第3章-11 アイドル島を出る
少女の魔力を参考に似たような魔力を探してみれば確かにあった。ただかなり稀薄な存在でここが島じゃなかったら一生見つからなかったと思う。
そこは私が始めて二人を見た崖のすぐ真下の海岸だった。
肝試しの際にも軽く霊視をしていたけど、これほどに魔力が薄れてしまえばネクロマンサーでも見つけることは難しい。長い年月がこれほどまでの存在にしてしまったのか。
「お……父さん? お……母さん?」
少女の残された魔力が無意識のうちに両親に注がれ、姿見がしっかりしだす。
そこには老け、或いはやつれてしまったものの、投写画に写っていた面影を残す両親の姿があった。
「……っ!」
「っ⁉ っ⁉」
目の前に表れた娘に、父は目を見開き、母は両手で口を覆った。長らくの魔力消失が言葉を奪っても、二人の気持ちは見て痛感できるほどだ。
「……うっう‼」
感涙のあまり少女が両親に飛びつく。それを母親が体全体で包み込み、それを父親が優しく見守る。
〝拝啓 父上、母上へ
唐突に家族が恋しくなってしまいました〟
その親子三人をさらに包むように白い光が照らす。
前に一度見たのは先生の呼び出したグールがレイハさんによって浄化させられた時だけど、今回のものは違う。これは自らの残る意味を成し遂げたからなのだろうか。
「船も消えていくな」
自分たちの船と一緒についてきた死霊船が消えていく。大きな船が消えるにつれ、海の形が変わったせいか私たちの足元にまで波が押し寄せた。
「これであの海賊さんたちはどうなるのですか?」
カトリナが心配するのは恐らく船上で大量に襲い掛かってきた賊霊のことだろう。
「彼らはまた海に戻ったと思います。元々は単なる浮遊霊であったのが偶然にも居場所を見つけただけなんです。そして自分たちのアジトを失った彼らは海賊と一緒でまた大海原に旅立ったのです」
そう考えると浮遊霊も海賊も似たようなものに見える。
「そもそも彼らの欲求が満たされることはないんです。恐らく」
もちろん本当にそうなのかはわからない。海賊の心情を知る由もないのだから。
「そうなんですか……」
光り輝く海上を見るカトリナの表情は悲しげであり、今まで悪事を働いてきたであろう死霊にも指を絡め祈った。
賊霊たちの気配が失せ、死霊船が完全に消え、親子も無事昇天した。
残ったのは昨日と同じ光景だった。
「これで帰れるんやな……」
「障害が無くなったからまたここで仕事始めるとか言わないんですね」
「そんな気力はもうない。ついでに水もないんやで」
「ですよねー」
「けど、帰ったら仕事やで」
「ですよね……」
ここはぶれないんですね。
「でも、たまには違うことしてもいいんじゃないですか? 例えば、両親を労うとか」
「……ここで言うんかいな」
若干困った表情でディーナが返す。
「私はしっかりと手紙を書きたいです。最近は忙しい上に書く時間も全く貰えないですからね」
「……わかったわい。どうせ一日早く帰れるんやし書く時間くらいくれてやるわい」
ディーナが降参したことに小さく拳を握る。別にサボりたいとかそういうわけではないですよ。
時代が変わったからとはいえ、私がいるのは異国の地。かつて留学を試みた少女とそれを見送った夫婦の延長線にいるも同然である。
目的地に無事いるとしてもそこで何が起こるかはわからない。まして私はこの土地を治めた者からすると異端者。
だからこそ、だからこそ。この私を送り出してくれた両親に今の状況をできる限り伝えてあげたい。私が安心に暮らせていることを知らせたい。そういう気持ちが今こみ上げている。
「ディーナ。いいか?」
「ん、どうしたんや?」
「出発はまだ待ってくれ」
「え?」
と、ここにきて思わぬところからストップの手が出る。
ディーナの従業員という役割を担うが、どちらかというと現実主義派なアーチェが何故か出港を拒んだ。
「どうしたんですか。一体何が」
こつん。
「ん?」
何だろう。歩み寄ろうとした瞬間に何か押し寄せてきた波とは別に何か大きな物が足元に当たる。
何かの漂流物だろうか。足元を見てみると漂流したにしてははっきりとした赤が目に留まった。
「て――うぇぁぁぁぁぁぁっ⁉」
「な、何や! ってクリスはん⁉」
「ん。そこだったか」
クリスのことすっかり忘れてた! アーチェが伝えたかったのはクリスのことだったんですね!
「てかこれはまずいで! 顔が青どころか若干土色しとるで!」
「だ、大丈夫です! まだ霊魂は抜けていません! 生きてます!」
「専門家のお墨付きは得たな。カトリナ、治癒を頼む」
「しっかりしてくださいクリスさ~ん!」
最後の最後で毎度倒れている気がするクリス救助の元、離島の陽は少しずつ傾き始めていった。




