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第四十五話 魔王様、やきもちですか?

「ししょー! おそいれふよ! 今、なんじだとおもってるのれすか!?」

 俺の弟子であるアルカは現在、行きつけの定食屋にて赤ら顔を浮かべていた。


「何時って……俺は確か暫く留守にするって言ってなかった?」


「留守にして一体なにやってたんれすか!?」


「何って商品開発だが」


「うそおっしゃい! ボクをほうっておいて、金髪幼女さんと仲良くしてたんでしょー!?」


「いや、あいつは協力者ってだけで仲良くしてた訳では……」


「良いんです! ボクなんかけっきょく、ししょーのお役には立てないんれすから! ボクはこうして飲んだくれてるのがお似合いなんれすよ!」


「ちょっと!? ホントにどうしたんだ!?」


 回復魔具の商品開発の旅からティアルカへと帰ってきた事を伝えるためにアルカを捜し歩き、遂には定食屋に居るという話を聞いて来てみれば……何故かこんな事になっていた。


 こいつ……もしかして、いやもしかしなくとも……酔っている、よな?


「すいません、女将。アルカに酒、出したんですか?」

 俺は定食屋の女将へと尋ねる。


 子供が酒を呑むことは原則、禁止ではないが……しかし、あまり推奨はされていない。


 アルカの歳はまだ十六歳。まだ酒を覚える歳ではないはずだ。


 すると、


「いや、アルカちゃんにお酒は出してはいない筈だけど……」

 アルカの様子を見て首を傾げる女将。


 そして、アルカの卓に転がっているコップを見て気付く。


 ……こいつ、炭酸で酔ってやがる。



「ししょー! ちょっとこっちに来てください!」

「……分かった」

 結局、俺はアルカの卓に共に座らされた。


 何か面倒な事が起ころうとしている気がする。


「良いれすか!? はっきりさせてくだはい!」


「……何をだ?」


「どうなんれすか!? あの金髪幼女さんとねんごろなのではないれすか!?」


「そんな訳ないだろ」

 もしかしてこいつから俺はロリコンにでも見えているのか?


 そんな訳――――いや、有り得るな。


 そういや最初、半裸になったレマが俺の部屋を出ていったことがあった。


 あの時は誤解を解いていたはずだが……、まだ疑われていたようだ。



「しんようできません! ししょー、ボクは怒っているのれすよ!」


「…………」

 何故、と返したかったがそれは躊躇われた。


 多分、何を言ったところで今のアルカには通用しないだろう。



「ししょーは最近、昔の女にべったりで、ボクのことなんか忘れてしまったみたいれす!」


「いや、そんな事は……」


「ハッキリ言うれすよ! ボクの方があの娘よりも優秀だと思いますです!」

 酔っ払いの相手をするのは果てしなく面倒ではあったが……これでハッキリした。


 どうやらアルカはレマの奴に妬いているようだった。


 正直、嫉妬する必要なんて微塵にもない。レマかアルカかと言われれば勿論、俺はアルカを優先するだろう。


 いや、ロリコン的な意味ではなく。

 これはお世話になっている度合だ。この五日間、レマはそれなりに役に立ってくれたが、それは先程、大量の血を分けてやったことできっちり清算している。


 それよりもアルカの方にこそ、恩義を帰すべきだろう。


 つまりちょっとしたフォローが必要ということだ。

 アルカにはそれだけ不満が溜まっているのだ。


 ……いや、正直な話を言えば、ずっと彼女に付きっきりになれる訳ではないので、こう言った状況に慣れて欲しいというのが本音だが。


 しかし、不満があるなら話し合いやその他の行動でフォローする。

 そうでなければ折角作った関係性が無駄になってしまいかねない。


「じゃあ、そうだな。今日はお前の稽古に付き合って――――」


「話は聞かせて貰ったわ」

 そんな中、一人の幼女が定食屋に姿を現していた。



 ……俺は思わず頭を抱えそうになった。



「聞こえていたわよ、そこの人間。何かと思えばこのレマ様よりも優秀ですって!? そんな訳ないじゃない! この高貴なる真祖、レマ様の方があんたなんかよりもずっと優秀よ!」

 定食屋の入り口にはレマが恰好良さげなポーズを取りながら立っているのだった。


 俺はレマの元へと歩いていく。


「あら、サタン。やっぱり私の方が優秀だと認めるのかしら? なら主従の契りを交わしても――――痛い、痛い痛い! 頭、頭を鷲掴みにしないで!」

 嫌がるレマの頭を鷲掴みにしながら、定食屋の外へと連れ出していく。



「おい、お前。さっきまでアホみたいに消耗しきってたじゃねぇか。何でもうこんなに元気になってやがんだよ、お前は!」


「そんなのあんたの血、飲んだからに決まってるでしょ! 魔力溢れる血でいっぺんに回復よ! 見てごらんなさい! 高貴なる服も元通りよ!」

 言われてみれば確かにレマは血色どころか服まで元通りの綺麗さになっていた。


 ……こいつ、魔力によって服を具現化してたのか。


 つうか血飲んだだけで疲れが取れるとか便利な身体してやがんだ。

 ウザさが極まっていて非常に腹立たしい。



「良いから今日のところは帰れ。そんで暫く顔を出すな」


「何言ってんのよ! 真祖の誇りが傷ついてるのよ! たかが人間ごときに馬鹿にされたとあっては見過ごせないわよ!」


「お前の誇りなんてもうとうに失われてるだろうが」

 俺はこの五日間でこいつが泣きまくっているところをそれこそ何度も目にした。


「失われている? 馬鹿言わないで頂戴! それに誇りは真祖としての在り方よ! 消耗から復活した今、何度だって誇りは蘇るわよ!」


「…………」

 立ち直りだけは馬鹿みたいに早いなこいつ。



「金髪幼女さん……どうやら雌雄を決してなければいけないようですね……」

 気付けばアルカが定食屋の外へとやって来ていた。



「では、勝負です! 金髪幼女さん! ボクとどちらがししょーの横に居るのに相応しいか白黒ハッキリ付けさせて貰いますよ!」


「望むところよ。この私の真祖としての力……存分に振るってあげるわ!」


 そうしてアルカ対レマによる勝負が始まった。


 ……一体何が始まろうとしているのだろうか。

 俺は肩を竦めながら趨勢を見守るしかなかった。

 

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