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第2章-4 フロースは死霊で冷霊だけど、コスプレって言えば問題ないよ!

「……かぁさん、大丈夫?」

「……こん、時間……悪い子ね」

「お母さんの顔が見たくて」

「……そう、ご飯、た?」

「うん。今日は外でだったけど、それより今日、面白いことがあったの」

 ――――。

 ――――――。

(おっ)

「そう、……は雪……って見たこと」

「うん。だから始めてみた時はお砂糖かと思っちゃった」

「……でも、本当……違……、ほら、お外に……え?」

「どうしたのお母さん――あ!」

 少女が窓の方に近づいて――と、隠れなきゃ!

 施錠が解かれる音が聞こえ、窓が勢いよく開かれる。

「雪だ!」

 少女の目の前には私が見ているものと同じ白い綿帽子が見えているのだろう。

 天気予報の人もびっくりでしょうね。上空の雲がいきなり一点に集中しだして、雪が降ってくるとか魔法みたいなことが起きるなんて。だいぶ大掛かりにはなったけど、水分を一か所に集めて凍結する雪を作る術の応用はうまくいったようだ。

「きっと雪女のお姉ちゃんが何とかしてくれたんだ」

「もっちろん」

「え? 今声」

 やばっ!

 ずりっ!

 ⁉ ⁉

 …………。

「いったぁぁぁーい!」

 外壁に僅かにあった出っ張りから少女とお母さんの様子を眺めていたが、つい声を出してしまい、急いで死角に入ろうとしたらそのまま足を滑らせて落ちるとか、死ぬかと思った。死霊が何を言ってるんだか。

「けど、何とかなったかな」

 今は身を乗り出して覗き見る少女の顔色すら窺うことが出来ない窓――私あそこから落ちたんだ――を見て呟く。

 ここからはあの家族の問題。私が立ち入れるのはここまでで、募金をすることも、勿論手術をすることもできない。

 そして二度と現世で会うことも無いのだろう。会うとしたら冥界で、それも何十年後になる。そう切に願っている。

「あ~いっつ……。それより戻んないと」

 えげつない圧を受けたお尻をさすりながらゆっくりと立ち上がる。雪を降らせる作業は一山の雪を作るなんて物とは比べ物にならないくらい重労働だった。

 魔力は使う、時間は食う。

 前者は必殺の無責任アタックで何とかなったけど、後者はどうにもならなかった。

「皆心配してるかな……」

 時刻は23時10分。フリー入場時間はおろか、閉場時間すら過ぎていた。


「あー! いた!」

 真っ先に気付いたのはらんらんだった。若さかそれとも活発的な野生の勘か。私の方を指さして近寄ってくる。

「どこ行ってたのよ! 開場時間になっても現れないし、電話しようにもフロース電話持ってないんだから、何かあったんじゃないかって心配したのよ!」

 マッチは一向に姿を見せなかった私に苛立ちを覚えているようだが、その中には優しさが含まれていた。

「同人愛好会の人から不良に絡まれてたって聞いて連れ去られたんじゃないかって不安になったわ」

 普段は何か起きてもスルースキルでなんでも軽く受け流すレーアですら心配してくれている。

「本当にごめん。私は大丈夫だから」

 と言った側から足をふらつかせる。

 明らかに大丈夫じゃない状態にマッチが手を差し伸べる。

「大丈夫じゃないじゃない! 無茶しすぎて風邪でも引いたんじゃない?」

「馬鹿は風邪ひきそうにないけど」

「そうですよ。馬鹿は風邪ひきませんからね!」

 酷い言われようだが、今回に関してはそう言われてもおかしくはない。

 我ながら結構馬鹿なことしたと思っている。

 さて、この状況でどう説明した物か。

 …………。

「雪降らせてきた」

「は?」

「同人漫画ビュアーを彩ろうと、ムード作りに雪のプレゼントだよ」

 イエイっと親指を立て、人差し指を皆に突きつける。

 ポカーンとした表情で固まる三人。

「はぁ……。ここに来てその冗談は止めてよね」

 マッチが大きな溜息をついて肩を落とす。

 そりゃそうですよね。何も考えずにド直球で言った私でさえ「この子何言ってるんだ」って思うもん。

「けど、今日って雪どころか雨の予報すらなかったよね?」

「と言うか都内で雪降ったことなんてあった? らんらん雪降ってるとこ始めて見たよ!」

 残念なことに即席で作った雪雲は既に雪を降り尽くしていた。が、その名残と言わんばかりの雪が地面に僅かではあるが残っている。

「そうよね。雪が降るなんて予報は無かったし、私が最後に見たのも随分前ね」

「流石昭和世代。雪を拝んでるなんて」

「ギリあなたたちと同じ世代よ」

「あぁぁぁぁ」

 レーアの命がけのボケをマッチが拳ぐりぐりで返す。

「で、何だけど。私疲れちゃったから、今日で帰るん」

「「「はぁっ⁉」」」

 そんな二人のやり取りが終わるのを待つこともなく告げた私の帰る宣言に三人が驚愕の声をあげる。

「帰るって明日はどうするの⁉」

「そりゃ帰るから行けないよ。そもそも明日だって22時からだし」

 当たり前だが篤志家に報酬は無い。どっちみち明日の入場時間は変わらない。

「何より力使い切っちゃったの! このままじゃ0時回るとあたしは可愛いお姫様からどろんどろんの水溜りになっちゃうの!」

「斬新すぎる本当は怖い童話」

「でも事実だよん」

「ある意味写真に納めたいから拘束したい。ブログに乗せてアフィリエイトで荒儲けする」

「邪な考えやめい!」

 レーアが良からぬことを考えていることを制す。けど、恐らくレーアはなんとなく勘づいている。

「うーん。でもどうせならもうちょっといっぱい欲しかったな。ワッホ前にかまくら作れれば並んでても寒くないから、来年はいっぱいよろしくね!」

「言っとくけどこれ凄く大変何だからね! かまくらどころか雪だるま作ることだって命がけだから! それより入場券あるなら並ぶ意味ないからね!」

 らんらんは社会的な思想に囚われることなく、私に更なる無茶なお願いを要求する。こればかりは私だけではどうしようもできない。

 レーアとらんらんの接し方を後ろの方から見ていたマッチだったが、小さな溜息をすると私に一つの袋を渡す。

「例の二冊買っておいたわよ。お金はいいから、それで風邪薬買ってきなさい」

「だーかーらーぁぁぁ‼」

 とは言う物のマッチの顔からは真剣みがほとんどなくなっていた。現実と言う物を一番真に受けている彼女でさえも、薄らと私の存在を肯定し始めているように見えた。

「さて。そうと決まったら私たちも帰りましょうか。誰かさんのおかげで終電間際よ」

「うわっ! 本当だ! 門限間に合わないかも……」

「付き添う? 私が説明するけど」

「え~。レーアの説得って何か効力なさそう」

「ほぅっ‼」

 間接的に社会適合能力を非難されたレーアが小さく唸る。アニメジャパンが進む中であっても、やっぱり純オタクの地位は未だに低い。

「なら私が後で電話するから、それよりもまずは駅に向かいましょう。それじゃまた来年ねフロース」

「待ったねぇ」

「明日会うと予想して」

 フラグとかじゃなくて本当に明日にはいないんだけどね。それもこの星から。

 手を振る三人は終電に間に合わせる為に走る。

 けど、

「ふわっ⁉」

 らんらんがすっころんだ。

「何やって、ほぅわっ‼」

 レーアもすっころんだ。

「都会人は本当に雪に弱いわね……ほら終電に間に合わないわよ! 早く起き上がる……」

「いった……」

「フロースの悪影響……!」

 何か遠くで私がディスられてる。とは言ってもそう思われるのは仕方ないか。今日はそこらじゅうでスリップ事件多発かな?

「……あーあ。何か損した気分」

 いざやったはいいが、喜ばれたのはごく少人数。おまけにその代償は同人漫画ビュアーときたものだから心残りである。

 もうこうなったらどろんどろんになりながらでも行ってやりたい気分ではあるが、事件になりかねないか。

「……まぁいいか」

 普段面倒事は極力避けるタイプだけど、真っすぐ向かい合うのも存外に悪くはない。例えそれが大きな犠牲を払ったとしても、物では計ることが出来ないかけがえのない物が待っている。そう思えば、今年の出来事は有だと思う。

「後は向こうか……」

 けど、この物語はまだ終わらない。

 最後に一人、大きな犠牲が待ち構えていることに、もうしばらく冥界にでも潜ってようかと残念ながら普段通り現実から逃げる自分がいた。


 ◇


「ふぅぅぅ……」

「て、どうしたんや!」

「夏バテか? 或いは熱中症の類か。どっちにしても突然来たな」

「前の合宿で少しは克服できたかと思うたんやけど、まだまだやないか」

「上を見て見ろ。今夏一番の暑さだって噂だ。給与が出なければ僕だって外出を拒みたかったくらいだ」

「んなこと言ったって『アイドルが採った新鮮野菜』を収穫するには今日が一番なんや!」

「それなら僕やディーナ、それ以前に農家の人たちが採った物はカウントされないのでは?」

「一個でも採った証拠投写水晶(フィルム)があればええねん。後はなすとトマトやで!」

「それを収穫する前に、まずはメリアスの収拾が第一だと思うが……」

「だ、誰か……たすけ、って……」


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