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第四十三話 魔王様、小旅行ですか?

去年に引き続き、今年もどうぞ宜しくお願いします!

今年は去年以上に更新頑張りますので、どうぞよしなに!

「………………うーん、分からん」

 俺は幾つも並べられていた回復魔具を前に途方に暮れていた。


 先日、レマにテストさせていた回復魔具のほとんどは正常に機能していなかった。


 それを踏まえ、一から作り直してみたものの、そのほとんどは中級の回復魔法が発動しないのだ。


 かと思えば発動したり、発動しても初級の回復魔法以下の効果しか齎さなかったりと、その結果がそれぞれで異なっている。



 現在、俺はその原因究明を考えている最中だった。


 しかし、考えども考えども、その原因が分からずじまいだった。



 回復魔具……思っていた以上に奥が深い。


 回復魔具のほとんどがスクロール製なのは、俺のように困難に行き当って開発を諦めたからではないだろうか。



 そうであれば俺もまた、困難は必至だ。


 しかし、俺は元・魔王。人間などと一緒にされては困る。

 必ず方法があるはずだ。なにせ全部が発動しないなら兎も角、一部は発動しているのだから。


 その法則を見つけ出せれば解決の糸口へと辿り着くはずなのだ。



 しかし、思いつかない。


 作成工程、付与魔法の掛け方、中級魔法でなく敢えて初級の回復や上級回復魔法も試してみた。


 だが、上手くいかない。一体何が駄目だと言うのだろうか。



 二日ほど寝ずに考えていたが、しかし、どうも上手くいかない。



 ……というか俺は何でこんなに頑張っているのだろうか。


 目指しているゆったりとした生活の為に、何故今こんなにも頑張っているんだ?



 ……などとそんな疑問すら湧いてくる始末だ。



 そんな中、


「サタ――――――ン!! 暇かしら!? このレマ様が遊びに来てあげたわよ!」


 などと宿屋の部屋がバーンと開いた。


 二日徹夜の俺の耳へとキーンと甲高い声が貫いた。


 俺の中の怒りのボルテージが上がっていくのが分かる。



「ほらほら! 魔王辞めたあんたなんてどうせ暇なんでしょ? このレマ様が付き合ってあげるんだから感謝しなさ――――ぎゃああああ!!!」


 小うるさい女へと向けて魔具製作の為に手元にあったハンマーを投げる。

 レマはそれをすんでのところで避けたらしい。……ちッ。


「あ、危ないじゃないの、糞サタン! 私の高貴なる顔が潰れたらどう責任を取ってくれるのよ!」


「何の用だ、なんちゃって真祖」

 俺はハンマーを投げたことにより陥没してしまった床を魔法によって修復しつつ、用件を聞く。


「誰がなんちゃってよ! 正真正銘の真祖なんだからね、私は!」

 ギャーギャーと喚き立てるレマを前にして溜息を吐いた。


 ……ホント、勘弁してくれないかな。



「何の用かしらって!? そんなのどうでも良いじゃない! 高貴なる真祖が来てあげたんだからまずはもっと喜びなさいよ!」


「三秒以内に死ぬか、用件を述べるか選べ」


「待って! ごめんなさい、ちゃんと言うから! だから、その右手に集約させた魔力を引っ込めてよ! そんなんじゃゆっくり話も出来ないわ」


「…………」

 俺は無言で消滅魔法発動を取り消す。


「はー……相変わらず短気ね、あんたは」


「……いや、歳とってから最近は自分でも穏やかになったと思ってたんだけどな」

 どうもこいつ相手には短気にならざるを得ない。


 ……だが、それでも良いと思える。それくらいウザい。



「じゃあ用件だけど……。その、あんたの血、もっと私にくれないかしら」


「なんだ? コウモリどころか蚊にまで退化したのか、お前は?」


「違うわよ! 良い? 真祖ってのはね、それなりに魔力ある奴の血を吸えば新たに力を蓄えることが出来るのよ」


「……やっぱ蚊みたいなものじゃないか」


「血吸うって事しか共通点ないじゃないのよ!」


「良いから続きを話せ」


「うぅ――――ッ!! ……ま、まあ良いわ。高貴なるレマ様の寛大さに感謝しなさい。この前、あんたの血を私、飲んだじゃないの? あれからちょっとだけ力が戻ってるのよ。人間の姿に変わっているとは言え、あんたの血は私の力を取り戻すのにも有効って事よ」


「成程。それで?」


「あんたの血を頂戴。ざっと五千CCくらい」


「殺す気か」


「良いじゃない、ちょっとくらい。それにあんたのそれ、人間の姿を模しているだけでしょ? それくらい大丈夫なんじゃないの?」


「いや……そりゃそうだが。ただ、基本的な事は人間に寄せているからな……五千CCなんて取られたら少なくとも人間の姿は保てなくなる。それに魔族である俺自身にも少なからず影響を及ぼすだろう」

 五千CCどころかその四分の一以下ですら危ないだろう。


 そんな大量の血を分け与える奴が一体どこにいるのだろうか。



「じゃあコップ一杯くらいでも良いわ。ね、ね? 助けると思って……お願い!」


「だから……何で俺がお前を助けなくちゃいけないんだよ……」


「良いじゃないの、ケチ!」

 そう言ってレマはバンバンと床を脚で踏みつけ始める。


 ……迷惑だ。早く帰ってくれないかな、この迷惑真祖。



「ところで……あんた何遊んでんの?」


「遊んでんじゃない。……つうかホントに早く帰ってくれないか?」


「ああ。前の回復魔具の奴ね。そっちに並んでんの、よくよく見れば回復魔法使う奴の魔石ばっか付いてるわね」

 レマは『若干ながら発動していた回復魔具』の山を指差して、そんな事を言った。


 その瞬間、俺は彼女へと向き直る。



「……ッ、分かるのか?」


「え、ええ。そういやこれ、私の魔眼による力かしら。前にあんたから血を貰ったからちょっとだけだけど固有の力も使えるし、魔石の情報を読み取るくらいなら真祖たる私の魔眼でちょちょいのちょいよ」


「…………そういうことか」

 何が共通しているのかと思えば……魔石による共通項があったのか。


 製作過程や、付与魔法、魔法自体には目を着けていたが、それには気付かなかった。



「お前……昔はただのムカつく強敵でしかなくて、今はただのムカつく奴でしかなくなって存在価値すら無くなっていたのに……。本当に生まれて初めて役だったな、助かったよ」


「フフン! もっと感謝しても良いのよ! ……あれ? あんた、今、このレマ様のこと、馬鹿にしてなかった? 馬鹿にしてたわよね!?」


「レマ。お前は自分の事を過小評価しすぎだ」


「え、そうかしら? 私は自分の高貴さを分かっているつもりだったけれど……やっぱり計り知れない自分の力は結局のところ、他人からしか分からないもの――――」


「お前は自分では計り知れないほどの大馬鹿だぞ」


「誰が大馬鹿よ! 今に見てなさい! あんたから血を貰って力を取り戻したあかつきにはあんたを消し飛ばしてやるんだからね!」


 そういうところが馬鹿だと言っているんだが……。


 自分を殺そうとしている奴相手に、誰が血を分けるというのだろうか。



 しかし、回復魔具の問題点が魔石にあると分かったのは収穫だ。


 となれば……善は急げ、だな。



「レマ。お前、血が欲しいんだったよな?」


「あら。とうとう私の軍門に下る気になったのかしら? 良いわよ、なんなら眷属にしてあげても!」


「要らん。じゃあバイトしないか?」


「バイト?」

 レマは怪訝な顔つきになった。


「ああ、バイトだ。俺の仕事に付き合う報酬としてお前は血を分けてもらう。……どうだ?」


「報酬……まぁ、良いわ。この私に相応しい仕事なんでしょうね?」


「勿論だ」


「……待って! この前みたいに回復魔具のテストに付き合わされるんじゃないの? 嫌よ、私!」

 などと反論するレマ。


 ……馬鹿の癖して変な知恵をつけやがって。



「仕事って言っても実質、俺の話し相手みたいなものだ。ちょっとした小旅行に付き合う感じだな」


「旅行に行くの?」


「途中、色々付き合ってもらうかも知れないけど、良いよな?」

 俺は『色々』を若干ながら強調しつつ、言う。


 だが、レマはそれには気付かない様子だった。



「ま、それくらいなら良いわよ! 私に相応しい仕事ね」


 ……ホント、ちょろいなこいつ。



「よし、じゃあ早速出掛けるぞ」


「え、今からなの?」


「善は急げだ」

 俺は必要な物を異空間へと仕舞うと、部屋を出ようとドアを開けた。


「あ、ししょー!」

 そこにはアルカが立っていた。今からドアをノックするつもりだったらしい。


「あの、今お暇で――」


「すまん、アルカ。三日ほど留守にするが、心配しないでくれ」


「え、あれ? あと……ししょーの知り合いの人も!」


「ちょっと旅行に行ってくるわね。留守は宜しく」


「え、その……」

 アルカは何か言いたげにしていたが、構うことなく俺とレマはその場を立ち去った。


 まぁ後でフォローしておけば良いだろう。



 そう思い、俺とレマは手ごろなところで転移魔法を使うのだった。

 

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