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第四十二話 魔王様、テストですか?

「な!? 貴方は先日、ししょ……サタンさんの部屋から出てきた金髪幼女さん! サタンさんに何の用ですか?」

 いきなり部屋へと入ってきた金髪幼女もといレマに対して、警戒の姿勢を示す。


 レマの服装は以前とは違い、ふわふわのレースで彩られた黒色のドレス服を着用していた。確かゴスロリ服、というものだったか。


 髪は前と同じくツインテールに。見た目だけなら可愛らしい小さな幼女のようである。

 ただし、態度が不遜で、生意気さが全面に表れていた。


「アルカ。こいつには俺がお前の師匠だって事を隠さなくても良いぞ」


「え、そうなんですか?」

 意外そうな顔を向けるアルカに対して、言う。


「ああ。まあちょっとした知り合いみたいなものだからな」

 ちなみに既に前の金髪少女とこいつが同一人物であることは説明している。



「何をこそこそ話しているのよ、サタン! 私が受けた精神的苦痛は万死に値するわ! 今、私に赦しを請うと言うのであれば特別に許してあげても良いわ!」


 ……何故、この状況でこいつに許して貰う必要があると思っているのだろうか。


 だが、まあ良い。こいつにはやって欲しいことがあるからな。



「レマ。先日はとんだ無礼を働いて済まなかった」


「……へ?」

 頭を下げる俺に対して、呆けた様子を見せるレマ。


 ……俺の態度がかなり意外であったようだ。



 まあ、本来だったら八つ裂きにしようと思っていたくらいだからな。



「この前は高貴なお前が力を失ったと聞いて気が動転していたんだ。つい力を暴くような真似をしてしまった。許してくれ」


「あ、あら? 意外ね。そんな簡単にへりくだるなんて……あんたもこの何十年かで随分と丸くなったのかしら? 前は血で血を洗うような殺し合いでもしないと頭なんて絶対下げなかったのに」


「……若い頃はな」

 あの頃は『頭を下げる』という行為が大きな武器になるという事を知らなかっただけだ。


 時には頭を下げて相手の溜飲を下げた方が良い時もある。相手に敬意を示すことが重要なのだ。


 とは言え、


「まあ、あんたがそこまで言うからには寛大なるこのレマ様が許してあげましょうか! はーはっはっはっは!」


 …………ここまでちょろい奴もそうはいないのだが。


 皆こんな奴ばっかだったら交渉事もすんなりいくのになぁ。



「敷いては高貴なるお前に是非ともやって貰いたい仕事があるんだが……」


「何、何!? 私にやってもらいたい仕事ですって!? しょうがないわねぇ! あんたに恩を売っておくに越したことは無いから、仕方なく! 仕方なくやってあげるわよ!」


 ……うぜぇ。


 ただ、まあ言質は取った。



「じゃあ、何だ。ちょっとした実験みたいなものに協力してはくれないか?」




――――




 場所はティアルカから少し離れたところにある森林地帯。


 そこで力を失った真祖と、一匹のキラーファングとが対峙していた。



「あの、ちょっと……? 待って、待ってよ、サタン! これ、どういうこと!? こんなの聞いてないわよ! 私、力を失っているのよ!?」


 キラーファングは中級の魔物。ただ、以前のレマであればデコピン一発で消し飛ばせるレベルの魔物でもあった。


 しかし、彼女はたかだか一匹のキラーファングを前に茫然自失と立ち尽くしていた。



 ……どうやら本当に力を失っているらしい。しかも、以前とは比べ物にもならないくらいに。



 俺はと言えば彼女を遠巻きに眺めていた。

 ちなみにアルカはここにはいない。転移魔法で移動するに当たっては居ない方が都合が良かったのだ。



「お前の指に着けた指輪があるだろ? それ、回復魔具だから。きちんと発動するか確かめたいんだ。その栄誉ある実験台としてお前が選ばれたという訳だ」


「回復魔具の実験台!? なにそれ、私、このキラーファングに殺られろってことなの!? 嫌よ! なんで高貴なるこのレマ様がそんな事をしなくちゃいけないの!」


「大丈夫、大丈夫。死ねなんて言ってないからな。何と言うかこう……良い感じの怪我をしてから、その魔具で回復してもらうだけで良い」


「謀ったわねぇえええええええ、サタンンンンンンンッ!!!!!」


 ……いや、今頃気付いたのか。


 とは言え、もう遅い。俺の商品テスターとして存分に働いてくれ。



「ふッ、まあ良いわ。下賤なる魔物よ! あんたの目の前にいるのが一体誰だと思っているの? 高貴なる真祖にして、絶対的な支配者! レマ=ララクレアよ! 分かっているの? 今、今だったら私もあんたを許してあげるわ。早々に立ち去りなさい……え、ちょっと待って! 立ち去れって言ってんの! 立、ち、去、れ! ちょ、ちょっと……怒ってるの? わ、分かった! 怒らせたのは悪かった、悪かったわよ! だから、ほら、話し合いで解決しましょう? あッ、す、すいませんでした! お願いよ!」


 話が通じない魔物相手に交渉を仕掛けているのか、あいつは……。


 馬鹿を通り越してすげぇ奴だ。いっそ感心すら覚える。


 だが、当然魔物であるキラーファングには交渉など通じない。



 どうにか説得させようとしているレマに向かって渾身の横薙ぎを披露してみせる。



 ただ、レマはどうやらすんでのところで避けたようだ。


 ……あれ、喰らったら首飛んでたかもなぁ。

 まあ真祖って基本不死だし、死ぬまではいかないと思うが……痛いだろうな。


「じょ、上等よ! 畜生ごときがこのレマ様に立て付こうなんて百年ははや――――ッ、キャアアアア!! 待って、待って! 掠っただけで血出たわよ! こうなったら……ちょ、ちょっと!? サターン!! この指輪、回復魔法発動しないんだけど!? 魔力を籠めようが、うんともすんとも言わないんだけど!? きゃ、キャアアアアア!!  ちょっと、ちょっと待って! 許してお願い!」


「指に着けた十個全部試したのか? 一個ずつ試してみてくれないか?」


「馬鹿! そんな事言っている場合じゃ―――――ぎゃああああ!!! 死んじゃう、ホントに死んじゃうぅううううう!!!」


「大丈夫大丈夫。お前、真祖だし。どんだけ力を失っても不死の存在だから。死ななきゃ俺が助けてやるから安心しろ」


「安心出来る訳ないでしょ? こ、この指輪はどう!? 指輪よ、我が呼び声に従い、あんたの真の力を見せ――――ちょ、ちょっと割れたわよ、この指輪! 魔石の部分がぱっくり割れてるわよ! どうなってんの!? 不良品渡してんじゃ―――――だ、駄目! もう死ぬから、死んじゃうからぁああああああああ!!!」



 結局、レマの着けた回復魔具は発動することなく、彼女はキラーファングの猛攻から逃げ回っていた。


 これによって俺の溜飲は下がったが、しかし、商品である魔具のテストは失敗に終わったのだった。



 一方、


「うぇええええええ!! こ、殺されると思ったァアアアアア!!」


 レマは泣いていた。高貴なる真祖とやらがそれこそ滂沱と涙を流していた。


 ……最終的には俺がキラーファングをぶっ飛ばしてやったとは言え、さすがにここまでにもなると少し罪悪感があるな。



「ちょっとムカついていたとは言え、悪かったよ。それに商品のテストも出来た。礼を言う」


「……じゃあ、……して」


「何?」


「私のお願い聞いて! 私の言う人間を殺してきてよ!」


「お前、それまだ言ってんのか」

 その人間とやらが誰かは知らないが……よっぽどの事をこいつにしたんだろうか。


 ……いや、こいつなら「睡眠が妨げられた」とかいう理由でも相手に因縁を着けそうだ。


「断わる。それは出来ん」

 しかし、俺は彼女のお願いを断る。



「何でよ! 良いじゃない! 魔王は人間を殺すものでしょ!?」


「今は魔王じゃないと言っているだろうが……。それにそんな殺し屋みたいなお願い聞いてやる義理がお前にない」


「……じゃあ他のお願いなら良い?」


「何だ?」


「血をちょっと頂戴。それで多分、元気にはなるから」


「……分かった」


 それくらいなら……まぁ、良いだろう。


 俺は自分の右手を少しだけ切って、彼女の唇に近づける。


 するとレマは俺の右手へと舌を伸ばした。


 その途端、レマは目をカッと見開いて、言い知れない表情を浮かべた。



 まるで至福の時とでも言わんばかりに、満面の笑みを浮かべていた。



「ねぇ、サタン! もっと、もっと頂戴! それで今回の事、水に流してあげるから!」


「それは今後の働き次第だな」


「今後……? ねぇ、もしかして今回みたいな事、また繰り返すつもりじゃないでしょうね?」


「…………」


「ねぇ、なんか言ってよ! 私、嫌よ! もうこんな事、絶対嫌なんだからね!」


 思ったよりも良いカモ……もとい実験台を見つけたのかも知れない。


 俺はそんなことを思っていた。


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