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第三十四話 魔王様、勝負ですか?

「しょうぶ、ですか?」

 ドルガの問いにアルカが少しばかり警戒しつつ、答えた。


 ここはギルドティアルカ支部内の建物。

 この中の一角でいつもバカ騒ぎしていた連中はもういない。ドルガの取り巻きも二人だけになってしまっていた。


 だが、それでも彼は諦めなかった。

 また、冒険者としてティアルカの中心になれると思っているのだ。


「ああ、勝負だ。言っておくが俺はお前らの事が嫌いだ。汚い手を使って俺の地位を奪いやがったお前らを俺は許さねぇ」

 自業自得では、と喉から出そうになるのをすんでのところで抑える。


「ボクは――――」

 アルカはドルガへと答える。


「ボクはその、ドルガさん達のやったことは……その、簡単には許せない、です。けれど、今度こそ上手くやっていければ……とも思っています。ドルガさんは凄い冒険者です。協力していければきっと――――」


「はッ! 綺麗ごとを抜かすんじゃねぇぞ、糞が! こっちはお前らの所為で仲間を失ってんだぞ! 勇者のアルカさんよぉ! あんた、あのキラーファングを倒したそうじゃねぇか! ご立派なことだよなぁ! じゃあ何で俺らの仲間を助けられなかった!? 実は助けられたけれど、見殺しにしたんじゃねぇのか!」


「いや、それは……」


「そりゃお前の所為だろ」

 俺は言い淀んでしまう様子のアルカの代わりに言う。


「逆恨みも良いとこだ。お前らが俺たちを襲わなかったらきちんと対処できたんじゃないのか? それにあの中で生き残ったのはお前だけ。もしかしてあの場からいち早く逃げ出したんじゃないのか?」


「な、なにを出鱈目を――――ひ、引っ込んでろ、糞爺がァ!」

 俺の言葉に動揺を晒すドルガ。……当てずっぽうで言ってみたが、的中したか。

 つくづく上に立つ器の無い奴だ。


「ドルガ。お前の言う通り、俺達はもうどう合っても仲良くは出来ないらしい。そこでアルカに代わって俺から提案がある。ギルドからの依頼を同時に受けて、先に依頼達成した者が勝者ということでどうだ?」


 俺の言葉にドルガはにやり、と笑った。


「ああ、上等だ。運だけで成り上がってきたお前ら糞どものプライドをズタズタにしてやるよ」


「ただし、お前らも知っているだろうがこっちは上り調子の冒険者。本来こんな提案なんて飲まなくても良い。それを飲むんだから依頼の選択権くらいはこちらに譲ってくれても構わないよな?」


「……良いぜ? 上等だよ。精々、こっちに出し抜かれないような依頼を選ぶんだな」

 そう言ってドルガは高笑いを浮かべた。


 ――――こっちの罠に掛かったのも知らずに。



――――



 依頼当日の早朝。


 俺達は出発を告げるためにギルドへと赴く。


「おはようございます、アルカさん、サタンさん! えと……それで」

 マリナが何かを言いたげにこちらを見つめた。

 とは言え、言わずとも分かっていた。


「知っている。ドルガがもうこの村を発ったんだろう?」


「……ご存じでしたか」


「そりゃあな」

 ドルガは必死だ。こちらの勢いを殺し、元の地位を取り戻すためなら何でもするだろう。


 むしろ寝ている宿に乗り込んで来なかっただけマシだ。


「その、前の日の夜には『夜中の内に発つ』と仰られまして……」


「取り決めでは朝出発ってルールを決めておいたのに」

 それを聞いたアルカは溜息を洩らした。


「朝と言っても色々あるからな。日が昇る直前も考えようによっては朝と解釈出来る。こちらが規定違反だと言えば、奴らはそう言うつもりなのだろう」

 奴の言いそうなことが目に浮かぶ。


 まあ当然ながらわざと「朝」と言っておいたのだが。


「サタンさん、急がないと! もし、負ければボクたちは――――」


 ドルガとの勝負には「洞窟型のダンジョン調査依頼」を選択した。

 難易度はCランク冒険者相当。今回は新しく発見されたダンジョン調査依頼なので、以前のダンジョン攻略依頼よりも難易度が低い。


 それにCランクへと下がったドルガでも受けられる難易度の依頼だ。


「大丈夫だ。調査依頼は慎重に行うことが鉄則。ドルガも凄腕の冒険者、今から出発すれば十分間に合う」


「でも……」

 アルカは不安そうな表情を浮かべた。

 彼女の心配は当然だ。ドルガに慎重な行動など期待できない。最速でのダンジョン調査を終わらせようとするだろう。

 奴の実力なら規模によっては半日で達成していてもおかしくはない。


 そもそもアルカはドルガとの勝負にも不安そうな姿勢を見せていた。

 それを俺がどうにか説得したのだ。


「取りあえず急いで出発しよう」

 アルカとの会話を早々に打ち切る。


 彼女もここで言い争っていても仕方ないと分かったようだ。


「あの……お気をつけて」

 マリナはそう言って俺達を見送った。その表情には溢れんばかりの不安が広がっていた。



――――

 



「ししょー、ここであってますか?」


「ああ、ここで間違いない」

 アルカの問いに俺は答える。


 馬車を借りて半日。俺達は件の洞窟型ダンジョン、その目の前へと到着する。


 洞窟の近くには馬車が一台置いてあった。周囲には誰もいない。

 見張りの人物を割いている余裕も無いのだろう。


「やっぱりドルガさんは先に来ていましたね。もう中に入っているのでしょうか」


「間違いないだろうな」

 俺はダンジョンへと視線を送る。


 山の中腹にぽっかりと空いた洞窟。洞窟の中は薄暗いが、暗闇という訳では無さそうだった。洞窟の所々に明かりが灯されていたからだ。


「見る限りはそこまで難易度の高いダンジョンには見えませんが……」


「さて、どうだかな」

 俺はひとまず感知スキルを使ってみる。


 しかし、洞窟の中は一切、スキルを使っての見通しは出来なかった。


 恐らく対策されているのだろう。

 転移も勿論不可能だ。いや、そもそも感知無しに転移するという自殺行為に手を染める気は更々ないが。


 まあ、ここまでは予想通りと言えた。



「俺が先に進むが……良いか?」

 俺はアルカに一応、確認を取る。


 ここから予想される危険。それによってはアルカでは不味い可能性があった。


「はい。ししょーにお任せします」

 そう言ってアルカは俺に前方を譲った。


「じゃあ、調査開始だ」


 薄暗い洞窟の中をゆっくりと歩いて進んでいく。


 光源魔法を使おうかとも思ったが、下手な明かりで魔物をおびき寄せてしまう危険があった。

 俺はそれでも構わないが、今は下手な障害があっては邪魔だ。


 アルカの手元には魔法アイテムである『マッピングマップ』が握られている。

 特殊な付与魔法が掛けられている羊皮紙で、ダンジョン内において進んだ場所を書き記してくれる便利なアイテムだ。


 しかもダンジョンにおいては階層まで記してくれるだけでなく、最下層を教えてくれる。

 これで最下層が分かったところで、調査終了。


 後はそれまでに出てきた魔物と、ダンジョンの規模をギルドへと報告すれば良い。


 それがダンジョンにおける調査依頼だ。当然、ダンジョン攻略しても依頼は熟したと見做される。


 とは言え、ドルガはそれをする余裕はないだろう。


 ここまでは一本道。外には馬車があった。

 少なくとも「まだ」ドルガはダンジョン内に居ると思われた。


 そんな中、奥からカサカサと不気味な音が響いてくる。


「魔物ですか!?」

 アルカはすぐに臨戦態勢を取った。


 しかし、


「ひィ!」

 すぐに悲鳴を上げた。魔物の姿を目視してしまったからだろう。


 その魔物は大きな蜘蛛であった。一メートルを超えるくらいの大きさ。それが二匹、こちらへと突っ込んできた。


 しかし、普通の蜘蛛と違うところは、その蜘蛛は脚が十二本あるというところだった。


 しかも蜘蛛の額の部分には人間の顔が埋まっていた。

 生気を失い、舌をだらり、と出している。


 ドルガの取り巻き、それら二人の顔で間違いなかった。


「し、ししょー……あ、あれは!」


「…………」

 俺は無言で、ひとまず魔物の進む先に罠を仕掛けた。


 中級魔法『ファイヤーマイン』。踏んだモノへと業火によるダメージを与える魔法だ。


 しかし、


「避ける、か……」

 蜘蛛型のモンスターは俺の仕掛けた罠を避けて通った。


 少なくともそれだけの知能があると言える。

 あるいは埋め込まれた人間の知識を使用したのかも知れない。


 俺は腰に差していた長剣を構えると、モンスターへと対峙する。


「ししょー! あ、あの!」


「もう助からん」

 俺はそう口にすると向かってきたモンスターを一刀両断する。


 もう一匹、俺の剣捌きを警戒したのか距離を取って、糸をまき散らす。

 今度はそれごと中距離火炎魔法で焼いてやった。


 生気の失った顔から痛ましい叫び声が聞こえてくる。


「こ、この人たちは……」

 両断された「蜘蛛」を見遣るアルカ。


「見ない方が良い」

 俺はそう言って死骸となった蜘蛛も魔法で燃やした。


「何か、あったんだろうな」

 俺はそう言って剣を鞘へと納めた。


 聞いていた通りだった。

 


 奥には魔族――グラスラがいるようだ。

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