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第2章-7 アイドルと盗難事件

「はて、困りましたね」

 行動が早速裏目に出てしまった。白髪のご老体が困っているのが何よりの証拠である。

 家に帰ると、まずはこの死霊のこと及び昨日から続く盗難事件の一連をブラムハムに伝えることにした。それから犯人について教えてもらおうとした時だった。

「どうやって教えていただきましょうか?」

「え? それはもう単純に口頭で……ぁ」

 という訳でブラムハムが溜息をついた訳です、はい。

「犯人の場所まで連れて行ってもらうのは?」

「契約者と言うことは相手もネクロマンサーの可能性が高いでしょう。ならば共犯者、隷属者と言いましょうか、そのものが自分の管轄外になったことは既に気づいているはずです。下手に一人で近づくのは危険でしょう」

 うっ。確かに一人は危険かも。そもそも街中に住んでいたりしたら騒動は学園のみじゃ済まない。学園で私がネクロマンサーであることは少なからず知れ渡っているけど、街中ではそうじゃない。下手な騒ぎを起こすわけにもいかない。

「じゃ、じゃあ書いてもらうとか!」

「この子文字書けるのかな? はい」

 死霊を病弱の少女よりも更に白い両手で挟み、押したり、伸ばしたりしているフロースが疑問を投げかけると同時に死霊へペンを渡した。ペンを持つことは可能だった。が、紙を用意したも、頑張って書いた文字、いや作品は幼児のお絵かきみたいだった。

「言葉は理解できても文字は書けないんだ。こんな時は必殺心眼で読み解きなってことだね! メリアス! 今こそ内に秘める儀を解き放つときよ!」

「いや、しんがんって何よ」

 相変わらずこの幼児体型の言っていることがよくわからない。後、新人の子をふにふにするのはやめなさい。嫌がって――うん、わからない。

「だとすると――そうだ! 名簿! 私のクラスや先生の名前ならそこに書いてあるからそれで」

「はて、メリアスお嬢様は名簿をお持ちになったことはありましたでしょうか」

「見たことないよー」

「……ごめんなさい。机の中にぶち込みました」

 そして机に物が入りきらなくなったらそれごと中身をそのままゴミ箱行き。ごめんなさい。本当にダメ主でごめんなさい。

「万事休しますかね」

「うぅ……」

 心を見透かされたように言われたブラムハムの一言がとてつもなく痛い。

「でもさー。これで窃盗事件は一応オワコンなわけでしょ? この子とグルってる奴らがいないとすれば匠がいなくなって廃業するわけだし」

「うん。とりあえず窃盗事件が――何?」

「オワコン! 終わったコンテンツ‼」

 終わった、コンテンツ。事件は終わるってことかな? たぶん。

「ねぇ。財布を盗むのは君一人でやっていたの?」

 私の問いかけに死霊が体を前に倒す。

「ならこれ以上盗まれる人増えるわけないんだし、のんびりやれば?」

「そういう訳にもいかないよ。お金を盗まれた人は未だに深い傷を負ったままなんだから。一刻も早く取り返さないと」

「メリアスお嬢様の言う通りでございますね。先ほどは警戒していることを考えましたが、それよりも既に逃走している可能性も視野に入れねばなりませんでしたね。逃走資金についてはディーナ様の私財でかなり蓄えてらっしゃるはずです」

「あ。それが一番危険かも!」

 そもそもディーナさんがいくら蓄えていたかが疑問になるが、私のグッズ関連の製作費だとか言っていたから、財布の中は札束でパンパンになっているのだろう。

「街中って今も警備兵がうじゃってるんでしょ? そんな中をアクションスターよろしく的な移動方法できる訳? 消える能力が無かったらムリゲーじゃない?」

「それについては王宮の対応次第よね……。そもそも相手がネクロマンサーだってわかってるのはまだ私たちだけだし。王宮はまだ高等魔道師が犯人じゃないかって目論見を立てていると思うの」

 イシュタル王女みたいにネクロマンサーを完全嫌悪している人間なら、真っ先にネクロマンサーを疑ってくれるのだけど。……それ自体はあまり喜ばしいことではないが。

「まずは信用できる人間から王宮に伝える必要性がありますな」

「信用、クリスさんかな。イシュタル王女とは一悶着あったけど、王宮との関係性はさほど変わっていないこと言ってたし」

 あれはイシュタル王女への裏切りであって、王宮そのものではない。そもそもアレキサンダー家の不祥事の話題を勝手に持ち出して暴露したイシュタル王女が一方的に悪くなっているのが王宮の事実らしい。

「今から伝えようにも、学校にはもういないよね。家もわからないし……」

「名簿があれば一件落着だったのになぁ~」

「根に持ってるのよ、それ。後、クリスさんとはクラスが別だから載ってないから」

 直射日光の刑にしてやろうか。もうじき夏だからドロンドロンやぞ。

「相手の出方を待つような形にもなってしまいますが、今日中にできそうなことは、我々にはなさそうですね」

「でも一日で解決への糸口が掴めただけマシかな? この子も救い出すことができたし」

 フロースのふにふに攻撃から逃れた死霊は屋敷を嘗め回すように見回している。その姿を見ていると、この子がどれだけ制限された世界で生きてきたのか、再度痛感される。

「とこんでさ、メリアス」

「ん?」

「さっきからこの子とか君とか、You! とか言っちゃってるけど。ぶっちゃけ名前知らないの?」

「いや、Youとか言ってないから」

 タナカっぽくなっちゃうよ。

「知ろうにも何も、この子喋れないし。書いてもらうにも文字わからないし」

「じゃ、これで!」

 フロースが取り出してきたのは幼児が使うあいうえおと順に五十音が書かれたマット。どこにあったそんなの。

「あとは十円玉を用意して、こっくりさんに頼めば名前がわかるはずだよ!」

「いや、この子に指差して貰えばいいだけだから」

 てか円ってどこの通貨? こっくりさんって誰?

「君の名前。教えてくれる」

 死霊もこちらの話は聞こえていたらしく、既にマットの近くまで来ていた。

 私の呼びかけにも応えてくれたみたいで、顔を向けてくれた。が、直後その体は左右に動いた。

「名前、教えてくれないの?」

 問いかける。体は左右に動いた。教えてくれないわけではないけど?

「恐らく。ご自身の名前を理解していないのでは?」

「そんなことがあるの?」

 私の問いかけにブラムハムが肯定した。

「没する直前に何らかのショックを受けた死霊が記憶を失うことがあります。また、死後一度は成仏するも何らかの因果で死霊になり戻ったものたちが記憶を持ち合わせていないことはよくあることです。この者も何らかの理由があって戻ってきた可能性があるかもしれません」

 ブラムハムの推測に死霊も体を前に傾けた。ネクロマンサーとはいえ、死霊についてはまだまだ未知な点が多いことを実感させられた。

「へぇ~。そうなんだぁ」

 そして死霊の知識量にも。

「死霊にもピンキリあるのね」

「なんでフロースディスられてるの⁉」

「まぁここはもう手の施しようがないとして」

「手の施しようがないってなによ! 勝手にご臨終させないでよ!」

 うるさいです。けど、名前がわかんないと今後ずっと君って言い続けるのか。

「この場合でしたら、メリアスお嬢様が名前を決められたらいかがですか?」

「え? 私が? いいのそれって」

「契約者ですからね。ペットの上位互換と考えてもよろしいでしょう」

「ぺ、ペットって」

 そう考えると皆ペットみたいになっちゃって嫌だな。

 それに私ペット飼ったことないから名前なんてつけたことないし。

「かっこかわきもしぶい名前よろしくNe‼」

「それはどんな名前なの?」

 特にきもしぶいはハードルが高すぎる気が。

「単調に考えてよろしいかと思いますよ。単調すぎると誤解を招く可能性があるのも難点ではありますけどね」

「うっ」

 ブラムハムにその気はないと思うが、若干逃げ道が狭まった気がする。確かに『幽霊』とかつけたら紛らわしいし。

「うーん」

 ペット、ペット。そういえばミクシェが犬とか猫には種類があって真っ白な種類には『シロ』しましまやまだら模様のやつには『しま』とか『まだら』とかつけたりする人が少なくはないって言ってたっけ。

 ならこの子の特徴。線、点、丸――うーん。どれもありふれた特徴、そして名前に使うにはちょっと。後、この子の特徴になりそうなのは。

 無口?

「無口だから――むっちゃんとか?」

「…………」

「…………」

 私の案に何故か皆――二人と一匹元から――黙ってしまった。それと何故だろう。夏も近いのに若干寒気がしてきた。

「フロース、寒いよ」

「フロースのせい⁉ メリアスが冗談きついこと言うからだよ!」

 え? フロースが冷やしてたんじゃないの? というか原因私?

「むっちゃん……ですか。となると元の名はむっでしょうか?」

「え? むっちゃんはむっちゃんだけど?」

「…………」

 あ、また黙り込んじゃった。私そんなに気まずいこと言った?

 これは案を変える必要性があるのかな。そう考えていた私の前に現在命名中の死霊が現れる。

「君はどうかな。むっちゃんってダメ?」

 不安になりながらも問いかけてみる。ここで勢いよく体を横に振られたら結構ショックかもしれない。

 が、そんな心配も無駄だったようで、死霊は体を前に倒した後、小さな両手を上にあげて跳ね上がる、ような行動を見せた。

「むっちゃん? 君は今日からむっちゃんでいいの?」

 もう一度頷いてくれた。

「ありがとう。今日からあなたはむっちゃんよ!」

 死霊、むっちゃんを抱きかかえ頭を撫でてあげる。とても小さく、温度を感じない霊体。それでもそこに宿っている魂は本物だとわかる温かさがそこにはあった。

「まぁ張本人がOKならOKなんじゃないかな? メリアスのネーミングセンスの悪さはこの際棚に置いといて、ようこそフロースキャッスルへむっちゃん!」

「センスがなくて悪かったわね、氷」

「氷⁉ それってフロースのこと⁉」

「成り行きはこの際無しとしまして、無事に家族も増えたという訳ですから、今日はお祝いとしますか。氷、おもてなしの料理の準備を」

「あんたに言われる筋合いはないわ、しわ‼」

 ぎゃあぎゃあ吠えるフロースには目もくれずブラムハムは奥へと引っ込んだ。お祝いか。ここに来てからそんなことしたことなかったな。この前のオーディションの品探しの際は途中で気絶しちゃったし。フロースは元より、ブラムハムもノッテくれているから今日は楽しくなりそうだ。

「こんな人たちばっかだけど。よろしくね?」

 私の誘いにむっちゃんは頷くことで快諾してくれた。


 〝拝啓父上、母上へ

 増えるということの喜びをここにきてまた実感することができました〟


 悲劇の中でできた出会い。今の一瞬、明日になるまでは、この出会いを祝いたいと願った。今唯一の悩みといえば。

(そういえば、この子って物食べれるのかな?)

 その答えは数十分後残念な結果で現れてしまった。


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