転生スローライフは、カードゲームから (第一部完結!)
本エピソードだけ、神視点で全員の心の声を書いてみました
「どうせ直すんだったら、もっと豪華にすれば良かったのに」
現代日本生存研究会の新生部室で、あかねが愚痴る。「局地的竜巻」で全壊した現代日本生存研究会部室は、プレハブで建て直された。窓は落ちなくなったけど、夏も冬も辛そうだ。
「場所だって、なにも元どおり裏庭に作らなくたってさ……」
俺達はテーブルに陣取り、互いの手の内を読み合うゲームのカードを広げていた。まっいつもの「部活」だな。それぞれ十枚ほどの手札を持って、横目で他のメンバーをちらちら見ている。このゲームは、それなりに奥が深くて面白い。
「あっ、絵里ちゃん、そのカード切っちゃやだ」
「知らないよ、陽菜。あんたの都合でゲームなんか進まないんだから」
「そうだよ、それぞれが戦略を立てて、それを戦術までブレイクダウンし、局地戦を戦う。それが戦争じゃん」
「でも、ただのゲームだよ、これ。あかねちゃん」
「私たちは、あっちの時空で戦い続けたじゃない。その延長よ」
言ってから、ルナはふと考えた。
――私はルーナではない。だから思音の婚約者でもない。でも……でも、ルーナの身体的情報を与えられ再現されたホムンクルスだわ。それに記憶まで移植されて。……ということは、「ルーナそのもの」ってことよね。なら結婚の約束は、今でも法的有効性を保っているはずだわ。今度、思音を改めてお父様に紹介し直さないと。将来の跡取りなわけだし。
「ルナの言うとおりね。これだってあたしたちの戦いよ」
寒くなったのでめっきり部室内消費量の増えたココアを、あかねは味わっている。
――婚約者はルーナだってわかった。でも彼女は残念なことに、はるか遠い時空で倒れた。あたしたちを救うために……。ありがとうルーナ。でも、思音だってこれから生きてゆく。もう解き放ってあげて。……あたしが恋人になってもいいよね、ルーナ。あたしたち仲良しだったし……。思音は傷ついてる。あたしが癒してあげるのを、許してちょうだい……。
「そうかなあ……。陽菜は、みんなと楽しく過ごしたいだけなんだけど」
陽菜は不満気だ。
――あかねちゃんもルナちゃんも、他のみんなも思音にキスして、あいこだもん。これでいいよね。でも、胸を触ってもらったのは、陽菜だけ。それも二回も。うふ。……これ、前に吉川くんが話してた「既成事実」ってことだよね。わあーっ、なら、陽菜が今は思音の「婚約者」ってことだね。またキュッポンしてもらおうっと。それで、今度こそCカップのブラ見てもらうんだあー。こないだ買ったけど、不良品らしくて大きすぎたから。一緒に買いに行ってもいいなあ……。
「ルナさんはそう言うけれど、自分の戦略を隠して進むだけが戦争じゃないと思うんです。正直にすべてを明らかにしたら、相手国の世論も変わって譲ってくれるかも」
朴訥にそう語ると、空は俺をチラ見した。
――ご主人様、ルーナさんが死んだってわかってさみしそう。いくらルナさんがいるとはいえ、本人じゃあないし。私がなぐさめてあげないと。だって……だって私、思音さんのものになったもの、あのとき。禁断のページをむりやり開かせられて、恥ずかしいページを……。指だって入れられちゃったし。私たち、一心同体ってことだよね、一生。
「世論を語ってて、なんで赤くなってんのよ、空。ヘンな娘だよねえ、本当に。戦略とかなんとか、あんたたち考えすぎなのよ。もっと自分の欲求に素直になれば、道も開けるってもんだわ」
絵里は、スルメの足を食い千切った。
「絵里、猫みたいだぞ」
「まあまあね。ほんやら堂のスルメは」
――改めて考えてみれば、思音は生徒、あたしは教師じゃん。ってことは、思音の成績を生かすも殺すもあたし次第。補習ってことにして、女子寮に確保してある秘密のお仕置き部屋に誘い込めば……。キスの初物はあたしが頂いたし、「もうひとつの初物」だって……。うふふふふ、待ってろよ思音。先生の大人の魅力で、メロメロにしてあげるからね。
「でもさ、ゲームはゲームだろ。与えられたカードで戦うしかないじゃないか。そりゃ運の良し悪しはあるさ。でも全力で戦えば、結果が悲惨でも納得できるってもんで」
俺は、あかねのカップを奪い取ってココアを飲んだ。あかねのやつ、まっかになってやんの。転生して、ずいぶんウブになったもんだ。会った当初のピリピリしたアカネを思い返して、俺は噴き出しそうになった。
俺は邪神に乗っ取られそうになった。そいつを倒したとはいえ、まだよこしまな存在が、体に潜んでいる。いつの日か、それは俺を食い破って顕現し、ここに集う仲間を殺し、世界を滅ぼすのかもしれない。
もちろんそんな事態は防ぐつもりだが、未来は誰にもわからない。だから俺はもう、勇者でも悪魔でもない。この世界と折り合いをつけ、勇者でも悪魔でもなく、せいいっぱい生きて行くさ。ここにいる魂の仲間で工夫すれば、全員食ってく手段はなんとかなりそうだし。今度こそ、スローライフを楽しんで余生を送るよ。
――なあ、それでいいだろ、ルーナ。いつか俺も死ぬ。そしてお前と会う。天国だか地獄だかで、昔話をしようじゃないか。
俺は宙を仰いだ。ボロいプレハブだが、この天井裏にもヤマネが戻ってきた。ヤマネは今頃、冬眠に備えて樹の実をせっせと蓄えているはずさ。
通読ありがとうございました。第一部はこれで完結です。
評価・ブクマありがとうございました! 超励みになります!!
第二部からは週一更新になります。毎週金曜夜公開。
余裕のある週は、火曜夜にもボーナス公開します!




