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第1章-3 アイドルとアイドル

「今年もこの季節が来た! そして今年は更に暑くなること間違いなしだ! そうだろディーナ!」

 普段の何十倍も声、テンション、暑苦しさが倍増しているタナカが問いかける。それに動揺するディーナであるが、その理由について知る私は呆れ果てる。恐らく例のあれを見つけたのだろう。その証拠に口元にご飯粒がついているが、至福だったから気づいていないのか、或いは業とか。

 今は美少女部の催し物を決める非公認部のトップ会議と言う物をしている。

 非公認が催し物をしていいのかと言う疑問もあったが、文化祭での出し物はクラス単位が必須、部単位もクラスの催し物に支障が出ない人数が揃えば出来る限りしてもらい、尚且つそれでも余裕があるのであれば友達や同士と言うグループでの催し物も可能だという。非公認とはいえこれに属せればできるのだから止めようにも止められない。学園法第1条が多いに邪魔をしている歯がゆい所である。

「ま、まぁせやな。去年は見つけるとこからやったしな。今回は既にスターがおる時点やから去年よりかはやりやすいわな」

 呆れながら答えるディーナではあるが、安堵しているような返事にタナカも多いに頷く。まぁこの二人除いたら後私しかいないんだけどね。

 社長、社員、一番のファンと言うおかしな構成によって開催されたトップ会議に他の面々は参加できない。とは言うがそれぞれ何らかの理由で忙しく、クラス委員長であり尚且つ生徒会にも参加しているクリス何かはこの時期はすごく忙しらしい。学園プログラムの中に既に組み込まれているヘイワ讃美歌の合唱などで教会側も忙しいらしく、カトリナも嘆きながらあまり参加できないと狼狽していた。そんな状況でよく私と丸一日文化祭を楽しもうと考えた物だ。

「んでや、タナカ。場所の確保はいけとるんか?」

「勿論だとも! その為に演劇部と兼部している我が部の生徒に情報を横流ししてもらった!」

 幸せはピークに達しているのだろう。普段からMr.プロデューサーを名乗っているタナカは普通に名前で呼ばれたことに一切触れずに話を続ける。

「演劇部並びに他クラスの演劇の合間を縫って大ホールの方でコンサートを行えるようスケジュールは組んでおいた。組み立て解体にも余裕をもって2時間近くを一日目、二日目の二回は行ける予定だ。それ以外にも握手会、グッズ販売程度になら使える特別教室の確保も出来ている。こっちに関しては今の所常時使用できるさ!」

 キレッキレの台詞に親指を立てるさまは腹が立つほどに美しかった。

「マジか! 文化祭でそこまで取れるとはさすがタナカや!」

「こっちは仕事をしたんだ勿論そっちも仕事をしてくれるんだろうな? 諸事情で行けなかったアイドル農場の野菜や新曲の録音石(カセット)、後は秘蔵の投写水晶(フィルム)と言うのを用意するとか言っていたな」

「あ、あぁ。前者二つは大丈夫なんやけどな……。もう一方はとある理由で、今手元に無いんや」

 手元どころか既にこの世に無いと思いますよ。クリスが断片残らず処分してくれたと思いますし。

「何の理由があったのかわからんがそれは仕方あるまい。例え一つのトラブルがあったとしても我々のアイドル様への愛は変わらないさ!」

「その愛をいつも通りうちに還元してくれるよう努力しいや」

 嬉しそうにいうディーナであるが、それは即ち普段と何一つ変わらない訳である。

「そのお金を少しは私に回して、いえ出来ればそれを休みにしていただければ」

「あんさんは休みすぎやねん! 今朝も学校休もうとしてたやんけ!」

「それはディーナさんが夏休み中に休みをあまりくれなかったらですよ! 普段通りに休んでいればこんなことは無かったんです!」

「あほぅ! あんさんしかおらんのに休みまくってどうすんねん! もっとアイドルとしての自覚もたんかい!」


「なら私を使ってもよかったじゃないですか!」


 私とディーナの言い合いに横やりが入る。

 声は外から聞こえ、その槍を刺したであろう人物が扉を勢いよく開ける。

 そこにはピンクの長髪をした少女が一人立っていた。私よりも身長が高くスタイルがいい。誰かに例えるならアーチェを小さくした感じだ。そういう風に関連付ける理由がもう一つ、髪の間から伸びる長い耳にあった。この人はエルフだ。

 てか、この人誰?

「誰かと思うたらトレイシーはんやないか。まだその髪やったんかい」

「皆と違う印象を与えたいならまず外見からって言ったのはあなたじゃないですか!」

 トレイシーさん……。うーんわからない。

 たぶん、たぶんだけど私のクラスにはいない。同期? なのかはもう全然わからない。

 傲慢さは限りなく薄れているけど、ディーナとのやり取りはイシュタル王女を彷彿させる。まさか王族関係者、かと思ったが王族関係者にエルフがいるという話は聞いたことが無い。

「あのぉ……あの人って誰ですか?」

 こういう場合情報を求めるとなるとクリスやミクシェが一番何だが、ここに今いるのはこの男のみ、と腹を括りタナカに話しかける。

「あー。うん。去年ディーナがやったアイドルオーディションの優勝者なんだ。まぁ聞こえはいいかもしれないけど、実質アイドルと言うのを理解できていたのは彼女だけなんだよ。他の人はミスコンやボディービル、最悪なのはどこでどう間違えたのか女装した男子すら来ちゃう始末だったんだ。で、最終的にその中でマシな彼女が選ばれた訳だよ」

 悲しい過去だったのか、普段、と言うよりも先ほどまでの勢いのある喋りは鳴りを潜め、普段私との対話では絶対に見せない哀愁漂う喋りで、最後には溜息のおまけまでついた。

 もしかしてミクシェが言っていた去年のあの人ってこの人のことなのだろうか?

 そうなると疑問が生まれる。ミクシェがヘンリーさんに遮られ言いそびれていていた疑問。この人は今まで何をしていたのだろうか。

 私がアイドルをやらされる前はクリスをアイドルみたいな存在に仕立て上げようとしていた。と言うことはその前までは目の前にいるトレイシーさんがディーナの元アイドルとして活躍していたはずなんだが、私はそんなこと知らないし、一切知らされていない。

「やからや! そもそもあんさんの方向性とうちの方向性が噛み合わんかったんや! 素を活かせばあんさんは売れるはずやったんにそれを駄目にしたのはあんさんやで?」

「私はそもそもそれを解消しようとしてアイドルを目指したんです! それを前面に出す何ておかしいとは思いませんか⁉」

 渦中の人は未だにディーナと言い争っている。どうやら二人の間には意見の食い違いがあったようだ。

「それよりもあんさん将来の方考えなあかんのやないか? 三期生なら就職先考えなあかん時期や無いんかいな?」

「あなたがアイドルにしてくれるから私はずっと頑張ってきたんですよ! 今更契約破棄は許しませんからね!」

「ならうちの言う通りにした方が良かったんや。それを頑なに拒んだから落ちぶれたんやで?」

「まぁこんな感じなんだけど一番マシだったんだ」

 タナカの呆れ声に思わず頷き兼ねなかった。そもそもやろうと言う意思がある時点で私よりかはマシだと思いますけど。

 それとトレイシーさんは三期生だったんですね。それならわかるわけありませんよ。二期生ですらほとんど知りませんもん。

「過去のアイドルミストレイシー。残念だが君の時代は終わったんだ。今は流星の如く現れたシダ・メリアスこそが今の時をかけるアイドル何だ」

「あの、元々私アイドルになりたいとは」

「せやで! メリアスはんはあんさんと違って自らの特性を活かしてアイドルとして輝いとるんや」

「そもそも私の本性完全に隠蔽されているんですけど!」

 ネクロマンサーが本職ですから!

「やからあんさんも認めい。自分は貧乏やって」

「嫌です! 貧乏のアイドルって何ですか!」

 机をバンバン叩きながらトレイシーさんはディーナに訴えかける。

 と言うか貧乏?

「アイドルはそもそも属性ついてなんぼ。それを無理矢理自分のなりたいことに捻じ曲げようとするのがあかんのや」

「ディーナの言う通りでもある上にそれをやらされていると悟られることはファンにとってもつまらない」

「だからって貧乏は嫌なんです! 絶対アイドルになってお金持ちになってやるんです!」

 ……。

「ディーナさん。その人と相性良くないですか? お金貯めたいのならトレイシーさんの方がよくないですか?」

 思ったまんまの本音を告げる。

 事あるごとに美少女部の人からマニーを回収しているディーナ。最近は文化祭も意識してなのかそれ以外の一般男子、更には女子にも活動範囲を広げる予定だという。それには初めから私を追いかけてきていた美少女部の時とは違い、並々ならぬ努力が必要なのは言うまでも無い。

 それならば同じ目標を持っているトレイシーさんの方が相性はいいのではないのだろうか?

「それは余裕の表れですか!」

 けど、それが何故か逆効果になる。

「見ましたわよあの豪邸! 郊外と言う不便な位置にあっても不憫な生活をしていない表れですよね⁉」

「いえ、あれは故郷――みんなの借家でして、私だけの物じゃないんですよ」

「ええ見ましたよ! 執事さんとメイドさんがいる話ですよね! もしかしなくてもどこか異邦のお嬢様ですよね!」

 色々と当たってはいるが、それのどれもが皮肉めいた捉え方をしていて私を敵対視しているのが手にとってわかる。私のディーナと組んだらいいんじゃないという提案が嫌味に聞こえてもおかしくはない。

「それやで問題なんは。確かに妬みキャラちゅうのもあるがな、あんさんのはそれを通り越して怨念に近いもんがあんねん。それ言われ続けるとうちも責められとるみたいで嫌な気分になんねん」

「ええ、そうですよ! 皆に慕われて、美味しい物食べれて、いいとこ住めて、私に無い物全部持ってて!」

 うーん。ディーナの説得もまるで意味なしのようで、寧ろ協賛してくれていたはずなのに噛みつく始末。

「もうその辺にしておいた方がいいぞ? ディーナがこの学園でどれだけの権力を持っているかはわかっていないわけではないだろう。あのイシュタル王女ですら往なす存在に君が何を出来るというんだ? アイドルがプロデューサーの意思に反するとどうなるか」

「それは私に対する警告にも聞こえるんですけど」

 この人に逆らうとヨミガエルどころかヘイワ街すらただじゃ済まないと思います。

「いや、待つんや」

 その人物が動いた。

 ……動いてしまったと言うべきか。

 今まで出来る限りの事なかれ交渉術を繰り広げていたディーナがその交渉を中断させる。

 けど、それは決裂ではない。この女、笑っている。

「せやな。普段通りのやり方ばっかりや駄目や。それこそ自分の信念を貫くことも時には大事になる。ならそん時一番重要になるんはなんや?」

「そ、それは一体」

 唾を飲み込みタナカが問いかける。緊張しているように見えて完全に楽しんでいる感覚がわかる。もう次に行かなくても大体わかる。こういう場合は、私が一番損な役回りに着く。

「うちは何もせん! 口出しはせん! やからメリアスはんとトレイシーはんの二人は自力で自分なりのアイドルを披露してもらうで!」

「やっぱりそうなるんですか!」

 予想通りすぎる結果に椅子から立ち上がる。ええ、そりゃもう立ち上がりたくもなりますし、何ならこのまま帰ってベッドに入りたい気分です! もう知ったこっちゃ無いって言いたい位です!

「今回はタナカの努力でステージも販売所も勿体ないまでの時間を手に入れられたんや、二人が交互に使っても支障はない!」

「ふっ。アイドル様の為にしたばかりさ。それをまさか新旧の対決に持ち越すとは、流石プロデューサーディーナ、素晴らしい采配だ。それとだが僕の名前はタナ――Mr.プロデューサーだ」

 今更ですか。だいぶ浮かれていたのか自らの呼び名すら出てこなかった始末だし。

 ていうかこれって。

「それなら私は参加する意味がないんですけど。辞退させていただきたいんですけど」

 アイドルになりたくてなった訳じゃないから持ち味自体ないんですけど。強いて言えばアイドルになりたくない系アイドル?

「強制参加に決まっとるやろ!  参加せんかったら稼げるもん稼げんやろ!」

「口出さないって言いましたよね⁉」

  もろ出てますよね!

「んなら、やる気出させるようなことすればええんやな。そんなら負けた方は罰ゲーム。対決には付きもんやな」

  うげっ。また妙な提案を。思い出されるのは目の前にいるうるさい人へのお水やり。

「またあの時の悪夢が」

「減点すんで」

  もっかいあれはやりたくないので口を閉じる。

「それなら相手の言うことを一つ聞くと言うのは如何だろう。新星と先代の譲れない争いにおいて、相手の命令を素直に従うのは耐え難い苦痛。これは互いに全力を出さねばならぬだろう」

 またよくわからない設定を作り上げたタナカがディーナに提案する。

 そしてディーナはこの案に賛成するだろう、と諦めていたら思わぬ方向から賛同の意見が舞い込む。

「やります! その代わり勝った暁には私のプロデュース再開も約束してくださいね!」

  トレイシーさんが自身の復活を追加注文することでこの対決に参加表明する。

  後は私の意思次第で、

「決まりやな!  文化祭まで後一週間しかないから互いに頑張りや!」

「私の意思ぃぃぃー!」

  完全に無視された!

「約束守ってくださいよ! 後はえこひいきも無しですからね!」

「んなもんせんわい。メリアスはんのアイドルとしての情熱をうちは信用してんかんな」

「情熱もなにも強制ですけどね!」

 勿論私の意見は無視され、絶対に耳に入ってないであろうトレイシーさんは教室を出て行った。廊下を駆け抜けるが静かになった頃、ディーナは口を開く。

「んじゃメリアスはん頑張りーな」

「頑張りなって。まぁやらされるのはわかっていましたけど、今までディーナさんが準備してきた物を私が用意しなくちゃいけないんですか⁉」

 もうこの際罰ゲームも嫌だからやらされることには目を瞑るとする。

 けど、今まで嫌々でさせられていたことをいきなり自分だけで全てやれと言われると正直自信が無い上に、元よりやる気なんか出る訳が無い。

「あれや、普段うちらがどんな苦労しているか身をもって知ることが出来るいい機会やと思えや」

「思いたくも無いんですけど!」

 単に仕事量増えるだけじゃないですか!

 それならディーナも普段私がさせられていることをやってみたらいいと思います。朝しんどいですし、恥ずかしいですし。

「そもそも何が必要なのかも大体把握できていないのにどうすればいいんですか!」

 私の訴えに対してディーナは聞こえているのに聞こえていないフリをして口笛を吹く。この人本当に何もしない気なのか。

「それなら僕が手伝ってあげよう。これならミストレイシーの規約には反しない。勿論僕の一声、いや、アイドル様への信仰心があれば皆もついてきてくれるだろう!」

 それに対して頼もしい、頼もしいって言っていいのかわからない不安な助成が入る。

「まぁそうやろな。トレイシーはんは自分の方向性を無理にでも押し進もうとした結果ファンらしいファンもおらへん。それに変わってメリアスはんは万人受けしやすい多種多様なアイドルを目指していたおかげでファンも多いんや。手伝ってくれる人数が多ければ多いほどアイドルの負担は減るし、その分本番まで体力の温存が出来る訳や」

「それらしいこと言ってますが、私はアイドル目指してませんからね」

「それに美少女部だけやない、あんさんにはクリスはんやアーチェはんやカトリナはん。更にはミクシェはんもおるわけやから盛大なもん考えてみ」

 勿論私の反論は無視される。

「まぁメリアスはんが本気で手を抜かん限りは負けることは無いやろし、メリアスはんみたいな甘ちゃんなら罰ゲーム無しにするんやろう。まぁ今回はうちの好意で好きにやってもええで」

「甘ちゃんで悪かったですね。それに好きにやってもいいって言うのであれば私何もしませんよ?」

 文化祭を保健室のベッドで満喫します。

「んなら罰ゲーム決定やで」

「トレイシーさんがそんな酷いことは――どうでしょ」

 金持ちと勘違いして妙に敵視してましたからね。妬みが強すぎてえぐいことをしなければいいんですけど。

「社会勉強やと思ってやってみ。こう言っちゃ悪い思うんやけど、トレイシーさんは完全な噛ませ犬やかんな」

「噛ませ犬って?」

「盛り上げ役みたいなやつや。どうせ負けることが決まってるのに頑張る哀れもんの総称や」

「ひ、酷い言われようですね」

 まるで過去ひどい仕打ちを受けていた魔物の為に頑張っていたけど、最終的に悪者にされたネクロマンサーのようで心が痛くなる。

 それが今では逆の立ち位置になってしまった。勿論自分の意思では無いし出来ることなら避けたい事象であり、仲良くやりたいんですけど、ディーナはそんなこと絶対考えてないんだろうな。

 何とかトラブルも無く、出来れば楽に済ませる方法は無いか。

 たぶんある。

 あるんだろうけど、考えられない。

 こんな時クリスのような知恵、この場合ディーナの悪知恵の方があれば何か思いつくんだろうな。と思う

「こんなので大丈夫かな……対決」

 絶対駄目だろう。そして確実に皆に頼ることになるだろう。

 一期の時は絶対に無かった横のつながりに感謝しつつも不安になる。


 助けてもらえる。


 この時までそう思っていた。

 けど、私は嬉しいかな悲しいかな、ネクロマンサーでした。


 私は噛ませ犬であり、そしてはた迷惑だった。


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