第3章-5 アイドル島を出る
召喚陣を展開し、すぐさま目当ての相手を呼びかける。
だいぶ大きく設計されたであろう船が小型の漁船に成り代わってしまうような巨体が私の目の前に現れる。その身に纏う堅甲も相まって、船が一瞬大きく沈む。
「ナンダココハ?」
穴から臨む真紅の玉が私を睨みつける。カムシンが呼ばれるのは最近になって二回目である。それも一度目は単なる呼び間違えで、五つ子集団を軽くあしらうだけに留まっている。
そして今度は死霊船。戦闘向きなカムシンにとっては望んでいた場所であるが、カムシンの不服は拭えない。
「コンナ魑魅如キニ我ヲ呼ブカ? 我ニカトンボを払エト言ウカ!」
数多くの戦地を父上と闊歩した仲、それ故にこんな小物に呼ばれたこと自体に憤怒している。確かに相手は簡単に浄化できそうな雑兵ばかりである。
「それでも油断はできないものですよ。父上がおっしゃってました。何重にも重ねた堅固な土塁をいとも簡単に崩したのは蟻だったと。小さなものでも数で攻められればどんな大きなものでも倒して見せるんです」
「小癪ナ。コヤツ等目ニ見エテ些少ナリ‼」
鞘に手をかけた後、一笑。霧さえも裂く剣戟の風が骸骨たちの骨を更に別ける。
風が止んだ先、皆が恐れていた存在達が船上から跡形もなく消えた。
「視ルガヨイ小娘。何一ツ」
嘲笑しかけた時、宙ぶらりんだった左手が大きく動いた。
その先、ただの拳により粉々になった骸骨の骨と頭が無数に跳び、それが視認出来た時遅れて鈍い音を認識することが出来た。
「目に見える物が全てじゃないんです。この船、海域。全てに彷徨う者たちがここに望むものを見つけて集っているんです」
「……フッハハハ」
カムシンがまた嘲笑する。けど、それは先ほどみたいな呑気な物とは違う。
これは歓喜だ。
「上等ジャネェカ! ナラバ来ルガイイ! 那由多ノ蠅、全テ払イキッテクレルワ!」
咆哮が霧散に木霊する。その一声自体が攻撃であるかのように、全てがカムシンを真っ当な敵と位置付けた。
亡者と髑髏がやりあう正に地獄絵図。
それ自体が一個体かと思われるほど大勢の骸骨たちが襲い掛かったと思えば、それを意図も簡単に一刀両断し、その塊自体がまさかの囮で朽ち果てた甲板の穴から本命が現れる。が、それを棍棒の如き左腕で薙ぎ払った。
力量は圧倒的だった。
それでも、奴らは狂喜する。それに呼応するようにカムシンも驚喜する。
求めた物を見つけたカムシンにもはや説得の言葉はいらなかった。
その激戦の最中、骸骨たちと何度もすれ違いながら、私は何事もなく皆が待つところに歩いて戻った。
「これで大丈夫です。あいつらはカムシンに任せて私たちはクリスさん、できればこの船の元凶を探し出しましょう」
「い、いいんかいな、あれ」
「大丈夫です。寧ろ私の方が心配何ですけど」
臣下の身よりも、今は自分の身の方が最優先である。それが臣下に直結することであればなおさらである。
どう見ても腑に落ちない顔をしているディーナではあるが、「はぁ。まぁやるべきことが先決やな」と溜息をつく。優先順位の位置づけに長けているのは流石としか言いようがない。
「ちょっと待ってくれ! さっきから直接の危害は無いんだけど間接的な物が酷すぎるよ! と言うかどれも致命打!」
と訴えてきたタナカが飛んできた木の板に対し体を逸らす最低限の動きで避けた。体にロープを巻きつけたままでそれを行ったタナカの身体能力が正直恐い。
「それくらい頑張りぃや」
「頑張れって、これ結構辛いんだぞ⁉ 少し足浮かせただけで海に引っ張られる恐怖が常に襲い掛かかるんだよ!」
「かといって、あれを止める訳にはいかないんだろ?」
アーチェが向ける先、そこには熾烈を極めんとする争いがあり、その中から今度は鍋が飛んできた。鍋?
「そうですね。止めると骸骨たちがまた些細なことでこっちに襲い掛かってくるかもしれません」
「もう少し配慮と言う物があってもいいと思うんですけれども、いった‼」
何とか改案を求めるタナカにハリセンが飛んでくる。ハリセンは武器に入りますか? 恐らく入らないでしょう。そして何故これだけ避けなかった。
「でも無理なんだから仕方がない。ここからだと被弾までに最低約三秒くらい。視認に一秒、照準に一秒。残り弾数も乏しいから僕はここに残ろう」
「何と。同じクラスのお姉さまが僕の為に身を張ってくれるとは! くっ、僕が逃げ出したことによる連帯責任を負わされている皆に申し訳ないような処遇に良心が痛い」
「言っておくが、致命打のみだぞ。他は自分で避けるんだ同じクラスのカビ」
「僕そういう処遇⁉」
それでもマシな部類だと思いますよ。考えれば恐らくもっと酷い言葉が出てくると思います。
「おぉぃ! こっちに入口があるで」
ディーナが小さい体を目いっぱい大きく見せようと左手を振る。それとは反対の手がもう雨風を塞ぐことはできないくらい腐食した扉を掴んでいた。
「では行ってきます。最後に、あまり骸骨たちを刺激するような攻撃はしないでください」
「無論、そのつもりだ」
その一言でアーチェは既にこの骸骨たちの行動原理を独自で理解したのだと察した。
ならばこれ以上の説明は無駄かな。早急に片す必要があった私はディーナ、カトリナがいる船の核心部へと繋がる道に向かった。




