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第2章-2 フロースは死霊で冷霊だけど、コスプレって言えば問題ないよ!

 冷霊として生まれて(?)初めて冷たいという感覚を味わった気がする。人とは、それも友とは、ここまで冷たい物だったんだ。

「そもそも凍傷って何よ。こんなの寒いうちに入らないじゃん。進んでるのは寒冷化じゃなくて温暖化よ温暖化。もう暖房禁止令出す位にしなさいよ」

 マッチに見せてもらったニュースには凍傷で病院送りになった人がいたというが、東京はそもそも寒い部類には入らない。常に夜のヨミガエルは勿論、冬のヘイワ街にも劣る寒さであり、そもそもこの時期なのに一切雪が降っていない。

 ドラマではホワイトクリスマスのラブロマンスで一部視聴者の爆発しろ意欲を向上させているんだけど、私が来る頃には積もるどころか降ってすらいない。それでもこの時期を冬と称している。

「あー……待ち遠しいよ。愛割拠、ぼくかれだん」

 一年待った最新刊はこの場で戦を起こしてでも欲しい一物であるし、何より今はアニメジャパンの急成長期。まだ見ぬお宝が眠っている可能性は否定などできない。最近ではネット上で無料投稿できるサイトが数多く存在するようになったが、誰でも投稿できるというのは素人然り、その場のノリでやってみただけですぐに投稿を止める人も数多く存在する混沌の場。そこからダイヤの原石を探し出す人たちもいるみたいだけど、私みたいなずっとネットに張り付かずに立派に働いて見せている人にとってはお金を出してでも一流の物を見たい。

 で、このお金の使い道なんだけど。

「千円かける二で二千。余裕はあるけどな……」

 10時から。

 さっきらんらんから聞かされた非情なロスタイムが頭を駆け抜ける。

 まず1時間というタイムリミットでどれだけの同人誌を物色できるかを脳内シミュレートしてみる。

 ブースに駆け込む――10秒。

 本一冊を斜め読み――10秒(ただし漫画に限る)

 全て読み終えて次へダッシュ――10秒。

 以下繰り返し。

「きっつ……」

 一ブース30秒なら百以上あるブースを回ることはできるが、それは今の理論が全部通ったらの場合である。

 まずブース一つに本が一冊とは限らない。

 一般的な漫画家さんは一年に単行本なら三~四冊は出版する。それはノルマやらアシスタントがいるやら、何よりそれが本業だからというのが一番である。

 一方で同人誌の方だと大概は一人で作成しており、何よりそれだけ食べていける訳じゃないので実業が存在する。

 それでも趣味を大事に、何より好きでいる人たちは数少ない時間を利用して複数の作品を作り上げてしまう。それは私たちにとってはものすごくありがたいことである。

 だからこそ全部読まずに適当に一、二冊読むのは宜しくない。

 そして、それを考えると10秒の斜め読み自体が失礼になりかねないからやっぱりある程度読む必要性がある。

 それから時々あるのが感想を聞かされること。

 ある程度馴染みのある作家さんになると時々感想を聞いてくる人がいる。

 次のブースにも向かわなくちゃいけないから面倒。と思うかもしれないが、これも大事なことで、作家さんの向上心やポテンシャルの維持。何より仲が良くなれば作家さん同士の寄合に参加させてもらったり、中には非売品の物をくれたりする人もいる。

 雷光蟋蟀さんは既に人気を博していた時期に出会った人だったので、私なんてファンの一握り程度にしか見てないかもしれないが、ぱーやんさんはデビュー当時から常に愛読しているからか、それとも私が目立つからなのか、顔が割れていて毎回声をかけられる。

 今頃マッチ達はぱーやんさんに会っているのだろうか? 私がいないことをどう説明しているのだろうか? 恐らく直球で伝えて笑いの種にしているんだろうな、ちきしょー。

「はぁ……にしても何しよっか……」

 もう2時間は経ったかなと公園の時計を見てもまだ8時。30分しか経っていない。

 ニュースの人みたいに凍傷になんかならないから別段ここで待っていてもいいが30分でこれならその四倍もの時間耐えられる訳がない。かといってどこかで時間を潰すにしても無駄なお金は使いたくないから、結局立ち読みになってしまう。

 また同じ書店に入るのも嫌だし、近くに他の書店が無いし、それ以上に暑いのがいや。

 寧ろ、ワッホに行きたい意欲が、他の意欲を全て掻き消してしまっている。

「寧ろスタッフに成りすまして裏から入るか……」

 そして、その意欲がいつの間にかスニーク潜入という謎の結果へと結びつくこととなる。

 いや、謎と決めつけるにはまだ早い。私は戸籍がない上にいざとなれば冥界に戻ることもできる。そう考えてみれば捕まるリスクはかなり少ないし、ワッホに入ってしまえば流石にチケットの確認を随所でしていることも無いだろうから安全になる。

 これは、意外といけるかも。

「よし! まずはワッホ周辺を確認だ!」

 味方は無し、私単独でオペレーターもいない。

 成功確率は未知。けど、成功させなければならない。成功させなければワッホへの道はない。

 受け付けをしている正面玄関を避け、できる限り一般市民を装い、周辺を周る。

 そうしているうちにワッホ裏手に差し掛かった時、あるものが見つかる。裏口だ。

 正面みたいにガラス張りの大きな二枚扉が自動で開くものではなく、ノブを回して入るごく一般的な扉。

 明らかに来客用でない扉の近くに人影はなく、大きなイベントという割に警備は薄い。

「これは千載一遇のチャンス!」

 監視カメラの存在を確認しながらゆっくりと近づき、ノブに手を触れる。そして、

 ガチッ。

「……ですよね~」

 勿論鍵は閉まっていた。

 よく見ると最近出回っているカードキー型であり、認証パネルが扉の横に備え付けられているではないか。こうなってしまえば自慢? のピッキング能力すら活かせない。

「こうなったら誰か来たところを奇襲してカードキーを奪うしか」

 スニークは侵入から最終的に暗殺、いや殺しはしないけど拝借する形に移り行こうとしていた。

 そうなればどこか物陰に隠れて……と実行に少しずつ移ろうとしている中で、ふと冷静になる。

 思い出されるのはマッチが見せてくれた同人漫画ビュアーの凍傷事件。

『同人漫画ビュアー、今度は強盗か⁉

 十二月二十六日。東京幕張のワッホで行われていた同人漫画ビュアー裏口にてスタッフが倒れているのを同業者が発見して事件が発覚した。倒れていたスタッフは「何者かに背後から襲われたと供述している」スタッフの荷物を確認したところ、ワッホ裏口から入るスタッフ用の認証カードが紛失していることがわかった。

 警察は何者かがスタッフを襲い、カードキーを奪ってワッホ内に侵入したと推測し、事件の捜査を行っている。

 昨年の凍傷事件に続き、同人漫画ビュアーの運営に対する怠慢さが露見され、今後の――』

「いやいや、それは駄目!」

 自らの手で同人漫画ビュアーの幕を下ろすところだったことに顔を振り、意識をしっかりと保たせる。

 私が捕まるのは良く――はないけど、同人漫画ビュアーが無くなるのは本当に駄目! それだけはご勘弁くださいお代官様!

 ならばそのような悪行からは金輪際足を洗うんじゃな!

 へへぇー!

 ……。

「はぁ……」

 空しい。

 結局は待つのが一番なんだな。この世の中は良くできている。詐欺だの不正だの言われているけど、最終的に悪いことは自分に返ってくるようにできている。

 強大な敵に打ち負け、反対周りで元いた公園へ戻ろう。

 顔をあげた時それは見えた。

「窓?」

 ⁉

 窓が空いている!

 こんな寒いのに換気だろうか?

 通常の横開きよりも更に上、換気や通気などを行うための窓が外へと開いている。

 本来出入りするために作られている物ではないが、幸いにしてフロースは小柄で幼児体型――ちっ、これくらいなら頑張れば入れる。

 問題は高さだが、近くに何か。

「あるよね~」

 そこには大量の本の運搬などで使っていたに違いない段ボールの山。

 一つ一つは厚みのない物でも、これほどの量があれば、下手すれば二階にすら到達できる。

 後はこれをアクションゲームよろしく、引っ張って積んで、引っ張って積んでを繰り返す。

「よし、届いた」

 それによじ登って手を伸ばせば、何とか窓に手をかけることできた。

 後はこの隙間。何とか入れないだろうかと、まずは腕を中に入れ、

「お姉ちゃん何してるの?」

 !?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?

 突然の声に背筋が凍りつく。声は後ろから聞こえた。

 明らかに私の怠りだ。

 スタッフが入る裏口の近くなら誰かが来てもおかしくはない。それにこれだけの段ボールを積み上げていれば嫌でも目に付く。

 覚悟を決めて後ろ振り返る。

 そこには同人漫画ビュアースタッフ用のジャケットを羽織った見覚えのある人が……いない。

 寧ろ目線の先には誰もいない。

 じゃあ一体誰が、と思った時だった。

「お姉ちゃんどこ見てるの?」

 聞こえた。聞こえた先は、下?

 声の聞こえた先を見てみればいた。人だ。

 人だけど、少女だ。

 年は十行くか行かないかで、ロングスカートで若干の防寒機能を備えた上着姿で、見た目や服装、何より年齢からして同人漫画ビュアーのスタッフではない。

 じゃあどうしてこんなところに?

「お嬢ちゃんこんなところで何してるのかな?」

 お姉ちゃんのパンツ見たいの? 今日は白だよ。

「……私が先に言ったんだけど」

「えっ、あっ」

 そういえばそうだった。

 私のやっていることと言えば侵入。例えスタッフじゃなかったとしても、この子にとっては道徳的に悪い。

 だから、これは、これは。

「ちょっと涼しんでたの!」

 何を言っている私はぁぁぁ‼

 意味が分からない。こんな裏路地で、こんな窓の隙間でどう涼む気なの! いかれた? 私頭いかれたの⁉

「何で涼むの? 今寒いし?」

 そりゃそうですよね! 小学生でも暑い、寒いくらいは習いますよね! というかわかりますよね!

「そ、そ、それはね。私が冷霊だから! 私は冷たいところが好きなお化けだから!」

「れい、りょう?」

 てそれ同人漫画ビュアーでの、というかこの世界でのコスプレの設定! この子絶対サンタクロースとか信じている年じゃないし!

 うわぁ……絶対疑ってるよね。というか私完全に今目が泳いでいるよね。そりゃそうよね。私この子から目を反らしてるし。

 このままじゃ信頼も糞もあったものじゃない。せめてもの信用とばかしに少女の方を見る。

「雪女さん?」

 あれ? 反応が違う。

 寧ろ少し信じちゃってる?

「ちょぉっと違うかな? あっちは妖怪。私は死霊」

「でもそんなの知らない。冬のお化けは雪女しか、知らない」

「そ、そうよね。まぁ似たものだし、私知り合いだしだちともだし」

 そう思うのも仕方ない。この世界に冷霊という存在はおらず、変わりに寒いところにいる存在として「雪女」という存在がいる。変に疑われるよりかは相手の言うことに同意させた方がいいかもしれないと相槌を打つ。

 そしたら、だ。

「っ! お願い雪女さん!」

「へっ? ふぇっ⁉」

 その少女は私が雪女であると告げた途端、目の色を変え私にしがみついてきた。

「私の、私のお母さんを」

「ちょ、ちょっと待って! 君がフレンドリーなのはわかるけど、今この体勢だと!」

 案の定だった。重なっていたミルフィーユ段ボールが断層崩れを起こし、一気に瓦解した。

「いったぁぁー……」

 激しい音を立て段ボールが崩れ去る。幸いにしてお花畑の横はお芝生だった為に大きな怪我をせずに済んだ。

 けど、幸運と言う物は長くは続かない。

「ん? 何か変な音しなかったか?」

「外からみたいだな」

 やっば!

 さっきの雪崩と落下音は中にまで届いたみたいで、中から男性の声が聞こえる。あぶな、あのまま入っていたら男子トイレに女の子がドッキリ侵入とか、口止めの為に薄い本発展とかやばい線行ってたかも~。

 って言ってる場合じゃない!

「行くわよ!」

 女の子の手を引き、何が何でも入ろうとしたワッホから一目散に逃げだすのであった。


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