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第1章-1 アイドルとアイドル

 怒涛の夏休みは終え、二期生の二学期が始まった。始まってしまった。

 そもそも夏休みと呼ばれるものが今期にはあったのだろうか?

 行事ごとの延期や学級閉鎖などが重なったせいで授業が延期、そのせいで夏休みの開始が遅くなったせいで夏休みの終わりも伸びたのでは無かったのだろうか?

 そういえばそうだった。

 そうだったに違いない。

 そうでなければこんなに眠い訳がない。

 夏休みは夜中に活動をして昼間いっぱい寝られるという素晴らしい日だったはず。なのに、こんなに眠いのは恐らく夏休みが足りてないからだ。

 だったらやるべきことは一つ。

「おやすみなさい」

 二度寝。

 ボォォォォォーン‼

「ふぁ! ふぅぇ⁉ うぉわわわわわわぁぁぁ‼」

 突如耳元に発生した爆音にさっきまで見ていた夏休み最高な夢から一瞬にして醒め、脳内が揺さぶられたせいでふらふらになった頭からベッドの下に落ちる。

「いったぁぁぁ……」

「ふぇっふぇ。いいショットやで~」

 目がぱちぱちしている中、聞きなれた声が響く。

「ディ~ナ、すぁぁぁん⁉」

 天地反転した私の目の前にはニヒルな笑みを浮かべたドワーフ娘が立っていた。

「前回のリベンジだと張り切っていたが、まさか登校日初日に寝坊する気満々な所まで当てるとはな」

 その横、すらりとした足のおかげで見上げると首が痛くなるスタイルのいいエルフが大砲のような物を担いでいる。そこから硝煙のようなものが立ち込めている。場所が場所ならボヤ騒ぎになりかねない量だが、ここは辺鄙な位置にある屋敷。周りに人が通ることなど無い。

「そりゃそうや! うちとメリアスはんの付き合いはもう二期目やで二期目」

「主君と奴隷ですけどね」

「せやな」

「否定してください!」

 せめて社長と社員ですよね!

「とりあえずこれで島での失態もチャラになったんでしょうね!」

 先ほどアーチェが呟いてたことから思い出したが、ディーナは以前島に仕事と言う名の旅行に行った際、アイドルの寝起きドッキリ作戦が突然の侵入者によって大失敗に終わったことを根に持っていた。

 今回はそのリベンジらしい。

「せやでせやで。それもいな、以前のを帳消しにしてくれるいいもんが撮れたで」

 投写水晶機(カメラ)を構えるディーナはさぞご満悦な様子。私が面白いように滑り落ちたのが滑稽だったのだろう。全く持って嫌な人だ。

「ディーナ、それはまずいと思うぞ」

「ええねんええねん! これは秘蔵コレクションとして手に入るお宝として密かに渡すことにするで」

 けど、どうやらそれだけじゃないらしい。

 アーチェが不安を募らせる一言を投写水晶(フィルム)越しに私を見ながら発する。我らがパーティーの良心が言うのだから多分まずいのだろう。

「ちょっと待ってください! 一体何――へっぶし!」

 催促しようとした時、不意なくしゃみが出る。

 この時期に風邪? そういえば何か冷える感じがするかも、どこからかと言うとお腹の辺りが。

 それに気づいた私はどうしても見たくなった。首を曲げ、自分自身のお腹を見る。

 そこにはパジャマが捲りあがり可愛らしいおへそが見えていた。

 そこまでならよかった。おへそなら前の水着の時、それ以前に普段のアイドル衣装でも出ている物が多い。

 それより先だった。暑さによる本能なのか、出来る限り上まで捲りあがっていたパジャマは私の胸部に引っかかっていた。

 つまりは――。

「見せてください! その投写水晶(フィルム)見せてください!」

「うちが見る権利はあってもあんさんに見せる権利は無い!」

「あります! 案件物です! それは私の社会生命を終わらせかねない凶器です!」

 ついこの前父上と交わした約束はなんだったのかと思うディーナの横行に何とかして投写水晶機(カメラ)を奪い取ろうと努力する。くっ、私より背が低いのにすばしっこくて捕えられない。

 このままでは私の人生が! そう焦っていた時だった。

「はいはい、それは没収ね」

「なっ!」

 私が四苦八苦する中でディーナの背後から声がすると共に投写水晶機(カメラ)がディーナの遥か上に浮く。その動力源にいたのは燃えるような瞳で今はとても冷ややか、と言うよりか呆れながら投写水晶機(カメラ)を見ている騎士。

「クリスさん!」

「メリアス。身だしなみ」

 バッ‼

「……見ましたか?」

「見たわ。見えたわよ。凄くムカつくのが」

 相変わらず妬みますね。私だってあなたの持つものが羨ましくなる時があるんですよ。

「皆がいるということは」

 ここに三人のパーティーメンバーがいるということは――恐らく。

「メリアスさ~ん朝ご飯ができましたよ。二人でブレックファーストしましょう」

「うぇ~……」

 やっぱりカトリナも来ていた。

「うちらの分はねえんかい」

「メリアスの為に作り過ぎた分を分けて頂くしかないわね」

「私そんな大食いキャラなんてついてませんよ!」

 毎回カトリナが作りすぎてるだけです!

「と言うか何で皆来てるんですか! 今日はアイドル活動が休みで尚且つ夏休み」

「現実逃避しない! ほら着替えなさい! アーチェこれ持って。ディーナには絶対に渡さないでよ」

「結局脱がされるー!」

 圧倒的腕力に夏休み寝不足なネクロマンサーが勝てる訳も無く私は成す術も無く生まれた姿にされ、学生へと成長させられた。

「お久しぶりですメリアスさ~ん! ご飯冷めちゃいますよ」

 屋敷の一階に降りると私のメイドよろしくと言わんばかりにカトリナが待ち受けていた。お久しぶりと言っていますが、一昨日のレッスンで会いましたよね?

「二学期開始前に友達の家で食事するなんて去年のメリアスだったら信じられなかったでしょ?」

「今期でも信じたくなかったですよ」

 もっと寝ていたかったです。

 けど、皆制服で自分も制服な時点で何か間違いが起きる訳も無く、今日から二学期は始まってしまう。

「で、何で私の館に来たんですか?」

「それは勿論メリアスさんと楽しく朝食してお喋りをした後昼食にお昼寝は勿論添い寝で……」

「あほぅ! 何であんさんも休む気満々やねん! ちゃうやろ! 二学期は始業式からもう次の予定組まなあかんのやから一日たりとも休ませられへんのや!」

 カトリナが二学期になっても変わらずに私と一緒にいたいアピールをするが、ディーナがそれを罵倒する。とは言うが、

「二学期って何かありましたっけ? 強いて言えば涼しくなったかなって」

「はぁ……やっぱり参加してなかったのね」

「闘技大会の時点で薄々は感じていたが、だいぶ避けていたんだな」

 一期生の頃は二学期に何の思いれも無かった私に対し、クリスとアーチェは呆れたように納得する。

「二学期最初で最大の行事言えば文化祭や! 学童が自ら店舗、催し物を築き、商売も出来る最高の期間、まさしくうちの為にある行事や!」

 あー……そういえばそんなものがあったような、無かったような。ここまで覚えていないとなると私は恐らくその日休んでいたのかな?

「金儲けだけじゃないわよ。学園内でやるんだから経営するのが生徒なら客も大半は生徒。つまりはあたし達なんだからお店巡りも立派な文化祭の楽しみ方よ」

「そうです! お店の方はディーナさんに全部任せて私たち二人で朝から晩までお店巡りをしましょう!」

「アイドルがおらんくて商売何か出来る訳ないやろ! メリアスはんは店の顔としてずっと働いてもらうで!」

「ずっと何て酷いことしないでください! メリアスさんはずっと私とお店を回ってその後私の部屋で一緒に夕陽とお星様を見ながら寝るんです!」

「あんさんもずっとやないかい! それも学園終わってからも一緒はおかしいやろ!」

「……あの」

 ディーナとカトリナがヒートアップしながら言い争う内容を大まかにまとめていく中で、私はあることに気付く。

「普段と変わらないと思うんですけど」

 これってただのアイドル活動ですよね?

「違うわよメリアス。あの二人が普段通りすぎるのよ。ねぇアーチェ」

「だな。去年はひたすら射的ゲームを開いていた三期生クラスの催しものに入り浸って大いに楽しんでいた」

「……文化祭は二日あるのにその催し物だけ一日で閉まってたと思ったらアーチェが原因だったのね」

 アーチェは詳しい理由を知らないけど銃を語るとディーナばりに口調が滑らかになる位銃をこよなく愛している。そんなアーチェだからこそ楽しめるイベントが以前の文化祭にはあったようだ。

「それ以外にはどんなのがあったんですか? 私一度も射的何かやったことないから楽しめなさそうです」

「慣れないうちは誰でもそうだと思うし、一度やってみれば楽しいと思うんだけどな……」

 アーチェが悲しそうに呟く。が、やはりやるからには楽しめる物がいい。

「例えばフリースローとか? バスケ部がバスケットゴールでビンゴをする奴」

「私バスケットゴールにまでボールが届いたことがありません」

「そ、それじゃ園芸部の余り過ぎた野菜で大食い大会」

「だから私はいつから大食いキャラになったんですか! 後それ処分に困ったからやってるだけですよね!」

「ええっとなら、演劇を見るとか! 私が一期生の時にも『窓割り少年と泥棒ネズミ』の演劇やってたけど、結構な人が来てたわよ!」

「あ、それはいいですね」

「でしょ! 演劇部の子が皆に指導して初心者丸出しながらも頑張ってる姿は後で見返したけど本当に笑えて」

「私演劇を見ると1分で寝れるんですよ」

「真面目に楽しむ努力をしなさいよ!」

「銃はいいんだけどな……」

 それぞれに言いたいことで盛り上がりすぎたせいで、あっという間に登校時間ギリギリになってしまい、結局朝食はほとんど食べられずに皆で焦って館を出ることになってしまった。


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