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第三十九話 魔王様、真祖ですか?

 金髪ツインテール女はアルカを睨めつけると次々と捲し立てた。


「はーはっはっは! 変身スキルで誤魔化そうたってそうはいかないんだから! 私は事前にこの女から聞いているのよ。あのダンジョン調査依頼を請けたのが貴方ってことはね!」

 金髪ツインテール女はマリナを指差しつつ、言う。


 そして、当のマリナは困惑していた。



 ……どうも悪い方向に話が進んでいるようだ。



「え、え? あの……」


「何かしら? 貴方が言ったのよ? 『ダンジョン調査依頼を達成したのは小さな女の子ですよ』ってね! あのダンジョンに残る魔力残滓を見れば敵がかなり強者だったのは間違いない。そして、ダンジョンに残っていたもう一つの魔力残滓はサタンのもの。つまり敵を倒した少女はサタンだって言うこと。どう? この完璧な推論! さすがは私! レマ様に掛かればサタンの変装なんて見抜くのは簡単なのよ! 少女に化けるなんて中々に考えたものね! しかぁし! このレマ様を出し抜くことなんて出来はしないんだから!」


「あの……サタンさんはあちらの方なんですが……」


「……は?」

 金髪ツインテール女は俺の方を見遣る。しかし、すぐに鼻で笑ってみせた。


「嘘おっしゃいな。あんなくたびれたおっさんみたいな奴がサタンの訳ないじゃない。私の魔眼からは逃れられないのよ。さぁ、サタン! 正体を現しなさい!」


「あの……ボク、本当にサタンさんではないのですが……。あの、変身スキルって一体……?」


「え……え?」

 アルカの言葉に今度は金髪ツインテール女が困惑する番だった。


 マリナ、アルカ、そして俺を交互に見遣ると、そして渋面を作る。



「は? ホント? ホントにこの男がサタン……なの? こんなおっさんが?」


「お前……ちょっと来い」

 俺は金髪ツインテール女の首元を掴むと、廊下まで引きずっていった。



「い、痛ッ! 痛いわよ、この馬鹿! いい加減にしないと殺すわよ! このレマ様を一体誰だと思っているわけ?」


「知っている。お前、レマ=ララクレアだろ? あれ、なんだったか? 蝙蝠から何だかの魔物の……」


「真祖よ! 真祖の吸血鬼! レマ=ララクレア! 覚えていたようね、サタン!」


 レマ=ララクレア。

 俺の古い知り合いである魔族だ。


 古い知り合いと言うか……、むしろ敵対関係である間柄だった。


 レマは俺達の領土に属する魔族でこそあったものの、当初は「魔王」には従わず抵抗する姿勢を見せていたのだ。


 その関係は先代であった魔王から続いており、俺もこいつらの対処には苦労させられた。


 しかし、それも八十年くらい前の話だ。



 正直、忘れていたくらいだったが、この尊大に過ぎる態度を見て思い出した。


 だが、それよりも今はするべきことがある。



「良いか? 覚えていたとかいないとか、昔の話とかは今、どうでも良い」


「どうでも良い? 言い訳ないじゃない! 折角、このレマ様が尋ねてきたのだから豪奢な御持て成しを即刻用意して――――」


「良いから従え。従わなければ殺す」


「……わ、分かったわよ。要件次第で従ってあげるわ! でも、別にあんたのことが怖いわけじゃないんだからね!」


 なんだか非常に神経を逆撫でさせられている気がするが……。


 まあ良いだろう。それより今は現状の打破だ。


 さっきレマは俺と旧知の間柄であるように匂わせながら、俺には全く気付かなかった様子を見せてしまっていた。


 つまり、今のこの俺の姿が変身スキルで変化してみせたものだとバレる可能性がある。


 正直言ってこんなアホな奴に構っていて、今まで築きあげたものが壊れるのは勘弁して貰いたい。


「良いか? さっきのあの2人の前で『えぇ!? あんたがサタン!? 久しぶり過ぎて分からなかったわ!』と言え」


「え? 何でそんなことする必要があるの? と言うかあんた、人間の、それもくたびれたおっさんなんかに変身して一体何してんのよ? 変身するならもっとこう、イケメンっぽい奴に変身した方が良いんじゃないの?」


「ぐちぐち言ってないで良いからやれ。でないと殺す」


「わ、分かったわよ」

 レマは仕方なくと言った様子で頷いた。


 俺とレマは部屋へと戻る。そしてレマは若干棒読みながら、こう言って見せた。


「えぇ、あんたがサタン? 久しぶり過ぎて分からなかったわー。と言うか何よその老け顔! ホントもうちょっとどうにかならなかったの、それ?」


 何故、アレンジを利かせる!?


 そのまま言って貰えれば「そうだな、俺も歳を取ってちょっとは変わったかもな」とかなんとか言って、後はごり押しで誤魔化せたのに。


 レマを見れば何だかしてやったり、みたいな表情でウィンクしていた。


 ……これで上手くいかなかったらこいつをすぐにでも八つ裂きにしよう。


「なッ、サタンさんはちょっと老けているのが良いんですよ! くたびれた表情もダンディで素敵じゃないですか!」


「ボクもそう思います! ししょ……サタンさんを馬鹿にしないでください!」


 よく分からないがマリナもアルカも気分を害した様子だった。


 俺は何とか誤魔化すようにレマへとサインを送る。


 レマは「任せなさい」と言わんばかりにウィンクしてみせた。



「違うわ、さっきのはあれよ、えっと……照れ隠し的な何でもない何かよ! もう老けた姿が恰好良すぎて私、胸がときめいて仕方がなかったわ。あと、えっと、……そうだわ! なんかこう、くたびれたおっさんって感じで素敵よね、こう……すぐ殺せそうな雑魚っぽい感じとか、すこぶる素敵だと思うわ!」


 こいつは今すぐにでも殺されたいのだろうか。


 しかも「私、良い仕事したわ!」みたいな感じで胸を張っているのが余計に腹立たしい。


 これに対する二人の反応はと言えば、


「……もしかして、新たな敵が来たということですか? しかも美人だし、何か昔の女っぽい……、これは警戒した方が良いんでしょうか」

 

「これ、ししょーの彼女さんとかですか? それならボクはお邪魔かも……いや、ししょーはそれでもボクのししょーですから! 応援しないと……さっき他の事で忙しくなるって言ってたし、彼女さんに時間を取られたらボクの稽古につける時間が……」


 マリナとアルカ。二人それぞれでよく分からない反応を示していた。

 つうかこれで押し通せる……のか……?


 いや、何だか余計に場が混乱している気がする……。



「…………あのな、実はな」


 もうレマに任せてはいられないと考えた俺は自ら事情を説明した。


 アルカは昔の知り合いで、かなり久しぶりだったらしいから俺がサタンであるとは気づかなかったらしいと。


 あと変身スキル云々を言っていたのは彼女特有の小粋なジョークだと。


 取りあえず急場しのぎにでもなれば良いかと思ったが、



「……そ、そうなんですか。昔の女とかでは無かったのか」


「そういう事なんですね。一瞬、驚きましたよ」


 と一先ずは納得してくれたらしい。



 だが、今度ボロが出たら危ないだろう。



「では、その……私はこれで」

 その後、マリナは部屋から去っていった。


「な、何かあればいつでも呼んでください! なにかなくとも来たいくらいなので!」


 最後、そんな事を口にしていたが……。


 さすがはマリナだ。一冒険者に対してもそんな熱心な姿勢を持ってフォローに回ってくれるとは頭が下がる思いである。



「では、ボクも! お二人で積もる話があると思いますので!」

 そう言ってアルカも部屋を後にする。


「それにボクが居るとあれとかそれとかできないかも知れませんし……」

 最後に顔を真っ赤にしてそんな事を口走っていたが……、一体俺が何をやらかすと思っているのだろうか。



「……それで」

 部屋でレマと二人きりになった後、俺は彼女を見遣る。



「お前、これで大した用事じゃなかったら許さないからな」


「ちょッ!? あんた、凄い魔力出ているわよ! ここら一帯吹き飛ばすつもり!?」


「おっと」

 あまりの怒りに若干我を忘れてしまっていたらしい。


 ちょっと面倒なことがあったからと言って怒りを表に出していては駄目だ。


 もっとクールにいかなければ。


「……それで? お前は何をしに八十年ぶりに俺の前に姿を現したんだ? しかも元は敵同士、よっぽどの理由が無ければ殺すからな」


「物騒ね、あんた。歳取って落ち着いたのかと思えば、中身はそんなに変わってないんじゃないの? それに敵同士って言っても最後はちゃんと従ったじゃないの」


「派手に殺し合いした後に、ようやく協定結んだかと思えば、その条件が多額の和解金だったのにか? それで従ったと言い張るとかお前は頭がおかしいのか?」


「おかしくないわよ! 私たちが真祖としての誇りを引っ込めるのに必要な金額がそれだけだったって話しよ」


 がめつい真祖だ……。


「まあ良いわ。昔の事は水に流しましょう。私がここに来た理由、それは――――」


「それは?」


「あんたにある男を殺して欲しいのよ」


 そんな殺人依頼が俺の元へと運ばれてきたのだった。

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