第3章-2 ここは報道部何だけどやってることがもはや
パッリーン。
……。
ドタドタドタドタ!
「何するんだ!」
「よっタナカ」
「タナカじゃない! 僕の名は、それより人の家の窓ガラス割るって一体どういう了見だって⁉」
「ノックしても出てこないと思ったからこっちの方が手っ取り早いかなって」
「普通にノックしてよ!」
「美少女に割られた窓ガラスの価値は?」
「プライスレス。得物と共に大切に保管させてもらう」
「真正ね……」
やっぱ来るんじゃなかった。
と後悔するももはや手遅れ。何か用事があると知られた以上、ここで帰るわけにはいかないし、この男が返してくれるとは思えない。
「で、僕の家に何か用かな? ミクシェちゃん。まさか君直々に告白に来るとは」
「勝手な妄想はしないで。変なことしたら社会生命どころか生物学的生命すら終わる記事を書くわよ」
「……うん、君らしいツンツンだね。一瞬肝が冷えたよ」
あんたの記事なら下手すると辞書並みに分厚い物が作れるわよ。
「とりあえず暑いから」
「ゆっくり休んで行ってよ。今君の誕生月の花でティーを」
パンッ。
「外に出るわよ」
「わかった! わかった! てか今そのペンの先から何か出てなかった⁉ その硝煙は何⁉」
「知ってもいいけど、知ったからには口外しないでね? もしくは口を縫う?」
「いいよ! いいから! もう答えは既に出てるから!」
ならよし。
こいつなら縫って! とか、撃って! とか言い出すかと思ったけど、流石に命は惜しかったらしい。もし、そう言われたら逆に私が精神的危険を感じてしまう。
何とかタナカを捕まえて外へと連れ出す。
かといって日陰のあるカフェテラスや風通しのいい公園に行くわけにはいかない。タナカと二人で歩いているだけでなく、二人きりでお茶している所を見られでもしたら私は発狂せざるを得ない。特に報道部の先輩たちは同部の人間を記事にすることを一つの楽しみにしている。いつ、どこで見られているかわかったものじゃない。
というわけで一番疑われにくい学園の一室に来た。
「こんな人目のつかないところまで連れてきて――まさか僕と大人の道を! 待ってくれ! 確かに君は美しい。しかし君をそういう目で見ると他の子に申し分が――わかった。わかったからそのペンをこちらに向けないでくれ」
口から反吐が出そうなことを言うから貴重な一発を撃ちかけてしまった。大きさの関係上あんまり弾入らないし高いんだから止めてもらいたい。
「今日呼んだのは勿論そんな色沙汰じゃないわよ。寧ろあなたにとっては程遠い物になるかもね」
啖呵を切ると一枚の紙を対面して座るタナカの前に差し出す。
「これってもしかしなくてもあなたたちの部の人が出したものじゃない?」
差し出したのは勿論今回の調査依頼書。情報を引き出す前にまずはこれから調べてやろうと思い差し出す。
「何々。――何するつもりなのさこいつ」
「知らないわよ。あなたたちは縁が深いでしょ? 呪い殺す気じゃないの?」
「あんな奴が呪いなんかで死ぬわけないだろ⁉」
その呪いのせいで一年もの間私の親友の存在に気付かなかったのはどこのどいつだっけ?
「じゃああなたたちの部の人間じゃない訳?」
「……否定はできないかな。藁にもすがる思いでここに辿り着いた奴がいるのかもしれない」
「そこまでするなら更生しなさいよ」
命かけてまであの部にいるとか。まぁ、そんな奴らばっかだけどね。
「じゃもう一つ。あなたはこの答知ってる?」
「何が好きで美少女から対極線上にいる奴の名前を知らなくちゃいけないのさ」
「いつもくんずほぐれずお楽しみじゃないの」
「止めろよ! 気持ち悪い!」
「ならあなたたちも普段の言動改めなさいよね」
そりゃもう護身銃すら撃ちたくなる位ですからね。
「そう。ならもう用済みね」
「今の君が言うとすごく怖いんだけど」
タナカが戦慄する。まぁ生物学的生命が終わるものを所持してるからね。当然かな?
「先生も全くわかんないって言うし、行き詰まりかな……」
「そうだと思うよ。寧ろこれ以上あいつに近づくこと自体が命取りだし……そうだな」
「何よ? じろじろ見て。エロ妄想するなら鼻の穴増やすわよ?」
「だから怖いこと言うなって。僕はあいつに触れない方がいいってことを教えたいだけだって。今から時間ある?」
……⁉⁉⁉
「だからそう身構えないでってさ! ペン先を向けないで!」
「条件反射! 生理現象! 絶対真理! こうなるわよ!」
「流石の僕でも泣きたくなる! 僕は将来どうやって子孫繁栄をすればいいんだ!」
もうそこら辺のゴブリンとでもしてなさい!
「もうここまで嫌がられると流石に考えるさ。ミクシェちゃん……もう、アヴァロンさんは軍曹に捕まったこと恐らくないよね?」
私の生理的無理が臨界点まで達したのを察したのか、呼び方さえ変えたタナカが問いかける。
「そりゃないわよ。猛獣を突くような変なまねはしないし、メリアスは確かディーナさんとイシュタル王女に巻き込まれて長距離走らされていたかな」
「それがEだ」
「E?」
謎の単語に思わず問い返す。
「ランクだ。A~Eまで存在し、上に上がるにつれて難度、これにおける難度というのはトレーニング内容、並びに監禁度のことを表すが、それが上がっていくんだ」
と述べた後、タナカは窓の外を見て、どこか遠い場所を眺めるように言う。
「Eは仕置きレベルだ。とはいっても普段慣れてない人から見ればそれでも拷問に近いが、僕たちにとっては生ぬるい限りさ」
「あれで生ぬるいって……」
次元の違いを思い知らされながら、タナカの話を聞く。
「Dまではその仕置きの延長線だ。時間が一日近くになる程度だ。だがそれ以降は違う」
タナカは一呼吸おいて再度口を開く。
「Cからは本格的な拷問だ。監禁場所ができて逃げられないようになる。そこで一日きつい鍛錬を受けることになる。実はここに一回だけシルバーロードのボンボンが来たことがある。――途中で意識を失って事件になりかけたさ」
「マジで⁉」
あの人なにしたの⁉ まぁ美少女部とは違った意味でいろいろやらかしそうな感じはしていたけど、まさか軍曹に捕まるほどなんて。
「そしてB。監禁付きで尚且つ期限付きだ。このBというのは非常にあいまいな規定になっていて、鍛錬の内容はCと変わらないが、いつまでいればいいのかはわからない。二日か三日か、果ては一ヶ月か。僕は一度だけこの鍛錬から逃げ出したことがあったが、場所は覚えていない。恐怖の中で逃げていたからマッピングなんて出来なかった」
「寧ろ逃げるって考えに至ったあなたがおかしいわよ」
逃げたところで学園に来ればまた会うわけだし、逃げてまでしないといけない理由があったのかしら?
「で、Aは?」
もうここまで来るとなにがあってもおかしくない。別の街か国か、もしくはもうこの世界にいないか。
あらゆる予想ができてしまう中でタナカを待つ。
いつになく真面目な顔。
そして小刻みに震える身体。
これだけ緊張感にあふれたタナカを見るのは初めてかもしれない。
そして少し落ち着いたのか、その口がゆっくりと開く。
「僕はそれを受けていない。そして今から向かうのは僕の先輩、先代のMr.プロディーサーがいる場所。その人がAを受けている」
「プロデューサーって……それ世襲制だったの?」
よくわからない決まりがあることを新たな、この場合はほぼ無駄知識に加えながらタナカの話を聞く。
「AはBやCとも違う場所で受ける。そこは」
大きく息を吸うタナカ。
出来る間。
張りつめた空気の元重々しくタナカが口を開く。
「軍曹の家だ」




