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第2章-5 アイドル島に行く

「でぃーなさん。あたらしいおみずよ」


 〝拝啓 父上、母上へ

 人生そんなに甘くはありませんでした〟


「棒読みで言うくらいなら何も言わんとそのまま水くれへんかな」

 このやり取りも既に片手では数えきれない回数となった。海水はもう嫌やとケチつけられたために船の中に備蓄してある水をわざわざ汲んでくる作業は骨が折れる。

「てか、もううち出してもらってもええんちゃうか? 投写水晶機(カメラ)もどこ行ったかわからへんし、ここでメリアスはんにセクハラしたって何の価値にもならへんし」

「堂々とセクハラ宣言やめてください。そもそもあなたがやっていることは強制労働(パワハラ)です」

 まぁ確かに出てももう支障は恐らくなさそうな気がする。必ずとは言い切れないのがディーナらしいけど。ただ出せない理由は多々ある。

「私一人じゃ掘り起こすのにすごい時間がかかりそうなので」

 と言うか少し作業した時点で暑くて日陰に戻ってしまいそう。

「あんさんな……そんな時の身内やろ。何か喚んでくればええやん」

 私の素性を利用した解決策をディーナが唱える。

「恐らく首だけが自由になりますよ?」

「すまん。忘れとくれ」

 そもそも穴掘り専門死霊など見たことも聞いたことも無い。そんなモグラみたいな死霊がいるのであれば一度は見てみたいものである。

「んなら他の奴に頼むしあらへんな。他はどうしとるんや?」

「他、ですか」

 他と言うのはもちろんここにいない三人。だが、それぞれに事情と言う物がある。

「カトリナさんは、よくわからないけど嘆いています」

「わからへんな……」

 ゲームが終わり、山が完全に崩れ落ちた上にクリスが跡形もなく更地にして以降、日除け傘(パラソル)の下でよくわからない言葉を発している。何となく危ないので今は近寄れない。

「クリスさんとアーチェさんは海に潜ってます」

「すごいやないかい。うちも泳ぐには泳げるけど、長いこと潜水はできへんで」

 泳ぐことすらできない私にとっては潜るなど夢のまた夢。

 ただ、それを上限とするにはまだ早すぎた。

「メリアスー!」

 水が弾ける音と共に私を呼ぶ声がする。

「タライいっぱいになったから新しいの持ってきて」

「もうですか⁉」

「はぁっ?」

 予想外の事態に驚きながらも、言われた通り船に戻り何故か配備してあったタライを一個持ち出す。

 砂浜に戻った頃にはクリスは事前に持ち出していたタライを持って陸に上がっていた。

「はいこれ。後はよろしくね」

 どさっ。と砂浜に置かれたタライの中には魚に貝、更にはイカやカニまでもがすし詰めになっていた。

「勇ましいやないかい……」

 それを見たディーナもまた感嘆する。

 これ何人前? そもそも何日分? と言わんばかりの魚介類を取ってきたにも関わらず、クリスは私からタライを受け取るとまた海へと戻っていった。

「はっ。今頼めばよかったんや!」

 今更ながら気づいたことにディーナが嘆く。

「クリスさんが許してくれるかはわかりませんけどね」

 埋めたのもあの人ですし。

「にしてもすごい量ですよね……どうやって取ったんでしょ」

「魚に穴が開いとるから銛でついて取ったんやろな。蟹や貝は恐らく素手やな。あの二人これで食ってけるんちゃうかいな……」

 傷物でも5000マニーは下らんで。と溜息をこぼしながら見つめるディーナに誘われるように、私も再度タライの中を見る。

 見たことがあるものから、ないもの。異様な色をして食べられるのか不安になる物すらいる。普段食卓で見る魚は我が家の料理番の諸事情により、刺身かカルパッチョか網焼き中避難していたが故に炭と化した魚くらいしか出ないのでこうして多くの魚を見せられると、私がどれだけ無知なのか痛感せざるをえない。料理始めて見ようかな。

 このとげとげした黒い奴なんてどうやって食べるんだろ。

 ちょっと突いてみるとやっぱり痛い。進化の過程でこのような形になったのだろうか?

 ん?

 視線を感じる。

 カトリナだろうかと思ってみるも、何故か終了したはずの砂取の小枝に頬ずりをしているだけで、こちらに気づく様子は無い。

 クリスかアーチェだろうか。二人が潜っている海の方を眺めるも、水面にそれらしき姿は無い。

 が。

「あれ?」

 浜辺の奥、鳥の嘴のように尖った崖。

 海を見渡すには絶景であろう先に、二つの影があった。人だろうか? 別段視力は悪くない私であるが、流石に距離があり判別できない。

 けど、この距離から見えるシルエットからしてそれなりの長身はある。小動物ではないだろうし、ましてや鳥でもなさそう。

「どうしたんや?」

 ディーナが声をかけてきたのでそっちの方に目が行く。

「実はあそこに」

 再度先ほど確認した崖の方を見る。

「あれ?」

 が、何もない。先ほどは確かに何かいたはずの崖には何もなかった。

「あっちに何かあったんか?」

「あ、いえ……」

 目を擦りも一度確認。が、やはりいない。幻だったのだろうか。

「すみません。勘違いのようです」

 それもそうか。今ここにいる人と言えば私たちと船乗りのみ。船乗りの人たちは今頃整備に追われているか、休息を取っているはず。あんなところにいる訳が無いか。

「さてと。とりあえずこの魚たちが悪くならないように日陰に」

 ふっ。

 ふっ。

 ふぉぉぉぉっ!

「あんさん少しは鍛えたらどうや?」

「こ、これは重すぎるだけです!」

 どこかデジャブを感じるやり取りの中、このタライをどうやって移動させるか考えているうちに、先ほどの影のことなど頭からきれいさっぱり消えて去っていた。


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