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第2章-11 アイドル島に行く

「で、これはどういう訳や?」

 代表者としてこの中では一番友好、友好? 関係があるディーナが問いただす。尚、罰なのか未だにタナカは吊るされたままである。

「ふっ。そんなの決まっているであろう。アイドル様が南のリゾート地でバカンスを楽しむというのだぞ! そうと決まれば例え自費だろうと、軍曹の訓練中だろうと駆け付けるのがファンとしての役目!」

「自費って、あんたどうやってきたの?」

「無論。この船の中に潜んでだ!」

「それって自費って言わないでしょ……」

 タナカの自信満々な発言にクリスはこめかみを押さえ、溜息を漏らす。

 密入と言うべきだろうか、それも軍曹からの脱走で。そういえばこの人、前の時も軍曹に捕まりながら他の人たちよりも先に解放されてたような。意外と強者?

「そもそもディーナ! 写真撮影と言えば僕だろ! 何故僕を呼ばなかったんだ!」

「タナカが軍曹に捕まったからだ」

 伝達者は同クラスであるアーチェだったようです。

「そこは確かに僕の落ち度だ。この際は認めよう。だが、これは一体なんなんだ!」

 喚きながら体を動かす。そうすると槍が危ないですよ。

「それはあなたがメリアスさんを私より先に襲おうとしたから設置された罠ですよ!」

「カトリナさんも襲おうと思わないでください!」

 昨夜襲われなかったのは奇跡か何かですか!

「昨日から不審な影が島や船で目撃されていたことが私とカトリナさん、アーチェさんの証言からわかってたんです」

「そしてこれを設置したと! でも、アイドル様の愛の鞭と考えればこのMr.プロデューサー甘んじてこれを受け入れます!」

「いえ、私はこの設置に一切関与してませんから。恐らくアーチェさんが侵入者防止用に」

「いや」

 全てを言い切る前にアーチェから制止が入る。

「これはメリアス用に仕掛けた罠だ」

 で、捕獲対象は180度旋回する。

 …………。

「私⁉」

 何故⁉

「おどれは、おどれはな……! ようもうちが仕掛けた『アイドル寝起きどっきり大作戦』のトラップ全部発動しおったな!」

 先陣を切りながらもここまで沈黙していたディーナがここで吠える。どういう訳って何故あなたがいるって意味じゃなかったんですか。

「何ですかその企画は! そしてこの罠一連はどっきりではすみません!」

「そうだぞ! こんな物騒なドッキリだと流石の僕でもぎりぎりショット狙う前に心配するだろ!」

「狙わないでください!」

 実際被害にあったタナカからも一言余計な便乗批判が飛ぶ。

「『ビーチで危ない水着作戦』も『肝試しドッキリ作戦』も失敗したんや! もうこうなったらここらでいっちょ大きなものを取らなあかんと頑張ったうちの熱意が分からんか⁉」

「殺意なら伝わりました‼」

「その危ない水着って何なんだ!」

「話を逸らさないでください!」

 なんだかんだ言ってやっぱこの二人似た者同士だ! 買う側と売る側だけど!

「はぁ。つまりは島で目撃した謎の影がタナカだったわけで、それがまんまとディーナの罠にかかってばれちゃった。それで十分じゃない」

「十分じゃありゃへんわ! どうすんねんどっきり作戦!」

「どうするも何もばれたで終わりよ。どうせまだ今日も何らかの悪巧み考えてるんでしょ」

「悪巧みちゃうわ!」

「で、どうなのアーチェ」

 これ以上の収穫なしと見切ったクリスが聞く対象を変える。

「そうだな。水着と後はベッドシーンと」

「後者は却下で行くわよ」

「了解」

「待てい! なんで勝手に決めとんねん! あんさんらに何の権限があるんや!」

「良心よ」

 それは心強い。

「な、なぁ……そろそろ下してもらえないかな……流石に頭に血が上って辛い」

 先ほどまで元気よく発言していたタナカから弱弱しい提案が持ち出される。周りに槍があり危険だから動いていなかったのかと思えばそういう理由でしたか。

「そんなこと言って! またメリアスさんを襲おうとするんですね! そんなこと私がさせませんよ!」

 私に危害を加わせないようにと私を抱き込むカトリナ……ってこれじゃ私がカトリナに襲われてるみたいに! わざとですか⁉

「ま、まっでぐだざい。まだ気にな」

「まだ何かをする気なんですか! もうこんな人縛り上げて海に沈めましょう!」

「僕は何もしてないよ⁉ 寧ろこれは君に対する警告だよね⁉」

「ぞうでず。ですがら!」

「話が進まないからほら、離れる離れる」

 クリスがカトリナを私から引きはがしてくれたおかげでようやく新鮮な空気を堪能することができた。うーん、山もいいけど、海も素晴らしい。

 じゃなくて。

「タナカさん、もう一つ」

「何をおっしゃられるアイドル様。今あなたの目の前にいるの海よりも深く、空よりも高い信仰心を持つ一番のファン、Mr.プロデューサーではありませんか」

 うわ、めんど。と言うかよく考えたら今まで受け答えはディーナかクリスが請け負っていたから私自信がタナカとまともに話をするのは意外にもこれが始めてなのかも。

「えっと……ミスタープロ――長すぎるのでミスターでいいですか?」

 明らかに長すぎる自称本名をできるだけ端折って貰えるか問いかける。

「ミスター! まさかアイドル様から独自の呼び名で呼ばれるとは、このMr.プロデューサー、いや、改めミスター感涙の極みです!」

 今までにない開眼をお披露目後、本来の筋道とは別の涙を流しながら謳うタナ、ミスター。思いもよらぬ反応が帰ってきた。

「こんなのに流されなくてもいいわよ。で、そのミスった―にメリアスは何の用?」

「ちょっと待て。その失礼な間は何だ」

 あ、その呼び名いいかも。でも、ちょっと長くなるから面倒かな。

「あ、はい。で、タナ――ミスター。もう一人はどこですか?」

「は?」

「ん?」

 私の一言に唖然とするタナカ――ミスターとクリス。

「もう一人って何のことだ?」

「え? だって二人いたじゃないですか?」

「いやいや、僕は一人で来たんだ。仲間を連れたって脱走を謀ったが、僕以外は逃げる最中に軍曹に捕まって、あえなく僕一人さ。まぁ僕のアイドル愛には皆追いつけなかったのだろう。なんせ僕は」

「え、えっと。カトリナさんとアーチェさんだって怪しい影を見たって言ってましたよ? ね?」

 タナカの脱走劇が繰り広げられる前に話を〆ようと二人の主張を求める。

「……」

 だが、アーチェは沈黙を貫いている。

 あれ? 何故黙ってるのだろう?

「あの。メリアスさん。もう一人って誰ですか?」

 そこにもう一人の証言者が応えてくれた。が、求めていた答えとは相対する物が返ってきた。

「え、え? だって二人とも影を見たんですよね。二人組の」

「いや、一人だ」

 ここで先ほどまで沈黙していたアーチェがようやく応えてくれた。――もしかしてさっきのは黙っていたのではなく、困惑していた?

「……もうこうなった以上白状するから、それぞれ見た場所を教えてくれないか?」

 ここで答え合わせとばかりにタナカからの提案。

「僕たちがビーチにいた時どこからか感じた視線は?」

「それは僕だ。近くのヤシの木から見ようとしたんだが、その途中で双眼鏡を紛失して、もしかしてその時に例の危ない水着が⁉」

「はぁい。次は私が話しますから静かにしましょうね」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! これ以上槍を近づけないでくれ!」

 カトリナがタナカに槍を向けながら咎める。聖職者が若干闇に堕ちようとしている。

「じゃあ、聞きますけど。甲板で私に驚いて姿を消したのはあなたですか?」

「あ、あぁ……それも僕だ。急いできた故に持ち合わせの中に食料が無くて、やむを得ず倉庫からパンを盗んで食していた時だ」

「と言う建前で?」

「は?」

「そういう建前で実はメリアスさんの着替えシーンを盗撮しに行っていたのでしょう! 神の代行人として私の前で懺悔してください! そして投写水晶(フィルム)を一個私に布施なさい!」

「いやいやいやいや! 僕は本当にお腹が空いていてパンを盗んだだけだ! そんな事情があったと知っていたなら、僕だって悠長に食事なんてしていなかったさ!」

「やっぱりやる気だったじゃないですか!」

「知っていたらだ!」

「はいはい。もうその話は止める。そのまんまじゃいつまで経っても核心につけないわよ」

 クリスが力づくでカトリナから槍を奪い取る。タナカはもちろんのことカトリナ、あなたも少し自重していただけないでしょうか。

「で、メリアスが見たところは?」

 クリスが私に振り返り、ブン。

「ってぁ⁉ 槍を向けないでください!」

「あ、ごめん。つい、これで指さししちゃった」

 さしは差しでも、刺しだけはやめていただけないでしょうか。

「ふぅ……。で、私が見た場所ですけど」

 廊下に面した備え付けの窓を一つ開放する。海とは逆ビーチ方面の窓の為に海風こそは強く吹き付けない物の、海特有の潮の香りは健在している。

「うーん。ここからじゃタナ、ミスターは見えないかもしれませんが、向こうの方に出っ張った崖みたいなところがあるんですよ」

「崖。あぁ! あの夕陽でもあると絶対にいい雰囲気を醸し出しそうなあの場所か! あそこならアイドル様の魅力を引き出したいいショットが撮れるはず!」

「おぉぉ! 流石美少女部の部長や! うちも盲点やったで!」

「よし、今からそこへ撮りに!」

「夕方まで待ちませんからね。と言うよりも本題です」

「てかそこまで熟知してるなら実はもう一人伏兵がいるんじゃないの?」

「いやいや! それについては断じてない! 誰か連れようにもかなりの人数が捕まったんだから仕方ないだろ⁉」

「と言うとやはり」

「それは僕じゃない‼」

 ……。

 えっと。

「じゃあ、誰?」

「僕に聞かれてもそれは困るよ! ついでに言うと基本的にアイドル様を追うように行動していた僕だけど、そもそも人影自体見てはいない」

 ……。

 私以外にも目撃者がいないかぐるっと。

「見てないわよ、怪しい人なんて。――森の中でやばいのがいたけど」

「だからあれはな、って言うの馬鹿馬鹿しくなってきたわ。あーうちも見とらんで」

「砂に埋められていた際に私が指摘した時もですか?」

「そもそもあんときはあんさんの勘違いで終わったやろ? うちはな~んのことやか、さっぱりやったしな」

「その時私も近くで運命の女神への追及をしていましたが、変な影は見ていません」

「僕が見たのはビーチでのタナカのみだ」

 誰からも証言を得られなかった。

「ちなみに二人以上でそこに行かれた方は」

 その問いに全員の首が横に振られた。

「とりあえず船長たちからも話を聞いてみよう。昨日の肝試しの際に道を外した可能性もある」

 アーチェが提案をし。

「私たち以外にも誰かいるのかもしれないわね。まだ行ってない箇所があるはずだからあたしはそっちに出向いてみるわ。昼前には戻るから」

 クリスが懐中時計を見て。

「あの丘ですね。もうしばらく私はあそこを監視していようと思います」

 カトリナが監視を請け負い。

「んなら早速撮影場所のセッティングと衣装の用意や! ん、いや待てよ。どうせ南の島なら水着姿! それも今度こそあの危ない水着を使って!」

「それは本当か⁉ ならば僕が撮影に協力しよう! 僕の腕ならばアイドル様のあんな姿やこんな姿も」

「「「いい加減にしろ‼」」」

 ここまで来ても未だに撮影に執着する二人に、私たち三人の怒りが爆発した。

「今回の給与は出てくれるのだろうか……」

 操縦室に向かうアーチェの一言が若干痛かった。この人は悪くないのに。


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