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異世界おっさん、日本転生して「魂の仲間」を再結集 ――誰が俺の嫁かわからなくなったし、好き勝手に生きるわ!  作者: 猫目少将@「即死モブ転生」書籍化
第二部  01 彼方よりの使者、絵里の「お仕置き部屋」に降臨

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01-5 ちくわvs絶望パーティー

 体を大きく縮め、ケットシーは攻撃体勢を取った。あかねがオリガミのヒトガタを大量に撒く。ヒトガタは俺達パーティーを半球形に囲み、防護シールドの役を果たした。


「ごあああーご」


 一声高く吠えると、ケットシーの体が3倍くらいに大きく膨らんだ。そのまま跳躍し、強烈なネコパンチを放つ――が、ヒトガタに弾かれた。


「うん、なかなか強力にゃ。やはり邪神を倒したのは、あんたらか」


 跳んで元の場所に戻ったケットシーは、弾かれた手を舐めている。


 ケットシーは、モンスターだ。だが俺達が元いた世界では、悪意を持った攻撃者というより、気まぐれないたずら好きの属性を持つ。集団で動くのも嫌い、繁殖期や部族の集会を除くともっぱら単体で行動し、さまざまな罠や唸り声で旅人を脅かして暇を潰している。


「答えてもらおうじゃない。さっきの疑問に」


 ルナが一歩前に出た。前衛だけあり、さすがに凄い殺気だ。気圧されたのか、ケットシーがごろごろ喉を鳴らした。


「わしらの種族は、知っての通り、強い耐性が特徴にゃ。だから送り込まれた。あんたらを探るため」

「探る?」


 ケットシーは話し始めた。そう。俺達が異世界たる現代日本に転生してからの、「あっちの世界」の歴史を。


 俺達が繰り広げた最後の戦いの結果、世界から邪神の邪気が消え、うろたえた魔族は総崩れで逃げ出した。絶滅寸前まで追い込まれた人類との立場は逆転。各地で魔族残党討伐戦が繰り広げられ、数年で魔族は平定され、邪気の山のはるか奥深くにまで追い込まれた。


 一方、邪教総神殿に雪崩込んだ人類正規軍最強部隊は、神殿最深部「生贄の間」で、邪神討滅の痕跡を発見した。邪教の総統、それにルーナが倒れていたのだ。生贄の間に満ちていた冷気のため、凍結した状態で。死後おそらく数年と推定され、ルーナが身に着けていた装飾物から、氏族が特定された。わかったのは、十年以上も前に行動を開始した、無名の斥候スカウトパーティーが邪神と総統を倒したという、驚愕の事実だった。


 パーティーの残り五人が死体すらないのはなぜか。生贄の間にあった魔力階差機関の調査により、多元空間の異世界に転生したと解明された。ルーナの骸から呪いの痕跡が解読され、死の呪いから逃れるため転生するしかなかったとも、判明した。


 世界を救った勇者一行を呼び戻そうという気運が高まり、転生転移の研究が急速に進展しつつある。


 一方、食い詰め者や無頼の徒の一部は、勇者一行との命懸けのバトルを望み、そちらはもっぱら生贄を用いる呪いでの転移研究が進んでいる。敗退した魔族の一部も、復讐のため、生贄を用いた転移を研究している。


 人類主流派は、こうした危険を俺達に報せようと考えた。そして――。


「そして、お前が送り込まれたんだな」

「そうにゃん」


 ケットシーは頷いた。


「わしら一族は、強靭な耐性能力が取り柄。ケットシーであれば、これまでに構築できた稚拙な技術でも、かろうじて死なずに転送させられるから。……まあ実際死にそうになったし」


 森本さんという生徒が救ってくれて助かったと、ケットシーは続けた。


「わしが送り込まれたのは、あんたらに警告するためさ。厄介な連中が、近々、こっちの世界に顔を出すからとにゃ」


 自分はケットシーの傍流王族の王子だと、ケットシーは自己紹介した。長く続いた自分語りから垣間見えたが、要はいたずらが過ぎた乱暴者で、これ幸いと異世界ニホンに厄介払いされたらしい。


「ならお前、攻撃してくることないじゃんか」

「いやいや。勇者一行かどうか、実力で確かめないと」


 ケットシーは首を振った。


「それに強いやつと戦いたいのは、ケットシーの本能みたいなもんだにゃん。加えてわし、契約によって強大な――」

「あんたが暴れたいだけでしょ、どうせ」


 ルナの冷たいひとことに、ケットシーは毛を逆立てた。


「違う違う。本能だにゃん」


 一声唸ると、また飛びかかってきた。あかねのオリガミにまた弾かれると思いきや、ネコパンチとネコキックの合わせ技で、オリガミシールドを蹴破って、そのまま陽菜に飛びつこうとした。


「ちっ」


 ギリギリのところで陽菜を抱え、ルナが飛びしさった。


「絵里。やっちゃって」

「はいよー」


 絵里が超強力なドーピングを、ケットシーに注ぎ込んだ。ドーピングはサイキックな技だから視覚では捉えられないのが普通だが、強力すぎて空間が歪み、絵里とケットシーの間に紫色の波動がうっすら見えているほどだ。


「ぐ、ぐぐぐ、ぐにゅーっ!」


 奇妙な鳴き声と共に、ケットシーは苦しげに体を縮めた。そのまま、高圧に押し潰されるかのように、小さくなる。逆だっていた毛も、体に密着するようになだらかになった。


 そして――。


「ごあーご、ごあーご」


 最初に見たときのサイズに戻って、鳴き始めた。


「絵里、もういいわ」

「わかってる」


 技を収め、絵里が殺気を解いた。


「……そもそもケットシーなんか、あたしらと戦おうなんて百年早いっての」


 注意深くケットシーを眺めていたルナが、話しかけた。


「どうあなた、もう気が済んだでしょ」

「ごあーご」


 きょとんとしたまま、ケットシーは俺達を見上げている。


「これ、まさか……」

「絵里ちゃん、やりすぎたんだよ。この子もうネコになってると、陽菜思うな」

「どう思う。思音」

「うーん……」


 あかねに振られて、俺は唸った。


「殺気もないし、モンスターの気配もない。……多分これ、絵里のドーピングでモンスターとしての能力が、脳の奥深くまで圧縮・収納されたんだな。つまりこいつは――」

「もはやただの野良猫か」


 腰に手を当てると、あかねが溜息を漏らした。


「どうすんの。これ」

「いつ元に戻るかわからないから、このまま自由放免は危険だよね」

「じゃあ飼っちゃえばいいよ。ねえ。ちょうどペット欲しかったしさあ。部室の飼い猫。ねっ絵里ちゃん」

「そうだなあ……」


 陽菜に聞かれて、絵里は首をひねって考えている。


「迷い猫保護ってことにしとくか。『学園の癒やし担当』とかいう話にすれば、飼っても文句言われないだろうし。ハゲ校長だって、一文字のお嬢様公認となったら、手を出せないじゃん」

「まあ……そうねえ」


 渋々といった様子で、ルナは頷いた。


「こうなるとあれだね。名前、名乗らせとけばよかったね」


 あかねが笑った。


「名無しかあ……」

「面倒だから、ちくわのままでいいじゃん。本ネコも喜んでるみたいだし」

「ごあーご」


 わかったかわからずか、ケットシーが鳴いた。


「じゃあこいつはちくわだ。ちくわ王子。餌はカリカリとちくわな」

「ごあーご」


 ちくわは、うれしそうに尻尾を振った。


 こうして俺達六人パーティーに、ペットが加わったわけさ。まあテイマーもいないし使役はできそうにないけどな。そもそも能力がもう封じ込められたからさ。

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