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第十六話 魔王様、襲撃ですか?

「おらァ! 遅ぇぞ、お前ら!」

 半日掛けて目的地の山付近へと到着する。


 馬車でいち早く目的地へと着いていたドルガは、到着した俺達へと向かって邂逅一番に罵声を浴びせた。


 見れば酒瓶が既に数本、空になっていた。どうも酔っているようだ。


 ……お気楽なモノだ。おそらく普段からこの調子なのだろう。他の冒険者もドルガを必死になだめていた。


 結局、その日は野宿して明日、早々にキラーファングを倒しに行くこととなった。


 ドルガが酔っていなければその日の内に討伐することも可能だったはずだ。

 危機意識がまるでない。他冒険者にもそれが伝わっているようで、皆がまるでピクニックにでも来たかのような有様だ。


 今日の依頼はティアルカの危機にも直結するはずだ。

 しかし、この体たらく。いつもは冒険者として村を守っていると豪語しているのに……、失望を通り越して呆れ果てた。


「ほら、食事だ」

 食事を担当している冒険者の一人が俺へと食事を持ってきた。


 明らかに他の冒険者よりも劣った量、質の料理が運ばれていた。


「おっさん。今日はお前、何もしてないだろう? 使えない荷物持ちごときに貴重な食事を与えてやってんだ。感謝するんだな」

 冒険者は嫌味な笑顔を浮かべた。その途端、周囲の冒険者もケタケタと笑いだす。


 どこまでも、どうしようもない連中だ。

 俺は他の冒険者から離れることにした。それに元よりこいつらから貰った食事など口にするつもりはない。


 何が入っているか分からない物を口に入れるほど、俺は愚かではない。毒ならまだマシ。人間の老廃物など食べさせられた日には、うっかり奴らを虐殺してしまいかねない。



 彼らから見えないところまで来て、配給された食事を適当なところに捨てる。


 あいつらには兎も角、食事には罪がないがしかし、こればかりは仕方ない。

 食べなかったら食べなかったらで「仲間意識が足りない」といちゃもんを付けられるのは目に見えているからだ。


 さて、さすがに何も食わない訳にはいかない。適当に獣でも狩るか……そう考えていた矢先、草むらがゴソゴソと揺れ、何らかの気配を感じた。


 モンスターか? そう思ったが、出てきたのは黒髪短髪の人間、アルカであった。



「ああ、サタンさん、こんな所にいましたか。探しましたよ」


「何だ? ドルガからの呼び出しか?」


「いえいえ。これを届けに来たんです」

 アルカはそう言って抱えていたものをこちらへと差し出した。


 抱えていた盆の上にはパンと野菜スープ、少量の獣肉が乗っている。


「これは……」


「サタンさん。あれじゃあ足りないかな、と思って……、内緒で持ってきちゃったんです」


「……お前は食べたのか?」

 俺はアルカに対して、そう聞いた。


「あ、はい。けど、おかわりを戴きました。今日は魔物との戦いに一役買ったからご褒美だって。ちょっと食いしん坊に思われちゃいましたかね」

 えへへ、と照れた表情を見せるアルカ。

 クレイオオカミと戦った後も、アルカは冒険者の中でも一際目立つ活躍をしていた。


 そんなアルカを冒険者たちもさすがに無下には出来なかったのだろう。


「そうか。悪いな」


「いえいえ。今日はサタンさんに荷物を持って貰ったので。せめてものお礼です。どうぞ、召し上がってください」

 そう言って俺へと盆ごと食事を渡すアルカ。


 これも結局は冒険者たちの作ったモノではあるが……、この好意を無駄にはしたくない。


 一応口に入れる前にサーチスキルをかける。毒はもちろん、食事として不適切なモノは一切含まれてはいなかった。


 それを確認した後、俺は食事を口に運ぶ。

 半日歩いた後の飯だ。それなりには美味しかった。


「ありがとう」

 俺はアルカへとお礼を言った。いえいえ、とアルカは返した。


「じゃあボクは隠れて先に戻りますね。ボクがサタンさんに食事を渡したと分かったら、またサタンさんが虐められちゃうかも知れませんから」

 そう言ってアルカは一人、そそくさと戻っていった。



「……勇者見習い、か」

 正直言ってあいつは「見習い」程度の実力ではない。


 最初の印象であいつを見誤っていたことを俺は恥じた。

 あいつは警戒に値する人間であることは間違いない。


 しかし、俺への敵意はない。少なくとも俺が「魔王」や魔族であることには気づいていない様子だった。


 それに魔王である俺に匹敵するほどの力は当然ながら、ない。

 だがあいつはまだ力を隠し持っているかも知れない。


 恩はある。人としても善人のようだ。


 しかし、奴の動向には気を付けることにした。


 もしかすれば……ドルガ以上に目を離せない存在であるかも知れない。


 暫くして俺が冒険者達の元に戻ると、ドルガの奴はその場から消えていた。

 何事かと思うと、草場から取り巻きの女と一緒に出てくるのが見えた。


「ドルガさん、なにしけこんでんですか?」「俺にも分けてくださいよぉ」

 冒険者たちが酔った勢いで騒ぎ立てる。そんな冒険者をギロリと睨みつけながらも、ドルガは悪い気はしていないようだった。


 下品なネタで皆が笑う中、アルカは一人、顔を真っ赤にしていた。

 どうやら、こういう事には慣れていないようだ。


 ……いや、それはまあ、俺も同じだが。




――――




 深夜。俺は粗悪なテントを与えられ、就寝していた。


 当然、周囲への警戒は怠らない。ここは敵の巣穴も同じだ。

 なにが起こっても不思議ではない。


 そんな中、テントの周りに複数の気配を感じた。


 ……正直に言って予想通り過ぎて笑ってしまう。



「おい、出て来いよ、おっさん! 少し、遊ぼうぜぇ!」

 聞こえるのは冒険者の声。俺はため息を吐くと、テントを出る。


 眼前に映ったのはテントが冒険者たちに囲まれている光景だった。


 松明と、そしてそれぞれに武器を持って俺を取り囲み、全員がニタニタと笑っている。



「よぉ、気分はどうだ? おっさん」


「……一応聞くが、どういうつもりだ? ドルガ」

 一際凶悪な笑みを浮かべているドルガへと俺は聞いた。


 するとドルガは高笑いを浮かべ、そして言った。


「バーーカ!!! 誰がテメェとなんか仲良くするかよ! 小汚い爺の癖に冒険者だァ!? 粋がりやがってよォ! お前は俺の独断により、ここで死刑となるんだよ! テメェの死体にはちゃんと糞してやるからよォ! おっさんにはお似合いだろ?」

 ギャハギャハと笑う。冒険者たちも笑った。取り巻きの女も笑っている。


 まったく……やはり人間とは粗悪なものだな。


 弱き者を虐め、足を引っ張り、特権に座って甘い蜜を吸い、肥えていく。


 生きる価値が無いとはまさにこの事だ。


 そしてこれが一番、どうしようもないのだが――――



 今こいつらはどれだけ無謀なことを言っているのか、分かっていないらしい。



「クク……ククク……」


「おい、おっさん! 遂に狂ったか?」「早く命乞いしてみせろよ!」「みっともない命乞いで俺達を笑わせることが出来れば助かるかも知れないぜ?」


「いや、なに…………あまりにも阿呆で、愚かで、つい笑みが零れてしまった。すまない」

 そう言った途端、ドルガのこめかみがピクリと動いた。

 

「おい、おっさん……そんなに早く死にたいか? 一秒でも長く生きたきゃ、下手な挑発はしない方が良いぜ?」


「挑発? 冗談を言うな。憐れんでいるだけだ」

 俺はそう言って、虫けら共を眺めた。


「……もう良い。こいつで遊ぶのは終わりだ」

 ドルガは急に無表情になると、そう言って冒険者たちに指示した。


「殺せ」

 その瞬間、取り囲んでいた冒険者たちが一斉に俺へと向かってくる。


 俺は数あるスキルの中から使用するスキルを選択しようと――――


 しかし、次の瞬間。


「『アーススワンプ』!!」

 声が響いたかと思うと、冒険者たちが足を止めた。魔法の影響により地面が沼へと変わって冒険者たちの動きを止めたのである。


 そして、


「サタンさん! 走って!」

 冒険者たちの前に飛び出してきたアルカが俺の手を引き、走り出した。


 俺はアルカに手を引かれて走り出す。


「糞がァ! 追え!」

 『アーススワンプ』はそこまで強い効果を齎す魔法ではない。ものの十秒ほどで抜け出してきた冒険者は俺とアルカを追って、走り出す。


 そんな冒険者に追いつかれないように、俺とアルカは逃げるのだった。

本日の更新は(多分)以上です。お付き合いして戴いた皆さん、ありがとうございました!

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