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第3章-4 アイドルの戸惑い

 自白した。ただの妄言でしかない一言。しかし事実を知らない者たちにとって、それは真実に値するも同じだった。

 ステージと化した体育館は完全に沈黙した。昨今の事情を知るものには病的に見えるだろう光景がそこにはあった。

「ふっふふふ」

 やっと発せられた音は冷笑。それもステージ脇から。

「やっと本性を現しましたわね、ネクロマンサー! 何とも疾しい!」

 イシュタル王女はもう逃げ場がないとわかったのか、ゆっくりとした歩で勝ち誇ったように私の側まで近寄ってきた。

「私の傘下でよくも好き勝手してくださいましたわね」

 襟元を掴むイシュタル王女の力には握力以外の何か威圧的な力を感じ取れた。

「ちゃう!」

 が、その力が一瞬緩む。

「ちゃう! こんなちゃうんや! メリアスはんがそんなことするわけないやろ!」

「そうだそうだ!」

「我らのアイドル様がそんなことするわけがない!」

「俺らの妹をなんだと!」

 ディーナさんの反論を境に観客から批判の声が殺到する。被害者であるディーナさんが私を庇ってくれていることに申し訳なくなる。

「黙るがよい! 本人が自白したんだ! これは紛れもない事実なんだ!」

 後から出てきたアグロスさんが王宮審問官の審議でもしているかのような口ぶりで場を鎮圧しようとするが、反って大騒ぎ。帰れコールまで巻き起こした。

「お黙りなさい! ネクロマンサーは自分がやったと告げましたわ! それをここにいる大勢の人間が聞いていたはずですわ!」

 アグロスさんとは違い一族の王女たる威厳がここにきて現れる。場が一瞬にして静まり返った。

「待ってくれや……。これだけ、これだけは聞かせてくれや」

 尚も抵抗するディーナさん。身近な人に盗まれた怒りの顔ではなく、悲しみを帯びた顔で私に問いかける。

「本当に――あんさんがやったんか?」

 率直な問い。逃げ道はまだある。ここで冗談でありパフォーマンスであったと告げる道もある。悪ノリもイシュタル王女とアグロスさん以外になら通用する。

 けど、もう決めた。

 私は軽く頷く。

 全てが崩壊した。

「嘘やろ! なんでや! そんなに嫌やったんか!? そんなにアイドル活動が嫌やったんか⁉ そんなにうちのこと嫌いやったんか‼」

 ディーナさんの悲痛な叫びが轟く。

 「アイドル様! どうして、どうしてぇぇぇー!」

 ナンデモ学園美少女部のファンたちが嘆く。

 全てが心に刺さる。こんな私を愛してくれた人たちに対して酷い仕打ちだと私自身が感じている。けど、これで私の大親友(ミクシェ)は助かる。

「アグロス。用意していた囚人用護送馬車へその大罪を犯した愚か者をぶち込んできなさい!」

「かしこまりましたお嬢様、行くぞネクロマンサー!」

 アグロスさんが私の腕を強引に、それも痛い位強く掴み、私を連れ体育館の外へ急いで出ようとする。

「ふざけるな! そんなことうちがさせへんで!」

 ディーナさんが動こうとする。が。

「いかせませんわよ、犯罪者のオーナーさん。あなたがここで動くとあなたも共犯者ですわよ?」

「んなこと知るか‼ うちはメリアスはんを」

「もしあなたが窃盗犯に手を貸していたと言う噂が知れ渡ったら、ゴールドバーク家の信頼と地位はさぞ落ちることでしょうね?」

「ぐっ……」

 普段は自分が言っていたこと。そのお返しと言わんばかりの攻撃にディーナさんの動きが止まった。

「「「させるかぁぁぁ!」」」

 が、その援護と言わんばかりに今度はファンたちが外へ出ようとする私とアグロスさんの元へと走り出す。その行動が嬉しかった。けど、その行動は巨体によって阻まれる。

「ゼノ! そいつらを取り押さえろ!」

 取り押さえる、と言うよりかはアグロスさんが通る道を巨岩の如く塞ごうと立ちはだかる。何人もの生徒が飛びかかるも、以前見えるのはゼノさんの背中のみ。

 そのうちに体育館から運動場に出る扉が開け放たれ、ディーナさんが用意してくれた新品の靴を砂に汚すような形で私は外へと連れ出された。

 皆がいた会場は、ゼノさんによって、閉じられた。

「これはアグロス様。どうなさいましたか?」

 外にいたのは簡易な防具に身を包み槍を背負った王宮兵が二名。私を犯人と疑っていたとはいえ、ここまで用意周到だとは思わなかった。

「犯人を見つけた、こいつを護送馬車まで連れていけ。俺はこいつを崇拝する邪教徒どもが蔓延る体育館へゼノの援護をしに行く」

 手を放すと同時にアグロスさんが強引に私を王宮兵の前に突き出した。

「こ、この子が……?」

「何だ、お嬢様を疑うのか? こんなちんちくりんな見た目でもれっきとしたネクロマンサーだ」

 ちんちくりんで悪かったわね。あなたも男子の中じゃかなり背が低い方でしょ。そう思うも言葉には出せない。出す気力ももはやない。自分がこの後どうなるかを冷静になるにつれ、理解しだしたからだ。

「わ、わかりました。そら、行くぞ!」

 肩に背負っていた槍を私の前、後ろにそれぞれ斜めにかけて前後に動けないようにする。

 前に進むように促され、私は少しずつ前に進む。体育館裏の運動場は闘技場などの運動部の敷地に存在するため、教室からは見えることがない。私が晒し者にならないことが唯一の救いとも言えるか。

 私立ナンデモ学園の敷地外が近くなるにつれ見えてきたのは馬車。それも中が完全に見えない上に荷物運搬などに使われる馬車とは違って頑丈な鉄格子でできている囚人専用の馬車。私は今からあれに乗って牢獄へと行く。その後はどうなるかわからない。労役、島流し、または処刑。どうなれど、私が今後自由に暮らせる保証は一つもない。

「よし、入れ」

 前と後ろを塞いでいた槍が今度は後ろで交差される。行かなければならない道はただ一つ。


 〝拝啓 父上、母上へ

 今までありがとうございました〟


 腹を括り、一つ一つ馬車に設置された簡易階段を上がっていく。そして新たな居場所へと、


「遅かったじゃない」


 そこには先客がいた。


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