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第七話 魔王様、ティアルカですか?

ようやく人里に到着です。

 アスラルドの言う通り、俺は南へと歩いて行った。


 転移魔法を使えば一瞬であることは間違いない。しかし、俺は今、人間に模した壮年男性――おっさんなのだ。


 魔法を使っては面白くない。せっかく人間領に来たのだ、景色を見ながら歩くのもまた一興である。


 途中途中で休憩を挟みつつ、四日。アスラルドの言っていた五日よりも一日早く、俺は目的地であったティアルカへと辿り着いていた。



「……お前は?」

 村の中に入ろうとすると、衛兵に呼び止められた。


「ここでの移住を希望したいのだが……」


「移住……?」

 衛兵はこちらを訝しげに睨みつけた。


「どこから来た? 名前は?」


「名前はサタン。出身地は北の方だ」

 俺は柔和な笑顔を浮かべて、言った。


「北か……、お前一人か?」


「ああ」


「途中山賊が出ると噂になっている山があっただろう? あれを一人で超えてきたのか?」


「何とかな」


「……丸腰で?」

 衛兵はこちらをジロジロと睨みつけつつ、言った。


 ……確かに。考えても見れば武装しておくべきだったな。

 俺は適当にその場を取り繕うべく、口を開いた。


「山賊には遭遇したが、必死で逃げてきたんだ。その時に荷物を少しばかり置いてきた。それに多少なりとも護身術には身に覚えがある」


「……ほう」

 すると、衛兵はこちらを締め上げようと、俺の袖口を掴んだ。


 瞬間、俺は逆の手で衛兵の首元を掴むと、そのままの勢いで彼を背負い投げしてみせた。


 下手な力が出ないよう、かなりのセーブをかける。

 山賊の時のようにうっかり瀕死状態にしてはさらに怪しまれる危険があるからな。


 地面に転がった衛兵は少しばかり呻いたが、やがて立ち上がって、こちらを見上げた。



「……なるほど。それなりには使えるようだな。山を越えてきたというのもあながち出鱈目でもなさそうだ」


「信用してくれたか」


「さあな。信用はこの村で暮らすに当たって徐々に積み上げていってくれ」

 どうやら一応、村を通る許可は貰ったらしい。


「俺の名はラルカ。この通り、衛兵をしている。ひとまずは宜しく頼む」


「ああ、ラルカ。ところで冒険者ギルドってのはどこにある?」


「やはり冒険者に?」


「ああ。日当を稼ぎたいんだ」

 俺の目的はこの村でのんびりと暮らすことだ。


 しかし、その元手となる資金は何もない。

 何か商売をしようにも元手となる資金がいるが……、俺はその資金ですらないのである。


 であればまずは日銭から稼がなくてはならない。

 早めに家を手に入れられるくらいに稼げれば良いが……それは、まあ、ゆっくりとやっていこう。


 のんびりとはしたいが、暇すぎるというのも退屈だからな。

 それよりも適度に刺激があった方が良い。


 なにより魔王という責任から逃れて自由に出来るのだ。今は正直、何をやっていても楽しい時期だ。


 思い切り羽を伸ばさせてもらうとしよう。


「冒険者ギルドか。それならあっちだ」

 ラルカは大体の方向を教えてくれる。俺は彼に礼を言った。


「ありがとう。では、また」

 俺は礼を言うと、冒険者ギルドへと向かった。




――――




 俺は冒険者ギルドらしき建物へと入る。

 中は数人の冒険者らしき者たちで犇めいていた。


 その多くが手入れの行き届いていなさそうな質の悪い装備を身に纏っている。

 ここは前線からはかなり遠い。程度が知れるとはまさにこの事だ。


「おい、おっさん! あんた新顔だな? まさか……今から冒険者になろうってんじゃないだろうな!?」

 早速手前に居た雄――もとい男が俺へと難癖を付けてくる。


 ……虫が。縊り殺してやろうか?


 ――――と思ったが、今から冒険者になる身。こいつらと同業になるのだ。

 怒っていても仕方がない。ここで騒ぎを起こすことにメリットはない。


「ああ、これから始めようと思ってな」


「ギャハハハ! 馬鹿言えよ! あんたみたいなもう棺桶に片足突っ込んでるような半老人じゃ、低級モンスター一匹、殺せねぇよ!」

 その男の笑いと同時に昼間から酒を呑みつつ、くだを巻いているような底辺冒険者まで笑い出した。


 ……人間ごときが偉そうに。

 そんな中、奥に居た冒険者の一人が偉そうに怒鳴った。


「うるせぇぞ! ……静かにしやがれ!」

 その言葉で、周囲の冒険者が瞬時に黙った。


 机に脚を投げ出してふんぞり返っている男。金色の短髪、耳には馬鹿デカいピアスが踊っており、左右には露出度の高い女を一人ずつ、抱えていた。


 ニタニタと笑いつつ、冒険者はこちらを睨みつけた。

 まるで値踏みでもするかのような、遠慮のない視線に俺はため息を吐いた。


「おい、あんた? ホントに冒険者になろうってのか?」


「まあな」


「……止めとけ。無残に死ぬだけだ。大方職に困ってここに来たようだが……ここはおめぇみたいな人生の落伍者が来るところじゃねぇ」

 男はこちらを馬鹿にするかのように、言った。



「なるほど。ならお前はどうなんだ?」


「……なに?」


「こんな田舎の村でボス猿を気取るような輩が他人に説教とは……笑わせる」


「言わせておけば!」

 冒険者の一人がこちらへと突っかかってくる。


 そんな男に向かって俺は、軽くだが殺意を籠めた瞳を向けた。


 瞬間、男が腰を抜かしてひっくり返った。口からは泡を吹いている。


 ……この程度の殺意で、腰を抜かすのか。



「おい、大丈夫か!?」

「おめぇ何しやがった!? まさか加護持ちか?」

 俺を取り囲んで、喚き立てる冒険者たち。


 ……さすがにこれ以上、騒ぎを起こすのは得策じゃないだろう。



「事を荒立てるつもりはない。それにこの男が突っかかってきたことだ。大目に見てくれないか?」

 俺は騒ぎ立てている男ではなく、ふんぞり返っている方の偉そうな男へと言う。


 男はふん、と鼻を鳴らしながら答えた。


「……まあ良い。だが、ここで冒険者をやるつもりなら…………俺には逆らわない方が良いと思うがな」

 そう言ってテーブルの酒を口に運んだ。


 面倒なことになりそうだが……まあ、この辺りはおいおい処理すれば良いだろう。

 俺が魔王であったならば、効率的にこいつらを処理、あるいは洗脳してしまうのだが……。


 生憎、今は「元」魔王。多少、うるさい虫が騒ぎ立てたところで、逃がしてやるくらいの余裕がある。


 俺は遠巻きに睨みつける冒険者をしりめに、受付らしきカウンターへと向かった。

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