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異世界おっさん、日本転生して「魂の仲間」を再結集 ――誰が俺の嫁かわからなくなったし、好き勝手に生きるわ!  作者: 猫目少将@「即死モブ転生」書籍第二巻3/13より好評発売中!
09 招かれざる客? そんなん楽勝だろ!

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09-3 転生の真実

 絶望パーティーの仲間がホムンクルス相手に激しく戦闘している頃、俺は体内で必死に邪神と戦っていた。邪神は俺の心を砕き、体の支配権を得ようとしてくる。俺はそれを押し返そうとする。


 一進一退がしばらく続いたが、体が覆われてゆく中、邪神は次第に優勢になった。そして、ついには俺の脳に触り始める。記憶領域である海馬の深い領域に侵入され、その瞬間、俺は最後の戦いの場にフラッシュバックした――。




「お前の野望も、ここまでだ、総統」

「もう、仲間は全部やっつけたもんっ」

「父の……母の恨み、晴らさせてもらうわ」


『生贄の間』に飛び込んできた俺達を、総統は微笑みながら迎えた。巨大なドームほどの大きさの、がらんどうの部屋だが、他に敵は誰もいない。ここに通じる部分に関しては、全員ぶち殺してきたから。


「おやおや……そう一度に言われたら、聞き取れないではありませんか、勇者の方々よ」

「いいからおとなしく首を差し出しなよ。痛くないように殺してやるから」

「イヴルヘイムの教義では、人殺しは禁じられているんだが。あなた方は悪魔ですかな」

「この野郎、いけしゃあしゃあと……」

「私がやりましょう」


 冷静な口調でそう言うと、ルーナがムラマサを鞘から抜き出した。


「ほう、西方密教か……。よこしまな教えなど信じては困りますな」

「どっちが邪教よ。減らず口はそのくらいにしてもらうわ」

「もう少しだけ、減らず口を許してくだされ。時間は十分ありますでな。……というのも、そこの男」


 微笑みながら、俺を見た。


「命乞いなら断る」

「……まだわからないのですか。ちょっと幻滅しましたね、我が息子よ」


 パーティーに緊張が走った。


「また幼稚な命乞いを……」


 ルーナが一歩進んだ。


「お前の母の名は、ウンディーヌ。北方の小さな部族の姫だった。覚えておろう、その名くらいは」

「……」


 ルーナが、ちらりと横の俺に視線を飛ばした。きっと俺の瞳に動揺を見て取ったはずだ。


「……まあ私も、数え切れないほど奴隷と契ったで、ときどき名前を間違えてしまうのだが」


 ほっほっと、総統は笑った。


「部族、民族は皆殺しとはいえ、いい女は別。私の子を産んでもらわないとならないですからな。それで、できた子には転送回路を埋め込んで、各地に流すわけですよ、孤児として。かわいそうな子供は皆、育ててくれますでな」


 なにを思い出したのか、好色そうな笑みを浮かべた。


「そして頃合いを見て、転送回路を通じ、その子を依り代にして私の分身がその地に降臨するわけですな。ホムンクルスと共に、育ての親の間抜けな連中を滅ぼす理屈。我が子は分身に乗っ取られるので使い捨て。なので、子供はどうしてもたくさん必要でしてな」


 俺に視線を移した。


「ただあなたは、回路を埋め込む前にウンディーヌが逃がしてしまったわけですが。でもわかりますよ、我が子ですから。……薄情なあなたは、父のことを忘れたようですがね」


 鼠を追い込む猫のような笑顔を浮かべている。


「嘘をつくな」

「嘘なものか。どうだ、この父の許に来なさい。あなたにはこの世界を支配させてあげましょう。その仲間は皆、后にすればよい。見たところ、反対する女もおらんようだで」

「ふ、ふざけるな……」

「声が震えているではありませんか、我が息子よ。母に会いたくはないのですか。ウンディーヌに」

「……どこにいる」

「父の許に来ますか?」

「バカを言うな」


 総統は、ひとつ深く息を吐いた。


「やれやれ、父のそばにおらんと、こうも邪悪になってしまうのか。あなたが后に産ませた子供は、有翼アンドロギュノスの光栄なる実験台にしてあげようというのに。ウンディーヌのように」

「……」

「人は弱いものじゃ。ウンディーヌは手術に二回も耐えずに死んでしもうた」


 溜息を漏らしたが、瞳は邪悪に輝いている。


「ますます天使を早く生み出さねばなりません。我らが神と共に。ウンディーヌはたしかそこらに捨ておいたから、あなたが私に従うなら、一緒に探してみましょう。頭に穴がいくつも開いたしゃれこうべのひとつくらい、転がっておるはずじゃ」

「貴様……。ソオルっ」

「ご主人様っ」


 ソオルが腕の中に飛び込んできた。氷の書からは冷気があふれ、煙となって立ち昇っている。


「幼稚よのう……。これほどまでに礼を尽くして譲歩しているというのに。邪教を奉じる蛮人となったからには、我が子といえどもやはり教えの道理を説かねばならないか。……悲しいことです」


 総統の背後に、もやが広がった。それは徐々に奇妙な獣の形となってゆく。邪神だ。もの凄い邪気を感じる。全身が総毛立つほどだ。


 パーティーに緊張が走った。


         ●


 場面が飛んだ――。


 邪神は消え、総統は骸となって転がっている。俺は、激しく流血する腕を押さえて倒れている。エリスは脇腹がざっくり裂けたまま、俺につきっきりでドーピングを施している。止血するため、ソオルは自分の服を割いて紐を作っている。ミュジーヌは頭から血を流してしゃがみ込み、荒い息を吐いている。アカネとルーナは自らの傷の痛みに唸りながらも、少し離れた場所で相談していた。声が聞こえてくる。


「ルーナ。どうなの、シオンは」

「無理ねアカネ。もう長くは持たない。あの傷は奇妙よ。腕を落とした以上のダメージをシオンに与えている」

「毒でも送り込まれたんだ。あたしたちも死の呪いを喰らっちゃったし。もう時間がない。ああ、くそっ痛むね、この傷。美女の玉の肌に火傷の跡が残るじゃんか、あの野郎」

「あなたもエリスに治療してもらいなさい、アカネ」

「エリスのが深手だし。彼女、自分の治療をしないでシオンに全力注いでる。じきに倒れて死ぬね、エリスも。――それよりルーナ、あれ、動かせそう?」

「なんとかなるわ。風を利用した魔力階差機関だった。だから連中はこの火山に置いたのよ。噴火で空気が乱れて強い風がずっと吹き続けてるから。あれなら動かせそう。あの転生機を起動して、全員で多元宇宙に逃れましょう。これからこの世界の再興を見られないのは残念だけれど、残れば全員死ぬ。飛ぶしかないわ、アカネ」

「うん。一緒にまとまって行けるんだよね、ルーナ」

「……ええ。私が操作するわ。パーティーを一気に飛ばす結界を作るから、同じ時空にピンポイントで転生できる。行き先はこれでいいんでしょ」

「いい。いくつか見た中では、そこが一番平和そうだし。さらに探す時間はもうない。ソオルもみんなも賛成してる。ニホン……二千××年?」

「そうよ。早くしましょ。シオンが心配だわ」

「わかってる。特にあんたはシオンの婚約者だもんね、ルーナ。滅びる世界での残酷な行為を嫌というほど見せつけられ、戦いでは千度死ぬほどの苦しみ辛さを味わってきたじゃん。やっとこれから幸せを掴むってときに、誰も死なすわけにはいかないもんね」

「うん。ほら、みんなを移動させて、結界の中に」


 パーティーが結界に移ると、ルーナが操作を始めた。行き先の時空を定めて。


         ●


 ここで、場面を追体験している俺の記憶が、急に捻れた。……俺主体の記憶じゃない。ルーナの……俺の婚約者の記憶。脳に侵食した邪神を通じて、現場に残った邪神の残留思念が流れ込んできたんだろう、おそらく。


「さて、やるか……」


 ルーナは呟いた。


 ただし、ルーナは理解していた。本当は、誰かひとりが操作のために残らねばならないことを。転生機を確認しそれを知ってすぐ、心を固めた。愛する男と魂の仲間、真の仲間を皆救うと。


 ――私は記憶を消せるもの。これは天から与えられた務めだわ。シオンや仲間に、悲しい思いはさせたくない。だから私についてのすべてと、平和な時代に持て余すに違いない知識。どちらも記憶から消去すればいい。それに……それにかわいそうなシオンの両親の記憶とかも。ああ、血が流れすぎて、頭がふらふらする。気が確かなうちに、早く記憶封印の術式を施さないと。


 結界が定まり、転送作業が始まり出すと、ルーナは両手で秘印を結び、パーティーの心に精神を浸透させた。それから記憶の選別と消失という、やっかいな工程に入った。とてつもない負荷が体と心にのしかかり、気を失いそうになる。


 激痛の中、沙漠に針を探すような作業に集中するあまり、イヴルヘイム総統の死体がかすかに身じろぎするのを見過ごしてしまった。総統の指が、わずかに動いている。


 婚約者の心に触り、自分への深く強い愛と絆を感じたとき、ルーナは泣いた。ぼたぼた涙を落としながら自分に関する記憶を奥深くに封印し、最後の力を振り絞って、パーティーの幸せを願った。


 その刹那、結界がひときわ輝き、周囲はまばゆい輝きでなにも見えなくなる。――光が徐々に収まると、結界の中には、もう誰もいなかった。


 邪教の荒れ果てた神殿。物音ひとつしない空虚な。もう魂の仲間はいない。もう何事も起こらない。そして、もう命の輝きも期待できない。


 ――良かった、転送は成功したのね。


 転送機からずるずる崩れ落ちると、ルーナは床に身を横たえた。血が抜け、唇が真っ白になっているのが、自分でもわかった。


「……結局、あのいけすかない総統と一緒に死ぬのね、私は」


 声に出してそう言うと、ルーナは笑みを浮かべた。苦しい息遣いの笑い声が、広い空間に虚しく響く。


 溶岩の熱気こもった天井が、はるか上に霞んでいる。邪神の呪力が消えたためか、それは急速に冷えつつある。すぐにここも、零下の冷気で覆われるだろう。


 ――まあいいわ。だってあれ、お姑様でしょ、シオンのお父様なんだから。あはっ義父孝行な嫁ね、私。看取って一緒に殉死するなんて。


 涙を流しながら、いつまでもひくひく笑い続けた。流血が止まらず次第に気が遠くなり、目の前が白くなってゆく。苦しい旅の中で得た恋人との束の間の安息、そして魂の輝き。あらゆる記憶が、ルーナの頭をぐるぐると回り続けた。まるで皆の消した記憶が、すべてひとりに集められたかのように。


 ――シオン、私のことは忘れて。そして、私のことを忘れないで。いつまでも……いつまでも、私たちは一緒よ……。あなた。シオン……。


         ●


「うおおおーっ」


 叫ぶと、はっと気づいた。ここは転生先。現代日本生存研究会の部室だ。目の前に、追い込まれた仲間の姿がある。「思音、気をしっかり持って」と叫ぶ、あかねの姿がある。


 俺は邪神に取り込まれかけていたようだ。左の掌に、邪悪なファイアーボールが出現しつつある。それはどんどん大きくなってゆく。パーティーに致命的な一撃を与えるには十分な威力で。

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