第2章-1 アイドルの父爆走
太陽はさんさんと輝くも、現在の時刻は午前6時半。
朝です。
専ら朝です。
「ふぁっ」
絶賛眠いです。
「治らなかったわね……」
「先天的睡眠障害か?」
「ありゃ末期やで」
「酷い言いようです」
いっそのこと皆を故郷に連れて行きたくなってしまいます。ヨミガエルならずっと寝放題ですよ。
「寝る子は良い子です。メリアスさんは良い子なんです」
ちなみに暑いので抱擁はやめていただきたい。
「できれば早くあの馬車の中に行きたいです……暑いです……」
「まだ始発式も始まってないのよ」
「そんな一マニーにもならん話聞いてどうするんや」
「その台詞次第でゴールドバーグ家の品位が落ちるわよ」
今回に限っては自発的催しでないディーナもやる気が失せ切っている。寧ろこの炎天下で鎧を着て既にやる気満々な人たちが怖い。
「ところで」
そのやる気な人クリスが私に視線を移す。
「メリアスは何で制服なの?」
制服の持参。これは合宿先での普段着として扱われる為に複数枚持ってくるように言われている。けど、それは夕方以降に必要な物であって今から必要な物ではない。その証拠にクリス、ディーナ、アーチェは昔見た戦闘着、カトリナは動きやすさを重視してスカート丈が普段より若干短い修道服を着ている。
そんな中私だけ既に制服である。
「これは決して端から休むためじゃありません」
「それを信じたいわ」
「私の信頼性の薄さ……」
そこまでサボりじゃないと思うのですが。
「じゃあ何なんだ?」
ここら辺察しがよさそうなアーチェすら疑問を投げ返す。実際にそれは正しい。
「暑いからです」
「ん? あぁ……」
そうなりますよね。
「メリアスらしい理由よね」
「失礼な。クリスさんもあれを着ればわかりますよ」
「あんな派手さも色気も無い古臭い服着てるからや。もっと露出の高いもん着な暑いし男は寄らんで」
普段通りの商売文句ではあるけどキレは全くなく、それをきつく責める物もいない。
「てか、よくそれが通ったわね」
「そうだな。戦闘着で来るようにと言う指定もあるはずだぞ?」
これも合宿の決まりであり、下宿先以外で活動する際は戦闘着でいることが義務付けられている。それに則った場合、私は炎天下の中で黒い布袋のような服でいるという地獄を見ることになっていた。
そうならなかった理由はと言うと。
「『常に戦闘を意識した服でいるように。えっとメリアスさんは――ネクロマンサー? え、えっと……制服でいいと思いますよ?』と言う采配でした」
…………。
「そりゃそうやな。ネクロマンサーなんて知るわけないわな……」
ごもっとも。
「それで先生を欺いた訳ね」
「欺くなんて言わないでくださいよ」
あんな夜専用服で日中、それも夏の炎天下の元出るなんて熱中症になるに決まっています。皆さんにとって迷惑なんです。
「まぁ風化しつつある風習やからな。先生らが知らんくてもおかしないわい」
「おかしいですわよ!」
呆れ話が続いていた最中、それを一瞬にして吹き飛ばす怒声が飛ぶ。
「私たちヘイワ王族の元にあるナンデモ学園の生徒はおろか教師ですらネクロマンサーを敵対視しないどころか知識すらないなんて!」
まるでこの国のことを思うが故に演説している王女。けど、悲観する王女はこれでもかと言わんばかりの優遇対応の中での演説には批判しか生まれないと思う。
「お嬢様の言う通りでございます。お前らヘイワ王国の未来を担う兵なら今その力を見せなくてどうするんだ!」
その優雅装飾その一、色あざやかで豪勢な扇をイシュタル王女に向けて仰ぐ生意気顔は王女の代弁を装いながらの単なる嫌味をぶちまける。
「…………」
その横には普段通りの無言で天幕の如き日傘をイシュタル王女の影になるように差している優雅装飾その二。尚、本人の体は一部しか覆えていない。
「な、何であの人たちがここにいるんですか……」
やるせない声が漏れる。放課後のアイドル活動はもとより、行き帰り、果てには授業の合間にも私を始末しようと押し寄せてくるので私どころか皆からも嫌がられている。一応王女の為、その悪態の矛先はアグロスに向けられることが多々である。性格が祟っているのだから仕方ない。
それよりもなぜあの人たちがいるのか。大半の生徒が長期休暇の中こうやって出てきているのであれば優等生にも見えるが、もうちょっと違う場所で頑張ってほしい。
「そもそも何故私がこのような場に出なくてはならないのですか⁉ 私は王女ですわよ⁉ 何故未来の兵たちと同じことをしなくてはならないのですか⁉」
「そ、それはお嬢様がネクロマンサーを討つ為にパーティーに入ったからでありまして、これはネクロマンサー討伐に必要なことなんです。……それにサボったとばれれば軍曹が怖いですから」
あー。そういうこと。
よく見たらアグロスとゼノの後ろに昔闘技大会で出会った赤髪と青髪の生徒がいる。相変わらずの忠誠心が伺える。
「」
?
気のせいか、一瞬青髪の生徒と目が合った。その後若干ではあるが会釈をされたような気がした。よくはわからないが自分も軽く頭を下げる。
「何や王国のお嬢様は一人の民に恐れをなすんかいな。そんなでようネクロマンサー倒す言うとるな」
「何ですって! そもそも私はあのようなゴリラを恐れてなどいませんわ!」
「なんやって軍曹」
「ひうっ⁉」
悪戯な笑みを浮かべたディーナがイシュタルの後方に視線を向けて問いかけるとイシュタル王女は何とも可愛らしい声で鳴いた。もちろん後ろには誰もいない。
「ディーナ! お嬢様を大勢の生徒の前で愚弄するとは何たる無礼!」
「んなの軍曹にこわがっとるお前が悪いんや。そもそもそんだけ警戒しとるんなら軍曹が今日来ないってことくらい把握しとかんかい」
「何だと。確かに今日はあの強面を見てな、ぐわっ⁉」
「何でそのことを把握していなかったのですか! おかげで私は恥をかきましたのですよ!」
よく見る光景が目の前に広がる。仰ぎ手がいなくなるからあまりやらない方がいいとは思いますよ。
「何でこうなるんですか……」
「まぁ合宿とは言うけど本格的なやりあいは無いから支障はないわよ」
「それでも疲れる物は疲れるんですよ」
今はそれ以外のことも考えなくちゃいけないので更に疲れるのに。
「ていうかあんさんらやったんか? 始発式が始まらなかった遅れてるパーティーって」
「えっ? そうだったんですか?」
「どおりで始まらないと思ったら」
詰まる所、皆が炎天下の元ずっと待っているのはイシュタル王女たちのせいだったという。その事実が皆からの視線を強くする。
「お前たちいい加減なことを言うんじゃない! お嬢様は確かにぎりぎりまで来なかったが俺は仕方なく一時間以上も前から待機しているんだぞ!」
それはご苦労様でした。けど、後ろの人がすごい睨んでますよ? もちろん私にじゃないです。じゃないですよね?
「いや、イシュタル王女は確かに遅れては来ましたが定刻には間に合っています。本当に間に合っていないパーティーはそもそもまだ一人も来ていない」
今回軍曹が欠席の為、代わりに担当となった先生が仲裁に入る。
「その通りだ! お前たちは真実も知らずに愚かなことを! それにだ! お前ももう少し早く説明すべきだ!」
激昂するアグロスは先生をお前呼ばわりする。
けど、それは些細なことで終わりを告げることになる。
「「「「「すんませんでしたー‼」」」」」
アグロスの激昂が薄く思えるほどの倍声量が轟く。けど、それは実際量の五倍であり、その質量が総動員して先生の前に押し寄せる。
「すみませんでした! ケイロンが寝坊しまして!」
「寝坊じゃねぇ! 10秒前に起きただろうが! そして俺はボイズだ!」
「俺が寝坊なんてするわけねぇだろ! それよりもゼトがトイレなげぇから行列ができたんだろうが!」
「うっせー! 朝から大きい方だったんだよ! 小なら外でしろ! それと俺はオルグだっつうの!」
「すみませんこいつらがうるさくて! ちなみに俺がゼトです!」
「お前も声がでけえし、早口が過ぎるんだよ! もうちょっと簡潔に謝罪するべきだろうが!」
「「「「部外者口出すんじゃねぇ!」」」」
「お前らの長男ディオルだろうが!」
「とりあえず。遅刻は遅刻だ。わかってるな」
「「「「「すみませんでした……」」」」」
草頭の五人が先生の前に突撃し捲り倒す勢いで先生に言い分を伝えた。もちろんそれは通らず、素直に不服した。
「ぉ、ぉまぇら……!」
それと先客であったアグロスを踏みつぶしているので気づいてほしいです。
「先生。もう時間の方が過ぎて」
「わかっている。簡潔に言おう。合宿先では礼儀正しく、怪我の無いように。以上、各自指定の馬車に移動するように」
散々待たされた始発式はあっさりと終わりを告げることになった。




