熊狩る気なの⁉」

 全員が答えに辿り着いたであろう状況でクリスが慄く。

「あんだけでかいんやで。焼肉やろうが干し肉やろうが数日はあるし、何なら他のパーティーに売っ払うのも手や、シッシッシ」

 生存手段が最終的に売買目的に変わるのは何ともディーナらしい。けど、それは熊を狩る、それ以前にいることが前提となる。

「あんな恐ろしいのやるわけ⁉ 食糧源にするどころかこっちが食糧源になるわよ!」

「グリズリーに突撃する人が言えることじゃないと思えますけど」

 あっちの方が圧倒的にでかいですし、何なら捕食してる可能性もあると思います。

「こっちには猟銃使えるんがおるんや! 何とかなるやろ!」

「待て。これは猟銃じゃない。マグメム製長距離射程用・型番LC――」

「そ、それでも熊に対しては有効やろ⁉」

 普段口数の少ないアーチェの饒舌はディーナによって憚れた。

 珍しく納得いかない表情を浮かばせるアーチェはここでも首を横に振る。

「人だったとしても打ちどころや斬りどころによっては何分、何時間、果てには存命する可能性だってある。それは熊にも言える上に熊は人間以上に致命部位に至るまでの幅が広い。仕留めきるまでには時間がかかるし、それまでの間をどうにかして貰えないと困る」

 普段私は魔力を媒体にする死霊たちに頼みっきりではあるが、部位を頂いていく際に臓器などの柔らかい場所ならともかく筋肉質な腕や硬質な皮膚を頂く際は私じゃ手に負えず毎回ブラムハムに頼んでいる。熊自身がグリズリーにどこまで近い筋肉質なのかはわからないが、鋭利な短刀でも一苦労する臓器までの道のりを鉛玉で通すのは至難の業なのだろう。

 それと魔力同様銃にも制限がある。弾数が無くなれば補充に時間もかかる。

「それこそクリスはんが盾役になればええだけやろ?」

「ちょっと待って! 私は確かに前衛向きだけど、耐久方面には向いてないわよ⁉」

「そこはもう騎士の何恥じぬように肉を断ち、骨を断ち」

「死ぬ前提よね⁉」

「大丈夫や! こっちには聖職者にネクロマンサーがおるやろ」

「だから死ぬ前提じゃない! 後者に関しては天に召されようとも御免被るわ‼」

「傷は治せても流石に折れた骨は治せませんよ」

「死霊にする前に最後の一息で私が死霊になりそうなのでやりたくありません」

 ここまで露骨に嫌がられるとこの策は完全に失敗に終わりかな?

「んならメリアスはんが走るか」

 と思っていたところにまさかの変化球。

「何で私⁉」

「体力づくりの為や! 何の為に合宿来たと思っとるんや」

「確かにそれは当たってるかもしれませんが、あなたが言うと合ってない気がします!」

 忠義、堅実の欠片すらなさそうですからね!

「駄目です! クリスさんみたいな体しか鍛えてない人や、ディーナさんみたいに悪いことしか考えない人がやらなくて何でメリアスさんみたいなか弱い子が囮役をしなくちゃいけないんですか!」

「あの。遠回しにあたしも非難されなかった?」

 本来はいい意味かもしれませんが、言い方からして悪い方向かもしれませんね。

「どこが悪いんや! 今は生きるために必死に考えとるやろ!」

「その生きるために自分以外の誰かを犠牲に考えるのが悪い癖なんですよ!」

「まぁパーティー何だから皆で協力しましょう。ディーナの案自体は悪くないんだけど、効率自体が良くなかったからそれを皆で補うわよ。罠とかなんなり考えて」

「――うちのが最短ルートやと思うんやけどな」

「ハイリターンに対する高額投資ならともかく、取り返しがつかないリスクを負うことはここじゃ許されないわよ」

 少し危ない状況に傾きつつあったが、クリスがリーダーの風格を見せて何とか終息に向かう。

「どうやらそれ以外の手が見えてきそうだぞ」

 そこに追い風とばかりのアーチェの澄み渡る声。

「耳を澄ませ。水の音だ」


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