六十五億+六人の運命は、安い焼き肉から (第二部完結!)
「くそっ俺たちはどうすればいいんだよ」
思わず愚痴が出た。
いつものケーキカフェ「オーバーロード」。今日、つまり火曜は定休日だ。年末も押し迫った頃、俺達は陽菜の実家でぐだってるってわけさ。
「死にたくはない」
「でもあっちの世界も救いたいでしょ、思音」
「あかねの言う通りだよねえ。なんたって、あたしらが生まれて育った世界だものね。それを救うために邪神を倒したわけだし」
珍しく、絵里が溜息を漏らした。
「まさか私達がラスボスになっちゃうとは、ですね」
くいっと眼鏡の位置を直すと、空が、湯気の立つコーヒーのカップを口に運んだ。
「……おいしい」
「……」
「ルナ、なにを考えている」
「私達が……」
下を向いて何かを考えていたルナが、顔を起こした。ルナの膝では、「ちくわ」が寝転んで喉を鳴らしている。
「私達が邪悪になれば、死なずに解決できるわ」
「むりですー」
陽菜が、ソファーの背もたれに体を倒した。パフェはしっかり手に持ってるけどな。
「陽菜、正義の味方だもん」
「それに、全世界の人類を滅ぼすくらいやらんと駄目だぞ。……連中の言葉を信じるなら」
「だよねえ」
「六十五億人殺すくらいだったら、俺たち六人が死ねばいい。差し引き六十五億人の黒字だからな」
「六十四億九千九百九十九万人九千九百九十四人でしょ」
「それ言ったら、もともと六十五億人がアバウト数字だし」
「……冗談はさておき、六十五億+六人、それにあっちの世界のみんなも全部、生き残る方法はないかしら」
ルナの言葉に、全員黙り込んだ。「ちくわ」が喉を鳴らす音だけが、かすかに聞こえてくる。
「あるさ。……というより、あると信じたい」
「ご主人様の言う通りですよね」
「あいつらに聞き出したところでは、幸い、あっちの世界はすぐに滅びるってわけでもないらしいしな」
俺は全員の顔を見回した。みんな、真剣な眼差しだ。
「高校にいる間、つまり二年と三か月かけて、なにか考えて解決しようぜ」
「……もし駄目だったら」
「あかね、そんときゃ決まってるだろ」
黙ったまま、あかねが頷いた。みんなも押し黙っている。俺達は十年も放浪した、気心の知れたパーティーだ。互いの考えくらい、全員わかる。
「死ぬのね」
ルナは、淡々とした口調だ。
「それしかないだろ」
苦いコーヒーを口に含むと、俺は続けた。
「みんなも、それでいいだろ」
聞くまでもなかった。全員、特になにも言わない。同意ということさ。
「どうせあたしたち、捨て駒の使い捨てパーティーとして送り出された身の上だしね」
「生きて邪神を倒し、それにこっちの世界で楽しくおまけ人生を過ごせましたよね」
「空ちゃんの言うとおりだよね」
「なんたら株式会社どころじゃなくなるか。飯食うために働く以前に、死ぬからな」
「この世界での両親には悪いけどね」
「報道すごいでしょうね。一文字の令嬢、部活仲間四人と、あろうことか担当教師まで一緒に心中とか……」
「俺らの関係、あることないこと書かれるだろうな」
「この世界の両親に悪いですー」
「ま、生きてる間にせいぜい親孝行して、最後はうまいことお別れしておくんだな。それに……」
吉川の顔を思い浮かべた。
「同級生にも取材の嵐だな」
吉川の奴、陽菜に関して余計なことをくっちゃべらなけりゃいいが。
「まあ、死ぬまで、あと二年ある。それまでは方策を探しつつ、せいぜいこの世を楽しみましょう」
ルナの言葉に、なんとなく和んだ。だよな。誰だっていつ死ぬか、わからない。明日、いや、一時間後にトラックにはねられて死ぬかも。俺達は、それが二年後ってわかってるってだけさ。むしろ計画的に生きやすくなったと、言えなくもない。
「にしても……。なら、あれねー」
悪い笑顔を、絵里が浮かべた。
「結婚の夢は砕けるし、あと二年で死ぬ。ならもうその前に事実婚生活始めるしかないね」
「は? いいよ俺、おっさんだし。今更幼稚な恋愛とか笑っちゃう」
「文句は言わせない」
真剣な顔だ。
「あたしたちには、もう時間がない。人生を加速させるしかないじゃん」
「普通の人が五十年かけて楽しむことを、二年に圧縮」
「おいしいもの食べて、みんなで遊んで」
「それに……恋愛だって」
なんとなく全員から、熱い瞳で見つめられた。いや「ちくわ」以外の全員ってことだけど。猫に色目使われたら、俺はもう首くくるよ。
「そ、それよりさあ……」
とにかくやばい。逃げないと。
「それより、まずは方策を考えようぜ。うま飯でも食いながらさ」
「んじゃあ先生、みんなにおごったげる。安い食べ放題焼き肉で悪いけど」
「いいね」
絵里の提案に速攻で乗る。話を逸らさないと。
「その場でいろいろ考えようぜ。俺たちが善良でありつつ邪悪になる方法をさ。……さて」
俺が立ち上がると、みんなが続く。食器を片付け、入り口に鍵をかけて。
「ごあーご」
「あーちくわ。あんたはお留守番ね 猫なんか連れてけないじゃん」
「てか喋れるだろお前、ケットシーに戻ったし」
「ごあーご」
「どうも自在には無理みたいね。多分戦闘フィールドの力場に触れるとケットシーとして再覚醒するんだわ」
「ごあーご」
ルナの推測を聞きながら、またしても金玉なめてやがる。
俺達は、オーバーロードを後にした。
振り返ると、ちくわが、意味ありげに俺の瞳から視線を逸らしたところだった。
(第二部 完結)
通読ありがとうございました。第二部はこれで完結です。
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第三部は構想中。
ある程度書き溜めてから投稿再開します。




