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第二十五話 魔王様、帰還ですか?

「転移――――魔王城」

 俺はどこにでも付いて来ようとするアルカの目を盗んで、魔王城へとやって来ていた。


 暫くぶりに見る魔王城玉座の間。だだっ広い空間の中心に赤い絨毯が敷かれている。絨毯の両脇には優美な作りのランタンが、幾つもフワフワと浮いていた。


 俺が絨毯を歩く度にランタンに火が灯り、一つずつ絨毯の先を照らしていく。


 絨毯を歩いて行った先、そこにはかつての部下であるグレゴリウスが丁寧に控えていた。


「お帰りなさいませ、魔王様」

 忠心を示すグレゴリウスに対して、俺は言う。


「魔王は止せ、グレゴリウス。今の俺は魔王でも何でもない、ただのサタンだ」


「……お懐かしい名前です。では、サタン様……本日は魔王としてまた君臨する為にここへとやって来たのですか?」


「違う」


「そうですか」

 若干ガッカリとした声色を口にするグレゴリウス。


「本来なら戻るつもりはなかったのだが……ちょっと野暮用でな」


「野暮用……ですか」


「ああ、こいつを見て欲しい」

 俺は「異空間」に仕舞っておいたキラーファングの右前脚を取り出した。


「これは……」


「ああ。少し前に俺へと襲い掛かってきた魔物の一部だ」


「サタン様に害を成そうとするとは……なんと愚かな」


「それは良い。俺は今、人間の冒険者として暮らしているのだからな」


「人間風情の――――冒険者!?」

 グレゴリウスは怒りを露わにした。


「偉大なるサタン様が人間風情などに擬態している……な、なんということ……」

 俺が考えていた通り、グレゴリウスは嫌悪感を示した。


 ……思っていた通りの反応だ。


「そこは良い。貴様の怒りは分かるが、俺は今、のんびり暮らしたいだけだ。人間に潜るのも一興と言うモノ」


「……サタン様が仰られるのであれば」

 まだ難色を示している様子のグレゴリウス。


 面倒なのでそれは無視しつつ、本題へと入る。


「ラストロから報告を受けているか? 敵国の魔物が強力になっていると」


「勿論に御座います」


「顕著な個体があったのでな、それを持ってきた。後はこれを」

 俺はキラーファングの魔石、それから削り取った一部を取り出す。


 魔石は強大な魔力を生み出すため体内器官の一つで、魔物や魔族はそれぞれに持っている。

 身体の大きさや純度、質による違いがあり、強力な魔物ほど強力な魔石を備えているのが普通だ。



「こいつを調べて欲しい。これを持っていたキラーファングだが、恐らく何らかの干渉を受けていた」

 身体強化は持っていてもおかしくはないが、物理耐性、魔法耐性などは本来キラーファングが持っているはずのないスキル。


 このキラーファングは敵国の魔物である。魔物に手を加え、強化できる手段があるのだとすれば魔王軍の脅威になりかねない。


 そうした意味合いから俺はこれを魔王軍に預け、調査させることにした。



「成程。さすがはサタン様、魔王を退いたとしてもいつでも魔王軍の事を考えておられるのですね」


「お前たちには迷惑をかけているからな。ただ……この調査を依頼することで更なる負担をかけてしまうかも知れない」

 だが、それを考えてもなお、魔王軍に必要な報告だと考えた。


 だからこそ一度帰ってきたのだ。

 現在、グレゴリウスは多忙だろう。俺が帰ってくることで、こうして時間を取らせてしまう。


 出来れば避けたかったのだが、こうするより他にはない。



「いえいえ……迷惑など。これもサタン様が魔王軍を考えているからこその行動であることを我々は十分に承知しております」

 グレゴリウスはそう言ってみせる。


 だが、彼にそう言わせてしまっていることは分かっていた。

 疲れが残っている彼の顔を見れば分かる。それなりに仕事漬けの毎日を送っているのであろう。


 これを見て心が痛まない訳ではなかったが……、今は彼を信じよう。



「暫くの後、またここを訪れる。調査部には事前にこの事を教えておいてくれ」


「いえいえ、サタン様! 調査が済み次第、我々で報告にいきます」


「それは止めろ、俺が人間領にて目立つ要因になりかねない」


「……なるほど。そう仰られるのであれば」

 グレゴリウスは恭しく、頷いてみせる。


 こうでも言わなきゃ忙しい中、時間を使わせてしまうからな。


「では俺はもう行く。ところで――――」

 俺は彼にこう尋ねた。



「あの玉座、誰かが座らなくても良いのか?」

 俺は誰も座っていない玉座を指して、言う。


 その問いにグレゴリウスはかぶりを振った。


「いえ、サタン様。皆と話し合ったところ、我々が仕えるべきはやはり貴方であると」


「俺としては早めに決めることを薦めるがな」


「貴方様のお世継ぎであれば……我々も気持ちよく迎えられるのですが」

 グレゴリウスはそう言って笑ってみせる。


「……考えておこう」

 自分の親に孫をせがまれる気持ちというのはこういうものなのだろうか。


 いや、多分違う。さすがに国を動かすほどのプレッシャーはかけられまい。


 俺は魔王城から人間領へと転移した。




――――





「あっ、ししょー! どこに行っていたんですか?」

 誰にも見つからないように転移した後、ティアルカにてアルカより迎えられた。

 

「……詮索はしないという約束じゃなかったか?」

 凄んでみせるも、アルカは意にも介さない様子で言って見せる。


「詮索などはしません! ですが、弟子としてししょーの所在を気にするのは当然ですから! どこで教えを戴けるかも分かりませんし、ししょーが何かを求めたのであれば弟子としてはそれを満たす責務があります! だからししょーとは四六時中、一緒にいないといけないのです!」


「…………」

 怖い。なにそれ怖い。


 弟子ってこれが普通なのだろうか。魔王として君臨こそしていたものの、部下はいても弟子はいなかったので、よく分からない。


 とは言え……ある意味敬意を抱いてくれていることは良いことなのかも知れない。


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