第3章-5 アイドルへの裏切り
午前中の授業が何の滞りも無く終わったことに逆に不安になりながらも、私はディーナを呼びに向かった。
「わぁっとる。クリスはんやアーチェはんにはうちが伝えた。前会議した場所は他の部が使うし、今回はここで話をするで」
そう言われディーナに連れてこられたのは、報道部の部室だった。
「あ、待ってたよ」
私、ディーナ、カトリナの三人が報道部に到着すると、そこにはミクシェの姿もあった。
「ミクシェさん? 何でミクシェさんも?」
「うちが呼んだんや。今回はわからんことが多いし、情報源を多くもっとる人間が必要何や」
そう告げた後、報道部の椅子の一つに座る。
「報道部の人は?」
報道部は美少女部とは違い正規の部活であることを以前ミクシェに怒られたことがある。正規なら何らかの準備にかかってるはずだと思うんだけど。
「他の部の催し物を調べに行ってるの。どんな物をするかは普通に公表されるけど、報道部はその中でも目玉になるものや景品の一部、こだわったところを文化祭前新聞にして、その後の『学園新聞文化祭号』の記事の内容を決めるの」
「それで誰もいないのね。それならミクシェさんはいいの?」
「二期のA,C,Dのこと教えてもらうからいいの」
ほぼ身内ネタじゃないですか。
「それよりも何か面白いことになりそうだからこっちに来たの。今まで余裕っぽかったメリアスさんが敗北濃厚になるような事態に陥ったことを記事にした方が売れるかなって」
「……ディーナさん?」
「これには理由があんねん。うちとてほんと何にも気づかんうちにことが進んどったわけやしな。ミクシェはんにもメリアスはんが負けそうになっとるくらいしか伝えられへんし」
「……え? これってコミカルにできないほど深い事情があるの?」
私自身も理解できてない点が多いが、恐らくそうなる。
「そのまず足掛りとして何ですけど、ディーナさん」
私の鋭い視線はディーナに向けられる。この確認は絶対事項である。
「いっとくがうちは何も関わってへん」
「嘘です! どうせメリアスさんがかわいすぎてにくくて酷いこと言いふらしたんでしょ!」
「カトリナはんあほなこと言うとる暇ないねん。うちはやっとらん」
焦りも不審さもない。
金ごとになったときのディーナと一緒で何一つ冗談をつかない。
わかる。今回の事件に関して、ディーナは白だ。
「それよりもや、うちはトレイシーはんに美少女部どころか一般生徒の支持も得とるとしか知らんねん。もうちょい詳しいことは直接見たメリアスはんの方が早いんちゃうか?」
ディーナの問いかけに、この人は本当に知らないんだなと再確認する。普段は金絡みの情報蒐集率は高いのに、今回に限っては何一つ理解していない。それはとても不自然だった。
「ディーナさん今まで一体何してたんですか?」
「えっと……それはやな……」
が、ここにきてディーナが突然言い淀み始める。今まで軽快に現状把握に努めていた彼女の異変に私だけでなくこの部屋にいた二人も不審がる。
「もしかしてですけど、何か知ってるんですか?」
「今回のことについては知らん! けどうちにも秘密にしたいことがあんのや!」
「秘密って言ってる時点で悪事を働いているじゃないですか! さぁ、懺悔して下さい!」
「秘密が全部悪事や言うのは御幣や! 恥ずかしいから言いたくないことや、大事にしたいから秘密にすることだってあるやないか!」
「でもディーナさんですからね」
その一言が一番の決め手である。
私たちの中で出来上がった人格形成上、ディーナの立ち位置はこれで決定である。
「何もわからないから誰かが何か隠しているだけで疑心暗鬼になってしまうんです。早期解決を心掛けるのなら何をしていたのか教えて下さい」
「う、ぐぐぐ」
ディーナの秘密と今回のアイドル対決による損失の天秤が今揺れ動く。
均衡が取れるという間違いは一切おきず、どちらかを切り捨てなければならない。
「わかったわ! 白状するわい!」
そしてディーナは現状を重く受け入れ、秘密を暴露する。
「うちらのクラス、2-Cはくじ引きをやることにしたねん」
「カトリナさん本当ですか?」
「そこから疑うんかいな!」
そりゃあなたですからね。
「ディーナさんの言うとおりです。私たちのクラスは部活所属の人、私みたいな聖職者に部以外の活動をされている方が非常にたくさんいらして、クラスの催し物に参加できる人が本当に少ないんです」
「そこで物だけ用意して金銭受け取る人と景品渡す人だけいればいいくじ引きにしたわけや」
私たち2-Bとは違い、正当な理由でクラスの催し物を簡略化することにしたらしい。
「で、その景品に関して何やけど、うちがおるわけやからゴールドバーグ家で仕入れてそのまま景品として並べようってことに決まったんや。んでクラスの模様替えを男子、くじの作成を女子、景品の入荷をうちが担当することになったんや」
妥当な配分でそれぞれの役割が決められたようだ。模様替えやくじの作成は複数人で行われているみたいだけど、景品に関してはディーナ一人でやっていたようだ。それなら忙しくなるのも仕方がない。
――そう思うのが普通だろう。
けど、それでは秘密にする意味がわからない。忙しかったのであれば誰も攻めることはない。寧ろ認めざるを得ない。
ディーナが補充する物は商品であり、業者から2-Cに売られ、2-Cから当日来る生徒たちに売られる形になる。
その取引の間にディーナが立つ。
……まさか。
「事前準備金とくじが七割くらい売れたと換算した中で景品を選ぶんやけど、どうせなら安く仕入れて利益出したくてな。んで、みんなが大体値段知ってるようなものは正規の値段で買った言うて、残りの差額を――うちの手元に」
「不正だぁぁぁぁぁー!」
〝拝啓 父上、母上へ
私の会社が悪事に手を染めました〟
「だから準備のときもあまり顔を出してなかったんですね! そんな時は寧ろ自分に少しばかしの損益があったとしても皆を喜ばせるようにするのが普通じゃありませんか!」
「せやけどうちも損なんかしたくないんや。くじいっぱい売れたらその差額でメリアスはんと食事できる機会セッティングしてやっから黙っとき!」
「やりましょう! 困っているのであれば私も協力します!」
「買収されちゃだめですよ!」
聖職者が不正に手を貸しちゃ駄目ですから! ネクロマンサーに手を貸しても悪事は駄目!
「神様は純真たる信者の一人が悪事に手を貸してるって知ったらどう思いますか? そのようなことは今すぐ止めてください」
「そ、そうですよね神様はともかく、メリアスさんが言うのであれば」
今さらっと問題発言しませんでしたか?
「ディーナさんもわかってると思いますけど」
「わかったわい! ちゃんと支出表の作成しとくわい」
「そうじゃありません」
「まだあるんかいな」
「止める相手を間違えてます。本当に止めなくちゃいけないのは、あっち」
私が指し示す方には文字盤が絡むのが先か折れるのが先かと言わんばかりの勢いでタイプライターを叩くミクシェの姿があった。
「やめい!」
「あぁぁぁぁ⁉ 折角の記事が!」
「記事どころかスキャンダルになるやろ! 学園だけやのうてヘイワ街一帯大騒ぎになるわい!」
半ばまで作成されていた用紙をディーナが強引にタイプライターから引っこ抜き、びりびりに破る。
「身に染みたのであれば、もう止めてくださいね。いつ問題になってもおかしくないようにバックが控えてますので」
「あぁ……身に染みてわかったわい」
ナンデモ学園に入った当初、私も危険視してましたからね。
で、この話は終わるとして。
「何を話してたんでしたっけ?」
「あんさんが何を見てきたかや! 何でトレイシーはんにあんなファンがついたかや!」
あぁ、そこまで戻るんですね。ディーナの不正話で盛り上がってしまったけど、一切何も進んでいなかったのに今更ながら気づく。
「えっとですね、今日の出来事の前に伝えたいのは」
私が前日に大ホールであったことを話そうとした時だった、報道部の扉がガラガラと開いた。
「すまん遅くなった。タナカたちのせいで問題が起きてな」
入ってきたのはアーチェだった。入ってきてからの第一声は酷く疲れた声だった。




