第2章-6 アイドル島に行く
それからタライ三個分。綺麗な夕日によって彩られた砂浜には、その夕日にすら負けないオレンジの炎が立ち上がっていた。
その上には四点の石煉瓦で支えられた網。更にその網の上には様々な食材が並んでいる。
肉は牛、豚、鳥、野菜はタマネギ、にんじん、ピーマン、じゃがいも、ナス、魚介類に関しては判別不能。串に肉、野菜、貝を交互に刺してあるものもある。
これがいわゆるBBQと言う物らしい。
「違う……何か違うで。うちが想像してたものと何か違うで」
が、実際はそうでもないらしく、砂浜から解放され、水着から普段着に着替えてきたディーナがしかめっ面をしている。
「網の上で焼いてるんだから一緒よ一緒」
一方のクリスは、アーチェ共々未だに水着を着用している。ただ、上は寒いのかパーカーを羽織っている。
「せやないわ! 何やこの魚たちは! うちが折角用意したサータベロイン牛や三次元豚が隅に追いやられとるやないか!」
「しょうがないじゃない。まだいっぱいあるんだから」
「取りすぎなんや!」
「まぁまぁ。御相伴に預かった分わし等も頑張って食べますんで」
あれからと言う物、どこか楽しくなってしまったクリスとアーチェは魚をどんどん捕獲し、一般家族なら一カ月は普通に暮らせるんじゃないかと疑いたくもなる量を収穫した。その結果、ディーナが用意した特選食材が未だに網の外、と言うよりもディーナの荷物の中で待機となり、船乗りの人たちも急遽参加しての宴となったわけだ。
「それにしましても、これだけの量を私たちで食べきることができますのでしょうか? もし食べることなく腐らせてしまいますとお魚たちに申し訳ありませんよ」
特に海に入ったわけではないけど、潮混じりの風を受け続けたからと船の浴室で髪を丁寧に洗った後、先ほどのワンピースに着替えなおしたカトリナがタライの中に入った魚たちを見て呟く。それに私も同意する。
「本当ですね。クリスさんの周りに浮遊している魚たちの怨念が恨めし気に見てますよ」
「嘘! 嘘よね⁉ というか銛でついたのはアーチェよ⁉」
「動き回るイカやタコの足を掴んで岩に叩きつけて気絶させたのはクリスだぞ?」
まぁ実際は冗談であって小動物の霊魂はよっぽどの恨みが無い限り怨念になる前に浄化されるか見えなくなる。クリスの反応が良かったので黙ってるけど。
「はぁ。何で孤島に来てまで魚の塩焼を見なあかへんねん」
「孤島だからだと思いますよ。ただ、BBQを知らない私にもこのやり方は間違っていると思いますけど」
視線の先、網とは無関係の火元にBBQの串焼きとは違い、魚を尻尾付近から口を貫通するように串で刺して砂浜にさして炙っている姿がある。これって普通囲炉裏でするものだよね?
「いいのいいの。島で孤立した際はこのくらいやるのが普通よ」
「うちの企画をサバイバルに成り下げるなや!」
笑いながら焼き魚を腹からがぶりと噛みつくクリスは何と言うか勇ましかった。
「ディーナ様」
談笑が木霊する砂浜に声。声のする方を向くと船乗り三人が森の方から出てきた。
「例の仕掛けが終わりました」
「うむご苦労」
「おぅご苦労だったな。皆様から差し入れだ。いっぱい食うんだぞ」
「「「へい!」」」
ディーナの簡単な謝礼に、船長の労いが重なる。ここに残っている船乗りたちとは別に何らかの作業をしていた船乗りたちは威勢のいい声をあげ、お腹が空いていたのか早速網の上ある魚介類――時々野菜、たまに肉――に手をかける。差し入れと言うよりかは処分に困ったので協力して貰っているという方がしっくりきそうだけど。
「仕掛けって。また何か悪さする気なの?」
「悪さってなんや悪さって、単なる仕事や」
「仕事って最終的に私がすることですよね。また何かよからぬことでも」
裏で動くディーナの思惑に私とクリスが追及する。
「あんな。今回は単に慰安旅行ちゅうわけやないんやで。れっきとした仕事や仕事。さっきクリスはんが撮ってくれた投写水晶機確認したんやけどな、いいようには撮れとったが物足りん」
「だからってまた破廉恥なことをするのは不謹慎ですよ!」
そのことについてはカトリナもご立腹だったようで、こちらの仲間が増える。
「大丈夫や。今度はそういった点は無しや。元々今回はお色気視点とかわいさ視点の二つに重点を置いとるんや。今度はそのかわいさ狙いで行くで名づけて」
不敵な笑みを浮かべたディーナは私たちを一瞥してから口を開く。
「肝試しドッキリ作戦や!」




