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第四十話 魔王様、お楽しみでしたか?

 俺とレマはお互い椅子に座って、話を続けていた。


「ある男?」

 渋面を浮かべる俺に対して、レマはふふんとドヤ顔を浮かべていた。


「ええ、そうよ。とある人間の男よ。魔王であるあんたなら楽勝でしょ? パパっと行って焼くなり煮るなり、拷問した挙句、オブジェにするなり殺った後は好きにして良いわよ」


「……何故、俺がそんなことをせにゃならんのだ」


「え? だってあんた、人間の四肢を引き裂いたりして弄ぶのが趣味の変態糞野郎でしょ?」


「人になんてイメージを持ってやがる!」


「『勇者』の連中に似たようなことをしていたって聞いたけど」


「…………いや、あれは仕事の一環でな」

 確かに俺へと歯向かった勇者に対して、責め苦を与えたことはあったが……。


「それにあんた、昔は殺した相手の内臓とか平気で喰らってたじゃない。あれ、私たちの間では批難の嵐だったわよ? 『あんな悪魔みたいな奴に従えるか』ってね」


「……そんなことをした覚えはないが」


「あれ? ……ああ、あれは配下の吸血鬼たちの士気を高めるために私が嘘情報とか、あれやそれや流したんだっけ?」


「お前の所為じゃねぇか」

 そう言えば和解した後も吸血鬼たちの心証が何故か長い間、悪かったっけか……。


 元々殺し合いした相手だし仕方ないとは思っていたが……。あれは全てこいつの所為だったのか。


 お陰でこちとら心象を良くするためのフォローに奔走することになったんだったなぁ。



「まぁ良いじゃないの。あれよ、あれ。時効って奴よ」

 そんな風に冗談めかすレマ。


 ……こいつは俺に喧嘩でも売っているんだろうか。



「それで? 可愛い部下からのお願い、聞いてくれるんでしょうね?」

 お願いする立場の癖にふんぞり返っているレマ。


 ……とてもお願いする姿勢じゃない。


 とは言え。俺の返事は最初から決まっている。


「断わる」


「さっすがサタン! あんたなら殺ってくれると思ったわ。じゃあ早速だけど、その男の事を詳しく……って! え!? 今、なんて言ったの? 私の高貴なる耳には変な声が聞こえてきたんだけど……」


「断わるって言ったんだ。八十年経ってボケたか、ババア」


「誰がババアよ! 真祖は不死身なのよ、ふ・じ・み! だから年齢とかそういうしゃらくさい概念は存在しないのよ! 次、そんなこと言ったら血吸いまくってカラカラの干物にしてやるんだからね! ……じゃなくて! 何で断わるのよ! 魔王なんて敵殺してなんぼのもんでしょうが!」


「理由が聞きたいか?」


「ええ。こんなんじゃ納得できないわ」


「……ならば教えてやる」

 俺は居住まいを正しつつ、彼女に言ってやった。



「お前の態度が気に食わない」


「はぁ!? 何よ、それ! あんた、魔王でしょ? 部下のちょっとした茶目っ気ある態度くらい大目に見なさいよ!」


「お前のそれは茶目っ気ある態度、程度のものではないと思うが……」

 魔王軍は何だかんだで規律をしっかりさせてきた。


 規律乱れる態度を取る奴がいれば態度を改めるように徹底させてきたのだが……。


 こいつの場合は和解提携後、何故か長い間姿を消していたからなぁ。


 教育する前に姿を消していれば俺とてどうすることもできない。


 まぁこの通り、面倒な奴だったし、真祖が長い間姿を眩ますなんてことはそれこそ日常茶飯事だったから放っておいたんだが……。


 とは言え今、こいつが俺の目の前に現れたとしても俺に責任を果たすよう言われる謂れはない。


「そもそも俺は今魔王ではないからな」


「魔王じゃない? え、なに、ホント? あんた、魔王辞めちゃったの? いつ?」


「極々最近だ。今は休暇中の身であるから、お前のような糞生意気な部下を正す責任も無いし、当然お前のお願いを聞いてやるような責務もない。そういう訳だ。消えろ、ぶっ飛ばされん内にな」


「え……えぇ……」

 レマは俺の言葉に困惑の表情を浮かべた。


「納得できないか? なら実力でケリを付けても良いぞ。俺には今、魔王という責任ある立場にないから多少のことであれば無茶も利く。それに相手はお前。消えたとしても問題はない」


「え、いや……それはちょっと……」

 俺はレマのその受け答えから、悟った。



「――――お前、やっぱり力を失っているな」


「え、は、はぁ!? な、なにを根拠にそんなこと言ってるのよ!」


 声色に動揺が色濃く浮かんだ。

 

 ……嘘が吐けない奴だ。



「俺がお前を最後に見たのが八十年くらい前。ただ、その時は血の気が荒くて、無鉄砲。自分の我を通すためだったら平気で味方を巻き込んで魔王軍との無謀な殺し合いに挑むような、そんな我儘姫様気質。そんなお前が『人を殺して欲しい』なんて他人に頼むはずがない」

 八十年前の事とは言え、そもそもこいつは俺と実力が拮抗するくらいには強かったはずだ。


 そんなこいつが他人へと『殺して欲しい』なんて頼む方がおかしい。


「あれよ! 気分よ、気分! 今は気分が乗らないだけよ!」


「気分が乗らないだけで俺の魔力を探り当ててここまで来たってのか? 俺達がダンジョン調査をした時の僅かな魔力残滓を追ってここまで来たらしいが……、それを各地のギルドやらの情報網を使ってティアルカの冒険者が依頼を請けたと探り当てる。それがどれだけの面倒事だったか、分からない俺ではない。こんな事を気まぐれでやったとは、とても思えないな」


「うぅ……」


「それにお前、その姿も変身魔法やらスキルやらを使用しているな? 俺相手にハッタリが通用すると思っているのか」

 俺はレマへと手を翳すと、魔法効果解除の魔法を唱える。


「ちょ――――待って!」

 そんなレマの抗議の声が届く前に、俺は彼女の変身を解いてしまった。


 目の前に居たのは金髪ツインテールの幼女だった。


 先程の面影こそ残っているが、顔や身体つきは幼くなり、スラリと伸びた手足はちんちくりんへと変わってしまった。


 着けていた長袖の真っ黒なコートは全身をすっぽりと覆ってしまっており、足先にはショートパンツと下着が脱げ落ちていた。


 レマは真っ赤な顔をプルプルと震わせて、俺を睨みつけていた。



「よ、よくも真祖たるこの私に恥をかかせてくれたわね! もうサタンなんて知らない! 老け顔、馬鹿おっさん! ばーか! ばーっか!」


 そう言ってレマは泣き腫らした顔のまま、部屋を出て行ってしまった。



「…………。力を失っていると思ったがまさかここまでとは」


 真祖は魔族の中でも高位の存在だ。

 その姿形は魔力で保っており、魔力を失えばそれが姿形に現れることもある。


 しかし、幼女の姿しか保てないほど魔力を失っているとは思わなかった。



 あいつはプライドが高い。もしかすれば悪いことをしてしまったかも知れない。


「…………いや、自業自得か」

 そこまで考えたところで、基本的にはあいつの自業自得であることに気付く。


 それにいきなり「人を殺して」とか言われても反応に困る。

 俺は殺し屋でも何でもないのだ。


 それよりやることは色々と溜まっている。

 あんな奴に構っている暇はないのだ。



「し、ししょー」

 そんな中、入れ替わるようにしてアルカが部屋へと入ってきた。



「今……その、半裸の幼女が、ししょーの部屋から出ていったのですが……」


「……え?」

 アルカにそんな事を言われたところで、俺ははたと気付いた。


 半裸の金髪幼女が泣いたまま、外へと飛び出す状況。



 ……これは、半端なくマズイのではないだろうか。


 そして、

「ししょー……こ、これは……」

 アルカの手の中にはレマが着けていた下着が握られていた。



「待て、誤解! 誤解だ!」

 俺は決意した。


 ――――レマ=ララクレア。今度あったら八つ裂きにしよう。

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