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第2章-2 アイドルの父爆走

「はぁ……」


 〝拝啓 父上、母上へ

 色々なことが起こった時、人はここまで疲れた溜息を出せるのですね

 その原因の一人は宛先の片方にありますが〟


「メリアスさんが辛辣な溜息をしています! ここは私がお側に!」

「もう席は無いんや。諦めい」

「そんなことは無いんです! 今すぐ変わってください!」

 この状況も溜息の一つである。

 馬車は一パーティーに一つ手配されていて、中は対面するように左右に長椅子が用意されていて珍しいことにその間に机まで用意されている。

 私は正面向かって左に奥から私、クリス、アーチェ。

 反対側にディーナ、カトリナと言う順で座っている。

 カトリナが私と一番遠い席に座っているのはパーティー内でのカトリナ以外の暗黙の了解と言うことで。

「でも、これでひと段落できます。目的地までは遠いみたいですからね」

「せやな。あんな辺境地に行くなんてよっぽど逃げたい奴がおるんやな」

「軍曹が相手だからだろう」

 合宿するのはパーティーを組むほどの手練れ陣。それですら逃げたくなる軍曹が今回ついてこなかったことに心から感謝。

「それでは昼間までお休み――」

「はい」

 屋根付き馬車のスピードとはいえ微力の風が吹き抜ける中、揺られていい気分でお休み――する前に私の膝に一枚の紙が置かれる。

「……何ですかこれ」

「ロールプレイングシミュレート」

「はぃ?」

「ロールプレイングシミュレート」

「その意味がわかっとらんのやろ」

 ごもっともで。

「戦場でもしこのようなことがあったらこうすればいい、ああすればいいって考えることよ」

「へぇ――。それじゃ頑張って」

「あんたも頑張るのよ!」

「いだぃ⁉」

 紙束で殴らないでください! 結構痛いんですよ!

「これも合宿の内の一つだ。成績が悪くなるからしっかりやるぞ」

「気合入っとんなアーチェはんは……そんなに長銃使用許可書欲しいんかいな」

「実力が無ければ使えない銃は山ほどあるからな」

 やる気のあるお方がもう一人いらっしゃる模様で、これはやらざるを得ないみたい。

「頭の体操みたいなものだから疲れることは無いわよ。時間もあるし気長にやりましょう」

「……眠いのでさっさと終わらせましょうよ」

 紙媒体なら書くだけで終わりますからね。

「じゃあ他の皆も」

 と皆に紙が配られていく。そこには何やら地形図のようなものが描かれていてA~Eの番号が振られている。

 Aが中央にあるキャンプらしき場所の前。

 BがAのすぐ近く。

 Cはキャンプ右手にある崖っぽい場所の麓。

 Dはその崖の上。

 Eは他と離れた右下、『敵影』と書かれた場所にいる。

「騎士が一番の安置で聖職者が前線ってなんやねんこのパーティー」

「あ、あたしが指揮官ってことね!」

「メリアスさんと一番離れてますよー‼」

「僕の場所位か適正なのは」

 そして皆に渡された紙にもそれぞれわからないように番号が振られていて、

 Aがクリス、Bが私、Cがディーナ、Dがアーチェ、Eがカトリナになった。

「で、これからどうするんですか?」

「次はこれよ」

 その紙とは別に新しい紙が配られた。

「これに今どんな状態なのか書かれているから、それに適した行動を示すのよ。例えば――」

 そう言ってクリスは一枚の紙を捲る。

「『Eが交戦状態でDは霧によりEを視認することができない』この状態で一番の良策を考えるのよ」

「ほむ。で、この場合どうするんですか」

「それを皆で考えるのよ。その時に救助対象、この場合は交戦中のカトリナは何もできない決まりになっているわ。他の皆で解決するのよ」

「メリアスさん助けてください~!」

「この図面上の話なんや。現実に助けを乞うなや」

 そうなったら寧ろ私が助けを乞わなければならない。

「それと条件が付いている。霧が強いみたいだから誤射が起きるかもしれないから僕は何もできないようだな」

「ふぅ~む」

「だから今回実質動けるのはあたし、メリアス、ディーナとなるわね」

「普通に全員で行ったらいいんやないか? キャンプって拠点みたいなもんやろ? 今回はそれ守る必要性がないんなら全員で行けばいいんちゃうか?」

「私はメリアスさんだけいれば」

「はいはい。三人で行きましょうね」

 クリスが回答欄にA,B,Cの三名で救助しに行くと書き込んだ。

「今回は例題みたいな物だから次からは難しくなると思うわよ」

「実際はこんな状態になることもありそうですからね」

「そうなったら助けてくださいね、メリアスさん」

「ど、努力致します」

 カムシンかむっちゃんらへんが。

「じゃあ次は行くわよ。えっと――――」

 クリスが次の一枚に目を向ける。そして若干固まる。

「どうしたんや」

「えっと……あ、んとね……えー……」

 何で? と言うような顔をしなが言い淀むクリス。

「一体どんなお題なんだ。ふむ……」

 普段ポーカーフェイスなアーチェが横から覗くがその顔には普段見られない表情が見えた。

「『Bがモンスターに攫われそうになっている』」

「どういう現状⁉」

 てかBって私ですよね⁉

「まさかメリアスさんをお持ち帰りする気ですか⁉」

「まぁ言葉的には当たっているわな。完全に餌やけど」

「餌⁉」

「肉食獣は群れた草食獣を狙う際は一番弱っている奴を狙う習性があるからな」

「つまりは私が最弱であると⁉」

 運動神経で言えばその通りですけど!

「それよりもクリスさんはどうしてたんですか! 一番近くにいましたよね⁉」

「え、えっと……」

 クリスは愛想笑いを浮かべ、再度問題用紙に目を向ける。

「『Aはキャンプで調理中』。だって」

「何をしてるんですかぁぁぁ‼」

「仕方ないでしょ! あたしが指揮官で料理番なのよ!」

「料理番なんて書いてませんでしたよね!」

 勝手なオプションを付けるんじゃありません!

「で、今回はBが救助対象。Aが何もできないということだ」

 私とクリスがてんやわんやになっている中、アーチェが話を進める。

「今回は天候良好何やろうな。ならアーチェはんが援護して頭数減らせるんやないか?」

「モンスターの種類にもよるが浮上する奴以外なら何とかなるな。浮上している奴を撃ち落とすとメリアスも落ちるからな」

「寧ろ撃ち落として死霊に助けてもらえばいいんちゃうか?」

 結構雑な救い方が議論される。

「そんなこと許しません! メリアスさんは大切に扱わなくちゃいけないんです!」

 そんな中で絶対私を粗末にしない。寧ろ丁重過ぎる扱いをするカトリナが吠える。

「大切って。緊急事態やで? 寧ろ餌になる位なら多少の傷は加減してもらうべきやろ?」

「そんなこと言ってメリアスさんがかわいいから傷物にしたいだけなんですよね⁉」

「何でや! そもそもこれは空想の出来事でほんまもんやないかんな!」

「関係ありません! 私が救ってあげます!」

「あっ! おい! 待ていや!」

 瞬く前に問題用紙とペンを奪い取り『私が助けて優しく介抱しにお家に持っていきます』と記された。

「どういう答えやねん! と言うか私じゃ誰かわからへんやろ!」

「いいんです! 皆がわからなくても私とメリアスさんが分かればいいんです!」

「答案なんだからしっかり書かなあかんやろ!」

 確実に0点物ですよね。

「これ修正できないのか?」

「咄嗟の判断を要求されるシチュエーションだから修正は禁止よ」

「いきなり減点か……」

 アーチェから溜息に似た声が漏れる。今回の合宿が重要になる分申し訳ない。

「で、でも大丈夫よ。まだ問題はいっぱいあるから!」

「せやな。100点取らなあかん訳や無いんや。八割取れれば上出来やろ」

「そうですね。次行きましょう!」

 普段見られないアーチェの落ち込みに若干動揺した私たちが急ぐ必要もないのに次の問題へと急かす。

「そんじゃ次の問題は」

 ディーナが次の問題用紙に目を通し、簡潔に内容を伝える。

「『Bが腹を下した』」

「クリスさんの味覚音痴! 料理下手!」

「何であたしなの⁉」

「料理番はあなたでしょ!」

「あたしは指揮官よ!」

「さっきと言っていることが違いますよね⁉」

 と言うか私の役回りが完全に足手まとい!

「何てことですか! 私がメリアスさんの為に体に優しい物を」

「『Eは戦闘中で救助には迎えない』そうだ」

「何で私が前線なんですか!」

 ここまで恥ずかしい役回りならいっそのこと私と変わってもらいたい位です。

「で、どないするのが一番の解答なんや?」

 前回の0点を克服するには――と言いたい所ではあるけど出題の時点でコミカルすぎて正しさと言う物を議論せざるを得ない。

「Eが戦闘中なら敵が近くにいるのは間違いないわね。下手に介抱に向かうことは人手を減らすことになるからできないわ」

「となるとメリアスはん自身がどうにかなる必要性があるわな」

「そもそも救援がいる腹痛って一体何食べたのよ」

「何食べさせたんですか?」

「虚空の出来事よ!」

 そもそもクリスさんの手料理自体何も知りませんが。

「ならばメリアスに一旦その場から退いてもらうか」

「し、退くって?」

「とりあえず安全な場所。キャンプに逃げてもらうか」

「でも私は救助を待つほど腹痛何ですよ? 動けるんですか?」

 動けないほどの腹痛ってだいぶだと思うんですけど。

「ならば簡単だ」

 え?

「せか。そういうことか」

 え、え?

 どういうこと?

「こっちにはディーナがいるからな。ディーナ」

 今回のキーマンとなるのか。アーチェはディーナに問いかけた。

「下剤はあるか?」

「あるで」

「強制退場させる気ですか⁉」


 〝拝啓 父上、母上へ

 仲間の扱いが酷すぎて泣けてきます〟


「それさえ飲めば流石に動かざるをえんやろ?」

「そうですね! 寧ろディーナさんが来てくれるなら腹痛止めの薬くれてもいいじゃないですか!」

「あいにくそれは持ち合わせ取らんねん」

「何で下剤だけは持ってるんですかぁぁぁ‼」

 もう問題が問題なら回答も回答で混濁しすぎてる! あまりの悲惨さに騎手の人から堪え笑いが完全に漏れている!

「仕方ないんだ。味方の為、成績の為、メリアス。この条件を呑め」

「自己犠牲を強要しないでください!」

「何ならその場ですっきりするんも手やで?」

「例えずぼらでも乙女は捨てません!」

「はぁ……。もう考えるのも疲れたしこれでいいか」

「それでいいんですかリーダァァァァァ‼」

 結局まともな問題文もあればこういったコミカルな問題文も存在し、「これ模範解答あるのかな?」と言う全員共通の謎が出来たまま、全ての問題は終わった。


 ちなみにいうとロールプレイングシミュレートの成績はそこそこよく、ダントツの最下位は最前線のEに送り込まれた王女を問題文無視で守り、奉仕すると書いたどこぞのパーティーだった。


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