第3章-7 アイドルへの裏切り
「何や、何か分かったんかいな?」
「呪具です! 呪具の可能性があるんです!」
魔物の一部を媒体にしたネクロマンサーの秘術。呪具ヘイボンは周りから気にならないようにできるし、私が持っている杖マリョクアル、あれも実は呪具の一種である。
そして今回の一件は恐らく、人を魅了する呪具を使っていると考えられる。
忌み嫌われ隠れ住んでいるネクロマンサーの呪具がこんな所で手に入るのかと言う点に関しては実は手に入りやすく、睡眠薬とか惚れやすくする香水何かにも呪具が混ざっている可能性がある。
ネクロマンサーをあまり敵視しない国にネクロマンサーが売って、それをヘイワ街の輸入品に混ざればばれることも無い。理屈が分かれば、意外と安易に入手できるのが分かってしまう。
けど、今の問題点はそこじゃないことを言い出してから気づかされる。
「じゅぐって何?」
「え?」
あっ。
そうだ。私が今まで目立たなかったのは呪具のおかげだということをパーティーメンバー内ではディーナしか知っていない。
そしてそれは、私が呪具の材料である魔物の一部狩りをしていることに直結する。現在その活動はディーナに委託されているが、そのことをここにいるっパーティー、果てには王女に言いふらすことは出来ない。これは秘密裏に行っていることであって、ヨミガエルの生命線なのだから。
ディーナも解決の糸口が見つかったかもしれない、と言う歓喜には浸れず、内心焦っているに違いない。
けど、これをどう説明すればいいのだろうか。
「呪具って、メリアスさんが昔付けていた眼鏡ですよね?」
「!」
そこに助け舟を出してくれたのは、呪具の存在に何気なく付き合い続けて、外された時から違和感なく接してくれていたミクシェだった。
「メリアスさん昔眼鏡をかけていたんですか⁉ 私とお揃いだったんですね! ならもう一度かけてみませんか?」
「それは出来へん。うちが取り上げたからな」
「何でですか! さては私とペアルックにさせない為に取り上げたんですね!」
カトリナが私の過去を知って異常反応するが、今はそれに応えている場合ではない。
「そうです。クリスさんが私をパーティーに入れられなかったのは、私がサボり魔の寝坊助だったんじゃなくてその呪具のせいで存在が希薄になっていただけなんです」
「ズル休みは昔からでしたよ?」
「クリスさんが必死になって、尚且つネクロマンサーを嫌悪するイシュタル王女が一期と言う丸一年気づかなかったことからわかると思いますが、呪具はかなり強力な力を持っています。今回みたいに人の思考をコントロールする呪具も作ろうと思えば作れると思います」
ミクシェの追加知識を無視して私は説明を続ける。
知られざる真実を受けてイシュタル王女が吠える。
「まさかそんな力で私の目を逃れていたなんて!」
「王家のお膝元だから仕方ないんです。ここで勉学して里の役に立ちたいと思う一心だったから、王族に見つかるわけにはいかなかったんです」
勿論嘘ですけど。
「なら何でいつもズル休み」
「で、もしかしたらその呪具がこのヘイワ街に横流しされているかもしれなくて、それがトレイシーさんに渡った、いえ、この場合はアグロスさんが入手したの方がしっくりくるかもしれません」
とりあえずミクシェは黙っててね。今騙して――話してる途中だから。
「それが分かったとして、トレイシーさんは何の呪具を付けていたの? 眼鏡かけてたの?」
「呪具は色んな形があるんです。眼鏡以外にも多種多彩な呪具が存在します。だから、トレイシーさんが前日に付けていなかった物で、今日増えていた物を調べれば――。そういえば今日は妙に派手だったような」
前日には無かった装飾品を付けていたような気がするし、それは私が一瞬見た時に気付いた一部だけであってまだいくつか死角になって見えなかった物もあるかもしれない。
「で、どんなん付けとったんや?」
今悩んでいる部分をディーナに突かれる。
「一瞬だったからわかんないですよ……」
「そんなんやからいつまでたっても歌詞忘れるねん!」
「そう言われても! 私は遠くから見てたから小さな物は確認出来ませんでしたし!」
そもそも背中とかだったら死角で見えないし、ましてや服の中だったら見ることさえできない。
「なら、今から確認に行くか?」
「絶対怪しまれるわよ。特にアーチェはメリアスと一緒にいる所見られてるでしょ? 無論あたしもだけど」
誰もがそれは厳しいと踏んでいた時だった。
「はい」
ミクシェが机の上に何かを差し出す。
それは、
「投写水晶?」
最近になってかなり身近になった近代の道具。
投写水晶機によって映し出した景色を保存する水晶には今私たちが知りたい情報があった。
「これって!」
「今噂のトレイシー様。もうかなりの量が売りに出されてたよ?」
「これ今朝見た格好ですよ!」
「つうことは今日撮影されたもんやな。タナカが帰ってこなかったんはそういうことなんかもな?」
それだけトレイシーさんに魅了されているのだからこれはいよいよ怪しくなってきた。
「で、どれがその呪具ってやつなんだ?」
水晶を皆で囲う中でアーチェが問う。
「呪具は本当にいっぱいあるんです。それも私が数えられない位に」
「で、そんないっぱいある中からあんさんはどうやって調べるんや?」
「皆で字引引くとか言わないわよね? あたしそういうの好きじゃないわよ」
各々が不安を口にする。けど、その心配は必要ない。
「大丈夫です、適任者がいますので。と、その前に」
それを呼ぶ前に準備の心遣いをしなければならない。
「クリスさん、ちょっと席を外してくれませんか?」
「へ? なんで?」
「なんで、と言われましても今から助っ人を喚びますので」
私にこの調べものは重すぎる。だからそれ専属の者を喚ぶ必要性がある。
「ねぇ、メリアス」
「はい」
「誰か呼ぶのよね?」
「はい、喚びますので」
「口辺にこんな感じのやつ?」
「いえ、こんな漢字です」
おうむ返しのやり取りに見える中で、互いの主張の違いを汲み取りあえるほどに私とクリスの仲は深まっていた。その証拠に。
「それでは」
バタンッ‼
言い切るまでもなくクリスは出ていった。
「早いですね」
「あんさん、最近クリスはんで遊んどらんか?」
「いえいえ、命の危険を避ける為です」
クリスは勿論、自分の為にも。
「と言う訳で配下を呼び出すので――出来ればカトリナさんもあまり近づかないで欲しいんですけど」
「そ、そんな! 私何か悪いことしましたか⁉」
「死霊が出るからや。後は普段のスキンシップも考え直しや」
それをしてもらえれば有り難いんですけどね。特に後者。
「クリスさんを待たせる訳にはいかないのでさっさと終わらせましょう。来たれ浮世本、リブラリアン!」
私の呼びかけによって召喚陣が形成される。
普段呼びだす死霊にしては小さい召喚陣。そこから一冊の本が現れる。
しかし、それは本ではなく死霊。
リブラリアンは表紙の部分に浮き彫りとなったしゃれこうべを動かして一言。
「ぁぃょ~」
と静かに答えた。
「……何やねんこいつ」
「死霊です」
「おもちゃにすら見えるぞ?」
「れっきとした死霊です」
それも使い勝手はカムシンや鬼般若よりも上ですし。使うタイミングがかなり限られてしまうので普段喚ぶことは無いんだけど。
「リブラリアン調べものです。『人を魅了する呪具』調べて」
「ぁぃょ~」
返事をしたリブラリアンは自らの体を形成している本部分を勢いよく捲っていく。
「ぁぃょ~」
「ここですね」
「ぁぃょ~」
とあるページでその動きはぴたりと止まった。探し物を見つけてくれたようだ。
「何かさっきから返事が一緒やないか?」
「え? 〝お久しぶりです〟〝わかりました〟〝見つけました〟〝そうですよ〟って言いましたよね?」
「〝あいよ〟しか言うとらんやないか!」
「ぁぃょ~」
「そうです、お友達です」
「今のは何て言うとったんかさっぱりわからへんわ!」
えぇぇ……。
「まぁそれについてはメリアスと以心伝心していると言うことで済ませればいい。それよりも内容だ」
「メリアスさんと以心伝心……。メリアスさん! あいよ、あいよ!」
「何してるんですかカトリナさん?」
「ぐふっ⁉」
何かわからないけど、カトリナが大ダメージを受けている間にもアーチェがリブラリアンと投写水晶を交互に見比べる。
「あったぞ」
そして見つけるまでほとんど時間をかけなかった。
「堂々と見せつけてますね」
それはトレイシーさんが、首元から一般的な人よりも発育良好な胸の上に置かれるような形でかけられていた赤い宝玉が特徴的なペンダントだった。
リブラリアンの物と比べると確かに形はほとんど似ている。呪具は基本的に魔物の部位の加工で効力が決まるので、他は単なる装飾に過ぎない。使いやすいように加工した結果、この呪具はペンダントになったんだろう。
「『ユウリョクシャ』。対象者よりも自分の方が有能な権力者であると認識させ、周囲の人たちの賛同を奪い去ることが出来る、ですね。アグロスさんがイシュタル王女から離れたのはトレイシーさんがイシュタル王女よりも自分に仕えるべきだとアグロスさんに認識させたんでしょうか?」
「恐らくそうやな。運動部の方が代表以外寝返ったんもこれで納得がいくわい」
あの人も代表、つまりはリーダー格でしたからね。
となるとこれをどうやって手に入れたか、そしてどう対処するかだ。
「えっ、これは」
「リブラリアン。『呪具ユウリョクシャの製造について』」
「ぁぃょ~」
リブラリアンに新たな情報の開示を急がせた。
「所でだ、呪具はどうやって出来るんだ?」
「あ、それ私も聞きたかった! 横流しになってるなら、ある程度の記事にしてもいいでしょ?」
あ。
またしても地雷を踏んでしまった。
そのことにディーナは頭を抱え、先ほど助け舟を出してくれたミクシェは目をキラキラ輝かせながら私の方を見ている。
……ここはある程度誤魔化しながら話すしかないか。
「実は――魔物の一部何です」
「えぇ⁉」
「マジかぇ……」
「何だと?」
それにミクシェが慄き、アーチェが少し驚き、ディーナもどさくさに紛れて知らない感じでげんなりする。
「私が使っていたヘイボンもイピルージュって言う周辺環境に擬態するトカゲみたいな魔物の皮膚を使ってます。とは言ってもレンズ部分だけで、他は一般的な素材なんですけどね」
まぁここまでならネクロマンサーの隠れた生態、的な所で許してくれるかな? 私がそれを手伝っていて、ネクロマンサーがそれを本格的な生業にしているという所を避けられれば。
どうやらこの事実を記事にするのは気が引けるようで、ミクシェのペンもほとんど動かない。
「ぁぃょ~」
その代わりと言っては何だが、普段よりも少しばかし細かい内容を確認させたため時間のかかっていたリブラリアンが〝終わったよ〟と告げた。
「わかりました。えっとこれですね……え?」
私は必要な要点を見つけると、その表記に一瞬目を疑った。
「なんや、何がわかったんや?」
ディーナの問いかけに、今は目を反らしていてはいけない、と頭を振ってみる。勿論書いてあることは変わらない。
「『ユウリョクシャ』の材料は……ドラゴンの瞳」




