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第3章-6 アイドルへの裏切り

「タナカのあほうどもが何かしたんかいな?」

「ずっとアイドル対決の舞台準備をして2-Dの催し物を一切手伝おうとしないんだ。仕込むにしてもあれはやりすぎだぞディーナ。メリアスどころか周りにすら被害が出てる」

「アーチェさん、実は今からそのことを話そうとしてまして」

 アーチェとディーナのすれ違いを正すため、私は前日起きたことをすべて話した。

「昨日からおかしかったんかいな。てことはその日の間か、その前の日になんかあったんやな?」

「ディーナじゃなかったのか。タナカに何か吹き込んで芝居をしていたのかと思っていたが」

「あいつらならその位やってくれといえばやってくれそうやけどうちやないな。そもそもうちはここ数日あいつらにあってすらおらんしな」

「じゃあ今まで何をしてたんだ?」

「それはそこで一生懸命ミクシェさんが糊でくっつけようと頑張っている紙の中に書いてありますよ?」

「あんさんはまだこりとらんのか!」

「特ダネですよ⁉ これさえあれば『ウェーバー情報誌』の記者になれるかもしれないんですよ!」

「そのためにうちの人生の終止符打つんやない!」

「――後で給与がしっかり払われてるか確認しよう」

 ミクシェの未来とディーナの未来が鬩ぎ合う中、アーチェはその記事を見て決意を新たにする。普段の行いから気づきにくいがこの人も金銭に関しては結構シビアである。

「それは後にしてや! んで最終的に誰が犯人やねん!」

 ディーナが怒鳴りながら事(アイドル対決事件)の詳細を問いかけ、事(不正事件)の証拠を抹消する。

「今朝のことなんですけど、運動場の中央でトレイシーさんがステージ上で声をかけたら、撤去を訴えかけていた運動部の人たちがトレイシーさんに賛同し始めて、その後恩人だと言ってトレイシーさんがアグロスさんを紹介したんです」

「やっぱあいつかいな! どうせ協力する代わりにメリアスはんをどっか飛ばすように言ったんやろ!」

「だから今困ってるんですよ! ディーナさんが罰ゲームとか言い出すから!」

 無かったようにとは言わないけど、内容をある程度軽度なものに指定していればこんなことにはならなかったはずなのに。

「しょうがないやろ。勝てる思っとったんやからな。それにアグロスが何をしたか知らんけど、美少女部の面々が何で買収されたかわからへん。それにメリアスはんの言う話やと運動部の人らは買収された感じでも無いんやろ?」

 実際そこも大きな問題である。何故こんなことになったのかがよくわからない。トレイシーさんの応援の中に運動部の信念を揺れ動かす物はあったのか?

「どうせ後ろにイシュタル王女がおったんやろ? 金銭が無理なら威圧で何とかするんがあの王女やかんな。運動場使えんくさせるか、学園におれんくさせるか、最悪この街から追い出すかするんやないのか?」

 酷い扱いであるが、普段のイシュタル王女の言動と思考ならそう思われても仕方ない。高飛車な性格はあの後の異変でも最後の最後まで続いていたのだから仕方ない。

 だが、あれを見ていたせいで私は彼女を加害者として見れなかった。

「実はそれなんですけど」

「その辺で止めておきなさい」

 私がディーナの未だ続く文句を止めようとした時、まるで意図を読まれたかのように同意見が部屋の外から聞こえる。

「どういうことやクリスはん?」

 そこにいたのは我らが頼れるリーダー、クリスだった。

 しかし、その表情は少しばかし暗い。

 アーチェと一緒で普段とは違う感じが現状だと不安を煽る。

「何かあったんですか?」

「うん、まぁ普通じゃないなってことね」

 カトリナの心配に否定することなく肯定することにしたクリス。

「中で話すわ。……こうなったら仕方ないですよ、こちらへ」

 クリスが事の顛末を話そうと中へ入る時、誰かを招くような仕草があった。

 こちらからは死角になる壁の向こう。誰かに入るよう決意させたクリスがまず入り、その後入ってきたのは、

「イシュタル王女⁉」

 巷に成りかけていた人物だった。

 普段通りの嫌味は一切なく、俯き気味な顔は今日の朝ステージ上に捨てられた時と同じで、それを今でも引きずっているのだろうか?

 けどそれは一瞬で、報道部の部室に入ったイシュタル王女は私たちの顔を見た瞬間普段通りの怒りの籠った顔になり、我が物顔で報道部の適当な椅子にどしっと腰を下ろした。

「で、これはどういうことや? 今回の犯人第一候補やで?」

 ディーナは普段のイシュタル王女の行いと、その配下である人物がトレイシーさんの後ろ盾であったことからすぐさま犯人に見立てる。が、それは早計である。

「そうは思えないわよ」

 それを否定したのはクリスだった。

「あたしたちのクラスは普段イシュタル王女が――失礼ですけど、圧倒的決定権と支配権を持つの。今回の舞踏会だってイシュタル王女の意見で、2-Cにいるパーティーメンバーのシャオとヤンも手伝わせていたわ」

「まぁうちらのとこは男手不足や言われてもやること簡単やからな。寧ろ女子の方が不足してて忙しめやから男子が手伝ってる始末やしな」

「私も手伝いたいんですけど、聖歌隊の練習がありますので……」

 この前シャオとヤンが運んでいた荷物はCの物では無くてAの物だったのかもしれない。結構大きな荷物だったから大規模な催し物をするんですね。

 ちょっと見てみたいなと思っていたが、それは次のクリスの説明で叶わぬ夢にとなる。

「けど、今日は全くそんな気配が無くて。いいえ、寧ろ逆だったわ。普段犬のように後ろをついて行くアグロスがイシュタル王女の言動や行動を罵って、それにクラスメイトの大半が肯定して、催し物の舞踏会も実質中止になっちゃったのよ。生徒会の仕事もあるのにこのタイミングでそれはかなり困るんだけど、一体何があったのかしら?」

「私も知りませんわよ! 何なのですが、いきなり!」

 クリスの今日起きた出来事の説明をした後、イシュタル王女は激昂しテーブルに拳を叩きつけた。

「そもそもこれはネクロマンサー! あなたとあの訳のわからない女の試合なのに、何故私を巻き込んだのですか!」

「わ、私は巻き込んでませんよ。そもそもアグロスさんが壇上で何か言っていた時、イシュタル王女も上がってましたよね!」

 その後二人の言い争いが起きて、いつの間にかアグロスがトレイシーさんの味方になっていたのが私の今日知る限りのイシュタル王女の出来事である。

「で、そのアグロスさんはいったい今何をしてるんですか?」

「知りませんわよ! ゼノもいませんし!」

 どうやらゼノはアグロスについて行ってしまったようだ。こうなればイシュタル王女はAの中で味方らしい味方がいなくなる。

「Aのクラスメイトがおかしくなったのはいつ頃の話なんだ?」

「いつかはわからないは、朝生徒会の仕事をし終わってクラスに戻ってきたら、ご覧のあり様よ」

「昨日はそうでも無かったんやな? ヤンはんもシャオはんもうちのクラスに顔出さへんかったし」

「そうね、昨日は普通に舞台設営まで行けたわ。……アグロスの業者もあってこそだったけど」

「それって文化祭何ですか?」

 学校の行事では?

「もう訳わからへんわ。結局誰が原因菌何や? 王女やないんならトレイシーはんか?」

「いや、彼女はアグロスのことを恩人呼ばわりしてたんだろ? アグロスが原因なんじゃないのか?」

「イシュタル王女。ここ数日アグロスに何か不審な動きはありましたか?」

 犯人の目途が立たず、クリスはイシュタル王女にも心当たりが無いか問いかける。

「そんなこと言われましても、普段通りとしか。ここ最近は私の舞踏会を開くために王宮の備品を借りる為に何度か王宮に来ていた位ですわ」

 舞踏会に使おうとしていた物って王宮の物だったんですか。もはや生徒たちの催し物では完全に無くなっていますね。

「王宮に何か頼んだか?」

「頼んだところでタナカ達が動くわけ無いやろ。金銀よりアイドル様、美少女様連中やからな。ましてや王女様を嫌わせるなんて、さぞヘイワ王宮は王女のことを目の上のたん瘤にしとるんやろうな」

「それは闘技大会の時に証明されただろ?」

「うるさいですわそこ!」

 怒鳴るイシュタル王女であるが、かなり的確な所を突いているようで反論はない。

「それなら運動部の方々もおかしくなってしまったところはどうなのでしょう。それもすぐにおかしなったんですよね?」

「本当に一瞬やったんかいな?」

「そうとしか思えませんよ。言い争いを遮るように歌い始めて、それが終わり切ると」

 その場面を思い出しながら説明していると、関係あるのかわからないほどの小さな異変を記憶の中から拾うことになる。

「そういえば一人だけ、始めに言い寄ったリーダーっぽい人だけ、歌が終わった後も従ってませんでした。皆おかしくなったせいでその後は何も出来てなかったみたいで、気がついたらいつの間にかいなくなっていました」

 あの異変を私よりも身近で体験したのはイシュタル王女を除けば恐らくあの人だけだろう。

「うーん……それって関係あるの?」

「あるとしたら何だ? 王女とその運動部代表の関係って」

「私と一般市民と何の関係を持てというのですか!」

「こういう感じで怒ってましたね」

 そこが関係しているのだろうか?

「どうしても催し物を成功させたかったんでしょうか?」

「でも、それは誰もが思っていたことじゃないのか? 運動部とはいえ、準備が必要だろう? それをいきなり現れた人たちによって無駄にされたんだぞ? なのに他の部員たちはその人たちについて行った訳だ」

 アーチェの説明は至極当然のことで、勝手に場所を取られたことに憤怒しない人はそうそういないだろう。

「どうせまたあなたなのでしょネクロマンサー! あなたが悪さをして、私の身の回りの人間を掃けさせのでしょ!」

「それでメリアスはんも困っとるんやろ。出鱈目なこと言うんじゃないで」

 アグロスがよくやる何でも私の責任にする技術をイシュタル王女も受け継いだようだ。暑さや害虫と同じ扱いでネクロマンサーを扱うのは止めていただきたい。

 第一ネクロマンサーが出来ることなんてたかが知れているわけで、そのせいでミクシェに色々馬鹿にされることもある。

 昔はヘイボンのおかげで馬鹿にされることも、と言うよりか気にかけられることもなく過ごせていたから呪具の存在は偉大で。

 ……。

「まさか、その可能性が」

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