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第四十六話 魔王様、アルカ対レマですか?

「……すいません、ししょー」

 酔いが覚めたらしいアルカが頭を下げていた。


 場所は引き続き定食屋の外。そこでアルカは暫くの間、レマとガンを飛ばしあっていたかと思えば、勝負を前にして冷静さを取り戻したらしい。


「ししょーに向かって随分と暴言を吐いてしまい……その」


「いや、問題ない。お前を放っておいたのも事実だしな。それよりも――」


「でも大丈夫です! ボクがきっとあの金髪幼女さんよりも優秀だって証明してみせますから!」


「あ、えっと……そうか」

 俺としてはあの勝負を無かったことにして欲しかったのだが。


 正直、こんな事は面倒ごとでしかない。

 俺としては早くリカバリースライムの魔石によって作成した回復魔具で商売を始める準備を整えたいのだ。


 酔ったアルカとレマによる話し合いの結果、俺は審判兼勝負の趨勢を見届けるための存在として二人へと付き添うことが勝手に決定していた。


 酔ったアルカの強引さにも困ったが、それとは別にレマの無駄とも言えるプライドの高さにも困ったものだ。


 強引にでも断ろうかとも思ったが……、まぁアルカのフォローをするというのは決めていたし乗りかかった船だ。これは仕方ない。


 だが、レマはこの勝負が終わったらどっかに埋めてやろう。



「さぁ、負ける準備は出来たかしら? 人間」


「やたらと高圧的な態度を取る金髪幼女さんですね……。ボクは絶対に貴方なんかに負けませんからね! それよりも……貴方は一体何なんですか! どうしてししょーと仲が良いんですか!?」


「そうねぇ……。どう言った方が良いかしら。私とサタンはかつてのライバル、と言ったところよ」


「ライバル!?」

 アルカは驚いた様子を見せる。そして、俺の方へと振り返った。


 俺は一応、頷く。

 かつては殺しあっていた間柄だし間違ってはいない。


 だが、その言い方には大きな誤解が生まれるような気がするが……。



「ししょーとライバルって……。金髪幼女さん、貴方は一体何歳なんですか!?」


「歳? 真祖は不死身よ。年齢とかいう概念からは超越してしまっているのだけれども。そうね……存在した刻を数えるのであれば……ざっと五百歳よ」

 マジでババアじゃねぇか!


「嘘言わないでください! 大体、真祖って何ですか! 幼女さんの癖して難しいことを言わないでください!」

 しかもアルカはそれを信じていないようだった。


 ……まぁ目の前にいるのが魔族としての高位の存在なんて。

 正直、俺ですら半分信じてはいない。と言うより信じたくない。


 あいつ、実は自分を真祖と思い込んでいる低級の魔物とかいうオチじゃねぇだろうな。

 それくらい彼女は昔の強さからかけ離れてしまっている。


 いや、性格は昔からあんなもんだった気がするが。


「真祖も知らないの、あんたは!? 人間よりも遥かに超越した存在である私に向かって何て口を利くのかしら!」


「またそんな出鱈目を! ……けれど、貴方がただの金髪幼女さんでないことは分かりました。そう言えば貴方は最初、変装してましたよね? その姿も変装、ということですね」


「そうね。本当はもっと高貴な姿なのよ。あんたのような人間ごときは見るだけでも目が潰れるわ」


「成程。……そんなにも化け物染みた姿をしていたと」


「誰が化け物よ! 高貴過ぎて恐れ多いということよ!」

 二人はいつまでも言い争っていた。


 ……これじゃあ埒が明かない。


「良いからお前ら、勝負内容を決めろよ。一体何で勝負するんだ?」


「はッ、そうでした! さすがはししょーのライバル! 幻覚で話を終わらせないとは……ししょーが居なければ術中に嵌まるところでした」

 ……いや、あいつは何もしていないが。


 大丈夫か? この弟子。



「そうですね。ここは実力勝負ということで如何でしょうか? ししょーの弟子として相応しいことをボクが証明してやりますよ!」

 アルカはレマに向かってそんな事を提案する。


 実力勝負か。正直言ってアルカの実力は相当なものだ。かつてのレマなら余裕だが、今のレマでは相手にもならないだろう。


 まぁ、レマは魔眼なんかの能力も戻っているだろうし、アルカの実力を見極めて勝負を受けているだろうから、さすがに断るはず――――


「実力勝負? 良いわよ、受けてやろうじゃないの!」

 レマはアルカの提案をそのまま飲んだ。


 あ、やっぱりこいつ馬鹿だ。


「では、暴れても良いようにティアルカから少し離れましょうか」

 そう言ってアルカは村の外へと向かって歩き出す。レマは意気揚々とその後に続いた。


 どういうつもりなのだろうか、こいつ。

 もしかして何かしらの勝算でもあるのだろうか。


 そう言えばさっき俺の血を飲んだことから幾分か力を取り戻しているだろうし……。


 まさかもうアルカを倒せるまで力が戻ったのか?


「良いのか、お前。そんな勝負受けちまって」

 気になって俺はレマへと聞いてみる。


 すると、


「何言ってんのよ! 相手はただの少女、恐るるに足らないわ! ちょっと鍛えているみたいだけど、どうせ私には敵わないわ。この高貴なるレマ様の力で返り討ちにして、ピーピーと泣かせてあげるわよ!」

 などと高笑いを浮かべていた。


 どうやら真正の馬鹿であったらしい。



「……お前、その魔眼とやらでアルカのステータスが見えないのか?」


「何よ、一体どうしたのよ!? たかだか少女一人よ? 私の魔眼を使う必要も無いわ!」


「そいつ、アルカは一応勇者だぞ」

 俺はアルカを指差して言う。


 何だかんだで五日間お世話になった相手だ。


 俺はそれを教えてやった。


「馬鹿言うんじゃないわよ。あんな女の子が勇者? そんな訳ないじゃないの」

 見た目ただの金髪幼女であるお前がそれを言うのか……。


「良いから。ちゃんと魔眼使って視ろ」


「わ、分かったわよ! 冗談にしては随分と引っ張るわね。あんたってそんなに変な事言う奴だったかしら? 良い? おふざけに付き合ってやるのもこれくらいに――――――――ど、どうしよう。サタン……私、死んじゃうんじゃないのォオオオ!?」


 魔眼でアルカを見た瞬間、レマはガタガタと震え始めた。

 アルカは基本ステータスこそ大したことないが、スキルや祝福に関してはかなりの実力者。


 それを見れば彼女が相当な存在であることはすぐに分かる。


 …………そして、一方でどうしようもない奴とは正にレマの事を言うのだろう。



「仕方ない。これをくれてやろう」

 俺はレマの手のひらにそっとある物を乗せる。


「えっと、これって――――」


「さっきの旅で作った回復魔具五つだ。……せめて死なないようにしろ」


「助けてくれるんじゃないのォオオオオオ!!??」

 泣きじゃくるレマを前に俺はにこりと笑って送り出す。


 身から出た錆だ。むしろ貴重な商品サンプルをあげたんだ。文句を言われる筋合いはない。


 華々しく戦場で散ってくれ、レマ。




――――




 アルカとレマの戦いはそれはもう壮絶なモノであった。



「金髪幼女さん! 覚悟してください!」


「い、いい良いわよ! かか、かかってきなさいよ! あ、あんたなんか、ぜ、全然怖くないんだからね!」


「行きます! 『フロストストーム』」


「ま、待って! こ、これって上級魔法じゃないの!? や、ヤバイわよ、ヤバイんじゃないの、これ!? 死んじゃうんじゃ――――サタン! サタン様ァアアア!! たすっ、助けて! 死んじゃう、死んじゃ――――――ギャアアアアアアア!!!」


 アルカの唱えた上級魔法によって生み出された氷の竜巻に飲み込まれたレマは遥か上空へと飛ばされながら体全体を氷漬けにされていく。


 えーと……回復指輪は五つとも全部発動しているな。少なくとも商品は問題ない。良かった良かった。


 あとは…………奴が死なないように祈るだけだ。



 俺は二人の勝負の趨勢を見守りつつ、そんなことを思っていた。




――――




「あの……本当にししょーのライバルだったんですか?」

 アルカは怪訝な顔つきでレマを見遣る。


 かろうじて生きていたレマは俺の回復魔法でひとまずは復活した。


 だが、氷漬けにされた挙句、上空から叩き落され、氷が若干割れた時は本当に死んでしまったと思った。


 しかし、何とか生きていた。生きていれば彼女の真祖としての生命力をも併せて再生はそこまで苦ではない。


 アルカはそれを俺の回復魔法による力だと思ったようだが。まぁそれは今はどちらでもいい。


「うるさいわね! かつてよ、かつて! 今は真祖としての力の多くを失っているの! それでもまぁ普通の冒険者よりは強いんだからね! ……多分」


「ちょっと自信失くしたな」


「うるさいわよ、サタン!」


「これでボクが貴方より優秀だと納得して貰えましたか」

 そう言って大きな胸を張るアルカ。


 だが、それを見たレマは首を横に振る。



「いいえ! こんなもんじゃ私よりも優秀とは言い難いわ!」


「では、どうすれば納得して貰えるのですか?」

 そう言って対抗心を露わにするアルカ。


 勝負と言っていたのに……何だか趣旨が変わってないか?

 何故、アルカはレマに認められようとしているのか……。


「そうね、優秀さは知性も重要だと言えるわ。ここは一つ、クイズ勝負というのはどうかしら?」


「良いでしょう、望むところです!」


 そう言ってアルカとレマの勝負の趨勢はクイズへと持ち越されることとなった。


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