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第三十七話 魔王様、幕引きですか?

「こ、殺して……ころ、してくれぇ……」


 死ぬ直前の痛みを何千回と繰り返した後、グラスラはとうとうその言葉を口にした。


 時間としては一ヶ月程度。正直、一年くらいは付き合っても良いものだと思っていたが……拍子抜けだ。


「殺して欲しいなら……代価を寄こすんだな」


「だい……かぁ……」

 グラスラは焼け爛れた喉でようやくその言葉を口にする。


 俺の火炎魔法を受け続けた結果、舌と喉が損傷したのか上手く喋れなくなっていた。

 二週間前くらいであれば、この程度の怪我は一瞬で回復していたのだが……。


 あまりにも死に過ぎたのか、回復力を担う魔力を無意識に生命維持へと回したのだろう。

 だが、その反射的な行為が何度死ぬほどの痛みを味わっても死ねないという拷問を繰り返してしまったのだが……。


 まあ実力が伴わないにも関わらず、不相応にも回復力などのスキル熟練度を鍛えた奴の末路だ。これは仕方ない。 


 そんなグラスラに向けて、俺は目的を果たすため口を開く。


「ああ。俺が知りたいのは貴様らの魔物における強化方法だ。近隣での魔物の凶暴化、そして……キラーファング。貴様らは魔石に干渉、負荷を掛けて強制的な改造を施していたな? あれはどのような技術なんだ?」


「あ、あぁ……」


「ああ、そうだったな」

 俺は奴の首から上に向けて回復魔法を施した。


 暇なときに回復魔法、スキルを鍛えておいた結果、それなりに成長を遂げている。

 アルカの毒消しのような失態は二度と犯したくはないからな。


 見るに堪えないほどボロボロだったグラスラの顔が修復される。同時に舌や喉も回復しただろう。


 そして、グラスラはその言葉を口にした。


「……メルシア」


「……何?」


「メルシア、様……魔物、けんきゅう、における第一人者……、その方が、知って、いるだろう……」


「そうか」

 その瞬間、俺の超級魔法によりグラスラは跡形もなく消し飛んだ。


 回復スキルもそれを生み出す源となる魔石をも吹き飛ばされては発動しない。



 こうして、グラスラはこの世から完全に姿を消した。




――――




「えっと、ここは……」

 異空間から外へと出されたアルカはきょとんした様子で辺りを見渡す。


 こいつにしてみれば十数分くらいの出来事だっただろうが、俺にしてみれば一か月ぶりに見る顔だった。


 彼女は俺の方を見遣ると、見る見る内に涙を流し始めた。

 そして、俺へと抱き着く。


「ししょー! だ、大丈夫でしたか!?」

 おいおいと涙を流すアルカ。


 そんな彼女の頭を撫でつつ、俺は答える。


「ああ、問題はない。それに全て事は済んだ。ダンジョンは……このまま崩壊するだろう。調査依頼だったが、まあ問題はない」


「違いますよ、ししょー!」

 アルカはぶんぶんと首を横に振る。


「ししょーは大丈夫でしたか!? お怪我は無いですか!? どこも痛くないのですか!?」

「…………」

 アルカの言葉に俺は一瞬だが、言葉に詰まる。


 まさか身体の心配をされているとは思わなかったからだ。



 魔王が人間に、しかも勇者に体調を心配されるとはな。



 考えても見ればシュールな光景だ。



 ……とは言え。



「大丈夫だ。あれくらいの敵で苦戦するような俺ではない」


「さ、さすがはししょーです! 恐れ入りますです!」

 アルカは真っ赤になった目に、尊敬の念を浮かべた。


「あと……その」


「なんだ?」


 アルカは俺から離れると、やがて言い辛そうに下唇を噛んだ。


「そのですね、……ドルガさんは、どうなりましたか?」


「……、聞きたいか?」


「はい」


「……俺が殺した」

 誤魔化す事も考えたが、最終的には真実を伝えた。


「そう、ですか」

 アルカは悲しそうに言う。


 人間は同族殺しを忌み嫌う。


 アルカは今後も役に立ってくれるだろうが……、しかし、何故か誤魔化す気にはなれなかった。


 これで彼女が俺の元を去ったとしても止む無しと言う気がしていた。


 だが、


「ししょー……辛い役目を押し付けてしまい申し訳ありません」


「役目?」


「ええ。本来は勇者であるボクがやらなければいけなかったことです。それを……その」


「…………」

 意外だった。


 俺は罵られても仕方ないとすら考えていたのに。


「ボク、頑張りますから……ししょー、これからも宜しくお願いします」

 そう言ってアルカは泣きながら微笑むのだった。



 俺は魔王をやっている際は、勇者くらいしか人間を知らなかったが……。

 情緒豊かな奴だ。人間とは皆、こうなのだろうか。



「あと、ししょー。もう一つだけ」


 アルカはそう言って涙を拭いて、はにかんだ。


「おかえりなさい、ししょー。帰ってきてくれて、ありがとうございます」


「…………」

 そんな彼女に対し、俺は逡巡しつつもやがてこう答えた。


「ああ、ただいま」


 その瞬間、アルカがまたも抱き着いた。


 涙を滂沱と流すアルカを俺は引きはがせずにいた。



 ……まぁ、涙と鼻水で服が汚れるくらいは勘弁してやろう。




――――




 今回のダンジョン調査依頼もまた、アルカ=ベイストの功績という事で報告しておいた。


 ドルガ=マクラインとその取り巻き冒険者の死亡は俺達の報告によって処理されることとなった。


 ギルドはそれらの死体を確認することができなかったが、冒険者稼業に死はつきもの。報告によって簡単な処理が行われたらしい。


 ただ、今回はドルガの死以外にも収穫はあった。


 グラスラの口から出た「メルシア」という者。敵国の魔族であることは間違いないだろう。


 だが、魔王である俺はその名前を知らない。

 敵国の幹部クラスの連中の名前くらいは最低限、頭には入っている。


 それに無いと言うことは……恐れるに足らないということか。


 それとも……それほどに隠密に活動してきた奴ということだろうか。



 俺はこれをグレゴリウスらに報告することによって、一応の幕引きとした。


 ただ、今回のように今後もこの名前に苦労させられることがあるかも知れない。



 警戒だけは怠らないようにしておこう。




――――




 グラスラが消滅してから一週間の時が過ぎていた。


 グラスラが根城としていたダンジョンはグラスラによる魔力供給を失った影響から既に半壊、今にもその姿を消そうとしていた。


 そのダンジョンの中に、立っている者がいた。


 暗闇の中でも目立つ金髪、髪形は頭の横でそれぞれ縛るツインテール。雪のように白い肌の上からコートを羽織っている。

 背はスラリと伸び、ショートパンツを履いていた。顔立ちはこの世のモノとは思えないほど美人で、整っている。


 その口端には鋭い牙が見えていた。



「……見つけたわ」

 その女性はポツリと呟く。


 口端が歪み、鋭い牙を光らせる。


「結界を敷いていたようだけど、私の感覚は騙せないわよ。それに……この場に来てみれば、間違いないわ。これは『あいつ』の魔力」


 クックック、と女性は喉を鳴らす。



「逃がさないわよ、サタン……。絶対この私が、このレマ様が必ず見つけ出してやるんだからッ!!」


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