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第五話 魔王様、情報収集ですか?

情報収集回。

 俺は山賊たちに付いていく形で山道を登っていく。


 無言で付いてくる俺を山賊たちは気に入らない様子で眺めていた。

 だが、文句は言わない。不満はあるが、アスラルドの決定に従っている。


 ここのチームは少なくとも、アスラルドがきちんと掌握しているようだ。



「着いたぞ、ここが俺達のアジトだ」

 アスラルドは俺へと声をかける。


 目の前には汚らしい掘立小屋のような、住処があった。


 底辺らしい建物。期待はしていなかったが……まあ、こんなものか。


 中へと入ると、思ったよりの綺麗に整っていた。

 物が散乱していないし、汚れてもいない。


「すまんな、汚い場所で」

 そんなアスラルドの言葉に、俺は言葉を返す。



「正直に言えばボロい住処だと思った。だが、思った以上に中が整っている。俺はもっと酷い場所を想像していた」


「正直だな。実は俺達が山賊稼業を始めたのはここ最近でな。ここも廃屋だったのを勝手に使わせてもらっているだけだ。ボロボロなのは仕方ない」


 ため息を吐くアスラルド。本来であればきちんとした場所に住むべきだが、今はそれが難しいのだろう。


 アスラルドは奥の部屋へと俺を案内した。ボロボロではあるものの、部屋は幾つか別れていた。意外にも広々としている。



「ここは客人を持て成すための場所だ。まあ、客人などお前が初めてだが」


「普段は捕虜などでも捕まえておくための場所なのか?」


「…………。分かるのか?」


「ここだけ中から物が破壊されてるのが分かる。床は傷だらけ。これらの傷は最近出来たものだ。他の場所とは違う」

 俺も人間を何度となく捕まえて閉じ込めていた経験があるから分かる。


 彼らは体力尽きるまで何とか脱出を試みる。縛られていても人間とは存外、凶暴なものだ。

 すると床に無数の傷ができる。身動ぎして血痕が滲むのも、この部屋に共通した特徴だ。



 アスラルドは観念したように、言った。


「捕まえた旅人を奴隷商人に引き渡すまで、監禁しておくための場所だ。……どうする?」


「どうする、とは?」


「俺らを役人にでも引き渡すか?」


「興味がない。お前らがどうしようが、俺には関わり合いのないことだ」


 アスラルドは真っ直ぐに俺を見た。言葉の真意を確かめようと言うのだろう。

 暫く見つめた後、アスラルドは息を吐いた。



「……なるほど。本当らしいな」


「何故そう思った?」


「お前の目は、勇者の浮かべていた目とはだいぶ違う。正義を信奉している目じゃない」


「……勇者を知っているのか?」


「ああ、その中の一人だけだが……」


 人間で言うところの『勇者』とは、「魔王討伐のため、魔物を狩っている者」のことを指す。

 「魔物を狩って生活の糧としている者」は冒険者。

 勇者は貴族などの援助を得て、旅を続けている。魔物を狩るのは生活ではなく、単純な正義漢、あるいは狂信のためだ。


 だから勇者は一人の者を指す名称ではない。俺も何人もの『勇者』と対峙した経験がある。

 狂信や正義のために自分も仲間も顧みずに向かってくる――――俺ら魔族よりもよっぽど化け物だ。



「勇者なんて……くだらねぇ」

 アスラルドは呟いた。


「意外だな。多くは勇者を称えるものだと思っていたが」

「お前こそ……勇者を称えないのか?」

「冗談を言うな。あんな『化け物』、称える気にもならない」

「同感だな」

 アスラルドはそう言って笑った。



「……っと、客人に何もなしでは悪いな。ちょっと待ってくれ」

 そう言うとアスラルドは俺を残して引っ込んでいった。


 気配を探ってみる。何やら準備をしている様子だ。

 部屋の周囲を仲間で固めて、俺を襲撃…………というつもりではないらしい。


 そうなれば皆殺しにするも止む無しだが……、自らの決めた『人間を殺さない』という制約を破らないでも済みそうだ。



「待たせたな」

 アスラルドは盆を抱えて戻ってきた。


 それを俺の前に差し出す。盆の上には野菜スープと水が乗っていた。


「大したものは出せないが……良ければ食え」


「ああ、遠慮なく戴かせてもらう」

 一応、毒がないことを確認する。……まあ毒など俺には効かないが。


 俺の変身スキルは人間の身体に変化するというものだ。

 変身系魔法、スキルの中には「相手を化かすため」の幻術系も存在する。その場合は人間の食す物は口に合わない場合が多い。


 ただし、今回はきちんとした変化だ。俺が元来持つ魔力や身体能力はそのまま発揮することも可能だが、ベースとなる身体は人間のもの合わせてある。

 よってこの野菜スープが上手いのであれば、壮年男性の身体である俺も問題なく上手いと思えるだろう。


 まずスープを少量、口に含む。適度に塩気が利いていて、胃に優しく染みわたっていく。

 山道を歩いた後の「人間として」疲れた身体だと助かる。


 野菜は雑多に大きく切り分けられていた。だが、栄養配分的には申し分ない。

 悪くない食事だ。


「……上手い」


「気に入って貰えたのなら何よりだ」

 アスラルドはホッとしたように言った。



「…………さて」

 食事を食べ終わり、一息吐いた俺へとアスラルドが口を開く。



「お前は何を教えて欲しい?」

 本題だ。俺はこう返した。


「まずはこの辺りの地理を教えて欲しい。迷っているのでな」


「迷っているか」

 アスラルドは若干ながら訝しんでいる様子だが、質問に答えてくれた。


「ここはアステア国領の西に位置する場所だ。王都からも随分と離れているし、魔族領からも離れているから魔物被害も少ない。交易で賑わっているわけでも無いから人もそう多くはない。言ってみれば田舎だな」


「田舎か」

 これは俺にとっては好都合だった。


 俺の目的はのんびり気長な日々を送ること。田舎なら何をしたところで目立つ心配もないし、魔族領が遠いのであれば魔王軍に迷惑をかける心配も無いだろう。


 それに「西」ということも極めて重要な情報だった。これはかなり幸運だ。



「では、ここから比較的近く、情報が集まりそうな場所を教えてくれ」


「情報が欲しいのか? それならここではなく、もっと遠い王都や交易の盛んな都市にでも行った方が……」


「いや、この辺りが良い。田舎でなくとも良いが……出来れば魔族領からは遠い方が良いな」


「あんたの強さなら、魔族領近くでも問題ないとは思うが?」


「…………」

 無言で答える俺に対して、アスラルドは頷いた。


「……分かった。幸運なことに、その条件に合う場所がある」


「本当か?」


「ああ。ここから南、五日ほど行ったところにティアルカって田舎町がある。ここには近隣を纏める冒険者ギルドがあってな。そこなら他の場所よりも情報が集まりやすいだろう」


「冒険者ギルド、か」

 魔物を狩る冒険者を纏めるための機関だ。

 前線ではないとは言え、魔物がいないわけではない。


 魔物被害を防ぐにあたって人間領には幾つか冒険者ギルドがあったはずだ。

 冒険者ギルドは定期的な情報交換を行っている。その内の一つがあると言うことは重要な情報は入ってくるだろう。


 例えば魔族領への進行状況や戦線の情報など。

 当然魔王として魔族領の状況が心配でないはずもない。何かあれば即座に魔王軍へ戻るつもりだ。


 ならば情報はしっかりと入る場所であった方が良い。



 ……これで行き先が決まったな


「ありがとう。欲しい情報は以上だ」


「ティアルカに行くつもりか?」


「ああ。ちょっとばかり都会の喧騒から離れて暮らしたかった。しばらくはそこでのんびりするつもりだ」


「少し、俺からも良いか?」

 そんな中、アスラルドが尋ねる。


「あんた、……何者だ?」


「…………」


「答えたくないなら良い、だが気になったんだ。元・宮廷騎士の俺を戦わずして打ち負かすほどの実力。また山賊稼業から奴隷の売買まで幅広くやっている俺達悪党を放っておくほどの無頓着さ。さらには野心も持たず、田舎に引っ込むという。気にならない方がどうかしている」



「…………」


 俺はアスラルドを真っ直ぐに見つめた。

 

書いている内に、ちょっと会話長くなっちゃいました! なんで、今日はこの後も更新します!

おそらく夜辺りに仕上がるかと! 良ければどうぞ!

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