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異世界おっさん、日本転生して「魂の仲間」を再結集 ――誰が俺の嫁かわからなくなったし、好き勝手に生きるわ!  作者: 猫目少将@「即死モブ転生」書籍化
04 ツルペタと「キュッポン」と転校生と

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04-4 武器召喚に失敗→なぜか俺の部屋でお泊まり会に→陽菜暴走w

「行きますね、ご主人様」

「よし」

「抱いて……」


 うら寂しい裏庭で、空が走ってきた。ぱっと跳躍すると、俺の手の中に飛ぶ。柔らかで優しい体を、抱きとめた。空が俺の首に両手を回し、瞳を覗き込んでくる。どこまでも深く黒い瞳。奥は唐茶に輝いている。懐かしいソオルの匂いを感じる。俺が頁の奥まで熟知している書物の。


 しかし空の転化は起こらない。首筋に顔をうずめると、空はそっとくちづけしてきた。

 ……。

 ……。

 ……。


 しばらくしてから、俺は力なく空を降ろした。


「……ごめんなさい。私のせいです」

「どちらのせいでもないな。いやひさしぶりだから、こんなもんだろ。……もう一回試してみようや」


 動きを止め、俺と空の成り行きを見守っていたパーティーが、それぞれの練習に戻った。あかねがちょっとぴくぴくしている。首にキスとか、あっちではやらなかったからさ。そんなことしなくても空はすぐに氷の書に変成したし。空はなんとかふたりのつながりを回復したくて踏み込んだんだろうが、結果的に意味はなかったな。空は元の位置に戻った。そしてまた跳躍してくる。


         ●


 その日の部活の反省会を、いつもの駅前カラオケボックスで開いた。いやオーバーロードでも良かったんだけど、空が入ったばかりだから、どうしても向こうの時空の話が増える。あんまり人に知られたくはないからな。

「うん、いいトレーニングにはなったわよね」


 あかねはご満悦だ。あかねとルナのコンビネーションはなかなか見事。窮地を幾度も潜り抜けてきたパーティーだけに、すぐシンクロの勘所を取り戻せる。それは確かだ。それにルナは技を残しているし、あかねだって種類がまだ少ないだけで、技自体のキレは昔どおり。うまく行かないはずがない。


「陽菜も、今日は人を殺さなかったあ。えへっ」

「殺してたまるかって気はするけどなー。でも召喚に成功したのは確かだよな」

「わあーっ、ほめられた」

「一度だけだったもんね。自動律ブレードが味方に襲いかかったの」

「てへっ、それほどでも……」


 いや別に誰もほめてないし。あかねのヒトガタ防御がなかったら、俺の首落ちてたぞ、あのとき。


「先生、疲れたー」


 絵里がソファーにそっくり反る。


「ひさしぶりに本気でドーピングしたもの。受験以来よ。空のために……」

「やっぱり受験でイカサマしてるじゃないか」

「あ、あははははははぁー」


 すぐ笑ってごまかす。いい根性した教師である。


「そうね。ドーピングの量感はなかなかだったわよ。あとは、同時に複数のドーピング効果を与える鍛練さえ積めば……」


 ルナが感想と希望を口にした。


「あれやるの? 実戦じゃんそれだと。すごく疲れるー……」

「……そりゃ、あんたは歳が歳だもんね」


 あかねのひとことに、絵里が眉を吊り上げる。


「なんだよあかね。平気に決まってんだろ、あたし。……それになんだ? 歳? 先生は今年二十三歳、女ざかりじゃん。あんたら小娘ごときに負けるわけないだろ」


 バッと立ち上がると、胸を突き出して見せた。


「見よこのシクラメンの香り」

「……はいはい」


 あかねにあっさりあしらわれてる。


「期待してるわ、それじゃ。次の部活のとき頼むね」


 澄まし顔だ。


「えーっまたやるのお、練習」


 ばさーっ。――これはもちろん、絵里が突っ伏して、テーブルに髪が広がった音だ。絵里お前、髪にポテチが絡みついたぞ。まあ気にしないとは思うが。


「空は……まだ無理よね、初日だし」

「はい……」


 ルナに振られて、空はうなだれた。


「書物詠みの力は、栞との精神的なつながりの深さに依っているの」

「知ってるよ、仲間なんだから。だからこそ、あたしたちの討伐パーティーにあんたが呼ばれたときに、こいつも参画させられたわけじゃん。あたしたちは偶然女の子だけになっちゃって、男手が必要だったってのもあったろうけどさ」


 絵里が俺を指差す。あの……いい加減「こいつ」扱いはやめてくんないかな。もしかしたらお前が俺の嫁だったかもしんないのに。


「だから、私は思音さんとの絆を取り戻さないと。……いろいろ試してはみたんだけど」


 なんとなく気まずくなって、それぞれ無言でドリンクを飲み始めた。隣の部屋から、音程を外したバラードが聞こえてくる。


「……でも、キスするのはやりすぎじゃない? いくら首とはいえ」


 空の頬が赤らんだ。


「……だって、無我夢中で」

「あんた恥ずかしがり屋のくせに、昔から大胆なとこあるもんね」

「そうそう、いつだったか、あの滝のところだったっけか、思音の寝床で素っ裸で……」

「そうだったそうだった。あれ貞操の危機だよ。思音がヘタレだったから助かったけど」

「そうそう、ヘタレ」

「うん、ヘタレ」

「わあ、ヘタレ」

「うるさいぞ。お前ら、いい加減にしろ」


 ほっとくと、俺の沽券に関わるからな。一応リーダーなんだし。なんか昔から雑用係だった気もするけど。


「……だから、またあれを試してみようかなって」

「……」

「……まさか」

「うん、今晩、思音の家に泊まる」


 絵里が手を振った。


「だめだめ。なんだよあんた、入寮早々、外泊? どうすんのさ、あたしの教師としての立場。せめて一か月くらいは猫かぶってろっての」

「いや。今日泊まる。……いいでしょ?」


 空が、熱い瞳で俺を見る。


「だめじゃ……ないけどもさあ」


 うっとうしいとは、言わないでおいてやった。


「ならあたしも泊まる」


 あかねが即決する。


「あっずるいあかねちゃん。じゃあ陽菜も」

「……そうなると、この美里先生、顧問としてマチガイが起こらないよう、参加しないとならないか。――ルナ、あんたはどうする?」

「……泊まるしかないじゃないの。また両親に言い訳するのが骨だわ」

「いつものことじゃん。もう諦めてるだろ、あんたの両親。あたしの前で父ちゃんがなんて言ってるか、聞かせてあげようか」


 絵里が含み笑いする。


「……」

「まっかわいそうだからカンベンしてやるか。――さて、またパンツ買いに行くか、ねっ」


 なんだか元気な顧問である。


「……私はいいわ。もう一式、部屋にキープしてあるから」

「わあルナちゃん、ずるい。抜け駆けして」

「あんた、人のこと言えた義理?」

「ひ、ひたいひたい、あかねひゃん、やめへ」


 それからは想像のとおりだったんだけど、実は陽菜が……。

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