第3章-7 アイドルの戸惑い
気づくのが一足遅かった。灯りが失われないように火灯台は置いたまま、鉄扉だけが開かれていた。
「大変です! 犯人が逃げました!」
「何や⁉」
「何ですって⁉」
「捕まった揚句、何であんな奴に醜態を……」
「…………」
「ふっふひっひひー」
「過半数も反応してくれない⁉」
全員じゃなかったから良かったけど! 全員だったら私泣いてた!
「クリスさんしっかりしてください! もうお化けなんていませんから!」
「まずはあんさんの横にいる白いの失せさせるんや! そんな状態やけど自覚ないうちに気配を探知しとるで!」
何と無駄な潜在能力! 名残惜しそうな顔……だと思う、むっちゃんを透明――ついでに気配も遮断――状態にする。
「クリスさん! クリスさん! 犯人宅ですよ!」
「はっ。あたし、今まで何を?」
「ほんまもんやな……」
こればかりはどうにもなりません。
「で、その犯人は? 先生はどこに行ったの?」
取り込まれる以前の記憶がしっかりしているようで。
「上に逃げました!」
「上ね! 行くわよ!」
言うが早いか、灯りも無い階段を3段飛ばしでクリスさん――あの大きな大剣を帯剣して――が駆け上がっていく。
その後ろを火灯台片手に私、ディーナさん、イシュタル王女、復活したミクシェの一般ぴーぽーが一段ずつ踏みしめながら続く。
タナカは、とりあえず放っておくことにした。
「王女である私を侮辱するあなたが悪いのですわよ!」
「何やと⁉ そっちこそデリカシーの無い守銭奴言うたやろ!」
「もう! 今は喧嘩している場合じゃありませんよ!」
またか、と思ったが完全復活してくれたミクシェのおかげで勃発までには至らなかった。ともかく今は逃げた先生を追わないと。クリスさんが先行しているけど、この館やたらと広かったから入ったなりは気絶していたクリスさんが道を覚えているとは到底思えない。
だからこそ、早く上へ。
上へ。
上へ?
「え? あれ?」
おかしい。
「この階段、こんなに長かったでしたっけ?」
上に辿り着けない。火灯台に照らされた足元は着々と場数を踏んでいる。けど、未だに終わりを迎えない。
「な、何ですのこれは⁉」
イシュタル王女が突如呻いた。
「何や、やかましい!」
「上を見るのですわ!」
「何やこりゃ⁉」
私も上を見た。驚嘆したディーナさんと同じく驚くも言葉が出なかった。
出口が、遥か上に存在していた。
軽く見積もっても地上なら三~四階に辿り着けそうな遥か上に出口の灯りが見える。扉が空いているということは既にクリスさんが辿り着いていたのだろう。
「ど、どういうわけですの!」
「知るかんなの! とりあえず上るで!」
どう考えてもあり得ない事象に遭遇するも、片や一族の使命、片や財産の奪還。両名の意志は前へと進むことを決意した。
「き、きつい……」
一方こちら足が限界。履きなれない靴に足が悲鳴をあげております。
「靴脱いだらいいじゃないの。ほらほら」
「わ、わ」
それを見抜いたのか、ミクシェが私の靴を脱がし、奪う。
「どうする? 肩貸す? 何なら背負っていこうか?」
「背、背負うって」
若干ミクシェの方が背は高いとはいえ、背負うのはまた別問題である。体重が重いというわけではないが、軽いという自信はない。
「い、いいよ……」
「そう? でも、無理しないでよね。私を助けるために無理したみたいだし。――今度は私が助ける番だから」
……ミクシェを助ける一心でここまでやってきた。自分の人生を無にしてもやろうとした。それが報われた気がした。
再び上りだす。
「違うよ。もうチャラなのよ。私はミクシェさんに助けられたんだから。一年間」
だからこそ、今がある。そして、これからも!
永遠とも言えそうな階段が遂に底を尽きた。
そこにはクリスさん、ディーナさん、イシュタル王女が、
見たことも無い広間に居た。




