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第十八話 魔王様、毒消しですか?

「……くそッ、落ちたか」

 ドルガが崖下を見遣る。


 下は流れが急な川が流れていた。さらにこの高さ。

 落ちたのであれば、まず助からないだろう。だが、万に一つ助かる可能性もある。


「まあそれも落ちただけなら……の話だが」

 ドルガは不敵な笑みを浮かべた。


 アルカには何本か矢が刺さっていたはずだ。しかも――――ドルガはアルカの死を確信する。


 死ぬのはあの見習い勇者だけで良い。



 あいつ――――見習いとは言いながら、なんて実力を隠し持ってやがったんだ。


 しかも奴はまだガキだ。体格も小さく、表情もまだ幼い。毛すら生えてないやも知れないほどのクソガキ。戦闘には不向きに見えた。


 それでもあの実力……この辺りはさすがは勇者と言ったところだ。



 ドルガは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。あんな奴に一本取られてしまったのは癪だが……、まあ奴が死んだのであれば結果としては俺の勝ちだ。ドルガはそう考えた。


 もう一人、あの汚らしいおっさんは……まぁ放っておいても死ぬだろう。

 ここらのモンスターは雑魚じゃない。素人が護衛無しにうろつくのは困難だ。


 あいつの実力は見習い。素人に毛が生えた程度のものに違いない。


 それでも万が一……まだ生きていたとしたら、それは楽しみが増えるだけのこと。


 あいつはいつでも殺せる。俺が殺したい時に殺せる「玩具」だ。



「くくッ、精々あがけよ……見習いよォ。……おい、おめぇら、行くぞ!」

 ドルガは崖下から目を離した。


 そして冒険者を引き連れ、キャンプ地へと戻ろうとした矢先、


 草木がガサガサと激しい音を立てた。そして、中から影が伸びる。


「なァんだ……探す手間が省けたじゃねぇか……」

 草木から出てきたのは魔物――キラーファングだった。


 目が爛々と光り、こちらを見据えている。大きく開いた口からは獰猛な牙。三メートルはあろうかという巨体がドルガ達の行く手を阻む。



「くくッ、こちとらムシャクシャしてんだ。早く死ねよ、獣風情が」

 そう言ってドルガは他冒険者と共にキラーファングの殲滅に当たった。




――――




 真夜中の川岸。そこにはビショビショに濡れた人影があった。


「……辿り着いたか」

 川岸へと上がった俺は周囲を見渡す。周囲に見えるのは木々ばかり、崖下から落ちた後、随分と流されてしまったらしい。


 急流に落とされたところで、どうにかなる俺ではない。


 しかし、こいつはそうはいかない。

 

 俺は右腕にアルカを抱えていた。ぐったりとしており、表情は青ざめている。

 一応、生きているが危険な状態だ。いつ死んでもおかしくはない。


 流れが急すぎて、こいつを捕まえるのに苦労したのだ。

 捕まえた時にはすでに意識はなかった。少しでも捕まえるのが遅れれば溺れて死んでいただろう。


 そうでなくともこいつの死は目前だ。なんとか治療をしなければ。



 怪我をしただけであれば回復魔法でも使えば即座に治療できる。

 しかし、こいつの場合は少しばかり厄介だ。どこか落ち着ける場所に行った方が良い。

 


 俺は感知スキルを使って辺り一帯から適切な場所を探し当てる。


 すると、そう遠くない場所に洞穴を見つけた。

 そこであれば落ち着いて治療することが可能だろう。


 俺は転移スキルを使って、その場所まで移動する。


 事態は刻一刻を争うものだった。俺はまずアルカの状態をサーチにて確認する。



 矢傷、肺には大量の水、温度の急激な低下、そして――――猛毒。


 俺はアルカへと刺さっていた矢を三本へと手を翳す。


 そして、


「――――消滅エクステクト


 その瞬間、矢のみが消え去った。血が流れだすが、今は回復魔法で傷を塞ぐことは不可能。


 アルカへと刺さっていた矢じりには大量の猛毒が塗られていたからだ。おそらくキラーファング対策に持ってきた矢だろう。それを人間相手に使ったのだ。


「……くそッ」

 俺はアルカへと手を翳し、集中する。


 俺はそもそも回復魔法が苦手中の苦手だ。中級程度の回復魔法ならいざ知らず、上級以上ともなると使えないモノが多い。


 抵抗スキルを幾つも備えている俺が傷を付けられるという状況が今までに無かったからだ。

 瀕死状態となった際の奥の手は当然ある。ただ、「これら」は人間相手の治療には不向きの代物だ。


 とは言え、今は泣き言を言ってられない状況である。


 俺はアルカに自らの魔力を通した。魔力を通すことによって、より精密な状態・感知を可能としている。


 そして、血液中に流れる、あるいは毒に侵された各種器官の内、「毒のみ」を探し出し、消滅魔法にて消し去った。


 これで疑似的な毒消し魔法になるはずだ。

 しかし、毒に侵されている箇所は無数にある。一つ一つを消滅魔法で消し去るなど、非効率的過ぎる。


 魔力で細胞の一つ一つまでを完全感知し、特定の部分のみを消滅魔法で消し去るなんて芸当は、魔王たる俺を以てしても難易度の高い技術を要した。


 毒の除去など人間でも――もっと言えば回復魔法をきちんと熟せる者であるならば大して難しいことではないはずだ。


 それすらも出来ない元・魔王とは――――「見習い」と揶揄されてしまっても仕方がないかも知れない。



 だが、やらなければならない。

 それが自らの命を賭した、この者に対する敬意だ。


 失敗したとしても全力を尽くさねば、俺はこいつに借りを作ったままになる。

 

 それだけは上に立つ者として、あってはならないのである。



 全魔力を集中し、細胞の一つ一つを精密に感知する。そして、一つ一つの毒に当たりを付け、そして丁寧に消していく。


 集中だ……集中しろ……。少しでもミスれば毒ではなく、俺自身がこいつを殺すことになる。


 消滅魔法がほんの少し、ズレただけでも間違いなく死ぬ。

 繊細すぎるほどの魔力コントロールが要求された。



「くぅ……ぐぅううううう、がァアアアアアアア!!!!」


 感知して消滅――感知して消滅――感知して消滅――感知して消滅――――


 俺の細胞までが悲鳴を上げているようだった。集中しすぎて、帰ってこれないんじゃないかと思った。


 作業時間は三分と無かっただろう。それくらいのスピードが要求されたからだ。


 しかし、この三分が俺には永遠に感じられた。



 この作業が終わったら回復魔法を練習しよう。強く、そう思った。





――――





「ん……ここ、は……」

 アルカが目を覚ました。青ざめていた表情には血の気が差していた。


 洞窟の中が明るく照らされていて、薪の焼ける音がパチパチと鳴る。



「起きたか」

 俺は傍らにて眠るアルカへと背中越しに声をかけた。


「ええと……サタン、さん?」


「ここは洞窟の中だ。崖下の川へと転落した後、俺がお前をここまで運んだ。あと勝手ながら治療させてもらった。命に別状はないから安心しろ」


「そう、ですか……それは、良かっ――――!? なァ!」

 ぱさり、と布が落ちる音が響いた。おそらくアルカに掛けていた俺の上着が落ちたのだろう。


 どうもアルカは飛び起きたようだった。 



「えと、あの……その! ぼ、ボクの、服、は……?」

 声が上擦っている。背中越しにも動揺しているのが分かった。 


「濡れていたからな。今はこっちだ」

 俺は燃えている焚き木、その熱に当てられている服を指差した。


 正直、魔法か何かを使えば一瞬で乾かすことも可能なのだが……今は魔力の使い過ぎで少々しんどい。焚き木で乾かすくらいは勘弁して欲しい。



「えと、その……あ、ありがとうございます」


「良い、お前には助けられた。その借りを返しているに過ぎない」


「そ、それは……その、良いのですが、その……」

 アルカは言い難そうにしつつ、やがて口を開いた。



「あの……、み、見ました?」


「……何をだ?」


「その、ボクの……裸」


「…………」

 触れたくなかったことを……。


 だが、聞かれたのならはぐらかしても仕方がない。



「ああ……、あのまま濡れた服を着せている訳にはいかなかった。体温が低下していたからな」


「そうですか……。では、その、すみません。お見苦しいモノを見せて、しまったかも知れません」


「お見苦しいモノ?」

 俺の言葉にアルカは「はい」と気付く。




「ボクの胸とか、その……えと、色々。隠していてすいません。ボク、女、……なんです」

本日の更新は(多分)以上、です。

お付き合い戴きまして、誠にありがとうございます!

明日も更新作業は出来ると思いますので、どうぞ宜しくお願いします!

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