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第3章-9 アイドルの戸惑い

 響き渡る澄んだ声は、透き通りながらもどこか悪寒を感じさせるものだった。

 そして起きた異変は一瞬であり、それを表現するには余りにも幼稚な言葉しか思い到らなかった。

 館が消滅した。

 文字通りそこには何も無かったかのように、全てが消えた。迫りくる壁も、動く窓も、閉ざされた地下への扉も。

 ただ、無いと表現は出来ても見る人によってはっきりと見えるものはあった。館が元あった場所から光の欠片が次々と空へと舞い上がっていく。私はこれを知っている。成仏だ。

「ぐふっ⁉」

 起こった異変は先生にも影響を及ぼした。二階付近に立っていた先生の足場は館もろとも消え去った為、重力に抗うことが出来ずに落下する。唐突な出来事故に受け身すら取れずに呻き声をあげる。

「い、一体何が……」

 誰もがまず頭に思い浮かべたことをミクシェが口に出した。それをきっかけにあらゆる情報が入ってくる。

「ここは……確かにあの場所ですわね。私の王宮兵がいますわ」

 場所は、確かにあの館があった場所だ。

「なんや、この紙は? 札?」

 私たちの周りには無数のお札らしきものが。

「あなたは……」

 王宮警備兵を取り巻きに一人佇む黒髪の少女。

「トウ……レイハ⁉」

 先生が信じられない表情で少女を見た。私は名前を出すのに時間がかかったが、先生は即答した。流石は先生。けど、答えた先生自体困惑している。ネクロマンサー故に知りえる知識か、或いは直感か。

「呪符?」

「陰陽師だったのかっ⁉」

 古来、東方には悪霊、東方で言われる妖怪を退治していた種族がいると聞く。その者たちは民からは慕われ、東方に於けるネクロマンサー、呪術師や死霊術師と言った人たちからは恨まれていたと言われる。

 そして、この場においても同じ。今このテリブルハウスを成仏させたのは紛れもなくレイハさん。ネクロマンサーである先生に敵対する立場に彼女はいる。

「この地には古来よりあやかしの類を連れるネクロマンサーと言う種がいると聞いた。けど、私がここに来た頃にはその者たちも鳴りを潜めてかなり経っていた。残党者も私が手を施す前に王宮が片づける始末。故に私も鳴りを潜め、単なる超逗留の渡来人を勤めていた。けど」

 鋭い視線が私を射抜く。

「数日前、私の前にまたあやかしが現れた。王宮が管理する学園の中と言うその挙動に些か疑問を持たざるを得ない状況ではあったが」

 恐らく彼女も見ていたであろう闘技大会のことだ。まぁ……あれは確かに我ながらやってしまったと思ってはいます。はい。

「王宮の者もいる。三年前同様に討伐が行われるのだろう。そう思っていた」

 未だに息を吹き返さないクリスさんと王女を交互に見た後、彼女は口を開く。

「今回はそうじゃなかった。後ろで誰か手を引いているのか、或いは何らかの取引が行われたのか。一向に討伐される気配が無かった」

 それについては自分も警戒はしていた。最終的に討伐に名乗りをあげたのはイシュタル王女だけだったけど。

 後ろで手を引く――か。

「~♪」

 まさかね。隣で唐突に口笛を吹く大富豪が関与している訳ないよね。王女が若干睨んでいるような気もするけど、まさかね。

「私が手を下さなければならないのかとも思っていた。けど、その後対象が動く予定もなくそれどころか自ら変わった遊戯すら始めだした」

「私自身がやり始めた訳ではありませんよ⁉」

 何か最近全員勘違いしている気がする!

「闘技大会の件もあって私は警戒するだけにした。けど、それもほんの僅か。歪んだあやかしの存在に気づいた」

「歪んだあやかし?」

 私が疑問を持つと、レイハさんの視線が私に向いていることがわかった。

「それは微かな異変を巻き起こした。学生の金入れが至る所で紛失した」

 彼女が言わんとすることで私は気づく。この視線は私に向けられているのではない。今は存在どころか気配すら消させているはずのむっちゃんに向けられているんだ。

「始めは大事が起こると感じ、あなたを警戒した。けど、あなたが事を起こす前に事件は起きた。それに疑問を持って、あなたに自覚があるのか問いただした。……他者から解答が得られたけど」

「ぁぃ……」

 悲しい過去が一瞬の静けさを生んだ。その男は今頃地下――ってこの場合どうなってるんだろ。

「だから私は歪んだあやかしの方を追いました。それもまた別の答えを生みましたが」

「私がその子を庇護したことですか?」

「そうです」

 単と答える。

「答えが失われた。と思った瞬間、また新たな答えが生まれました。それが……」

 瞬間。レイハさんが体力測定で見せたような跳躍で後ろへと飛びのき、続いてその場所に丸太のようなものが飛来した。それはどす黒い丸太ではなく、全身が真っ黒な巨人の腕。その体躯はカムシンに匹敵する。

 皮膚が失われ、内に見える肉は腐り、辺りには咽るような腐臭が漂う。グールと呼ばれる低級死霊だ。

「彼の拉致」

「ちぃっ!」

 位置を変えた彼女がグールを警戒しながら向けた視線の先には、いつの間にか先生が立っていた。テリブルハウスを維持していたからか、力任せのみの死霊しか呼べなかったようだ。

「取り押さえない!」

 王女の号令とともに王宮兵たちが鼻を押さえながら先生を取り押さえに入る。それを察知した臭いの元が、今度は兵たちに向かおうとする。

「させはしない」

 王宮兵が退いた地点から別の声。同時に銃音が二つ。

 外で警戒をしていたアーチェさんがグールの脚の付け根を寸分の狂いもなく射抜いた。死に至り腐った肉体に痛みは無い。肉の欠損が修復し次第また動けるようになる。

 けど、今はそれだけでも致命的となる。

「舞え」

 街灯に蟲が寄るように、グールへと近づいた呪符が次々とグールに張り付く。1枚張り付くごとに高熱の鉄棒を当てられたかのようにグールが呻く。

「急急如律令」

 唱えられた呪術。その効果は絶大で、一瞬のうちにしてグールは成仏した。更に言えば臭いすら失せた。

「こんな、ことがっ!」

 まだ諦めようとしない先生であるが、魔力は既に底に近い。となれば今はただの人同然。多くの王宮兵に取り押さえられ、再び姿を見せた時には二人の大柄な王宮兵に両肩をがっちり組まれ、宙吊りにされたまま成すすべもなく私の乗ってきた囚人護送用馬車へと運ばれていった。

 と同時に私はへばった。

 元幽霊ハウスがあった場所に膝を着くように屈し、大きく溜息をついた。

「死ぬかと思ったがな……」

 それはディーナさんも一緒らしく、彼女はなりふり構わず新緑の元へ大の字となった。

「大義を成し遂げた、のですが、達成感よりも疲労感の方が大きいですわ……」

 イシュタル王女も大層疲れたらしく地面に足裏以外を付けるはしたないことはしなかったものの、手を膝に置き肩で息をしていた。

 ミクシェはと言うと――アーチェさんにクリスさんの事情を説明している。監禁され、死地に立たされたにも関わらず平然としていることに度肝を抜かれた。けど、元気そうで何よりだ。

 後、意外とすぐ近くに鬼般若とタナカが仲良く倒れていた。無視。

 窃盗事件が起き、私が犯人と疑われ、私が犯人に仕立て上げられ、私が罪を背負った。

 去年までなら疑われた時点で捕まるか消えるかで終わっていた。そもそも疑われることさえなかったかもしれない。だからと言ってこうなってしまったことがマイナスという訳ではない。

 信頼できる人たちができた。憎み合っていた人とも上辺だけとはいえ協力関係にたてた。そして、新たな出会いもあった。

 前主が捕えられ連れて行かれる姿をむっちゃんはどのような思いで見ていたのだろうか。嘲笑したのか、または哀愁したのか。顔色が変わらない以上判断は難しいけど、それでも今はその顔を見てみたい。

 彼――彼女? どっちだろう。どちらかはわからないけど、むっちゃんの方へと向きなおる。

「っ。何を⁉」

 一目した瞬間、後先を考えずに大声をあげた。遠目で皆が視線をこちらに向けていることがわかる。

 唯一向けていないのは、目の前の物に怯えるむっちゃん。

 そして、呪符を片手に近寄る、例の陰陽師。


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