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異世界おっさん、日本転生して「魂の仲間」を再結集 ――誰が俺の嫁かわからなくなったし、好き勝手に生きるわ!  作者: 猫目少将@「即死モブ転生」書籍化
03 「ラブレター」と「果たし状」の違い

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03-2 トンデモラブレターの謎文面

「真弓ちゃんね。知ってるよあたし。生徒だもん」


 美里絵里センセイは、音を立てておかきを食べ始めた。


「絵里……先生。先生にでなくて、俺達に自己紹介してるんだろ」

「あらそうなの。ならいいか。……続けて」

「その……男子がいるんで話しづらいんですケド」

「いいのいいの、こいつヘタレだから。男じゃないから」


 むかついたが、反論はよした。俺が怒鳴ったら、話が進まない。


「……じゃあ話しますケド。あの……その、ラブレターのことで」

「ラブレター? 今どき?」


 あかねはあきれ顔だ。


「ラブレターって憧れちゃう。いつか出そうと思ってるんだあ」


 陽菜が無邪気な感想を口にする。


 真弓ちゃんの話は、ちょっとミステリーじみていた。ある日、下駄箱にラブレターらしきものが入っていた。封筒に宛名はない。中身もラブレターと言い切っていいのか微妙な文面だったが、とにかく焼却炉に来いと書いてある。ところが指定の時間に行っても、誰もいない。しばらく待ったが、誰も現れない。なにか理由があって来られなかったのか、それともストーカーの類か。気味が悪いので調べてくれないか――という話だった。


「調べてもいいけど。ちょうど退屈してたし」


 人づきあいのいいあかねが、安請け合いする。


「でもなんで現代日本生存研究会に頼みに来たの?」


 たしかに、そこは俺も聞きたい。


「え、ええ……」


 真弓ちゃんは言い淀んだ。


「こ、こちらの部は、ほら、女の子ばっかりで、男子はひとりだけでしょ」


 俺をちらっと見た。


「そうだね。この学園は女子が多数派だからこういうクラブは多いけど、ひとりっきりは他にないな。バリボリ」


 最後の音は、もちろん絵里がおかきを口に投げ込んだからだ。


「しかも新入部員お断りで、こっそりなにかやってるし」


 ちょっと引っかかるな、その認識。まあこの世界でどう思われようが、どうでもいいんだけど。


「男子ひとりに女子たくさんって、絶対、恋愛関係でなにかありそう。……だから、こうした問題には詳しいかなって」

「へっ?」


 五人で顔を見合わせた。


「……詳しいかなあ」

「そりゃさあ……。正直、あたし以外は全滅でしょ。あはははっ」


 大口開けて、絵里が笑う。またのどちんこ見えてるし。


「なんたって八年早く転生してるし」

「転生?」

「あーいや、絵里は……美里先生は、『天性の恋愛上手だ』っていつも自慢してるからさ、そのこと」

「そうなんですか。ちょっとびっくりしちゃった」

「へえー、陽菜も知らなかった、それ。絵里ちゃん、今度恋バナしよ、ふたりで。あっあう~っ!」


 ルナに思いっ切り足をつねられて、陽菜が涙目になる。ルナが会話を引き取った。


「そうね。いい索敵訓練になるかもしれない。その依頼、この現代日本生存研究会が請け負いましょう。大船に乗った気でいいわよ」

「あ、ありがとうございます」


 頼もしげに見える一文字家のお嬢様に微笑まれて、真弓ちゃんは安堵したようだ。


「まずは、その謀略文章を見せてもらおうかしら」

「謀略? え……えーと、これです」


 ガサガサと鞄から取り出したのは、封筒だ。


「これね……」


 ルナが取り上げ、しげしげと眺めている。


「きれいな封筒……。事務用の封筒とは矩形が異なるわ。色もほのかに桃色だし。たしかに宛名は書かれてないけれど、少なくとも懸賞応募よりは友人に出すほうが一般的でしょうね」


 封はもちろん切ってある。中身を取り出して机に広げた。現代日本生存研究会の部員と顧問が、食い入るように見つめる。みんな興味本位だなあ……。これだから女は。






はじめまして

じゃなかった いつもあなたを見ています

えーと、きっと、あなたが円城寺学園に入るずっと前から


きっと、あなたのことが気になってるんだと思う

そう、だって今日もご飯が喉を通らなかったし

だから私が痩せたら、きっとあなたのせいです






「なんだ『きっと』『きっと』って繰り返して。幼稚な文章だな」

「そうですー。陽菜がこんな間抜けなラブレターもらったら、泣いちゃうもん」


 手紙は続く。






これ以上痩せちゃうと

胸もなくなって、筋トレ効果が消えちゃうかも

だって毎日ダンベルフライで大胸筋を鍛えてるのに






「どうやら筋トレマニアね、これ」


 あかねが、見たまんまの感想を述べる。アホでもわかること、口に出すなっての。お前、名探偵には絶対なれないな。






明日の放課後、裏庭焼却炉の脇に来い

じゃなかった、来てください

話があります。大事な話


ふたりの未来について

わあー恥ずかしい






「……」

「……」

「……続きは?」

「ない」

「なにこのブツ切れの文末。気になるじゃん」

「イラッとしますねー」

「ラブレターなのか、これ。だいたい焼却炉の脇に来いって、雰囲気もへったくれもないし。どう考えてもヤンキーがツッパり合う場所だろ」

「先生思うんだけど、これ出したの、円城寺学園の生徒で間違いないだろ、放課後とか裏庭とか書いてあるし」

「うーん」


 ルナが唸った。


「筋トレのために過激な薬物を摂取すると、脳に障害が出るわ。文章からそうした傾向を感じるし、まず間違いないわね。――あなた」

「はい」


 真弓ちゃんが返事をした。


「あなたの周囲に、体格のいい生徒はいない? 運動部とかで」

「……どうかなあ、いないと思うケド」


 首を傾げている。


「美里先生、ハードに筋トレしそうな部活って、なにがある?」

「そうだなあ……」


 ラブレターにもう飽きたようで、またおやつなどつまみながら、絵里が退屈そうに答える。


「なんたって女子高だったし、あんまりマッチョなクラブないのよねー。武道系だって、薙刀部とか弓道部とか女子色の強いものがほとんどだもんね。そこの男子って、なんていうのか、マッチョとはちょっと違うというか」


 くくくっと思い出し笑いしている。なんだか嫌な教師だ。


「……でも文化部だけど、軍オタが集まるミリタリー研究会っていうのがあって、そこの連中は『盛り筋』を作るのにやっきになってるらしいわ」

「盛り筋?」

「そう。要するに、見せびらかし用の筋肉。あっこでは、ついてるほうが偉いみたい」

「ニワトリの序列行動かよ」

「実戦に役立たない筋肉などつけても命を懸けた戦いには無意味だと、なぜわからないのかしら……」


 ルナが皮肉な笑みを浮かべる。


「冷静に分析すれば、たしかにそのあたりが怪しいわね。部の傾向からしても、習練によらずに薬物に頼りそうだし」

「あらドーピングだってうまく使えば戦闘を有利に進められるのは、みんな知ってんだろ。そもそもイヴルヘイムがホムン――」

「先生は黙ってて」


 ボロを出しそうになってルナに叱られ、絵里はしゅんとなった。どっちが先生だ、これ。


「とにかく。このラブレターだか果たし状、現代日本生存研究会が預かるわ。いいでしょ」

「え、ええ」


 ほっとした顔で、真弓ちゃんは帰っていった。後で聞いたんだけど、「やっぱり『現代日本生存研究会』はヘンだったケド」とか、クラスで言いふらしてたようだ。頼みごとしといて、なんだっての。

平日更新なので、次話は月曜夜公開です。

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