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第2章-7 アイドル島に行く

 肝試しドッキリ作戦。

 普段は皆の為に愛らしさと笑顔を送り届けるアイドルが、ステージから離れ暗い森の中に入っていくという企画らしい。

 そこには数多くのお化けが住まい、アイドルに容赦なく襲いかかってくる。と言っても別段危害を加えたり、先ほど否定したお色気のある展開になるわけではない。ただ単純に驚いたり、怖がったりと、普段ステージでは見られない自然な姿を見せることによってファンに新たな魅力を伝えるという企画らしい。

 まぁ単純に言えばお化けを見て「きゃ~こわぁ~い」と言う女の子の愛らしい姿をお届けするという訳のわからないものである。

 が、その点に関してはもういいとしよう。

 それ以上に気になる点。

 そもそもの根底が覆される疑問を口に出さずにはいられなかった。

「死霊の気配がまるっきししないのですが……」

 そう、それらしきものが何もいない。どれだけ魔力を研ぎ澄まし、霊視を試みても何も感じないし視えない。そんな中で何が襲い掛かるのか。私にはさっぱりわからなかった。

「がぁぁぁ! せやったぁぁぁ!」

 私の横でディーナが唐突に頭を抱えた。

「今までアイドルに仕立て上げることばかり考えて本性のことすっかり忘れとった! 世間知らずで運動音痴、リズム感無くてもネクロマンサーはネクロマンサーやった!」

 よくわからないがいきなり好き放題言われた。ムカッとした。

「やっちゃったわね。ずる賢さナンバーワンのディーナもこればかりは修正できないよね」

「ぐっ」

 押し黙ってしまうディーナ。どうやら何らかの手違いがあったようでクリスは悠然としていた。

「いや、まだや。こんなじゃ退けんのや。元は取る必要性ない、けど半分は取り戻したる。予定は未定、されど未定も予定や、他に、他にその要素を作れる存在がおれば」

 もはや何を言っているのかすらわからなくなったディーナが今度はじっくり嘗め回すように皆を見ていく。

「アーチェはんは手伝ってもらわなあかん。カトリナはんは別の意味で大変なことになる。やとしたら――」

 ディーナの視線はクリスで止まる。それも自らが幽鬼になったかのような微笑をたたえながら。明らかに悪いことを考えているであろうその表情にクリスも「何よ」と後退る。

「そうやな、それやな」

 何か納得すると同時にディーナが人差し指をクリスに向ける。

「クリスはんも一緒に行ってもらうで!」

「はぁ⁉」

 いきなりの宣言にクリスが慄いた。

「何でよ! 何で私がメリアスの為に仕込んだ肝試しに参加するのよ⁉」

 仕込んだ? あ、もしかして先ほどの船乗りの人たちが私の為に道でも整備をしてくれていたのだろうか。もしかしたらその間に本来いるはずの死霊たちがあの船乗りに乗り移る、或いは憑いて言っちゃって――はないか。魔力の反応もなかったし。だとしたら何故何も反応が無いのだろうか。

「まぁあれやな。怖がる騎士と気丈なアイドル。……絵になると思わんか?」

「思わないわよ! というかディーナ自身その設定に疑問持ってるでしょ⁉」

 問われたディーナは口笛を吹く。痛い所を突かれたようだ。

「でも、何もいないのならただ暗いだけの森ですよね? テリトリーみたいに魔物が出る訳でもないですし」

「余計なこと言わないでよ、メリアス!」

 え? 自分何かまずいことでも。

「せやで。ここはただの暗い森やないか。テリトリーに、それも夜中に勇猛果敢に入っていく騎士様がまさかこんな普通の森に入っていけない訳はあらへんよな?」

「普通じゃないわよ! 普通に肝試しって言ったじゃない! 仕掛けてきたってさっき船乗りの人言ってたじゃない!」

「でも、何も感じませんよ?」

「メリアスは黙ってて!」

 あれ。また余計なこと言っちゃった?

「はぁ~ん。もしや、クリスはん肝試しすら苦手なんか?」

「ぐっ。人には得手不得手が」

「あんなん子供だましやないか。ほんまもんが領土外で闊歩しとる中で偽物見せたって驚くんは子供位やで?」

「その頃にトラウマを埋め込まれたのよ!」

 白熱していくディーナとクリスの論争。その姿にカトリナは呆れ、アーチェに至っては無視して投写水晶機のチェックをしていた。

「あぁ。こんな何にもない所で足が竦むなんて。アレクサンダー家も堕ちたもんやな」

「……何ですって」

 ぉぉ。遂にディーナが本格的な挑発に入った。クリスの怒気はかなり本気だ。

「そんなんでアレクサンダー家の再建ができると思っとるんかいな! あの名家がたった二代でガタ落ちなんぞ、祖先が聞いたら悲しむで」

「あたしと親父を一緒にしないでよ!」

 夕暮れを過ぎ、完全に日が落ちた夜の森にクリスの叫びが響く。ヘイワ騎士の名家であるアレクサンダー家。その堕ちた理由が三年前、私がまだここに来る前に起きたネクロマンサーの討伐令での失態。

 私みたいに秘境でネクロマンサー同士寄り合って暮らすのではなく、ネクロマンサーと言う素性を隠して一般市民として暮らしていた一人のネクロマンサーに対して発せられた討伐令。そこでクリスの父親が戦闘指揮を執って討伐に乗り出すも、一人のネクロマンサー相手にまさかの大怪我を負い、二度と戦線に立てぬ体になってしまった。

 ……と言うのが世間に知らされたデマ。先日イシュタル王女に知らされた事実はそれ以上の物に悲惨であった。

 なんせクリスの父はネクロマンサー、女性のネクロマンサーに恋をし、見逃した上に恋仲になったという。クリスと言う存在がいる以上それはどう考えたって不倫であり、王の配慮により除名で済んだものの、それを知る者たちの怒りは大きい。クリスがいい例である。

「わかったわ。そこまで言うならばやってやるとも! あたしが今のアレクサンダー家を引くに相応しい人物だってことを証明してあげるわ! 行くわよメリアス!」

「え? あ、ちょっと待ってください! ぐぇ! く、首が」

 ご立腹なのが丸わかりな口調で私の襟元を掴み、闇夜取り巻く森の中へと侵入していく。

 何とか空気の通り道を作ろうともがく最中で見たディーナの顔は、勝ち誇ったようなものだった。


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