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第三十三話 魔王様、調査結果ですか?

 俺とアルカはギルドから受ける比較的高難易度の依頼を次々と達成していった。


 Bランク冒険者であるドルガ=マクラインがティアルカへと戻ってきたのは、俺達が村の冒険者としてすっかり定着していた日の事だった。


 ドルガが戻ってきた時にはキラーファング討伐任務から既に一ヶ月の月日が経過していた。

 戻ってきたドルガは見た目はボロボロでまるで世捨て人のような有様だったという。


 村の入り口で彼を見たラルカは一瞬誰だか分からなかったらしい。


 整えてあった野性味溢れる金髪はボサボサで泥だらけ。頬は痩せこけ、来ていた服や装備はボロボロ。目だけが爛々と光って、追い詰められた野生動物のような有様であったという。


 その後、俺とアルカはティアルカの道端で彼とばったり会った。


 両脇には取り巻きの冒険者を抱えていたが、全盛期に比べればぱっとしない。

 その目には疲れが見て取れた。


「…………」

 彼は俺を睨みつけ、その隣にアルカへと目を向けると舌打ちをした後に去っていった。


 ドルガはもう知っているのだろう。


 今、この村で言う『冒険者』の中心が誰であるかを。


 ドルガは冒険者こそ続けているものの、ランクはCランクに落ち、さらには以前の依頼で失敗したと聞いた。


 聞けばかなりの高難易度依頼を熟そうとして、実力不足から失敗してしまったようだ。

 恐らくは俺達、もといアルカにある勢いを自分に戻そうとしたのだろう。


 身の丈に合わない依頼を請け、そして失敗した。

 キラーファング討伐依頼から合わせて連続で二回の失敗。


 彼の冒険者としての信用は地に落ちたと言っても良い。

 取り巻きであった冒険者の中には、彼の元を去った者も多い。



 全盛期の頃は見違えるほどの失墜ぶりに、俺の溜飲は下がっていた。


 邪魔にならないのであればこれ以上、制裁を加える必要は無いのかも知れない。


 そう思うくらいには、ドルガへの興味を失くしていたのだ。



――――




 俺は転移スキルにて、再び魔王城を訪れていた。


 預けたあったキラーファングの魔石と死体、その解析結果を聞くためだ。


 魔王城に設けられた魔王軍調査部の元へと足を運ぶ。


 そこにいた人物を見て、俺は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。



「サタン様じゃない。待っていたわ」

 見た目には淫靡な人間の女性を思わせた。胸の谷間を大きく露出した服を着ており、スラリと伸びた足を組んで椅子に座っている。


 だが、背中には黒い羽が生えており、瞳は紅く、口には牙が生えている。

 人間でないのは明らかだった。


「黙って出ていくなんて心配したわ」


「いや、本当は挨拶くらい済ませるつもりだったがな」


「出ていく前に記念にヤらせてあげても良かったのに。ま、今でも良いけどさ」


「……馬鹿言うな」


 彼女の名前はアマベル。


 上級魔族にして、魔王軍の調査部にて働いている。



「……頼むから俺みたいなおっさんをからかわないでくれ」

 正直言って俺はこいつの事が苦手だ。


 アマベルは俺が魔王になる以前から、魔王軍にて働いている古株。


 グレゴリウスやラストロよりも長く、魔王軍に勤めている。



 だからか、こいつは魔王をやっていた頃から俺に対して遠慮がない。

 しかも俺が触れられて欲しくないことを平気でからかってくるのだ。


「本気なのに」

 心にもない事を言っているアマベル。


 俺はこいつ相手に本気になって、最終的に泣かされた部下を沢山知っている。


 それを知っていてなお、彼女のそれを信じるような度胸は俺にはない。



「良いから要件を話してくれ。俺が来た理由は知っているんだろ?」


「もちろん」

 アマベルは調査結果を纏めたらしい用紙を片手に、報告を始めた。



「結論から言ってあのキラーファング、やっぱり弄られてたわ」


「やはりか」

 予想通りの答えに頷く。


「魔石を通してキラーファングの記憶やら魔力回路やらを漁ってみたんだけど……、記憶の方はごちゃごちゃしていてね。いじられた時に対策されているみたい。でも、魔力回路は改造されている様子があった。ステータス、スキル、魔法、凶暴性、習性その他諸々……よくもまあ、ここまでやるわね」


「俺が暮らしている人間の村……その近くでは最近魔物が凶暴化しているらしい。それ全体が弄られている可能性は?」

 俺は一応、ティアルカの名前を伏せつつ、聞いた。


「いや、それは無いと思うわ。このキラーファング、かなり趣味っぽい弄られ方しているわ。量産型でここまで変な弄られ方はしないはず」


「……趣味っぽい?」


「何と言うかそいつの性格が出ていると言うか……自分さえ分かれば良いやって弄られ方なのよね、これ。天才の私でなかったら分からなかったわよ、これ」

 『天才』の部分を強調しつつ、言う。尊大なところも相変わらずであるらしい。


「これが今後、俺達の脅威になる可能性は?」

 俺の問いにアマベルは、うーんと唸る。


「どうだろ? これ自体は明らかに個人でやっている節があるんだけど、この技術自体は敵が持っている可能性もあるし……」


「魔物強化手段、か……」

 そう言った手法が確立されていたのだとすれば、今後俺達魔王軍に被害を与えてくる可能性は高い。


「……ちなみにこれをやった奴に心当たりはあるか?」


「ええ。調べているわよ」

 アマベルは魔法を用いることで、その魔族の姿を空中に映し出した。


 映し出された姿は鳥の顔に大きな羽、そして人型の姿をした魔族であった。大きさは二メートルほどだろうか。その魔族は、映像にて薄ら笑みを浮かべていた。


「グラスラ。西の魔境出身で、敵軍の所属。魔族の癖して人間が好きで、よく人間の恰好をしているらしいわよ。趣味は『改造』で対象は魔物だろうが人間だろうが、お構いなしのようね」


「良い趣味をしている」

 俺は吐き捨てるように言った。


「こいつが現在、人間領にて姿を確認されているってラストロから連絡があったわ。今はここで人間を弄って遊んでいるみたい」

 俺は示された地点を見遣る。


 ――――ティアルカからそこまで遠くはない。どうやらダンジョンを住処にしているようだ。



「ラストロがこいつ捕まえて、情報を吐かせたいとか言ってたけれど……。そのラストロは『勇者』による猛攻を受けているらしくて、こいつに割いている暇がないとか」


「…………」


「サタン様。ちょっとこいつ捕まえて情報吐かせてくれない?」


「え?」

 俺の言葉に、アマベルはクスリ、と微笑を称える


「冗談よ。私みたいな魔王軍の一手下が、元・魔王様を顎で使おうとするわけないじゃない」


「…………」

 俺は昔を思いだした。


 いや、こいつは割と平気で無理難題をぶつけてきた。

 その対処にどれだけ休息時間を削ることになったか……。



「それより……サタン様」


「何だ?」


「今、サタン様って人間の性奴隷作っているって噂ホント?」


「出鱈目だ!」

 なんだその噂は!? 出所は何処だ!


「冗談よ。貴方の事を悪く言うような人は魔王軍にはいないわ」


「……驚かせるなよ」


「でも、人間とは暮らしているんでしょ?」


「まあな」

 それは本当だ。依頼報酬によって既にアルカとは部屋を別々にはしているが、それでも少し前まで一緒の部屋に住んでいたし。


「そんな人間と仲良くして……。その内、人間と一緒になって内の魔王軍に攻め込んでくるんじゃないかしら。私、心配だわ」


「お前、人間嫌いだったか?」

 ラストロなどとは違い、こいつは人間に対して特に嫌悪感を抱いていた様子は無かったが。


「別に、そうじゃないわ。まぁ好きでも無いけれど」


「じゃあ何でそんな事を言う?」


「さっきグラスラの話をした時、貴方は少し嫌そうな顔をしたわよね」


「さっき? ああ奴の趣味とやらの話か」

 俺は奴の趣味が人間や魔物の『改造』であったことを思い出す。


「それは魔物を改造するって話を聞いたからだ。人間じゃない」


「どうかしら。貴方って身内には優しいじゃない」


「そうか?」


「ええ。もし人間が身内になったら、きっと優しくなると思うわ。人間にもね」


「…………」


「そうなったら……人間と協力して魔王軍を倒しに来ちゃうんじゃないかって」


「そんな事は有り得ない」

 俺は断言した。


 魔王軍を辞めて迷惑を掛けている俺が、さらに迷惑を掛けるなど……有り得ないことだ。


「だったら良いけどね」

 アマベルは肩を竦める。


 何を言い出すかと思えば……俺が人間に加担する。


 馬鹿な。上手くやっていきたいとは思っているが、それでも俺が彼らと協力することは無いだろう。


 何故なら種族の違う敵同士なのだから。


「じゃあ、もう行く。助かった、アマベル」


「もう行っちゃうの? ……最後に私とヤっていかない」


「からかわないでくれ」

 魔族の中でもトップクラスの美貌を持つこいつなら引く手数多だろう。


 若い奴相手なら喜んで付いてくる奴が居るだろうに。


「からかってないわよ」

 そう言ってアマベルは少しだけ残念そうな表情を浮かべた。




――――




 魔王軍より調査結果を聞いてから数日後のことだった。


 落ちぶれた冒険者であるドルガはアルカと、ついでに俺へと向かってこう言った。



「……勝負をしようぜ。負けた方がこの村を去る。どうだ?」 


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