第2章-12 アイドル島に行く
船の中に備え付けられた談話室。午後を過ぎ、クリスが到着したのをきっかけにそこで各々の結果を報告しあった。
結論は、収穫0。
クリスは島の反対側まで行ってきてくれたのだが、人っ子一人見ることは無かったという。
アーチェは船乗りたち全員の事情を聴き、更には昨日肝試しのセッティングを担当していた船乗りたちと森に入り、段取りさえ確認した。
カトリナについても海鳥以外は何一つ動く物体は無かったという。
ちなみに私はと言うと、文句ばかり言うディーナとミスターが変な気を起こさないうちにその場を立ち去り、先日影を目撃したビーチ――近くの木陰――でカトリナ同様に見張ってみたけど、対して収穫も無く、その上暑かったのですぐさま引き返すことにした。
この時点で私の勘違いではないかと言う説が浮上し始めていたが、私はそれを否定する。確かに一瞬ではあったが、私は二つの影を見た。
「んなこと言ったっておらんもんはおらんのやからこれ以上探すのも無駄や。午前全部それに費やして押しとるんや、次の撮影やるで。……まさかやけどな。仕事やりたないからって嘘ついたんやないやろうな?」
「そんなことありませんよ! 私は本当に見たんですから!」
「でもいなかったな」
「流石にばれたからと言って一日でこの島脱出するのは相当な物よ」
けど、証拠が得られなかった以上は言葉だけのただの空想。始めは色々と疑いをかけてくれた仲間からも疑問の声が上がり始めた。
確かに見えたのは一瞬。それ以降一切姿を見せていなかった訳だし、カトリナやアーチェが目撃した私たちに危害を加えられるまでに接近した影はタナ――ミッス……タナカだということが分かったのだから、もしあれが実在する者の影であってもさほど問題視するほどではなくなっている。
けど、さほどではダメな気がする。確かに見たのは一瞬であるが消えたのも一瞬。ディーナの方に目を向けたほんの僅かで普通の人間があそこまで消えることが可能なのだろうか? タナカみたいに特殊な素質を持った人間でもなければ難しい気がする。
そんな特殊な逸材がこの島のどこかに隠れていたら、実は既に私たちの船の中にいたら、それこそ大変なことになる。
こちらには屈強な人材が確かに揃っている。けど、特異な相手に果たして遅れを取らないでいられるのだろうか。
「とにもかくにや。もうこの話は無しにして午後の撮影や撮影! 丸二日ただ遊ぶだけに来たんやないで! 明日帰るまでに遅れた分を取り戻すんや!」
そんな想いなどどこ吹く風。ディーナは昨日、更には今朝に至ってもことごとく失敗し続けた撮影会を再開しようとする。
「もう諦めるしかないわよメリアス。いくらなんでもここまで見つからないことに文句垂れてたら、後のしっぺ返しが怖いわよ?」
クリス自身も今回ばかりは名案を持ち合わせていないようで私に諦観するよう促してくる。
「大丈夫よ。あの水着とは言えない水着はあたしが捨てておいたから」
「何やて⁉」
そのことを聞いて若干安心する。いや、まだ安心しきってはいけないのだけど。
「あれならそこら辺に落ちてる貝で普通に作れないか?」
「そうや! この島なら拾い放題や! 何なら前のよりも更に際どいの見つけることだってできるで! 小さいのや、一部かけたのや、穴が開いたのや」
「ま、まさか危ない水着とはあの禁断の自然融合体、三点貝殻水着だったのか⁉ そうと聞けばこのMr.プロデューサー、全力を尽くさねば!」
……安心はできない。
意気消沈していたディーナと脚を縄から解放され、今度は体をお縄にされたタナカが興奮する。解き放つんだろうな、これ。
「あんたらね。何なら二人揃ってまた」
クリスの説法が炸裂しそうになったときだった。
場違いの異音が辺りに木霊する。
……。
誰の音? と言う前に目線が私に向く。
「……私です」
ので、素直に白状する。
お腹から鳴ったその音は自然現象であり、抗うことのできない生命の神秘。逆らうことはできない。例えどんな現状であれ。
「そういえば朝も抜いてたわね」
朝からタナカ騒動が勃発し、更には謎の影事件が派生したせいで朝食すっぽかし、時刻は既に正午を過ぎ去っていた。
「何はともあれや。午後からは通常運行、とりあえず飯や」
いたと思うんだけどな……。でもいなかった以上は仕方ないのだろうか。
「ディーナ様!」
と、そこへ船乗りの一人が下の階へと通じる扉から入ってきた。その声色は誰が聞いても焦りを帯びていると感じるほどに動揺していた。
これはまさか。
「何や、やっといざこざが済んだとこで」
「一大事ですよ!」
「何かあったんですか⁉」
ディーナが呆れ半分に返すので私が聞き返す。
「実は倉庫」
「倉庫に誰かいたんですか⁉」
「メリアス食い入らないの。で、倉庫で何があったんですか?」
「ええ、実はですね」
クリスの落ち着いた口調に高ぶっていた感情が落ち着いたのか、船乗りはゆっくりと告げる。
「水が、もうほとんどありません」
「はっ?」




