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プロローグ

 〝拝啓 父上、母上へ

 常闇の街ヨミガエルには訪れることの無かった深緑薫る今日この頃。私は毎日慌ただしい日々を過ごしております。

 ――とは言いましてもそちらの仕事はからっきしで、以前お伝えしたアイドル活動がとにかく活発すぎます。

 朝は早くから、昼の休みも何処へ、夕暮れには聖職者とレッスンと言う地獄が待っています。学校の出席率が上がり、出席単位では留年しなくなったことは喜ばしいことなのですが、何故か喜べません。

 けど、それとは別にうれしいことがありました。

 私の友達、配下がまた一人増えました。無口だけど人懐っこく、とても愛らしい顔をしたゴーストの子です。自ら配下に置いたのは久しく、ネクロマンサーとしての自覚を再認識することができました。

 そこでもう一つ気付いたのですが、最近私の魔力キャパシティーが少しばかし辛くなってきました。なので、一部死霊を冥界に戻させてもいいでしょうか? 例えば、鬼般若とか鬼般若とか鬼般若とか――。

 私事が過ぎました。

 物資の補給についてはディーナさんが雇った傭兵の皆さん方によって調達され、こちらもディーナさんに雇われた運搬業者によって届けられているとは思いますが、もし、手紙の内容と一致しない点がありましたら連絡をお願いします。

 最後に、この手紙が私のプロデューサー兼文通審査官に閲覧され、改稿、もしくは破棄されずに、ヨミガエルに届くことを願っています〟


「はぁぁぁぁぁ…………」

 アイドルになる以前と比べ、大分文字数の少なくなった手紙を見て思わず溜息が漏れる。

 今迄通りに書いた手紙に二重線を引く作業によって、私の手紙は五枚から一枚になってしまった。

 書いたこと全てを曝け出してみてはどうかとも考えたのだが、そう思うたびに父上の顔が出てきてすぐに却下されてきた。娘が異常者たちのアイドルをやっていると聞けば戦争ですら起こしかねない父上だ。一つですらやっかいなのに二つ以上の面倒事を抱えるとなると、寿命があっという間に縮んで、揚句マイナスになりかねない。実は一カ月前にはもう死霊でしたー。あははは。とか。

 ――おかしくなってるよね、私。

 生活リズムの大きな乱れが私の精神をじりじりと追いつめていることに、今更ながら恐怖を感じていると、私の右手付近にコップが置かれた。

「ぁ、ありがとう」

 こういった身の回りの世話をしてくれるのは我が屋敷の執事であり、私の御目付け役でもあるブラムハムなのだが、先日からはこういった簡単なお手伝いは新参の子が積極的に手伝ってくれている。

 実際こういった世話をしたがる死霊は少なく、料理番のフロースはかなりのめんどくさがり屋でカムシンやリッチは専ら戦闘重視、鬼般若に至っては問題外。

 けど、この子は手伝いを苦にせず、寧ろ楽しんでいるように見える。

 いや――この子が本当に嬉しいのは、おそらく何かを自分でできることなのだろう。この子の数日前の表情と今の表情を比べてみると遥かに違う……ように見える。

「読み取るにはもう少し時間がかかりそうね……」

 白い紙に二つの点と若干弓なりになった横棒一本が付けられたようなシンプルな顔のゴーストを見て苦笑する。その私の姿を見て、ゴーストの顔が三十度くらい真横に傾く。うん、今のはわかった。

 細かい表情はわからなくとも赤ん坊のように喜怒哀楽が激しく、大雑把ではあるが何を訴えたいのかわかる。

「あれからもう三日か」

 私立ナンデモ学園どころかヘイワ街すら巻き込んだ大きな事件。

 そこで私はこの子と出会った。


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