表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/49

第四十八話 魔王様、商談ですか?

 以前、レマと一緒に魔石探訪をした事で回復魔具の試作品が完成した。


 また、それに応じて生産体制も着々と整いつつある。

 ここで本格的に販売を始める準備をしたい。


 しかし、ここで新たに必要なモノが三つある。



 一つは販売ルートの開発だ。

 これは俺が直接売るのではなく、俺の代わりに物を売ってくれる代理人を必要とするからだ。


 俺の見立てではこの回復魔具はそこそこ売れるはずだ。

 しかし、それによって下手に目立つのは元・魔王としては避けたいところ。


 そういう意味でアルカの時と同様に商売用の代理人を用意しておく必要がある、と考えている。



 次に移送ルートの確保。


 販売人を立てるのであれば商品を卸す場所は消費の集まる都市部であればある程、良い。

 しかし、そうなればそこまで運ぶ者が必要となる。


 毎回、転移魔法を使って移送しても良いが……、今回の商売用の代理人に「力」を明かすつもりはない。毎回毎回、転移魔法を使っては正体がバレる危険性も付き纏う。


 それであれば移送する運び屋を見つけて、そいつに任せた方が都合が良い。

 当然、俺が直接、運び屋をするというのは却下だ。商品の準備に加えてそんな事をしていれば結局、休暇にはならない。


 次に運び屋を守るための護衛役が必要だ。

 安全な移送ルートを確保するためには魔物や物盗りに強い護衛役が必須だ。


 そうでなければ商品を移送する運び屋も見つからないだろう。



 今回はそれら三つの内の二つを解決するために、とある山道へとやって来ていた。


 鬱蒼と生い茂った山林の中、開けた山道を歩く。ある程度、道が開けていることから人の往来があることは分かる。


 いや、そうでなくては「彼ら」はここに住み着いてはいないだろう。


 歩いている最中、周囲に人の気配を感じた。


 感知スキルなど使わずともゆっくりと、しかし着実に囲まれ始めていることはすぐに分かった。


 この手際に慣れているのだろう。しかし、警戒度は薄い。

 俺のような無警戒であろう者ばかりを狙っている証拠だ。ただ、それはそれで正しい。強い者を強引に狙って返り討ちにあったのでは彼らの生活が成り立たないからな。



 そうこうしている内に囲んでいた者の一人がようやく目の前に姿を現した。



「おい、おっさん! こんなところを一人で、しかもい武器無しで歩いているなんて災難――――――うぇ! あ、あんたは!」


 相変わらずの無精ひげで、ボサボサの髪の毛。満足に手入れが行き届いているとは言い難い装備に身を固めた男たち。


 その中の一人がどうやら俺に気付いたらしい。顔を歪め、額には脂汗が滲んでいた。



「久しぶりだな、出迎えに来てくれて嬉しいよ」

 俺の目の前には初めて人間領に来た際に襲ってきた山賊たちが犇めいていた。


 他の者たちも俺に気付くと次々と苦い顔を浮かべ始める。


 ……以前はそこまで虐めたつもりも無かったのだが。



「久しぶりだな、サタン」

 たじろいでいる山賊たちの中で唯一、冷静な男が俺の名前を呼ぶ。


 細身の鍛え上げた身体つきで、腰には細剣を差している。

 他の者とは違った精悍な顔つきをしており、山賊とは到底思えない。黒髪で目鼻立ちがすっきりとした男。


 アスラルド=トーチカ。かつての宮廷騎士にしてとある理由により、山賊へと身をやつした男だった。



「久しぶりだな、アスラルド。今回はお前らに用が会って来たんだ」

 アスラルドの表情に緊張が走った。それを知っていて尚、俺は笑顔を浮かべるのだった。




――――





「まぁ……ゆっくりしていってくれ」

 今回も俺は例のアジトへと案内された。


 汚らしい掘立小屋を何とか修繕したような、アジトというよりも廃墟に近い場所だ。


 その中の奥の部屋へと通された。これも前回同様だ。



「何か食べるか?」

 アスラルドはそう口にする。


「いや、良い。ただ、出来れば水を貰えるか」


「……分かった」

 そう言って頷いたアスラルドは一度奥へと引っ込むと、コップに水を入れて持ってきた。


「悪いな」

 俺はアスラルドから水を受け取ると一気に飲み干す。


「それで」

 アスラルドは俺の対面に座ると居住まいを正した。


「何をしに来たんだ? 用とは何だ?」

 彼の顔には先程と同様に緊張が走っていた。


 まぁ自分たちでは処理しきれないような強力な力を持っている奴が、どんな理由で現れたのかも分からなければ警戒するのも無理からぬ話だ。


「警戒しなくて良い。今回はビジネスの話を持ってきた」


「ビジネス?」

 明らかに怪訝な顔つきになるアスラルド。俺は頷きつつ、言葉を続ける。


「つい最近、俺は商売を始める為の商品を開発した。これだ」

 俺はアスラルドの目の前に例の回復魔具を置く。指輪型の回復魔具だ。


「これは……」


「回復魔具だ。魔石には中級の回復魔法が備えられている」


「……スクロール以外の回復魔具は不具合を起こしやすいというのが常識だが」

 そう言ってアスラルドは回復魔具を睨みつけた。


 さすがは元・宮廷騎士。こう言った話には詳しいらしい。


 アスラルドの返答に俺は首を振った。


「問題ない。何千回とテストを重ねたが、この試作品に関しては不具合は一回も起こしていない。十数回使用した後に壊れるが、それは魔石内の魔力が尽きたことによる仕様だ。それも使用した後に壊れる仕組みになっているから、『未発動』という回復魔具であってはならない不具合は起こらない」


「それが本当ならば大したものだな」

 アスラルドは冷静に物を言う。

 しかし、その瞳には驚きが滲んでいた。


「それで。俺達にどんな『ビジネス』を持って来たんだ? まさかこの商品を自慢しに来ただけじゃあるまい」


「率直に言えばこれを売る手助けをして欲しい。もっと言えば商品を卸す際の移送をお前らに任せたい」

 俺が山賊たちへと会いに来た理由がこれだった。



 俺は運び屋と護衛役、この二つをこの山賊たちに任せたいと思っていた。


 こいつらはまずそれなりの人数が居る。しかもアスラルドを上にしたチームワークが成り立っていた。伝達がしっかりしているのは良いチームの条件だ。


 さらには山賊稼業をしていたから、そこそこ腕が立つ。

 

 これらの理由により運び屋を任せられると同時に護衛役をも熟せると考えた。

 だからこそ今回、この話をこいつらに持ってきたのだ。


 ……まぁ理由は他にもあるのだが。



「成程、お前の言いたい事は分かった」

 アスラルドはそう言ってこちらを真っ直ぐと見つめる。


「だが、俺達は山賊稼業だ。運び屋は門外漢。不慣れな事をさせたいというのであればそれなりの条件を呑んで貰う必要があるが……」

 ひとまずは「条件」の話を聞いてきた。


 聞きたいことはまだあるのだろうが……こちらとしては話が早くて助かる。

 

「勿論だ。まず報酬についてだが……」

 俺は紙に数字を書いて、アスラルドの前へと差し出す。



「額は一人、これぐらいを想定している」

 数字を見たアスラルドの目が一瞬だけ大きく見開いたのを俺は見逃さなかった。



「……おい。額が一桁多くないか?」


「俺が想定している儲けを考えれば問題ない」

 それに、と俺は続けた。



「俺はこの仕事にはそれくらいの報酬を払う必要があると思った。正当な仕事には正当な報酬を払うべきだ。そうだろう、アスラルド」


「…………ッ」

 アスラルドは俺の言葉に苦々しい表情を浮かべた。


 思い出しているのだろう。かつての経験を。


 彼はかつて宮廷騎士だった頃に農民出身であった事から正当な報酬を受け取っていなかった過去がある。


 そんな彼にしてみれば、「正当な報酬」と言うのは喉から手が出るほどに欲しい「言葉」だ。


「他にも必要な物があれば別途好きに言ってくれ。仕事に必要な備品であれば、報酬とは別にこちらで用意する」

 素晴らしい仕事をするにはそれに見合うだけの道具も必要だ。


 それを整えてやるのは「上」の仕事だ。



「条件は以上だ。どうする?」


「…………」

 アスラルドは考えているのか、無言のままだった。


 それに俺は更に「駄目押し」を言う。



「アスラルド。今の『仕事』は上手くいっているのか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ