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第2章-3 アイドルの父爆走

「全く! 私が何故このような馬車に長いこと揺られなければならないのですか‼」

「お嬢様。これもネクロマンサーを討伐するため。つまりはネクロマンサーが悪いんです」

「どこまで私の邪魔をすればいいのですか! ネクロマンサー‼」

 馬車に長く揺られたことをネクロマンサーにするという勝手な私怨を押し付けるのはやめていただきたい。

「しかしすごいとこやな。向こうなんか森通り越して密林やで」

「そこはテリトリーらしいから行かないみたいよ」

 ヘイワ街から馬車に揺られること5時間近く。半分以上を寝て過ごしているうちに連れてこられたのは一面家屋らしきものがほとんどない良いように言えば自然豊か、悪いように言えば何もない場所に着いていた。ディーナが呆気に取られているのも納得するしかない。

 テリトリーも近いらしく、人がいないのも納得できる。

「これより合宿先に向かう。合宿先の旅館『ドイナカ』に着いたら荷物を各部屋に置いてきたら昼食とします」

「あ、歩くんですか……」

「そりゃそうよ。周りに何もないでしょ」

 まぁこれだけの人数がいるのだからそれなりの宿泊先があるべきなのでそれが見えない以上そこまで行く必要性がある。

「歩く⁉ これ以上私に徒労を強要する気ですの⁉」

 そんな私以上に感情を露にする輩が一名。それも私みたいに悲観ではなく憤怒である。

「お前はこのような仕打ちをヘイワ王国の王女にしてただで済むと思っているのか⁉ さては貴様もネクロマンサーの刺客か⁉」

 だからそこでネクロマンサーを使うのは止めていただきたい。使い勝手の良い道具じゃないのです。

「とは言うけどな。馬車が来るのは三日後やで? それまでここでキャンプすんのかい?」

 馬車は三日後と約束し、立ち去った。ディーナの目線の先にはいくつもの轍のみが残る。つまりは今向かう予定である合宿先以外で過ごすとなると野宿しかない。

「なら今すぐ戻すのです! あなたたち。私の部下であるなら今すぐ馬車を戻してきなさい!」

「えっ⁉ 馬車をです……か?」

 王女が同じパーティーでありながら完全に部下扱いしている赤髪と青髪の生徒に呼びかける。が、その内容は荷車を引いているとは言え馬に追いつくという内容に思わず驚嘆の声を上げる。

「やろうと思えばやれますが――それでもよろしいのでしょうか?」

 そのことに苦言を漏らさずに青髪の生徒は断言する。若干の苦言と共に。

「それでも良いとはなんだ! 今やるべきことがわからないのか!」

「いえ、追いかけるのは別段構いませんが、どう考えても今すぐには難しいです。その間私たちのパーティーは手薄になることは承知でいいのでしょうか?」

「そ、そうか。大丈夫だ! 俺とゼノで何とか凌ぎ切ってやれるさ!」

 おや。従順しているかと思えばうまいこと穏便に終わらせようと考えているようだ。この人は以前の闘技大会で私の死霊の特性を把握していたから頭の回転は速いようだ。その証拠にアグロスの動揺は隠しきれていない。

「わかりました。行くぞヤン」

「マジで行くのかよシャオ⁉」

 そして本当に轍の残る方に走っていった。全力疾走――と言う訳ではなく加減も考えている。

「お、ぉぃ! お前たち勝手なことは」

「ここは行きましょう。予定通りに進めないと私たちも軍曹に顔向けができませんよ?」

「……それもそうだな」

 勝手な行動をする二人を一人の先生が止めようとするが、時間が押し迫っているのが原因かはたまた軍曹が原因かもう一人の先生が止めることによって未遂となった。

「では、改めて合宿先に向かう。くれぐれもテリトリーの範囲に入らないように」

 本当に右往左往する合宿が再び動こうとする。

「何ですって⁉ もうじき馬車が来ますのに何故そこまで行く必要性があるのですか⁉」

 けどやはり動かない。王女は頑なにここから動こうとしない。

「んなこと言うたってあの二人がすぐ追いつくわけないやろ? 人と馬やで?」

「そんなことは関係ありませんわよ! 王女が待つ間側で護衛を。それがあなたたちの――」

 また不毛な言い争いで先延ばしが増えそうになりかけた時だった。

 唸るような、または吠えるような。何かを欲するような音がその辺りに響き渡る。

「…………」

 その正体を皆はよく知っていた。そして知っていたが故に気まずくなる。

「お~うおう。どうしたんや一国の王女が。飢餓の時期かいなぁ~?」

 そう王女の腹の虫。

 誰もが口を開くどころか視線を送ることさえ憚れる状況でもディーナはそこにずかずかと踏み入る。

「仕方あるまいだろ! あの馬車では菓子どころかワインもパンも何一つ出ないんだぞ! 王女様がお腹を空かせないわけが――うぉっ!」

「何故私の腹の虫とばらしたのですか! あなたの物にしておくという配慮は無いのですか!」

 それは周知の事なので無理かと。

「食事なら合宿先にあるんやないかい? それともなんや? ここで孤児みたいに食料を恵んでもらうんかい?」

「お、おのれ……」

「何ならうちが恵んでやってもええで? ほぉら。あんさんの大好きなおまんまやで?」

 ディーナのちゃちゃは収まるどころかエスカレートする。しまいには空腹である王女に対しておにぎりを見せつける。

「わかりましたわよ!」

 握り飯を受け取るのは王女の意思に反する。そのプライドが王女の足を合宿先に向かわせる。

「ネクロマンサーの手下なんかの助けは受け取りませんわよ! さぁ! 早く私をそこへ案内するのです!」

 王女とは思えない地団駄歩きに続くようにアグロス、ゼノ、そして呆れた顔の先生が続く。

「なんやつまらへんな」

「というか何でおにぎり持ってたんですか?」

「あ、これ蝋でできた剥製や」

「酷い人ですね!」

 もしそのまま口にしてたら何本か歯を持っていかれたかもしれませんよ⁉

「そもそも食料の持参は禁止になっていたはずよ。合宿先に行けば食事は出るから問題はないはずだけど」

「そりゃそうですよね。普通は宿泊先に食事が用意されていますからね」

 合宿とはいえこちらはお客と言う扱いなのだから食事は用意されている。


 …………


 ……そう思っていた。

 その数時間後。私たちは森へと出向くことになった。

 空腹の中で。


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