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第3章-4 アイドル島を出る

「メリアスさん! 何で避けるんですか⁉」

「んなこと言ってる場合か! どうやって帰るねんこれ!」

 残されたのは弱弱しい縄が二本。そして今気づいたけど、複数あった橋のほとんどが既に決壊して、ほとんどが縄だけになっていた。

「まずいな。この縄も大丈夫だとは思えないぞ」

 アーチェの指摘に失われた橋から視線を縄へと向ける。予測通りその縄もかなり草臥れていてる。

「でも、他の縄があるならば」

 言いかけた時船が大きく揺れる。

「今度は何や!」

 一番初めに揺れた時とはまた違う揺れ。こうなるともう嫌な予感しかしない。

「離れていく!」

 端的な発言が更に端的になったアーチェの叫びに思わず振り向く。そのアーチェの視線の先を追うと、そこにはちぎれた縄がぶら下がっている。まさかと思い目線を左右に動かすと同じく切れた縄がいくつも。

 目まぐるしい確認の末わかったことは、今私たちの目の前にある頼りない縄以外、全てが断ち切られたということ。

「どういうことや! さっきまではうちらの船に入るためにかけた縄や橋何やぞ⁉ 何で今それを破棄しとるんや!」

「わかりません! ただ、このままだと私たちはこの船に連れ去られるか海に落ちるだけですよ!」

「んなのわかっとるわ! それよりも早く戻るんや!」

 戻る、と言われても今あるのは橋を渡すためにつけらた縄が二本のみ。曲芸師にしてもこの綱渡りだけは御免被りたくなるような弱弱しい縄が二本。

「それにクリスさんが!」

 ここで例え四人が戻れたとしてもクリスは取り残されてしまう。

 そのクリスは今も足場の悪い場所で骸骨たちにチャンバラを繰り広げて、

 バキャッ。

 デジャブのような音が船に響いた。

 そして反射的に嫌な予感が。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁははははは!」

「落ちた⁉」

 無茶していたクリスの足場が完全崩壊してその上にいたクリスが真っ逆さまに落ちて行った!

「ど、ど、どうするんや! クリスはんはいない! 帰り道はない! うちら終わりやで!」

 今までに感じたことのない失望感がディーナを混乱させる。

「だ、だいじょうぶです! クリスさんが死んだとは限りませんから!」

「そうだな。見てみろ。骸骨たちが穴に入っていく」

「え?」

 私がディーナを宥めようとした時、アーチェが奇妙なことを言いだす。が、それは事実であり骸骨たちは次から次へと穴に入っていく。生死はともかく無事かすらわからない相手を執拗に追う。

「やっぱ中に入るしかないんやな」

「待て、その前にここをどうにかしないと」

 ディーナとアーチェの意見が分かれる。

「大変です! 縄が」

 けど、それはすぐ後者が優先される。

 カトリナの指の先、縄の一本が切れかけ、そして今切れた。

 残されたのは頼りない一本。切れる前に渡りきる、と言う考えは絶望的なほどに縄は細かった。

 そして最後の一本が切れかかる。


「そこをどいてください‼」


 声が響く。それもこちらからではない、対岸、つまりは私たちの船から。

 白い霧の中から突如現れた声は次第に輪郭を露わにし、露わになるにつれてその者が行う奇行と奇体が明らかになる。

「タナカさん!」

 そこにいたのは変質眼鏡のタナカだった。それも体に何故か太めのロープを巻きつけ、誰も渡りたがらなかった縄を走り抜けているのだ。

 けど、そんな無茶もいつまで続くかわからない。そう思った時、始めに叫んだ「どいてください」の意味を知る。

 タナカが跳んだ。それも半分近く残した位置から。

「ファイトォー! オッパツ!」

 何だかよくわからない気合と共に伸ばした腕は船の縁に届く。よくわからないけど、今すぐこの手を振り落したくなった手を止めてタナカが上がってくるのを待つ。

「何しとるんやお前は」

「アイドル様の悲痛な叫びが聞こえたからさ」

 そんなこと言ったっけ、そもそもどうやって聞いたのだろうか。

「さぁ! 僕が来たからもう安全だ! アイドル様の架け橋は、僕が作ってあげ、おわっと!」

 バランスを崩したタナカが船の縁に足をかけ、何とか踏ん張る。一体何をしているのかと思ったが、タナカの身体に巻きついているロープの先を見て理解する。

「簡易な渡り綱か」

「その通りさ。さっきよりも太いから切れる恐れはほぼないさ! さぁ! アイドル様。僕の橋を渡りなよ!」

 若干乗りにくい誘いを受けて顔が引きつく。けど、それ以上の問題点がある。

「駄目です。まだクリスさんが取り残されているんです」

「何だと。あのアレクサンダーが捕らわれたのか⁉」

「捕らわれた……という訳ではないんですが」

 私が見た先には大きな穴。今も尚骸骨たちがその中に乗り込んでいる。

「あ、あれは集団プレイだと! 恥知らずどもが! そんな羨ま、けしからんことをするな化け物ども!」

 タナカが憤り? を露わにしながら近場にあった木の板を骸骨の頭部目がけて投げつけ、コンという乾いた音が響く。それが骸骨たちに何らかの影響を与えるはずもなかった。

 と思っていた。

 骸骨たちが突如動きを止める。

「あれ?」

 その様子に皆、そしてタナカが疑問を持つ。

 動きを止めた骸骨がまず動かし始めたのは首。皆こちらを向く。

 もうこの時点で嫌な予感はしていたけど、答えはあっさりと出てくれた。

「こ、こっちに来たで⁉」

「タナカがちょっかいを出すからか」

「いやいや! ただ板切れ投げただけだから! それと僕の名前はMr.プ」

「もうこの人をあの人たちに渡してわたしたちは逃げましょう! そうしましょう!」

「聖職者が犠牲者を生まないでよ⁉」

 まさかの板切れ一枚でこちらに向かってきた骸骨たちにこちら側はしっちゃかめっちゃか。

 けど、これは。

 確信めいたものを頼りに、私は船尾へと向かう。

「メリアスさん⁉ どこへ行くんですか! 逃げ道はこちらですよ!」

「試してみたいことがあるんです!」

 向かってくる骸骨とは垂直に動く私。無論動きは無い。

「ここかな」

 クリスが落ちた場所と比べれば、比較的――ぼろ船にしては――しっかりとした甲板を確認する。ここでならばそつなくこなしてくれるだろう。

「来たれ! 鬼武者カムシン!」


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