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第3章-3 アイドルへの裏切り

 と、考えるには早計だった。

 文化祭三日前。

 アイドル対決の舞台は大ホールから曇り空によって夏過ぎと言う時期にしては快適な気候を保った運動場に移っていた。

 一瞬何を言っているのか私にもわからなかった。けど、これは目の前で起きている現在進行形の事実である。

「我らがトレイシー・モーリスの勝利を願う前夜祭ライブがここに幕を開けるー‼ 行くぞ皆‼ 準備は出来ているよな⁉」

「「「「「Yes.Mr.プロデューサー‼」」」」」

 その舞台を手掛けたのは勿論この方たち。前夜とは言うが文化祭までまだ三日もある上に、今は朝である。

 それなのに運動場のど真ん中、目立つ位置に仮置きのステージを作り上げ、大声を張り上げ、盛り上がる。

「やりすぎでしょディーナさん……‼」

 そんなに私を陥れたいか、そんなに私に罰ゲームを受けさせたいのかと言う思いが心の奥底から沸々と湧きあがってくる。

「おいお前たち! ここは運動部連合でアスレチック競技として利用する場所なんだぞ! 勝手にこんな物設置するんじゃない!」

 そして怒りがこみあげているのは私だけではない。

 勝手に運動場を使われたことに、元々ここを使おうとしていた如何にも体育会系と言わんばかりの体躯の男が一人目立つ衣装のリーダー格タナカに食って掛かる。

「何がアスレチック競技だ! そんなのお縄芸の猿がやるようなことじゃねえか! そんなもんの為にアイドル様の舞台を明け渡す気なんてさらさらないんだ!」

「んだと⁉」

 それに答えたのはタナカではなく別の男子生徒、それも私に食って掛かったあの生徒だ。

 売り文句に買い文句とはこのことか。互いに丸く収めるような言葉を選ばずにぶつけ合う始末。いつ物理に変わるかわからない緊迫した状況に一人の男が動いた。

「申し訳ない僕の部員が。確かにここはあなたたちの聖域。アイドル様にとってのステージがこの運動場に値するのは十二分に分かっています」

「つべこべうるせえぞ! さっさとこれを片付けろ!」

「ですが、それに色添えをするためにこれは如何でしょうか? 今しばらくすればアイドル様もこちらにお越しになるはず。一度お目にかかれば滾る闘志はより一層増すことでしょう」

 そんな馬鹿な。

 ナンデモ学園には一応応援部と言うものが存在する。

 私も一度それを真似てサッカーの応援をしたことがあったが、勿論正規な試合や催し物ではなくただの体育の授業で相手は美少女部の面々。その後軍曹に美少女部の面々が連れていかれる所までセットにしても正規部とは比べることさえお門違いな存在である応援部とアイドル。それを実際に出来る物だろうか。

 タナカの自信は毎度単なる思い違いと酔狂であるからたぶん無理だろう。

 待てよ。

 もし私がこの運動部寄りの催し物を考えて、一緒に協賛と言う形でコンサートを開けばこの人たちの票を稼げるのかもしれない。

 いける、と思ったがまずどうやって協賛すればいいのかがわからない。もし相手が私のことを知っていれば美少女部の関係者と言う認識で絶対に協力などしないだろう。

「来たぞ! アイドル様だ! 皆膝を!」

 タナカが何かに気づいたのか、号令を出す。それと同時に美少女部の男子たちは一律、動作の澱みも無く地面に膝をつき、腰を曲げ、おでこを地につけた。

 その一連の動作に圧倒されたのか、運動部の代表らしき人も口籠る。

 それから数秒も経たないうちに。

「おっまたせー! 大復帰のアイドル、トレイシー・モーリスがこの場を盛り上げちゃいますよ!」

 特設のステージ。その壇上に見間違うことなき、私の対戦相手トレイシーさんがいた。

 ステージ上の彼女は宣伝中にも使っていたドレス工房で販売されていたパッチワークキルトの服、の模倣品を着ていた。けど、その周囲には昨日まで無かった装飾品がいくつか増えている。胸の上には結構大きめのペンダント、特製マイクには金のリボンが巻き付けられ、指には指輪らしき物まではめている。

「……はっ。おい、お前ら! いつ始めていいって言った! これをさっさとどけろ!」

 美少女部の挙動で一瞬我を忘れていた運動部の代表がまた動き出す。突然出てきたアイドルに対し運動部の面々は声援ではなくヤジを飛ばす。

 美少女部以外の人間を跳ね除けるような強引なやり方に不満が募り、暴動が起きるのは当たり前だと確信めいたものがあった。

「運動部の皆が頑張っているのはトレイシーもわかってるよ。だからこその応援であり、準備運動であり、絆の深め合いであるこの私の歌を聞かせてあげる! 競い合うのも大事。でもそれぞれの実力を讃えあうことも大事! そんな思いを込めた一曲をどうぞ!」

 ひとしきり喋り終えると楽曲が録音石から流れる。聞いたことも無いリズミカルな曲だが、ディーナが作ったのだろうか。

「だから、始めるなって言ってるだろ! こうなったら強引にでも片づけるぞ!」

 遂に堪忍袋の緒が切れた代表は皆に取り掛かるぞ、と合図を送り強行手段に出る。

 ……。

 けど、動きが無い。

 代表が取り掛かろうとはしているが、その後に続くものがいない。皆固まって上の空のように一点だけを見つめている。

「そうだ」

 やがてその一人が口を開く。

「確かにそうだ。俺は彼女の曲で勇気づけられるんだ」

「あれを聞いていれば勝てる気がする」

「いいえ、勝てなくてもいいんです。全力を出し切れさえすれば」

「彼女がいれば負けも関係ない!」

 ウォォォォー‼

「どうしたんだお前たち! 落ち着け! どこへ行くんだ!」

 叫ぶ代表もただただ慌てるだけだった。

 先ほどまで同志だった運動部の人たちがいきなり非正規の部のアイドルを慕い始めたのだから仕方ない。

 それにこの不自然な流れで見落としそうになったが、もっと大きな異変が起きていた。

 運動部は筋肉質な男性だけではなく、クリスのように体を鍛えている女性の部員も少なくはない。

 代表以外の全員がトレイシーさんのステージに群がる。美少女部、許容しても男子生徒しか寄り付かなかったアイドルの応援に女性陣が参加している。

「ディーナさん本当に何したんですか……」

 美少女部だけでも騒がしい盛り上がりは運動部も加えて声量だけでなく熱量もまして、まさしく白熱しだす。その異様な光景に学園の窓から顔を出す人、声を聞いて外に出てくる野次馬が溢れだす。

「皆ー‼ ありがとー‼」

 歌い切ったトレイシーさんが汗をぬぐって手を振ると、ステージ前に集っていた美少女部と運動部の異色コンビが拳を天に突き上げた。その光景は普段私がやっているコンサートよりもコンサートらしく、トレイシーさんもアイドルらしかった。

「三日後に行われるアイドル対決には是非来てくださいね! 勿論販売会の方でも私は参加しますので、握手、撮影ご自由にどうぞー。あ、お触りは禁止ですからね!」

 噛むことも無くすらすらと伝え、最後にはジョークまで加える感じでトレイシーさんのコンサート、タナカ曰く前夜祭コンサートは幕を下りた。

 直後に「触りてー‼」と不埒なことを叫んだのはいつもいる美少女部の下世話な人、ではなく運動部の人だった。その人が女性部員にぼっこぼこにされていたが、周りの女性部員も冷ややかな感じではなく、寧ろ楽しんでいる感じがあった。

「それでは最後に私を今回プロデュースしてくださり、作曲と協賛をしてくれた私のプロデューサーをご紹介いたします!」

 えっ⁉

 プロデューサーを紹介⁉ 私たちは個人で対決をしていたはずなのに!

 いや、実際にはミクシェやクリス、カトリナ、アーチェなどの協力者はいたが、それはあくまで協力者であり、私を上からバックアップする人何ていなかった。

 そしてプロデューサーなどと大そびれた名前を使う人何てディーナとタナカ以外に聞いた覚えがない。

 今迄私に姿を見せずにこそこそと行動をしていたディーナがまさかここにきて顔出し?

 これだけの客員を稼いでおきながら更に客を集めるためにプロデューサー本人が段上するとか、今回の文化祭でいくら稼ぐ気なんだろう?

 互いに手を貸さないとか言っておきながらこれはあんまりだ。裏でトレイシーさんに手を貸し続けるなんて。

 ルールですら決めていたのに。

 ……。

 ルール?

 ! そうだ!

 ルールで決めているんだからここで決定的な証拠を得ればディーナの野望を打ち砕くことができる!

 ゴールドバーク家の教訓で、ディーナ自身も常に気にしている一度決めたことはできる限りやり遂げるという考えを挫くには絶好の機会である。そうすればこの試合、ないし罰ゲームを白紙にすることができる。

 この機会を逃すわけにはいかない。そう理解してからの行動は早かった。

 私はステージから遠く位置した場所から見ていたため、恐らくトレイシーさんや美少女部の人たち、そして舞台裏のディーナには気付かれていない。

 ディーナが出て来るまで身を隠せるよう、近くの木の裏手に隠れて少しだけ顔を出して様子見する。

「では、どうぞー‼」

 満面の笑みで自分をここまで出世させた恩人を段上へ招く。

 段上へと上がる間、美少女部と運動部、何らかのイベントと勘違いしだした一般生徒も拍手をしだし、ただの前夜祭タナカ談はお祭り騒ぎになっていた。

 そして特設ステージ奥、ステージの裏にかけられていると思われる階段を上がってディーナの姿が。

「よくぞ頑張ったトレイシーよ! これであのネクロマンサーは手も足も出せまい!」

「アグロスさん⁉」

 出てこなかった。

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