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第四十七話 魔王様、関係構築ですか?

どうしても話数を跨ぎなくなかった結果、アホみたいに長くなりました。

良ければ楽しんで戴けると嬉しいです。

 クイズ勝負という事で問題を出す側が必要となり、これは結局、俺が引き受けることとなった。


 しかし、草原地帯でクイズ勝負とは……シュールな絵面だ。



 それにしてもこのクイズ勝負、何だかんだで俺はアルカが勝つかと思っていたが、


「問題。人間における《加護》の習得方法は大きく分けて三つだと言われている。一つは生まれつきだが、もう二つは何かを答えろ――――レマ」

 俺の出す問題にいち早く手を挙げたレマは「簡単よ」と口にしつつ、言葉を続ける。


「《加護》の習得方法は生まれつき、もしくは該当する能力を持っている特定の魔物、あるいは高位の存在と契約すること。あるいは――――殺すことで《加護》の習得を可能としているわ」


「正解」


 なんとレマがアルカを圧倒していた。


 アルカも問題の答えが分かっているものもあるようだったが、しかしレマが彼女が手を挙げるよりも先に答えてしまっている。



「ふふ……こんなの真祖として当然の知識よ。伊達に長い刻を過ごしてはいないわ」


「うぅ……」

 アルカは悔しそうに下唇を噛む。


「……お前、知識だけはあるのな」


「当然よ! この私を一体誰だと――――ん? 今だけって言った? なんか引っかかる物言いだけど……あんた、私を一体何だと思っているの?」


「決まっている」

 正真正銘の馬鹿だ。


 この後もレマがアルカを圧倒していた。


 ここで俺は気付く。……これってもしかしてアルカにとって不利な問題を俺が出しているのではなかろうか。


 俺はレマと同じく魔族だ。となれば俺も気付かぬ内に人間に不利な問題を出してしまっているんじゃないか?


 いや、俺とて暫くの間、人間と暮らしている身。それなりに人間を理解して、それっぽい問題を出してはいるものの……しかし、その可能性は否めない。


 となれば問題を出す側を変える必要もあるのかも知れない。



「二人とも。続きは他でやるぞ」

 そう言って俺は二人を連れ立ってとある場所へと移動した。




――――




「え、私ですか? いえ……別に構いませんが」

 俺は二人を連れ立ってギルドティアルカ支部へとやって来ていた。


 そこで問題の出題者をマリナへとお願いすることにした。


 いや、他の者でも良かったのだろうが、しかし、こう言ったくだらないお願いを聞いてくれそうな人が他にいなかったのだ。


「本当にすまない。忙しいなら無理には言わないんだが……」


「いえ、やらせてください! それにそろそろ休憩時間なんで、その時で宜しいですか?」


「ああ。俺はそれで構わない」

 結局はマリナへと問題の出題をお願いすることになった。



 そして十数分ほど経って、ギルドの裏手にて移動する俺達。


「という訳で続きの問題はこのマリナさんにお願いすることにした」


「サタンさんにお願いされましたマリナです。どうぞ宜しくお願いしますね?」


「私は構わないわよ。ほら、何でも問題を出してみなさい」


「ボクも勿論、大丈夫です。頑張ります!」

 レマとアルカもマリナの出題にヤル気十分だった。



「では――――」

 マリナは息を吸い込むと、緊張の面持ちで口を開いた。


「問題です。サタンさんのお誕生日をお答えください」


「…………え?」

 俺は思わず疑問を口に出す。


 ……一体何を問題にしているんだ?



「サタンさん。これはサタンさんに縁の深い二人の戦いです。となれば貴方に関わるクイズを出すのが正解と言えるのではないでしょうか」


「そ、そうか」

 言われてみれば一理ある……のか?


 しかし、俺の誕生日なんて俺すらも知らない。


 そもそも誕生日に特別な思い入れのある種族なんて生の短い人間くらいのものだ。


 俺達魔族は自分の誕生日なんぞに頓着しない。



「え、えっと……そう言えば知りません! まさかボクは弟子……ではなくししょー失格なんでしょうか」


「私もよ。と言うか知る訳ないじゃない」


 当然ながら二人とも答えられない。



「そうですか。では残念ながら二人とも不正解です」

 そう言ってマリナはにっこりと笑う。



「では、サタンさん。問題の答えをお願いします」


「……答え?」

 聞かれた俺は一先ず問題の答えを適当に用意した。


 冬の日から一日を適当に選んで答えるとマリナが「成程!」と頷く。


「そうですか、そうですか! では、皆さんも覚えておいてくださいね!」

 とても嬉しそうにそんな事を言うマリナ。


 その次も俺の好きな食べ物と嫌いな食べ物やら、何時に起きて何時に寝るのかやら、靴のサイズから趣味までありとあらゆる俺のクイズが出題された。


 その都度、俺はマリナから「問題の答え」を要求される。


 正直、誕生日と同じようにほとんどの答えを用意していなかったので、それぞれの答えを即座に用意することとなった。



 当たり前だが二人ともマリナの出題に答えることができない。


「ボクは……ボクは! サタンさんのことを何にも知りません! うぅ……」


「と言うかこんなの誰も分かる訳ないじゃないの! ちょっと、あんた! あんたは問題の答えが分かるの!?」


「え? いえ、私も分かりませんよ?」


「じゃあ何でそんな問題にしたのよ!?」


「それは……、秘密です」

 そう言ってマリナはにっこりと笑う。


 ……なんだろう。今日のマリナからよく分からないが鉄の意思を感じる。


 なんかこう……俺の言葉を一言一句聞き逃さないとする気概が見て取れる。


 俺の趣味やら誕生日やら知って一体どうしようと言うのか。

 いや、ギルドを管理するものなら何か必要な情報なのかも知れない。



 結局、マリナの問題は二人のポイントの加算にならず、クイズはレマの勝利となった。

 肩透かしを食らったような感覚だが、その中でマリナだけがなにやら喜んでいた様子だった。


 ……謎だ。彼女は一体何がそんなに嬉しかったのだろうか。




――――




 マリナと別れた後もアルカとレマの間で様々な勝負が行われた。

 魔法勝負、剣技、格闘、魔物の名前だけでしりとり、腕立て、逆立ち、手押し相撲、あっち向いてほい、にらめっこ、かけっこ、物真似、絵描き…………などなど。


 後半は勝負なのか遊びなのか、よく分からなくなってきていた。


 ……そして、それに付き合っている俺は一体何なのだろうか。


 レマは勿論、アルカも見た目はまだまだ幼い方だ。



 それに付き合っている見た目おっさんの元魔王である魔族…………どういう状況なんだこれは。



「はぁはぁ……なかなかやりますね、金髪幼女さん!」


「はぁはぁ……あんたもね! 真祖たるこの私に肉薄するなんて中々のものよ。褒めてあげるわ」


 二人は言葉を交わしあう。……と言うかこいつら奇妙な友情が成立してないか。



「そろそろお互いも消耗してきているわ。どうかしら? 次の勝負で雌雄を決するというのは」


「良いのですか? 次はボクが勝負の内容を決める番ではないでしょうか」


「構わないわ。丁度良いハンデよ」


「そうですか。ふっふっふ……では、ボクのとっておきを見せてあげましょう!」

 アルカはレマの提案にそう言って不敵な笑みを浮かべるのだった。


 ……アルカの奴、一体どんな勝負をするつもりなのだろうか。




――――




「ボクが勝負を決したいのは……ここです!」

 アルカが案内したのは、先ほども居たいつもの定食屋であった。


「金髪幼女さん! ここでボクと早食い対決をして貰います! これで勝った方は負けた方に何でも命令出来る! 宜しいですね?」


 アルカはレマへと確認を取る。


 ……あれ? 命令とかいつの間にそんな話になっていたのだろうか。


「構わないわ!」

 それにレマも応じる。


 ……二人で何か通じ合っている様子。本当に俺、蚊帳の外だな。



「でも本当に『何でも』で良いのかしら? その言葉が真実ならば、私が『従者になれ』と命令してもあなたは拒めないのよ?」


「おい、それはちょっと……」

 俺はここで言葉を挟む。


 レマは腐っても真祖。正真正銘の魔族だ。

 それなりに力は取り戻しているようだし、アルカを何でも命令の聞く『従者』へと変えることも出来るだろう。


 もしそうなれば彼女は人間を辞めるということになる。

 さすがにそれは勝負の掛け金としては大きすぎるのではないだろうか。


 だが、

「大丈夫ですよ、ししょー」

 アルカは問題ないとばかりに胸を張る。


「しかし……」


「心配しないでください。これはボクの得意分野なんです――――絶対負けませんから」




――――




「女将さん」

 アルカは意を決した様子で定食屋へと入り、女将を呼ぶ。


 ……何だろう。キラーファングや死屍の騎士と対峙していた時と同様、あるいはそれ以上の気迫をアルカから感じる気がするのだが。



「あら、来たのかい?」

 女将もアルカへと声を掛ける。


 ……ん? 女将も女将でいつもとは違う雰囲気を感じる。


 言うなれば歴戦の戦士に感じるような気迫。

 幾つもの研鑽の末にようやく出せる覇気。それと似たようなものを女将に感じるのだ。


 店内も何処となく雰囲気が変わったように感じる。

 俺の直観が告げている。


 ここは――――戦場である、と。


 ……どうしよう。最近、まともに戦ってないから直観が錆びついてしまったのだろうか。



「その、――――必殺定食を二人前お願いします」

 ……何だその、およそ食事とは思えない定食名は。


「望むところだよ。……ところで?」

 女将はちらり、とレマの方を見遣る。


「まさかあんたも私の必殺定食を食べようってのかい」


「よく分からないけど勿論よ! これはお互いの名誉を掛けた勝負なんだから! 逃げることは許されないわ!」


「覚悟は……あるのかい?」

 女将は静かに聞く。


 ……これ、食事前なんだよな?



「覚悟? そんなものは生まれた時からあるわよ!」


「良いだろう。……と、その前に」

 女将は裏へと取って返して、一枚の紙を持ってきた。


「じゃあこれに記入しておくれ」

 一枚の紙は”誓約書”であった。


 ただ一言、『この店でこれから食べた物に関して、何があったとしても一切文句を言いません』と書かれていた。


 いや、待て。本当に一体何が起こっているんだ。



「う……え、な、なにこれ」

 レマもどうやらただ事でないと察したらしい。


 しかし、

「ここで逃げる訳にはいかないわ! 真祖の誇りを守るために私は戦う!」

 そう言って誓約書に自らの名前を記していた。


「宜しい。じゃあ、ちょっと待ってな」

 そう言って女将は奥へと引っ込む。



「まさか……女将の必殺定食がまた、拝めるとはな」

 そんな中、俺の横でぼそりと感慨深げに呟いた者がいた。



「お前は――――ラルカじゃないか。随分と久しぶりだな」

 彼はラルカ。ティアルカで衛兵の職に就いている男だ。


 彼は俺の言葉へと不思議そうに返す。


「久しぶり? さっき会ったじゃないか。草原地帯で勝負をするとかなんとかよく分からないことを言いながら」

 そう言えば先程村を出る時に挨拶したのだが……。


「いや、なんとなく……凄い久しぶりに会った気がしてな」

 具体的に言えば一ヶ月ぶりくらいに会ったようなそんな感じがしてならない。何故だろうか。



「ところで……あの必殺定食とやらが何か、お前は知っているのか?」

 俺の質問にラルカは「何を今更」と言わんばかりに驚く。


「この店の名物メニューだからな」


「名物?」


「ああ。この定食屋の女将は、勇気ある者にのみ出す料理があるんだ」


「それが必殺定食とやらなのか」


「そういう事だ。女将の料理は旨いし、栄養も豊富だが、その一方で実は圧倒的な量を誇るB級グルメこそが彼女の主戦場。その彼女の最高峰のB級グルメこそ『必殺定食』なんだよ。彼女の必殺料理を食べた者は一日で体重を十キロ増やされる、とまで言われている」

 そこまで食べることに何の意味があるんだろうか……。


「業界での彼女は『超盛りの女将』とまで言われている」


「何だその二つ名は」

 と言うより一体どこ向けの業界なんだよ。



「二つ名くらいあるさ、女将ほどの有名人なら。この必殺定食を求めて『これでも喰らえ亭』へと訪れる旅人が絶えないほどだ」


「……ちょっと待て。『これでも喰らえ亭』?」

 

「? この店の名前だが?」


「え!?」

 俺は一度外へと出て看板へと目を向ける。


 するとそこには大きな名前で『これでも喰らえ亭』と書かれていた。


 あ、マジなのか……。


 割とお世話になっている定食屋なのに知らなかった。

 と言うより名前を見つけたとしても、こんな名前を定食屋に付けるとはまず思わない。


「そんな訳で業界では有名な『超盛りの女将』の作る料理の破壊力は凄まじくてな。数々の猛者たちがこの『これでも喰らえ亭』を訪れるも、必殺料理を前に一人、また一人と倒れていったんだ」


「…………」

 料理の破壊力というワードこそ破壊力に満ちている。言っている意味が分からない。



「しかし、そんな中だ。一人の女の子がこの『これでも喰らえ亭』で必殺料理へと挑戦したんだ」


「一人の女の子?」


「ああ。そいつは女将の作る『必殺定食』をペロリと平らげた」


「…………」


「それからさ、女将と少女の仁義なき戦いが始まったのは。しかし、歴戦の勇士である『超盛りの女将』を前にしても少女は連戦連勝」


「それってもしかしなくとも……」


「ああ。それが彼女――アルカだ」

 俺が知らない内にあいつは一体何をやっているんだ……。


「『異次元の胃袋』『闘食の新星』『天性の料理人殺し』と恐れられている」


「……既に二つ名まで知れ渡っているのか」

 何が始まってしまっているんだ……。


「ああ。そして『必殺定食』は日によってメニューが変わる。そのメニューを見るのが楽しいから俺はここに居るんだ」

 ラルカはそう言って面白そうに眺めていた。奥から酒瓶を持ってきて、既に一杯やっている。自由な奴だな、おい。


 そんな中、女将が料理を持ってやって来る。


「さぁ! これが私、渾身の『必殺定食』だよ!」

 二皿を抱えてやって来た女将。


 その皿の上ではほくほくと煙を立てる、香ばしい肉料理が載っている。


 しかし、驚くべきはその量。十人前は軽く超すほどの量。

 肉にされているのはヒートイノシシ。一メートルを超える巨体をほぼ丸焼きにした量は一人で食うには躊躇われるほどであった。


 中には野菜が詰め込まれており、イノシシの肉汁が沁み込んで良い味を出している。


 あれの一部なら俺もこの店で食べた事があるが……まさか丸々一つ出てくるとは思わなった。



「ちょっと! これの何処が定食なのよ! こんなの食べられるわけないじゃない!」

 早速、レマが抗議している。


 だが、


「あんた、さっき『何出されても文句言わない』って誓約書に書いたじゃないか」

 と女将に言われてしまう。


 それを聞いてレマは「……うぅ」と押し黙るしかない。

 

「甘いですね、金髪幼女さん」

 そんな中、アルカはやれやれを言わんばかりに肩を竦める。


「最初から臆してはこの料理を味わうことは出来ませんよ?」


「……味わうってあんた、妙に自信満々じゃないの? あんたはこれ、完食出来るの?」

 そんなレマの言葉を聞いて、アルカは不敵に笑った。



「ボクは今、貴方と色々やった結果、お腹が空いているのですよ」

 そう言って、アルカはナイフとフォークを構えた。


「見せてあげますよ。お腹の空いたボクの真骨頂を――――」




――――




「ふぅ……ご馳走様です」

 アルカは結局、女将の作った『必殺定食』とやらを三十分と経たず完食してみせた。


 ……凄まじい食べっぷりだった。

 まるで食事がアルカの口に自ら飛び込んでいくかのような、そんな豪快な食べっぷりだった。


 と言うか何だかんだで小柄な方であるアルカの、その胃のどこにあんな量の食べ物を詰め込めるのだろうか。


 一方、


「…………死ぬ。うぷっ、死ぬわ、こんなの、うぷっ、無理よ……無理」

 レマは四分の一ほど食べたところで頭を机に擦り付けていた。


 レマの表情は酷く青ざめていて、そのお腹はまるで妊娠したかのように膨らんでいた。


 そうなる前に食べるのを止めれば良かったのに……。

 しかし、レマはアルカの食いっぷりを見て、「このまま負けたんじゃ真祖のプライドが許さない」とかなんとか言って懸命に食べていた。


 それであそこまで無理をして食べていたのが、結局は途中でギブアップしてしまった。

 まぁあれだけ頑張っただけでも立派だったと言えよう。



「また、アルカちゃんには完食されちゃったわね、これなら次も作り甲斐があるわね!」

 アルカの完食した皿を見た女将はどこか満足気だった。

 どうやら女将としては完食して貰った方が嬉しいらしい。


 それが料理人というものなのだろう。


「今日も美味しかったです!」

 笑顔を見せるアルカを前に、女将も笑う。


「必殺定食も、戦う相手がいなきゃ作りようが無いからねぇ」

 女将は目を爛々と光らせて、速くも次の『必殺定食』とやらのレシピを考えているようだった。



「ところで……」

 女将はレマの方へと向き直る。


「この必殺定食はお残しに応じて相応の代金を支払って貰う。それは分かっているかい?」


「うぅ……負けた以上、それは仕方ないわ」

 レマは女将の言葉に頷く。


 その女将は無言で、紙を渡す。


「…………嘘でしょ?」

 レマの表情が更に青ざめた。


 そこには定食としては余りにも高すぎる額が記載されていた。



 料理でノックアウトさせて、さらに料金で仕留める。



 これは確かに真祖をも倒せる『必殺料理』に他ならないのだろう。




――――





「どうですか!? ボクの優秀さを思い知りましたか! はーはっはっは」

 定食屋から出た後、高らかにそう口にするアルカに対して、レマは悔しそうに歯噛みする。


「うぅ……こ、今回は私の調子が悪かっただけなんだからね!」


「しかし、勝ったのは事実です。それに、確かこの勝負に勝った方は負けた方に言う事を聞かせられるんですよね?」


「くぅ……良いわ! 真祖たる私に勝った事を誇って、今回は私に好きなことを命令すれば良いじゃない! 何を命令するつもり!? けれど、私は真祖たる誇りだけは決して棄てないんだから! 身体は自由に出来ても、心まで自由に出来ると思わないことね!」

 ……なんだその御決まりの捨て台詞は。


 かつてそれと全く同じことを言った後に、すぐに命乞いをし始めた勇者の仲間が居たことを思い出しつつ、アルカが一体何を命令するつもりなのかと興味を持つ。



 あんな取り決めをして負けたのだ。一体どんな事をされたとしてもレマに文句を言う権利は無いが……はたして。



「じゃあ、そうですね」

 アルカは、言う。


「金髪幼女さんのお名前を教えてください」


「いやぁああああ! そんな酷いことぉ! けれど……私は決して屈したりは――――え、名前?」

 レマは呆けた表情を浮かべる。



「名前? もしかして我が真名の事を言っているのかしら? それで呪いか何かを掛けるつもりね! な、なんて恐ろしいことを!」


「真名? なんだかよく分からないですが……。先程からししょーがあなたを呼んでいたお名前がありましたよね? それを自己紹介して下されば構いませんよ」


「……そんな事で良いの?」


「はい!」

 アルカは元気よく、言った。


 まぁ……こいつならそう返すだろう。


 こいつはあらゆる意味で善人だ。今もドルガの残した責任とやらに振り回されて、ティアルカの高難易度の依頼を率先して熟している。


 普通なら投げ出してもバチは当たらないはずだ。

 にも関わらず文句の一つも言わない。


 そんな奴が、「何でも」なんて甘言を前に惑わされるはずもない。


「そ、そう――なら良いわ! あんたのその身に刻みなさい! 私の名前はレマ=ララクレア! 高貴なる真祖よ! 精々恐怖なさい! アハハハハハ!!!」


「分かりました! 宜しくお願いします、レマちゃん!」


「ばっ、馬鹿! 誰がそんな呼び方を許したのかしら!? 私を呼ぶ時はきちんと敬意をもって、様をつけなさい、様を!」


「分かりました、レマ様ちゃん!」


「あんた、この私を馬鹿にしているでしょ!」

 真祖であるレマはアルカに振り回されていた。


 もう真祖って名乗るの止めたらどうだろうか、あいつ。


「それにしても……あんたは、これだけで良いの?」


「どう言うことですか、レマ様ちゃん!」


「…………良いわ、取り敢えずその呼び方はスルーしてあげる。それより、この私に何でも命令して良いのよ? この真祖たる私に! もっと大それた願いをしても良いじゃないかしら!?」

 レマはアルカに願いの変更を促していた。


 いや、黙っておけば良いのに……こいつ、良心の呵責に苛まれたのだろうか。


 もしかして意外と善人なのか、こいつは。



「良いんですか!? では、そうですねぇ」


「ほら、言ってみなさいな! この真祖たる私なら、叶えられる願いも千や万単位であるわよ!」


「分かりました! ボクのししょーになるというのはどうでしょうか!?」


「ぶふぉっ」

 いきなりの師匠変更に俺は動揺を露わにしてしまう。


 いや、確かに最近、こいつには構っていなかったが……。まさか師匠の交代を言い渡されるとは思ってなかった。


「あんた、サタンの弟子なんでしょ? あっ、もしかして私の方が優秀だって見抜いたのかしら? それは懸命ね、何せ本来の力を取り戻した私は最強なんですもの!」

 レマはこちらを向いてにやり、と笑う。

 デコピン一発で彼方まで吹き飛ばしてやりたい衝動に駆られた。



「あっ、違いますよ、ししょー! ししょーと言っても他の分野でのししょーですから!」


「他の分野?」


「ええ。戦闘面でのししょーはししょーで事足りてますので」


「ああ、成程。じゃあ、そうねぇ……知識の師匠ってのはどうかしら? 私、頭もキレるし、聡明ですもの! 他にはそうねぇ、私、古代魔術には詳しいわよ! あとは……精神面での師匠とか……うん! さすが私、色々な師匠が考えられるわね!」


「レマ様ちゃんに頼みたいのはズバリ、遊びのししょーです!」


「やっぱりあんた、私を馬鹿にしているでしょ!?」


「そんな事ありません! 今日、レマ様ちゃんと遊んでいて楽しかったですから!」


「あれは遊んでないのよ! 真祖としてのプライドを賭けた真剣勝負だったのよぉおおおおおおおお!!!!」

 そう言って泣きじゃくるレマをアルカが慰める。


 ……よく分からんが二人は仲良くなった。という事で良いのだろうか。



 仲良く遊ぶ真祖と勇者と言うのはシュールではあるだろうが……、まぁ、良い関係を築けるのであればそれも悪くないのだろう。


 ……まぁ、最早真祖としての威厳なんて無いのだろうが。


 俺は勇者を相手に泣きじゃくる真祖を眺めながら、そんな事を思っていた。


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