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第三十一話 魔王様、ダンジョン攻略ですか? 前編

 ダンジョンは大きく分けると二種類、存在する。


 一つは自然発生型のダンジョンだ。発生する原因の多くは魔物や魔族の核となる魔石が放置されたことにより、新たな魔力を生成してダンジョンを生み出すというものが多い。


 もう一つは魔族などがダンジョンを作り出す場合である。人間領攻略の際の拠点としたり、罠として利用するなどが主な作成理由となる。


 ちなみにダンジョンは人間側にとっても利益を生んでしまう危険があるので、魔族側が作成する場合は慎重に行わなければならない。魔物が持っている魔石は魔力を生み出す元となるので、人間領の市場内においては値が付く。


 それによって冒険者や商人たちの利益になったり、ダンジョン近くが大きな都市部になることもある。こうなってくるとこちらも迂闊には手出し出来ない。破壊するにしても人間たちによる手痛い反撃が予想されるからだ。



 ……そんな訳で如何に魅力的で、かつ人間たちを嵌めることの出来るダンジョンを作成できるかが魔族側にとっては腕の見せ所という訳だが。


 ダンジョンの難易度はこれら二つで大きく異なっている。


 当然、魔族側が関わっている場合は難易度が非常に高い。


 ただ、ダンジョンを調査するまではダンジョンがどちらに区分されるかは分からない。魔族側も人間を色々な策を擁すからだ。


 とは言えある程度調べればあっさり判明されるのだが……。



 今回、俺達が挑戦するダンジョンは調査済み。前者の自然発生型ダンジョンだ。


 故にダンジョンに潜るだけならそこまでの難易度ではない。しかしながら今回の依頼はダンジョンの攻略。街道近くに出来てしまったダンジョンから湧き出てくる魔物が、周辺を通りかかる人間たちへと被害を与えているらしい。


 これを潰すのが今回の目的である。幾ら難易度の低いダンジョンとは言っても、攻略するにあたっては難易度が大きく増す。奥にあるであろうダンジョンの発生原因を潰すためには多くの魔物と対峙しなくてはならないからだ。


 そうなってくると複数パーティで攻略するのが当然なのだが……、まぁ問題はないだろう。


 街道近くのダンジョンまでは歩いて二日掛かった。転移スキルを使えばすぐであることは分かっていたが、今回は自重した。


 アルカの前であれば見せても問題ないだろうが……、ギルドへと報告する段階になってからが困る。五日以上は掛かるであろう今回の依頼を一日で熟してしまっては、さすがに疑問を持たれても当然だ。


 それもアルカの功績として押し付けてしまおうかとも思ったが……。リスクが高い気がする。それに急ぐ旅路でもない。


 アルカの名義を利用できるお陰で色々と自由になったのは良いが、それでも限度はあるだろう。人間として行動する場合は、人間としての分を超え過ぎない方が良い。


 ……まぁ、面倒なところは積極的に力を使っていくが。



「ししょー! ようやく着きましたね!」

 俺達の眼前には階層型のダンジョンが、その不気味な口を開いていた。


 下に向かってぽっかりと開いたダンジョンの入り口。穴の周囲を取り囲むようにらせん状の階段が備え付けられていて、下へと降りれるようになっている。


 ギルドの話では降り立った先は階層型の地下ダンジョンになっていて、上中下の三層に分かれているらしい。下層に出現する強い魔物でもBランク冒険者であれば十分に対処できる難易度であるらしいが、下層に降りた際に消耗していたらどうなるかは分からない。


「しかし、ししょー。ダンジョン攻略において、ボクたち何も準備してませんけれど……本当に良いんですか?」

 アルカは首を捻った。


 ……まぁ、アルカがそう思うのは当然だろう。


「ああ、構わない」

 なぜなら俺はそもそもまともに攻略する気が無いからだ。


 ダンジョン攻略なんてまともにやっていたらそれこそ時間と手間がかかる。


 ただ、俺の知っている『勇者』であるならば、このくらいのダンジョン、それこそ簡単に突破してしまうだろう。


 であれば多少、逸脱したことをしても問題はない。


 俺は感知スキルを使って、ダンジョンの構造把握を行った。


 レベルの高いダンジョンであれば感知スキル対処はやっていて当たり前だが、今回のダンジョンではそれがされていない。自然発生型のダンジョンはこの辺りが大雑把だ。


 だから俺のような奴に付け入られる隙を作る。


 ダンジョンの作り、部屋の数、罠の配置、魔物の数などを確認した。

 十分に可能な形である。


「アルカ。俺に捕まっておけ」


「こうですか?」

 アルカは何故か俺の背中へと乗っかった。


 彼女の着けている装備を通して、大きな弾力を背中に感じる。一枚の鉄を隔てているにも関わらずその圧倒的な重量感に驚く。


 ……これは人間の雄であれば大喜びであったのかも知れない。


「何故その態勢なんだ?」


「いえ、この方がししょーの両手が空くと思いまして!」


「まあそうなんだが」

 急に乗っかられるとちょっと驚く。


 とは言えこのままでも支障はない。


「転移」

 俺はこの状態で転移スキルを発動させる。


 すると瞬時に洞窟は奥深く、発生原因があるであろう部屋の前まで移動した。


 目の前にそびえ立つは大扉。周囲を薄暗闇、所々に「火」が浮いている。



「え、え!?」

 アルカが驚愕の声を上げた。その後、俺から飛び退くと周囲をキョロキョロと伺う。


「こ、ここはどこですか!?」


「ここはさっきのダンジョン奥深くだ」


「え、何をしたんですか!?」


「転移スキルだ。俺ならそれくらいの事は出来る」


「え、そんな!? え……え!? すごっ、……え!? ボクもダンジョン奥深くにいるんですか!? もう!?」


「勿論だ」


「え、……ぼ、ボクは、何処、誰ですか!?」


「少し落ち着け」

 混乱していたアルカだったが、俺の言葉に正気を取り戻した。


「す、すごいですね、ししょー! すごっ……すごーい!」

 アルカはぴょんぴょんと飛び跳ねていた。


 まぁこんな攻略など早々ないことだから珍しいのだろう。



「これってもしかして……ダンジョン攻略の革命じゃないですか!? こんなこと出来るなんて!」


「いや、そういう訳じゃない」


「え、どうしてですか?」 


「全てのダンジョンで使える手ではないんだ」

 今回の転移スキル使用はこういった外部への警戒度が低いダンジョン限定でのみ使える手だ。


 感知スキルと同じく転移スキルも対策されればそれまでの手だ。特に魔族が作成したダンジョンでは十中八九、対策されていることは間違いない。


 まあ感知スキルが使える時点で転移スキルも行けるであろうことは予想出来ていたが。

 これでどちらも使えなかったら魔物相手に虐殺しつつ、進むしかなかった。


 それでもそう時間を取られるわけではないが……まぁラッキーだった。



「そうですか……」

 それを聞いて少しだけガッカリした様子のアルカ。しかし、 


「で、でも凄いです、ししょー! 弟子としても鼻高々です!」

 すぐに笑顔になると、喜びを表現するべく踊っているアルカ。


 ……喜怒哀楽の激しい奴だ。



「じゃあさっさとダンジョン攻略するぞ」


「はい!」

 アルカの返事を聞きつつ、最後の大扉を開ける。


 大扉を開けた際は大きな空間が広がっていた。部屋の奥にある玉座の上には眩くも赤黒い光を放つ魔石が浮かんでいた。


 分かりやすいサインだ。あれを取ればダンジョンはその内、消滅するだろう。


 だが、その前に――――


「…………」

 玉座を守るようにして魔物が立っていた。


 死屍ししの騎士。アンデット系のモンスターで、二メートルからなる体躯を持ち、全身は鎧と兜で覆われている。四本からなる腕にはそれぞれ長剣を備えており、そこから繰り出される鋭い剣戟は厄介である。


 どうやら奴が魔石を守るボスモンスターであるらしい。ダンジョンでは魔石などの近くに、それを守るモンスターを配置する場合が多い。


 奴が居るであろうことから、俺は敢えて大扉の前に転移スキルで飛んだ。

 俺だけならいざ知らず、アルカと一緒に居る場合、万が一がある。


 今、こいつを失うのは手痛い。ある程度のリスクを回避するのは当然だ。


 だが、それ以外の理由もあった。


「アルカ」


「はい! なんでしょうか!?」


「お前、あいつと戦ってみるか?」

 それはアルカとの契約を満たすこと。


 俺はこいつに師匠として何らかの役割を務めなくてはならない。

 こいつは一緒に居るだけで良いと言っていたが……、さすがにそれはあんまりだ。


 その為にまずはアルカの実力をしっかりと見極める。

 それであれば強い魔物と戦う姿を見るのが一番都合が良い。


 アルカの実力から見て弱くもなく、強すぎることもない相手。


 キラーファングとの戦い様から見ても、死屍の騎士は丁度良い相手と言えた。



「はい! ししょーがそう仰るなら!」

 アルカは元気よく返事をするとこちらを見据える魔物と対峙する。


 そうしてボスモンスターとアルカによる戦いが始まった。

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