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第2章-2 アイドル島に行く

「ん?」

 そこはベッドの上だった。普段とは違い若干低い天井と木目。緩やかに戻る記憶がここは船の中だと知らせてくれた。

「うっ」

 若干頭がぐらっときた。けど、すぐに治まる。

 恐らくあれが例の船酔いだろう。以前聖職者に治癒してもらった時並みの気持ち悪さが一瞬で襲ってきた。船恐るべし。

 もし船酔いになった場合はブラムハム曰く船内でゆっくり休んだほうがいいといわれていたが、どうやらその知識を得ている人――恐らく船乗り――が私を部屋で寝かしたほうがいいと提案し、連れてきてくれたのだろう。

 少しばかし頭を動かしてみる。今度はあまり気持ち悪くはならない。

「うん。大丈夫みたい」

 本当に大丈夫なのかは不安だけど。

 ふと外の景色が目に入る。

「一面青い……」

 そこには海と空しか映ってなかった。時折見える空飛ぶ鳥が新鮮に思える。

 どのくらい時間が経ったのだろうか。そういえば時計は談話室にしかなかったんだっけ。とりあえずはそこに、

「メリアスさーん!」

 行けない。

「あ、起きたんですか! 大丈夫ですか⁉ 大丈夫じゃないですよね⁉ まだ寝てないと駄目ですよ! なんなら私が添い寝を!」

「わ、わ、わ。だ、大丈夫ですから。私はもう大丈夫ですから!」

 突如登場、カトリナが介護しようとしてくるが私はそれを制す。治ってる。治ってるから大丈夫です。というよりも治癒はやめてください、よけい酷くなっちゃいます。とりあえず話題、話題を。

「えっと。私はどのくらい寝て」

「一時間くらいですよ。治ってないのであれば島に着くまで私が看病してあげますから休んでください」

「いえ、寝るのはもう大丈夫です!」

 一時間も寝てたのか。だいぶ酷い船酔いをしたようだ。

「駄目です! そんなことじゃ私が添い――島についてからも体調悪いままですよ?」

 この人はどこまで添い寝したいのだろうか。もういっそ諦めてしまいたいが、気分を悪くするどころか生命の危機にまでは陥りたくない。

「皆さんは?」

「恐らく船上だと思いますよ、ディーナさんは船長のところにいると思います」

「なら上に行きましょう!」

「えっ! ちょっとメリアスさん!」

 一瞬の隙をつき、カトリナの脇を抜けて部屋の外に飛び出す。逃げるように通路、談話室を抜けて階段に出る。カトリナの走力は未知数。特に私関連になると。捕まる前に助けの元へ急がないと!

 普段以上に階段を急ぎ駆け上がり、そして扉を。

 開け放つ!

 ガッ。ビタン!

 こけた。

「メリアス⁉」

「どうした?」

 二人の呼びかけが耳に届く。自作の血の匂いが鼻に届く。

 何故、何故一番最後の段で! この階段の段差が憎い!

「メェリァスゥさぁぁーん!」

「ぁぁ……」

「なるほどね」

 下から冥府の呼び声の如く響く声。その声に二人とも事態を把握してくれたみたいだ。鮮明な二人で助かった。

「メリ、メリアスさん⁉ 大丈夫ですか⁉」

「カトリナが追いかけるからよ。少しは落ち着いて話を聞いてあげたら?」

「メリアス下を向いて鼻を押さえてろ。固まるまで手を放すな」

 クリスがカトリナを宥め、アーチェが私の鼻血を診る。あれ? 鼻血って上を向くんじゃなかったの?

「メリアス、もう船酔いは大丈夫なの?」

「あ、ふぁい」

 鼻を抓んでいるため変な声が出てしまった。

「とりあえず大丈夫みたいだからいいじゃないの」

「ですが、まだ優れない場所があるかもしれませんよ」

「階段勢いよく駆け上がって盛大に転ぶ時点で本調子以上よ」

「ひつりぇいな」

 ぶりぇいだじょ。

「でぇ。いまはどきょ?」

「メリアス。もうそろそろ大丈夫だと思うぞ」

「え? あ、本当だ。で、今はどこですか?」

「どこって、言われても、海だとしか」

 言われた通り周りは海だった。本当に海しかない。陸地は見えない。

「ん。まだ鼻血がしっかり治まってないようだな。メリアスハンカチはあるか?」

「え? あ、ちょっと待ってください」

 言われて余所行きの服が無く、前日に揃えた質素な安い服に取り付けられているポケットからハンカチを取り出そうとする。

 がさっ。

 その時何か別のものに触れた。

「あ」

 それが何か気づき取り出す。

「何? 手紙? 誰かのファンレターでも持って来たの?」

「違いますよ。これミクシェのです」

 恐らく誰もこの存在に気づいていなかったようで、そのままベッドで寝たせいで手紙はかなり折れ曲がってしまっている。

「今朝私の家の郵便受けに届いていたんですよ。何の手紙かを見る前にディーナさんが到着しちゃったので、ポケットに突っ込んで、今に到っちゃいました」

「着替える前に気づいてよかったわね。別の服や水着に着替えちゃったら気づくことさえできないままだったわね」

 そのようです。本当にごめんなさい我が親友。

「で、内容に心当たりは?」

「うーん。特に無いんだけど、今読んでみようかな」

「まずは鼻血な」

 あぶない。手紙が赤くなるとこだった。

「これでよしっと。えっと『この前言っていたサイナン島のことについてですけど』あ、そういえばこの前今日行く島に覚えがあるとか言ってました。何で覚えていたのか忘れていたみたいですけど、この内容からして思い出したみたいですね」

「へぇ、なにかな? お宝でもあるとか?」

「ディーナが喜びそうなネタだな。というかディーナならそれを承知でここを選びそうだ」

「どうせなら縁結びの伝説があればいいんですけど」

 それぞれが好き勝手な予想をする中で先に答えを知る。

「えっと。『昔そこで嵐に遭って沈んだ船があった』そうですね」

「そう来たか」

 まさかの不安要素を作ってしまった。

「でも、昔は昔よ。メリアスが言ってたような木造船の話なら嵐で沈没してしまうのも仕方がないけど、蒸気船なら転覆しない限りは沈まないわよ」

 この船なら安心、と落ち着くクリス。

「うん。そうなんだけど」

 その落ち着いてる顔を見ると、次が読みづらい。

「その後に『霧の立ち込めた日にその船が目撃される情報が多数寄せられていて、今も尚その海域に彷徨っている幽霊船なんじゃないかという噂がある』だそうです」

 クリスの表情が完全に固まった。言わなくてもいい情報だったかもしれないが、私には全てを伝える義務があった。

 その後の行動は早かった。

「ごめん! あたし忘れ物してきた!」

 クリスが海に飛び込もうとした!

 私服のまま船の縁に手を伸ばし、飛び込む体勢に入っているクリスの肩を押え込む。

「待ってください! どうやって戻る気ですか!」

「泳いで取りに行くに決まってるわよ!」

「もう沖が見えないぞ。恐らく2,30kmは行っている」

 視力のいいアーチェでも見えない距離なら相当でしょうね。

「そんな距離騎士の出なら屁でもないわ!」

「だからって泳がないでください! 大丈夫です! いざ出てもネクロマンサーと聖職者が揃っていますから大丈夫です!」

「遭う前提な時点で問題なのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」

 何事かと飛び出してくるディーナと船乗りの方々を尻目にクリスの絶叫は海に四散されていった。


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